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依琉/プールの封印
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「いや~神無月は元気だねぇ。でもしっかり封印は出来たみたいだし、頼れるね」
よろよろ歩いてく神無月の後姿をプールサイドで見ながら、依琉は笑顔で言った。
今の今まで手伝いもせず、神無月の封印の一部始終を傍観していた。
金網越しに、神無月の姿を見送った後、依琉は振り返った。
「さて、ボクの番だ。しっかり先輩らしくしないとね」
うううっ……!
プールの水が赤く染まり、スライムのようにうねっている。
時折低い唸り声が聞こえるも、依琉は全然動揺しない。
レンズに本体を映し出しているも、まだ封印はしないでいた。
――すでに結果は出ていた。
封印を解いてすぐ、依琉は外のプールに向かった。
高等部には、校庭近くの外と建物の中のプール、二つのプールが存在する。
しかし封印が施されたのは、外のプール。
建物の中のプールは近年、水泳部が活躍した功績として建てられたものだった。
ゆえに外のプールの方が歴史は長い。
依琉がプールの敷地内に入ると、それまでただのプールの水が赤みをおびた。
そしてうねり、動き出す。
やがてスライムのようにその形を変え、依琉に襲い掛かってきた。
時には津波に、水の刃になり、依琉を取り込もうとするも、ことごとくかわされた。
「やれやれ……。逃げるのも疲れるもんだね」
欠伸と共にのん気に言った依琉は、<千里眼>を発動させ、スライムの本体を見つけた。
神無月が相手をした影や、九曜が惹き付ける異形のモノのような掴み所の無い相手は少々難しいが、目の前の姿・形のあるモノは<視>つけやすい。
すでにあのレンズにスライムを写している。
そして<千里眼>で<視>た。
プールの底、排水溝に一つの骨になった人間の頭部があることに。
その骨は白いのに、中は真っ黒。
しかし中の黒い煙がプールに混ざり、プールの水は真っ赤に染められた。
そして依琉を攻撃しているのだ。
依琉は<千里眼>からレンズ越しに頭部を写し、捕らえた。
その後すぐ、神無月の悲鳴が聞こえたので、見学することにしたのだ。
そのことを言えば、神無月はこのプールの水よりも真っ赤になって怒るだろうなと考えると、笑みが浮かぶ。
何かと毛嫌いしている様子を見せる神無月だが、アレで結構お人好し。
困っているのを、見捨てることができない損な性格だとも言える。
何かと暴走しがちなオカルト研究部のメンバーをまとめるのが、彼女の役目。
昨年、副部長に名が上がったのは神無月だった。
しかし神無月はコレ以上、友達を失いたくないという理由で辞退した。
卒業した3年生は3人いて、皆、呆れたような笑顔でこの高等部から去った。
でも何かと目をかけられていたのは神無月。
2年生で3人しかいないオカルト研究部部員だが、彼女は自分を毛嫌いしている。
つい反応がおもしろくて、からかってしまう自分が悪いことは分かっているのだが……。
「おっもしろいんだもんなぁ、神無月。ウチのオカ研もおもしろいんだけどね」
毛嫌いをしているのに、真っ直ぐに自分を見る神無月の美しい漆黒の瞳。
<視>られるのを分かっているクセに、話かければちゃんと相手をしてくれる。
だから、なのか。
オカ研のメンバーは、わざと神無月に構ってもらいたくて悪さをしてしまう。
そんな神無月だが、本人が思うほどに周りからは敬遠されていない。
彼女本来の魅力があるのだが、本人はどこかズレている。
「まっ、ほどほどにするか」
イヤイヤながらも、ちゃんと部活動をしてくれた神無月を、しばらくの間はほおっておくことにした。
構われないのが、彼女にとって一番だろう。
依琉はふっと息を吐き、真面目な表情で笑みを浮かべた。
「とっとと終わらせようか」
薄い茶色の瞳に、鋭い光が宿った。
水が僅かながら動き始めた。
鈍いながらも破壊力のある動きだが、依琉は紙一重でひょうひょうとかわす。
かわしたせいか、おかげか。
コンクリートの床や金網には攻撃の跡が痛々しく残っている。
けれどもそのことを気にした様子も無く、依琉はかわしまくる。
――そして。
やがて攻撃の為に引き上げた水の合間から、頭部が出てきた。
それに狙いを定め、スイッチを押す。
「吸引」
ぐあああああっ!
頭部と共に、赤い水もレンズに吸い込まれる。
しかしあまりに強い衝撃に、さすがの依琉の笑みも強張った。
けれど踏ん張る。
神無月も頑張った。決して後ろに倒れなかった。
同級生として、恥ずかしくない行動をしたいと、依琉は思った。
そして水が全て吸い込まれた。
震える手で、レンズを一枚外した。
真っ赤に染まったレンズに浮かぶ、黒い骸骨の頭部。
「……さて、完了だね」
震えながらも、笑みを浮かべる。
イヤホンのスイッチに触れ、一息ついた。
「こちら、依琉。封印完了」
『依琉先輩、ご苦労様です。オレの方は神無月先輩と合流次第、封印を行います』
「頑張ってね。九曜くん」
よろよろ歩いてく神無月の後姿をプールサイドで見ながら、依琉は笑顔で言った。
今の今まで手伝いもせず、神無月の封印の一部始終を傍観していた。
金網越しに、神無月の姿を見送った後、依琉は振り返った。
「さて、ボクの番だ。しっかり先輩らしくしないとね」
うううっ……!
