導きのウサギ

hosimure

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ある日、女の子は村の外れの湖に、青年と共に来ました。

ボクはそこでお昼寝をしていたのですが…まあ寝たフリをしましょう。

ここで自己主張すれば、野暮ってモンです。

女の子は最初、暗い面持ちでした。

悩みを青年に話していました。

青年は終始笑顔で、話を聞いてあげていました。

そして話が終わる頃には、女の子は笑顔になっていました。

やがて夕刻になり、女の子の帰る時間になりました。

しかし女の子は中々帰ろうとしません。

それどころか…青年に、帰りたくはないと言ったのです。

その時、青年の表情が満面の笑顔になりました。

人間であったならば、ボクの顔も笑顔を浮かべていたことでしょう。

青年は女の子の言葉を、全面肯定しました。

「ここにずっといれば良いよ!」

青年があまりに強く、そして熱く言うので、女の子はおされ気味に頷きました。

そして―女の子はここに住むようになったのです。

やがて季節は巡り…山の景色も変わってきました。

しかし村人の女の子への態度は変わらず、優しいものでした。

女の子は見違えるほどにキレイに、美しくなりました。

どうやら青年と恋人になれたみたいです。

周囲からも祝福され、幸せ絶好調というところでしょうか?

…ところがある日、女の子に変化が表れました。

村人の家族を見て、ふと自分の家族を思い出したようです。

ここにいれば、学校へも行かず、自分を傷付ける者もいないのに…。

それでも女の子の心は、揺れています。

恋しくなったのでしょう。

わりと珍しいことではありません。

その内、女の子の表情が暗くなっていきました。

村人は心配しました。

けれど女の子の心の中には、元の生活や家族のことでいっぱいになってしまったのです。

そして…女の子は言ってはいけない、その一言を、口に出してしまったのです。


―帰りたい、と。





















すると村人の表情が一変しました。

恐ろしい顔付きになり、そして…満面の嫌な笑みを浮かべながら、彼女に襲い掛かったのです。

ボリッ ガリッ ゴリッ ビジャッ

彼女は声を上げるヒマもなく、村人に食い殺されてしまいました。

やがて女の子を食い終えた村人達は、残念そうにため息をつきました。

「せっかくお嫁さんになってくれると思ったのに…」

「まあしょうがないな」

「残念だったな」

「でもまあ…ウマかったよ」

口元の血を舐めながら、村人達は満足そうでした。

そう、この村に来た外部の人間は、エサになるか村人になるかの、どちらかしかないんです。

何せ封鎖的な村ですからね。

肉にも飢えていますし、人口も年々減っています。

農業でやっていくにも、限界がありますからねぇ。

閉鎖的なだけに、外部との表立っての接触は持たない。

ただ、ボクの連れて来る人間を、待つだけの存在。

けれどボクはその役目に満足しています。

だって…食い殺された人間の残骸で作られたエサって、とっても美味しいんですもん♪



【完】
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