【R18+BL】狂恋~狂おしい恋に身を焦がす~

hosimure

文字の大きさ
1 / 7

10年ぶりの再会

しおりを挟む
 人生ってのは、平凡でも地味でもいい。
 平和であれば、なお良い。
 好奇心から動いても、いつかは疲れてしまうものだ。
 心も、体も。
 オレはそれをよく分かっている。
 過去に好奇心によって暴走し、危うく自分が壊れそうになった経験をしているからだ。
 その経験以来、もう好奇心は抑えることにした。
 何かに踊らされたり、乱されたりしないような生き方を選んだ。
 まだ二十八歳にしては、年寄り臭くなってしまったと自覚している。
 けれど暴走の代償が重く、辛くなることを知っているからこその選択だった。
 このまま何事も無く、平和なままで生きていけたらと思っていた。
 なのに…。
「本社から移動してきました。華宮かみや利人りひとです。これからよろしくお願いします」
 パチパチパチと、拍手の音が響く。
 ざわざわと社員達が話している。
 内容は利人の容姿の良さだ。
 高い身長なのに、着痩せする体にブランドのスーツが良く似合っている。
 薄茶色の髪は少し伸びていて、細いフレームのメガネが琥珀色の瞳をより魅力的に見せていた。
 日本人離れした容姿は、彼がハーフだからだ。
 モデルをしていても不思議じゃないほどの美しさは、男女共々魅了させられる。
 …が、オレは違っていた。
 頭から足の指先まで、血の気がサーッと一気に下がっていた。
 ここで倒れなかったのは、気力を振り絞っているからだ。
 この会社の全社員が集まる食堂の中、倒れれば注目されてしまう。
 オレの働いている会社は、大会社の子会社。
 名前だけは有名だけども、ウチの会社自体は小さかった。
 決して都会とは言えない街中にあって、働いている人達も穏やかで、あんまり出世とかには興味がない。
 この地味さがオレにとってはとても居心地が良かった。
 けれど今、利人がいては、居心地は地獄と言える。
 鏡を見ずとも、表情が引きつっているのが自分でも分かる。
「利人…。まさか…違う、よな?」
 オレは小声で呟いた。
 けれど壇上に上がっている利人は、その声が聞こえたように、こちらを見た。
「っ!」
 オレの驚いた顔を見て、利人は満面の笑顔を浮かべた。

(ようやく見つけましたよ)

 利人の心の声が、頭の中に響いてきた。
 それはきっと、幻聴ではない。
 そう…アイツはオレを追ってきたんだ。



 利人の所属先は営業。
 オレの所属は事務で、ほっとした。
 朝、利人の紹介が終わってからというもの、社員達は利人の噂で持ちきりだった。
 オレは視線をパソコンに向けながらも、噂には耳を立てていた。
 何でも利人は本社の営業部にいて、成績もナンバー1だったらしい。
 ところが同じ営業部でも、この会社の成績は下降まっしぐら。
 それを改善する為に、利人が派遣されたというわけだ。
 期間は今日から一年間。
 それが終われば利人は本社に戻るらしい。
 …どっから情報が流れてくるんだか、と呆れていたが、それは休憩室で判明した。
 先に休憩していた女性社員二人組みがいて、利人について話をしていた。
 どうやら他の女性社員が利人に直に聞いて、その話をいろんな人に言い触らしているみたいだ。
 相変わらず女性にはとことん優しいんだな。
「はぁ…」
 オレはその場を離れ、自動販売機が置いてある廊下に向かった。
 缶コーヒーのブラックを買って、休憩室に戻ると、さっきまでいた二人組みはいなかった。
 他に人もなく、オレは一人でイスに座った。
 すると間も無く、扉が叩かれた。
「どうぞ」
 声をかけて、扉が開いた。
「―久し振りですね。雅夜まさや」
 そしてすぐに後悔した。
「利人っ…!」
 オレが今、一番会いたくない人物が、目の前に現れた。
 落ち着けっ…!
 取り乱すことはない。
 アレから十年も経っているんだ。
 お互い、大人なんだから。
「…久し振り、だな」
「ええ、そうですね。もう十年ぶりですね」
 利人は笑顔で扉を閉め、オレの向かいのイスに座った。
「休憩中でしたか?」
「あっああ。お前は?」
「挨拶回りの途中です。ちょっと疲れたんで、休憩しに来ました」
「そうか…」
 …間が、持たない。
 と言うより、オレの心臓がさっきから痛んでいる。
 これは罪悪感か?
 それとも十年前のような過ちを犯すなという、自らの警告だろうか?
「…じゃ、オレは戻るから」
「待ってくださいよ」
 立ち上がると、利人に腕を掴まれた。
 掴まれた腕が痛い。強い力だ。
「…何だよ」
 利人の色素の薄い琥珀色の眼を、真正面から見つめる。
「話があります。今夜、空けといてくれませんか?」
「お前の方がムリだろ? 歓迎会、あるんじゃないか?」
「予定があるので、後にしてもらいました」
 予定というのは、やっぱりオレのことだろうな。
「オレはお前に話しなんかない」
「私はあります。例え一晩かかってもいいぐらいにね」
 利人の表情は笑顔ながらも、その眼は激しい感情を宿していた。
 ここで逃げても、利人はまた追ってくるだろうな。
 オレはため息をついて、諦めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した

