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序章
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「ねぇ、マカ。知ってる? なぁんか怖いウワサ話があるの」
朝の登校時間。
ミナは教室に入るなり、おびえた表情でマカに話しかけた。
「またウワサぁ? 飽きないわね、ミナ」
「それがさあ…。死んだ人がよみがえるんだって」
声を潜めて言ったミナの言葉に、マカの目がぴくっと動いた。
「…死人がよみがえる?」
「うん…。でもね、死んだ人ならみんなよみがえるワケじゃなくて、あたし達みたいに若くして死んだ人が生前の姿で現れるんだってぇ」
マカは頭をボリボリかいた。
「…じゃあ若いコばかりがよみがえっているってワケ?」
「うん、そうみたい。実際、あたしの幼馴染の一人がね、最近恋人を病気で亡くしているんだけど、この間街で二人の姿を見かけちゃって…」
「って、ミナが見たの?」
「うっうん…。後ろ姿だけだったけど、確かに亡くなった彼氏さんだった…。あたし、何か怖くって…」
マカは目を細め、しばらく黙り込んだ。
「…まっ、大丈夫でしょ」
「えっ?」
「私達の近くの人が亡くなって、化けて出たとしても私がミナを守るから」
そう言って不安顔のミナの頭を、マカは優しく撫でた。
「マカ…」
ミナの顔に、笑顔が宿った。
「さっ、ノート開いて。予習しましょう」
「うっうん!」
ミナに勉強を教えながら、マカの頭の中にはとある店の店主の顔が浮かんでいた。
―そしてその日の放課後。
マカは夕暮れ時、一つの店の前に来ていた。
ため息をつき、ドアを開ける。
「いらっしゃい…おや、マカ。久し振りですねぇ。今日はどうしたんです?」
爽やかな笑顔の店主を見て、マカは険しい顔になる。
「ちょっと聞きたいことがあってな。今日はイトコとしてじゃなく、店主としてのお前にな」
「おやおや…。どうも穏やかじゃなさそうな雰囲気ですね。お茶にでもしますか」
「かまわんが、客はいいのか?」
「残念ながら、閑古鳥が鳴いている始末で。常連さんが付きにくい店ですから」
そう言いつつお茶の準備をし始める。
マカは深く息を吐き、店の奥にあるアンティークのイスに座った。
「使い方を誤れば死に至る商品を売っているくせに、何を言う」
「間違わずに使ってくれるお客様がいないのが悩みですね。そう言えば、少し前に携帯電話でオイタをした子がいたみたいですね」
「我が甥ながら、小癪な真似をしてくれたよ。まあ釘はさしといたし、また悪さをするようならば、今度は容赦しない」
「おやおや。それで、今日は何の御用で?」
マカの目の前に、赤い液体の入ったティーカップが置かれた。
「何の茶だ?」
「当店オリジナルのブレンドティーですよ。頭がスッキリします」
そう言って店主は眉間を指さした。
マカは自分の眉間に触れ、険しい顔になっていることに気付いた。
そしてむつくれたまま、ブレンドティーを飲んだ。香は良いが、少しすっぱかった。
「…ちょっとおかしな噂話を聞いてな」
「ほう」
店主もティーカップを持ちながら、マカの向かいのイスに腰を下ろした。
「何でも若くして亡くなったものが、生前の姿で現世に現れるという。…心当たりは?」
「亡くなった方が、ですか」
店主はブレンドティーを一口飲み、首を傾げた。
「…今のところ、そんな商品は出ていませんよ。ご要望も聞いていませんし」
「では、何が発端だ?」
「残念ながら私には心当たりは…」
困り顔で首を横に振る店主を見て、マカは忌々しそうに舌打ちをした。
「ったく…。最近、どうなっているんだ? この前のケータイのことといい、今回の死人といい…。身内絡みはカンベンだぞ」
「それは同感。こちらも商売がしづらくなってしまいます」
「…しかしこんなことを仕出かすのは、同属以外にはありえないしな」
「そうですねぇ。しかし死人がよみがえるとは…」
「穏やかじゃないにも程がある。だがウチの同属達は条件付きならば人ならざる力を使うことを許されているからな」
ハッピーキャンドルならば、説明書付き。
ケータイ電話ならば、質疑応答のメールのやり取りの後、審査。
「ウチの長も何を考えているんだか…」
「あまり取り締まりを厳しくしすぎると、反動が出ますからね。それを防ぐ為なんでしょうけどね」
「生死に関わることは重要だ。本人の意思の確認が必要となる。しかし…今回はそうとは思えん」
「う~ん…」
しばし二人は険しい顔で黙った。
「…もしかしたら、なんですけど」
ふと店主が口を開いた。
「私のヒイキにしている商品開発部か製作部の人達が絡んでいるかもしれませんね」
それを聞いて、マカはブレンドティーをふき出した。
「しょっ商品部と製作部?」
「ええ、マカもご存知だと思いますが、両方とも同属です。なのでもしかしたら、と思ったのですが…」
「ふむ…」
マカは顎に手を当て、考え込んだ。
「…お前以外の相手と組んでいると?」
「ありえないことではないですね。そもそも長から進められた方達ですから」
ああ、とマカは思い出した。
目の前のイトコが大学を卒業した後、雑貨店を開きたいと言い出した。
それを受け入れた長は、この店と商品を準備した。
普通の人間が害を受けるかもしれない、この店と商品を―。
「しかし…生を越えた死の領域は手を出さぬと、暗黙の了承だろう?」
「私達一族は己の力を使うことに躊躇いを感じませんからね。興味本位かもしれませんよ」
「興味本位で死の領域を踏まれちゃこっちが困るっ!