プールの水が赤く染まり、スライムのようにうねっている。
時折低い唸り声が聞こえるも、依琉は全然動揺しない。
レンズに本体を映し出しているも、まだ封印はしないでいた。
――すでに結果は出ていた。
封印を解いてすぐ、依琉は外のプールに向かった。
高等部には、校庭近くの外と建物の中のプール、二つのプールが存在する。
しかし封印が施されたのは、外のプール。
建物の中のプールは近年、水泳部が活躍した功績として建てられたものだった。
ゆえに外のプールの方が歴史は長い。
依琉がプールの敷地内に入ると、それまでただのプールの水が赤みをおびた。
そしてうねり、動き出す。
やがてスライムのようにその形を変え、依琉に襲い掛かってきた。
時には津波に、水の刃になり、依琉を取り込もうとするも、ことごとくかわされた。
「やれやれ……。逃げるのも疲れるもんだね」
欠伸と共にのん気に言った依琉は、<千里眼>を発動させ、スライムの本体を見つけた。
神無月が相手をした影や、九曜が惹き付ける異形のモノのような掴み所の無い相手は少々難しいが、目の前の姿・形のあるモノは<視>つけやすい。
すでにあのレンズにスライムを写している。
そして<千里眼>で<視>た。
プールの底、排水溝に一つの骨になった人間の頭部があることに。
その骨は白いのに、中は真っ黒。
しかし中の黒い煙がプールに混ざり、プールの水は真っ赤に染められた。
そして依琉を攻撃しているのだ。
依琉は<千里眼>からレンズ越しに頭部を写し、捕らえた。
その後すぐ、神無月の悲鳴が聞こえたので、見学することにしたのだ。
そのことを言えば、神無月はこのプールの水よりも真っ赤になって怒るだろうなと考えると、笑みが浮かぶ。
何かと毛嫌いしている様子を見せる神無月だが、アレで結構お人好し。
困っているのを、見捨てることができない損な性格だとも言える。
何かと暴走しがちなオカルト研究部のメンバーをまとめるのが、彼女の役目。
昨年、副部長に名が上がったのは神無月だった。
しかし神無月はコレ以上、友達を失いたくないという理由で辞退した。
卒業した3年生は3人いて、皆、呆れたような笑顔でこの高等部から去った。
でも何かと目をかけられていたのは神無月。
2年生で3人しかいないオカルト研究部部員だが、彼女は自分を毛嫌いしている。
つい反応がおもしろくて、からかってしまう自分が悪いことは分かっているのだが……。
「おっもしろいんだもんなぁ、神無月。ウチのオカ研もおもしろいんだけどね」
毛嫌いをしているのに、真っ直ぐに自分を見る神無月の美しい漆黒の瞳。
<視>られるのを分かっているクセに、話かければちゃんと相手をしてくれる。
だから、なのか。
オカ研のメンバーは、わざと神無月に構ってもらいたくて悪さをしてしまう。
そんな神無月だが、本人が思うほどに周りからは敬遠されていない。
彼女本来の魅力があるのだが、本人はどこかズレている。
「まっ、ほどほどにするか」
イヤイヤながらも、ちゃんと部活動をしてくれた神無月を、しばらくの間はほおっておくことにした。
構われないのが、彼女にとって一番だろう。
依琉はふっと息を吐き、真面目な表情で笑みを浮かべた。
「とっとと終わらせようか」
薄い茶色の瞳に、鋭い光が宿った。
水が僅かながら動き始めた。
鈍いながらも破壊力のある動きだが、依琉は紙一重でひょうひょうとかわす。
かわしたせいか、おかげか。
コンクリートの床や金網には攻撃の跡が痛々しく残っている。
けれどもそのことを気にした様子も無く、依琉はかわしまくる。
――そして。
やがて攻撃の為に引き上げた水の合間から、頭部が出てきた。
それに狙いを定め、スイッチを押す。
「吸引」
ぐあああああっ!
頭部と共に、赤い水もレンズに吸い込まれる。
しかしあまりに強い衝撃に、さすがの依琉の笑みも強張った。
けれど踏ん張る。
神無月も頑張った。決して後ろに倒れなかった。
同級生として、恥ずかしくない行動をしたいと、依琉は思った。
そして水が全て吸い込まれた。
震える手で、レンズを一枚外した。
真っ赤に染まったレンズに浮かぶ、黒い骸骨の頭部。
「……さて、完了だね」
震えながらも、笑みを浮かべる。
イヤホンのスイッチに触れ、一息ついた。
「こちら、依琉。封印完了」
『依琉先輩、ご苦労様です。オレの方は神無月先輩と合流次第、封印を行います』
「頑張ってね。九曜くん」
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