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榊/講堂の封印
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「……そうか。雛クンはまだ……」
『……ええ。ボクが迎えに行きますから、部長は封印の方に集中してください』
「悪いね、依琉クン」
『いえいえ。他の部員達と比べたら、まだ余裕のある方ですから。こちらのことは任せてください』
「うん、よろしく頼むよ」
そう言って通信を切った。
「……年々、悪化しているな」
榊は真剣な顔で呟いた。
卒業した部長から『封印』については厳しく、そしてしつこいくらいに注意されていた。
――どうもこの土地の力は年々増しているようだ。それと同時に封じられているモノ達も活発化している。……くれぐれも気をつけてくれ――
卒業式が終わり、部室に二人きりになった時に言われた。
それと同時に、特殊能力者達のことも。
――こういう能力を持つ者は少なからず心に闇を持っている。榊、どうか導いてやってくれ。この世界は闇だけではないことを、教えてやってくれ――
……本来ならば、何の力も持たない自分が部長になるはずはなかった。
それこそ神無月か依琉がなるべきだった。
この学院は毎年、特殊能力者が入学してくる。
学院が集めたワケでもないのに、いるのだ。
それはこの土地の力が作用しているのかもしれないと前部長は言っていた。
榊は彼と共に、土地の力の研究をしていた。
力を解放する――それがオカルト研究部、代々部長の目的だった。
最初は好奇心からこの部に入った。
知識の多さから、入部することを認められた。
けれど……この土地の封印を聞いた時、正直逃げ出そうとも思ってしまった。
「まっ、今だから言えることだけどね」
榊は苦笑した。
けれど部長の熱意に負け、居続けることになった。
しかも研究にまで手を貸して……。
「それでも……未だ完成せず、か」
榊は遠い目をして、メガネを外した。
オカルト研究部に入ってからずっと、完全な封印を行う為に頑張ってきた。
だが……思いのほか、この土地の力は強い。
それこそ自分の存在がちっぽけに思えるほどに。
多分、成果は出せないまま、自分は学院を卒業する。
卒業してしまえば、オカルト研究部との繋がりは強制的に絶たれてしまう。
……次期部長は神無月に任せるつもりだった。
この研究を引き継げるのは、土地の力のこと、そして特殊能力者達のことを誰よりも憂いている彼女にしかできない。
代々の部長は、思い残しながら卒業している。
120年間、ずっとだ。
「いつになれば……この苦しみの連鎖は断ち切れる?」
堪え切れない涙が出てきた。
部員達の前では決して情けない顔をしないことを、前部長と約束していた。
ただでさえ不安を抱える彼等を、怯えさせることはしないと。
いつでも明るく振舞うことを心に決めていた。
「……僕はやっぱり、情けないな」
どんなに明るく振舞っても、成果が出さなければ、彼等を解放しなければ意味がないと言うのに……。
「……泣き言を言っている暇はないな」
目を擦り、メガネの代わりにレンズを装着した。
「他の所に比べて、僕のとこなんて楽なもんだ」
舞台に向かって歩き出す。
そこには――演劇が繰り広げられていた。
榊は何も言わず中央の席に座り、演劇を見続けた。
若い学生達が演劇の衣装に身を包み、一生懸命に演じている。
そしてしばらくして、劇は終わった。
役者全員が舞台に並び、榊に向かって頭を下げる。
榊は笑顔で拍手をした。
――今年も来てくれたんですね――
「ええ。今年も僕の担当はここなので。でも残念ながら、今年で最後なんですよ。来年には卒業してしまうので」
――まあ……――
ヒロイン役の女性が、一歩前に出た。
――寂しくなりますけど、どうぞ新たな場所でも頑張ってください――
「ありがとう。来年にはまた別の部員達が、あなた達の劇を見に来ますから」
――心より、お待ちしています――
役者達は笑顔で言った。
そして榊は、レンズのスイッチに触れた。
「吸引」
舞台がぐにゃりと歪んだ。
歪みはそのまま、レンズに吸い込まれる。
「くぅっ!」
重力に負けそうになるも、頑張って耐えた。
そのかいあって、封印は無事に済んだ。
「ふぅ……。コレで五ヶ所全ての封印が完了か」
レンズには、舞台にいる役者達の姿が映っていた。
全員、笑顔だった。
何の悔いも残さず、やり遂げた顔をしている。
「……ウチの部員達にも、こんな笑顔をさせてやりたいな」
榊はメガネにかけ直し、ため息をした。
