さまざまな結婚式【マカシリーズ・15】

hosimure

文字の大きさ
5 / 7

2

しおりを挟む
「そうだよなあ…。まあ結婚式を担当するのはルミだ。それとなく、ミシナくんに思いとどまるように忠告してやれ」

「え~? でもわたし、彼女に嫌われているしなぁ」

それに父を諦めて彼に移ったならば、それもまた複雑な心境になる。

「説得する時、分かっていると思うが決して結婚式の内容は言ってはダメだぞ?」

そう語る父の表情は、怖いぐらいに真面目。

…この仕事の鬼め。

父からの説得なら、彼女もある程度は受け入れただろうに。

「まあ一番良いのは、ミシナくんが全てを受け入れてくれることなんだけどな」

「…それは普通の人間の女性には、とても厳しいことだと思うわ」

人ならざるモノであるわたしでさえ、ご遠慮願いたい内容なのだ。

彼女の性格を考えても、まずムリ。

「じゃあ頑張って説得するんだな」

「ううっ…!」

結局、最後はわたし次第になるのか。

とっとりあえず頑張ろう。

そして最後の打ち合わせの日、彼はミシナを連れて来た。

「あっあの、ミシナさん? 一体どういうことで…」

「黙っててごめんなさいね。でもちゃんと前の彼女には、彼の方から説得してくれたから大丈夫よ」

そう言って幸せそうに微笑み合う彼と彼女。

考えていた中で一番最悪なことが現実となり、意識が一瞬遠くなる。

「それでルミさん、あなたのプランだけど合わせることにしたわ。ウェディングドレスのサイズも私に合っているし、時間もないことからこのまま進めるから」

話を勝手に進めるなっー!

…と怒鳴りたいけれど、ぐっとこらえる。

「あっあの、本当に良いんですか?」

わたしは彼を見ながら尋ねた。

「ええ、わたしは彼女と結婚式をあげたいと思います」

満面の笑みで答えられ、わたしは悟った。

―ああ、もうこりゃダメだ。

何を言っても、この幸せオーラを放つカップルの仲は引き裂けまい。

…彼は彼で、あの結婚式を絶対に必ずするつもりだろうし。

「…承知しました。では最後の打ち合わせを始めたいと思います」

諦めたわたしは、仕事を始めるのであった。



打ち合わせが終わった翌日、わたしはミシナを呼び出し、休憩室で向かい合った。

「ミシナさん、彼から結婚式の内容はどのぐらい聞いているんですか?」

「それは当日まで内緒だって言われているの。何かあっても、彼がフォローしてくれるって言うし」

のろけている顔と声で言うところを見ると、全く聞かされていないんだな?

「あっあの、彼との結婚、やっぱり思い直してもらえないでしょうか?」

「どうして? ちゃんと話はついているのよ?」

怪訝そうな表情を浮かべるミシナに、本当のことを言えたらどんなにいいか。

「…じゃあ質問を変えます。何で彼が良いんですか? ウチのお客様を選ぶなんて、あなたらしくないと思います」

プライドが誰よりも高かった彼女。

でもだからこそ、奪い婚なんてらしくない。

「実は正直なことを話すとね、最初は彼に近付いて気に入ってもらって、あなたの仕事を奪うつもりだったの」

うわーい☆

前に聞いていた悪い噂通りに、話は進んでいたのか。

「でも彼と接するうちに、だんだんとあたたかい気持ちが生まれてきてね。彼は少し気が弱いけれど、誰かを愛する気持ちはとても強いことを知ったの」

じゃなきゃ、あの結婚式を行おうと思わなかっただろうな……。

「それで彼の愛する人になりたいと、いつの間にか思うようになったのよ。仕事なんかどうでもいいと思ったのは、今回がはじめてなの」

いつも仕事が一番で生きてきたのね。

でもここにきて恋愛一番になるとは……運が良いのか悪いのか、分からない。

「……ではコレが本当に最終確認となります。本気でどのような結婚式でも、行うと誓いますか? もし少しでも躊躇いがあるのでしたら、わたしが何とかしてでも中止します」

真剣な表情で真っ直ぐに彼女の眼を見つめながら言うと、流石のミシナも少しの間、考え込む。

「……ええ。やっぱり彼と結婚したいわ。どんな式でも構わないと、思っている」

「はあ……。そうですか。ではカリキ部長にはわたしの方から説明しておきます。ミシナさんは退職手続きの方、お願いしますね」

「ええ、分かっているわ」

ミシナも真面目な顔付きで、頷く。

どんな形であれ、ウチで式を行うカップルを壊したことには変わりない。

これが普通の会社なら、彼とミシナの結婚式自体がお断りとなるわけだけど……。

まあウチは特殊な会社だしね。

少し遠い目をしながら、わたしは深いため息を吐く。

「ではミシナさん、次に会う時にはお客様と結婚式アドバイザーという立場になりますが、よろしくお願いします」

「ええ。ルミさんなら安心して、式を任せられるわ」

ミシナは満面の笑みを浮かべながら言うけれど、今回の結婚式は特殊なもの。

特殊さを実感するのは、式当日だけ。

その時になって彼女は改めて、わたしの正体と仕事の意味を知るのだろう。

そして彼女は……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

処理中です...