私は一般の女子高校生として、穏やかに過ごしたいんだ!」
「分からなくもないですが…私に言われても」
朝の登校時間。
ミナは教室に入るなり、おびえた表情でマカに話しかけた。
「またウワサぁ? 飽きないわね、ミナ」
「それがさあ…。死んだ人がよみがえるんだって」
声を潜めて言ったミナの言葉に、マカの目がぴくっと動いた。
「…死人がよみがえる?」
「うん…。でもね、死んだ人ならみんなよみがえるワケじゃなくて、あたし達みたいに若くして死んだ人が生前の姿で現れるんだってぇ」
マカは頭をボリボリかいた。
「…じゃあ若いコばかりがよみがえっているってワケ?」
「うん、そうみたい。実際、あたしの幼馴染の一人がね、最近恋人を病気で亡くしているんだけど、この間街で二人の姿を見かけちゃって…」
「って、ミナが見たの?」
「うっうん…。後ろ姿だけだったけど、確かに亡くなった彼氏さんだった…。あたし、何か怖くって…」
マカは目を細め、しばらく黙り込んだ。
「…まっ、大丈夫でしょ」
「えっ?」
「私達の近くの人が亡くなって、化けて出たとしても私がミナを守るから」
そう言って不安顔のミナの頭を、マカは優しく撫でた。
「マカ…」
ミナの顔に、笑顔が宿った。
「さっ、ノート開いて。予習しましょう」
「うっうん!」
ミナに勉強を教えながら、マカの頭の中にはとある店の店主の顔が浮かんでいた。
―そしてその日の放課後。
マカは夕暮れ時、一つの店の前に来ていた。
ため息をつき、ドアを開ける。
「いらっしゃい…おや、マカ。久し振りですねぇ。今日はどうしたんです?」
爽やかな笑顔の店主を見て、マカは険しい顔になる。
「ちょっと聞きたいことがあってな。今日はイトコとしてじゃなく、店主としてのお前にな」
「おやおや…。どうも穏やかじゃなさそうな雰囲気ですね。お茶にでもしますか」
「かまわんが、客はいいのか?」
「残念ながら、閑古鳥が鳴いている始末で。常連さんが付きにくい店ですから」
そう言いつつお茶の準備をし始める。
マカは深く息を吐き、店の奥にあるアンティークのイスに座った。
「使い方を誤れば死に至る商品を売っているくせに、何を言う」
「間違わずに使ってくれるお客様がいないのが悩みですね。そう言えば、少し前に携帯電話でオイタをした子がいたみたいですね」
「我が甥ながら、小癪な真似をしてくれたよ。まあ釘はさしといたし、また悪さをするようならば、今度は容赦しない」
「おやおや。それで、今日は何の御用で?」
マカの目の前に、赤い液体の入ったティーカップが置かれた。
「何の茶だ?」
「当店オリジナルのブレンドティーですよ。頭がスッキリします」
そう言って店主は眉間を指さした。
マカは自分の眉間に触れ、険しい顔になっていることに気付いた。
そしてむつくれたまま、ブレンドティーを飲んだ。香は良いが、少しすっぱかった。
「…ちょっとおかしな噂話を聞いてな」
「ほう」
店主もティーカップを持ちながら、マカの向かいのイスに腰を下ろした。
「何でも若くして亡くなったものが、生前の姿で現世に現れるという。…心当たりは?」
「亡くなった方が、ですか」
店主はブレンドティーを一口飲み、首を傾げた。
「…今のところ、そんな商品は出ていませんよ。ご要望も聞いていませんし」
「では、何が発端だ?」
「残念ながら私には心当たりは…」
困り顔で首を横に振る店主を見て、マカは忌々しそうに舌打ちをした。
「ったく…。最近、どうなっているんだ? この前のケータイのことといい、今回の死人といい…。身内絡みはカンベンだぞ」
「それは同感。こちらも商売がしづらくなってしまいます」
「…しかしこんなことを仕出かすのは、同属以外にはありえないしな」
「そうですねぇ。しかし死人がよみがえるとは…」
「穏やかじゃないにも程がある。だがウチの同属達は条件付きならば人ならざる力を使うことを許されているからな」
ハッピーキャンドルならば、説明書付き。
ケータイ電話ならば、質疑応答のメールのやり取りの後、審査。
「ウチの長も何を考えているんだか…」
「あまり取り締まりを厳しくしすぎると、反動が出ますからね。それを防ぐ為なんでしょうけどね」
「生死に関わることは重要だ。本人の意思の確認が必要となる。しかし…今回はそうとは思えん」
「う~ん…」
しばし二人は険しい顔で黙った。
「…もしかしたら、なんですけど」
ふと店主が口を開いた。
「私のヒイキにしている商品開発部か製作部の人達が絡んでいるかもしれませんね」
それを聞いて、マカはブレンドティーをふき出した。
「しょっ商品部と製作部?」
「ええ、マカもご存知だと思いますが、両方とも同属です。なのでもしかしたら、と思ったのですが…」
「ふむ…」
マカは顎に手を当て、考え込んだ。
「…お前以外の相手と組んでいると?」
「ありえないことではないですね。そもそも長から進められた方達ですから」
ああ、とマカは思い出した。
目の前のイトコが大学を卒業した後、雑貨店を開きたいと言い出した。
それを受け入れた長は、この店と商品を準備した。
普通の人間が害を受けるかもしれない、この店と商品を―。
「しかし…生を越えた死の領域は手を出さぬと、暗黙の了承だろう?」
「私達一族は己の力を使うことに躊躇いを感じませんからね。興味本位かもしれませんよ」
「興味本位で死の領域を踏まれちゃこっちが困るっ!
私は一般の女子高校生として、穏やかに過ごしたいんだ!」
「分からなくもないですが…私に言われても」
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