そしてそのまま講堂から出て行く。
最後の封印をする為に――。
『……ええ。ボクが迎えに行きますから、部長は封印の方に集中してください』
「悪いね、依琉クン」
『いえいえ。他の部員達と比べたら、まだ余裕のある方ですから。こちらのことは任せてください』
「うん、よろしく頼むよ」
そう言って通信を切った。
「……年々、悪化しているな」
榊は真剣な顔で呟いた。
卒業した部長から『封印』については厳しく、そしてしつこいくらいに注意されていた。
――どうもこの土地の力は年々増しているようだ。それと同時に封じられているモノ達も活発化している。……くれぐれも気をつけてくれ――
卒業式が終わり、部室に二人きりになった時に言われた。
それと同時に、特殊能力者達のことも。
――こういう能力を持つ者は少なからず心に闇を持っている。榊、どうか導いてやってくれ。この世界は闇だけではないことを、教えてやってくれ――
……本来ならば、何の力も持たない自分が部長になるはずはなかった。
それこそ神無月か依琉がなるべきだった。
この学院は毎年、特殊能力者が入学してくる。
学院が集めたワケでもないのに、いるのだ。
それはこの土地の力が作用しているのかもしれないと前部長は言っていた。
榊は彼と共に、土地の力の研究をしていた。
力を解放する――それがオカルト研究部、代々部長の目的だった。
最初は好奇心からこの部に入った。
知識の多さから、入部することを認められた。
けれど……この土地の封印を聞いた時、正直逃げ出そうとも思ってしまった。
「まっ、今だから言えることだけどね」
榊は苦笑した。
けれど部長の熱意に負け、居続けることになった。
しかも研究にまで手を貸して……。
「それでも……未だ完成せず、か」
榊は遠い目をして、メガネを外した。
オカルト研究部に入ってからずっと、完全な封印を行う為に頑張ってきた。
だが……思いのほか、この土地の力は強い。
それこそ自分の存在がちっぽけに思えるほどに。
多分、成果は出せないまま、自分は学院を卒業する。
卒業してしまえば、オカルト研究部との繋がりは強制的に絶たれてしまう。
……次期部長は神無月に任せるつもりだった。
この研究を引き継げるのは、土地の力のこと、そして特殊能力者達のことを誰よりも憂いている彼女にしかできない。
代々の部長は、思い残しながら卒業している。
120年間、ずっとだ。
「いつになれば……この苦しみの連鎖は断ち切れる?」
堪え切れない涙が出てきた。
部員達の前では決して情けない顔をしないことを、前部長と約束していた。
ただでさえ不安を抱える彼等を、怯えさせることはしないと。
いつでも明るく振舞うことを心に決めていた。
「……僕はやっぱり、情けないな」
どんなに明るく振舞っても、成果が出さなければ、彼等を解放しなければ意味がないと言うのに……。
「……泣き言を言っている暇はないな」
目を擦り、メガネの代わりにレンズを装着した。
「他の所に比べて、僕のとこなんて楽なもんだ」
舞台に向かって歩き出す。
そこには――演劇が繰り広げられていた。
榊は何も言わず中央の席に座り、演劇を見続けた。
若い学生達が演劇の衣装に身を包み、一生懸命に演じている。
そしてしばらくして、劇は終わった。
役者全員が舞台に並び、榊に向かって頭を下げる。
榊は笑顔で拍手をした。
――今年も来てくれたんですね――
「ええ。今年も僕の担当はここなので。でも残念ながら、今年で最後なんですよ。来年には卒業してしまうので」
――まあ……――
ヒロイン役の女性が、一歩前に出た。
――寂しくなりますけど、どうぞ新たな場所でも頑張ってください――
「ありがとう。来年にはまた別の部員達が、あなた達の劇を見に来ますから」
――心より、お待ちしています――
役者達は笑顔で言った。
そして榊は、レンズのスイッチに触れた。
「吸引」
舞台がぐにゃりと歪んだ。
歪みはそのまま、レンズに吸い込まれる。
「くぅっ!」
重力に負けそうになるも、頑張って耐えた。
そのかいあって、封印は無事に済んだ。
「ふぅ……。コレで五ヶ所全ての封印が完了か」
レンズには、舞台にいる役者達の姿が映っていた。
全員、笑顔だった。
何の悔いも残さず、やり遂げた顔をしている。
「……ウチの部員達にも、こんな笑顔をさせてやりたいな」
榊はメガネにかけ直し、ため息をした。
そしてそのまま講堂から出て行く。
最後の封印をする為に――。
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