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九曜/廃墟の封印
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「まったく……神無月先輩っ! まだですか~!」
九曜は顔をしかめながら、廃墟――元は寮だった建物の中を走り回っていた。
何故なら。
九曜の後ろから、異形のモノが追いかけて着ているからだ。
九曜は【人成らざるモノ】を惹き付けてしまう能力を生まれ付き持っている。
何せ生まれが神社の跡取り息子。
しかも【人成らざるモノ】と多く接する神道系の神社だった。
そのせいか、九曜には本人が望まずとも強い力が付いてしまった。
本人はとてもイヤがっているものの、親戚一同はとても喜んでいた。
それに輪をかけてしまったのが、周囲の反応。
『神社の跡取り息子』としての立場があるせいか、普通なら気味悪がって遠ざかるはずだが、何故かとても尊敬されてしまった。
なので故郷にいるのがイヤになった九曜は、電車で1時間もかかるこの学院を選んだ。
しかし、だ。
この学院には学院なりの面倒事があった。
やっぱり逃れられないのか、とガックリ項垂れたが。
「わ~! 神無月先輩っ! まだなんですか~!」
階段を上へ下へ走り、廊下をどたどたと走る。
コレでも本体を探そうとしているのだが、周囲が邪魔をしてくるので上手くはいっていない。
「九曜っ! ゴメン、お待たせっ!」
数メートル先に神無月の姿を見つけ、スピードをアップした。
「先輩っ!」
九曜は神無月に腕を引っ張られ、一つの部屋に押し込められた。
「遅くなってゴメン! 封印に思ったより時間かかってさ」
「いっいえ……。来てくれただけでも嬉しいですよ」
青白い顔でぜぇぜぇ言っている九曜を見て、神無月は慌てた。
「ホントにゴメン。ちょっと遠かったからさ」
「いえいえ。それより依琉先輩から連絡が来まして、プールの方も終わったみたいですよ」
「さすが依琉ね。去年もあっと言う間に終わらせてたし」
感心とも呆れともつかない表情で、神無月は肩を竦めた。
「依琉先輩は順応力が強いですもんね」
「馴染みやすすぎるのよ。受け入れやすいと言うか……。まあ裏も表も<視>えるから、あんまり物事に深くこだわらないのかもしれないけど」
「それも良し悪しですが……。まずは俺のとこの封印を行いましょうか」
「そうね。後ろからせっつかれているし」
二人とも、青い顔で微笑みあう。
何故なら――二人の後ろには、異形のモノ達が迫って来ているからだ。
「「ぎやぁああああ~!」」
廃墟に二人の声が響き渡った。
二人は部屋を飛び出した。
ちなみに九曜が惹きやすい異形のモノとは、恐ろしい異形のモノではない。
どちらかと言えば単色で、幼稚園児でも描けそうなほど単純な姿・形をしている。
言わば低級――である。
時々中級も混じるが、追いかけて来るのはもっぱら低級である。
「わああ~! 追いかけて来るなぁ!」
「ねっねぇ、九曜! 私、思ったんだけどさっ!」
「何ですか! 神無月先輩!」
「生き物って逃げるものを追いかける習性があるんだって! 逃げなきゃいいんじゃないの?」
「止まったら止まったで、ヤツらの餌食になるだけです! 生気、吸い取られたいんですかっ?」
「それは絶対イヤッ!」
全力で否定するもレンズに触れ、何とか本体を探そうとする。
「とっとりあえず、私の<言霊>で一時動きを止めるから、九曜は耳を塞いで!」
「分かりました!」
角を曲がると二人は足を止めた。
九曜は耳を塞いで、その場にうずくまった。
神無月は息を吸い込み、角を曲がって追いかけて来た異形のモノに向かって叫ぶ。
――動くなっ!――
建物がガタガタっと揺れた。
異形のモノ達は、ぴたっとその動きを止めた。
「今の内に本体を探すわよ!」
「はっはい!」
九曜もレンズを操作し、本体を探し始める。
「廃墟こと、この寮の本体は確か『空間』! 見るけるのが困難だけど、一度見つければ後は封印するだけだから」
「空間……。と言うことは、歪んで見えるのが……」
「ええ! それ自体が本体なの! 九曜、どこか視界が歪んで見える所、無かった?」
九曜は今まで逃げ回っていたコースを思い出した。
そして一ヶ所だけ、通った時に違和感を感じた場所があった。
「ありました! 二階の右端にある部屋のカーテンに隠れた時、何か変な感じがしました!」
「じゃあ今年はそこね! 空間は動けないから、とっとと行くわよ!」
「はい!」
二人は走るスピードを上げ、二階に向かった。
九曜の言った通りの部屋で、本体は見つかった。
ボロボロになったカーテンを神無月が開けると、窓の向こうの景色は歪んでいた。
「九曜!」
「はい!」
九曜はレンズに本体を映し、声を張り上げた。
「吸引!」
歪んでいた景色が更に歪んだ。
そしてそのまま九曜のレンズに吸い込まれはじめた。
「くぅっ!」
「耐えて、九曜!」
「分かってます!」
やがて歪みは九曜のレンズに全て吸い込まれ、部屋は元通りになった。