あと
BL
「また物が置かれてる!」 最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…? ⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。 攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。 ちょっと怖い場面が含まれています。 ミステリー要素があります。 一応ハピエンです。 主人公:七瀬明 幼馴染:月城颯 ストーカー:不明 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

陰キャ幼馴染がミスターコン代表に選ばれたので、俺が世界一イケメンにしてやります

あと
BL
「俺が!お前を生まれ変わらせる!」

自己肯定感低めの陰キャ一途攻め×世話焼きなお人好し平凡受け

いじられキャラで陰キャな攻めが数合わせでノミネートされ、2ヶ月後の大学の学園祭のミスターコンの学部代表になる。誰もが優勝するわけないと思う中、攻めの幼馴染である受けは周囲を見返すために、攻めを大幅にイメチェンさせることを決意する。そして、隠れイケメンな攻めはどんどん垢抜けていき……?

攻め:逸見悠里
受け:佐々木歩

⚠️途中でファッションの話になりますが、作者は服に詳しくないので、ダサいじゃん!とか思ってもスルーでお願いします。

誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。

髙槻 壬黎
BL
ヤンデレ執着攻め×鈍感強気受け ユハン・イーグラントには、幼い頃から共に過ごしてきた幼馴染みがいる。それは、天使のような美貌を持つミカイル・アイフォスターという男。 彼は公爵家の嫡男として、いつも穏やかな微笑みを浮かべ、凛とした立ち振舞いをしているが、ユハンの前では違う。というのも、ミカイルは実のところ我が儘で、傲慢な一面を併せ持ち、さらには時々様子がおかしくなって頬を赤らめたり、ユハンの行動を制限してこようとするときがあるのだ。 けれども、ユハンにとってミカイルは大切な友達。 だから彼のことを憎らしく思うときがあっても、なんだかんだこれまで許してきた。 だというのに、どうやらミカイルの気持ちはユハンとは違うようで‥‥‥‥? そんな中、偶然出会った第二王子や、学園の生徒達を巻き込んで、ミカイルの想いは暴走していく──── ※旧題「執着系幼馴染みの、絶対に叶えたい6つの願い事。」

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

【完結】ずっと一緒にいたいから

隅枝 輝羽
BL
榛名はあまり目立ったところはないものの、真面目な縁の下の力持ちとして仕事に貢献していた。そんな榛名の人に言えないお楽しみは、お気に入りのおもちゃで後ろをいじること。社員旅行の前日もア○ニーですっきりさせて、気の進まないまま旅行に出発したのだが……。 J庭57のために書き下ろしたお話。 同人誌は両視点両A面だったのだけど、どこまで載せようか。全部載せることにしましたー!

処理中です...