はじめての封印に、九曜はふらつきながらも一枚のレンズを手に入れた。
九曜は顔をしかめながら、廃墟――元は寮だった建物の中を走り回っていた。
何故なら。
九曜の後ろから、異形のモノが追いかけて着ているからだ。
九曜は【人成らざるモノ】を惹き付けてしまう能力を生まれ付き持っている。
何せ生まれが神社の跡取り息子。
しかも【人成らざるモノ】と多く接する神道系の神社だった。
そのせいか、九曜には本人が望まずとも強い力が付いてしまった。
本人はとてもイヤがっているものの、親戚一同はとても喜んでいた。
それに輪をかけてしまったのが、周囲の反応。
『神社の跡取り息子』としての立場があるせいか、普通なら気味悪がって遠ざかるはずだが、何故かとても尊敬されてしまった。
なので故郷にいるのがイヤになった九曜は、電車で1時間もかかるこの学院を選んだ。
しかし、だ。
この学院には学院なりの面倒事があった。
やっぱり逃れられないのか、とガックリ項垂れたが。
「わ~! 神無月先輩っ! まだなんですか~!」
階段を上へ下へ走り、廊下をどたどたと走る。
コレでも本体を探そうとしているのだが、周囲が邪魔をしてくるので上手くはいっていない。
「九曜っ! ゴメン、お待たせっ!」
数メートル先に神無月の姿を見つけ、スピードをアップした。
「先輩っ!」
九曜は神無月に腕を引っ張られ、一つの部屋に押し込められた。
「遅くなってゴメン! 封印に思ったより時間かかってさ」
「いっいえ……。来てくれただけでも嬉しいですよ」
青白い顔でぜぇぜぇ言っている九曜を見て、神無月は慌てた。
「ホントにゴメン。ちょっと遠かったからさ」
「いえいえ。それより依琉先輩から連絡が来まして、プールの方も終わったみたいですよ」
「さすが依琉ね。去年もあっと言う間に終わらせてたし」
感心とも呆れともつかない表情で、神無月は肩を竦めた。
「依琉先輩は順応力が強いですもんね」
「馴染みやすすぎるのよ。受け入れやすいと言うか……。まあ裏も表も<視>えるから、あんまり物事に深くこだわらないのかもしれないけど」
「それも良し悪しですが……。まずは俺のとこの封印を行いましょうか」
「そうね。後ろからせっつかれているし」
二人とも、青い顔で微笑みあう。
何故なら――二人の後ろには、異形のモノ達が迫って来ているからだ。
「「ぎやぁああああ~!」」
廃墟に二人の声が響き渡った。
二人は部屋を飛び出した。
ちなみに九曜が惹きやすい異形のモノとは、恐ろしい異形のモノではない。
どちらかと言えば単色で、幼稚園児でも描けそうなほど単純な姿・形をしている。
言わば低級――である。
時々中級も混じるが、追いかけて来るのはもっぱら低級である。
「わああ~! 追いかけて来るなぁ!」
「ねっねぇ、九曜! 私、思ったんだけどさっ!」
「何ですか! 神無月先輩!」
「生き物って逃げるものを追いかける習性があるんだって! 逃げなきゃいいんじゃないの?」
「止まったら止まったで、ヤツらの餌食になるだけです! 生気、吸い取られたいんですかっ?」
「それは絶対イヤッ!」
全力で否定するもレンズに触れ、何とか本体を探そうとする。
「とっとりあえず、私の<言霊>で一時動きを止めるから、九曜は耳を塞いで!」
「分かりました!」
角を曲がると二人は足を止めた。
九曜は耳を塞いで、その場にうずくまった。
神無月は息を吸い込み、角を曲がって追いかけて来た異形のモノに向かって叫ぶ。
――動くなっ!――
建物がガタガタっと揺れた。
異形のモノ達は、ぴたっとその動きを止めた。
「今の内に本体を探すわよ!」
「はっはい!」
九曜もレンズを操作し、本体を探し始める。
「廃墟こと、この寮の本体は確か『空間』! 見るけるのが困難だけど、一度見つければ後は封印するだけだから」
「空間……。と言うことは、歪んで見えるのが……」
「ええ! それ自体が本体なの! 九曜、どこか視界が歪んで見える所、無かった?」
九曜は今まで逃げ回っていたコースを思い出した。
そして一ヶ所だけ、通った時に違和感を感じた場所があった。
「ありました! 二階の右端にある部屋のカーテンに隠れた時、何か変な感じがしました!」
「じゃあ今年はそこね! 空間は動けないから、とっとと行くわよ!」
「はい!」
二人は走るスピードを上げ、二階に向かった。
九曜の言った通りの部屋で、本体は見つかった。
ボロボロになったカーテンを神無月が開けると、窓の向こうの景色は歪んでいた。
「九曜!」
「はい!」
九曜はレンズに本体を映し、声を張り上げた。
「吸引!」
歪んでいた景色が更に歪んだ。
そしてそのまま九曜のレンズに吸い込まれはじめた。
「くぅっ!」
「耐えて、九曜!」
「分かってます!」
やがて歪みは九曜のレンズに全て吸い込まれ、部屋は元通りになった。
はじめての封印に、九曜はふらつきながらも一枚のレンズを手に入れた。
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