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利人は当時から注目されてて、反対にオレは普通の生徒だった。
同じクラスにもなったことがなければ、委員会も部活も違っていた。
お互い、縁なんて無いにも等しかった。
なのに利人は高校二年の夏、いきなりオレに告白してきた。
最初は何の罰ゲームなのかと、心底疑った。
けれど利人は本気でオレと恋人になりたいと言ってきた。
高校の入学式でオレを見た時から、一目惚れをしてしまったと…。
それでオレは…学校で人気があるコイツと恋人になるというのに興味が出て、つい告白を受けてしまった。
そう、暴走してしまったんだ。
その後、まずは友達付き合いからはじまった。
お互いのことを、何も知らなさ過ぎだったから。
友達としての付き合いは最高だった。
利人は優しかったし、気も利いた。それにオレを大事にしてくれた。
それがとても嬉しかった。
だから…利人に『抱きたい』と言われた時も、そんなに迷わず頷けた。
初めて身も心も結ばれた時、利人はさっきの言葉をオレに言った。
「私は将来、父の会社を継がねばなりません」
「知ってるよ。オレが邪魔になったら、すぐに捨てていいから」
「バカなこと、言わないでくださいよ」
ぐったりと横たわるオレの頭を、利人は優しく撫でた。
「私はあなたを諦めるつもりはありません。会社もあなたも、両方を手に入れてみせますよ」
「自信家だな」
「知りませんでした? 恋は人を強くするんですよ」
「それは知らなかった」
ベッドの中で二人、笑いあった。
「じゃあ見ててください。絶対に成功させてみせますから」
「ああ。楽しみにしてる」
…その時のオレは、利人を信じていた。
素直に、信じられた。
だけどオレは…。
「…何があなたを不安にさせたんですか? 誰かに言われました?」
「言われて無い。大体、オレ達の関係は周囲には秘密にしてただろ?」
公にはできなかったし、するつもりもなかった。
「ならどうしてっ…!」
痛いほど真剣な利人の眼を、見ることができない。
真実を告げれば、余計に傷付ける。
「さっき言った通り、将来に不安を感じたからだ。お互いの為だろ?」
「そんなの嘘ですね」
あっさり見抜くなよ…。
険を含んだ眼差しで、利人はオレを見る。
「それならば十年前、ハッキリと私に言ったはずでしょう? けれどあなたは何も言わずに去った。同じ大学に行けるとばかり思っていたのにっ!」
大学は利人と同じ所を受けた。
受験はした。そして合格した。
けれどもう一つ、海外の大学も受験して、合格していたことを利人には言わなかった。
そしてオレは高校を卒業した後すぐ、黙って海外へ一人で行った。
…そのことを利人が知ったのは、大学の入学式。
大学で待ち合わせをしていたのに、オレが現われないことを不思議に思って、知り合いに連絡をして、ようやくオレに裏切られたことを知った。
オレはその後、携帯電話を変え、番号もメアドも全て変えた。
そのことを両親以外には誰にも告げなかった。
利人にだけは、知られたくなかったから。
そして大学を卒業した後、日本に戻って来た。
けれど地元には帰らず、遠いこの土地に来て就職した。
だけどその間ずっと、利人はオレのことを探していた。
分かっていながら、オレは連絡しなかった。
…終わらせてほしかったんだ。
恋人なんて関係は。
いや、終わってほしかったんだ。オレが。
「…十年前、お前に何も言わず去ったことはオレが悪かった」
けれど何も言わずに去ったのは、卑怯としか言い様がないことも分かっていた。
「お前のことが嫌いになったとかじゃなかったんだ。だから真正面から別れは告げられなかった」
だけど今なら言える。
「終わりにしよう。若さゆえの過ち、暴走だったと思ってさ」
「思えるわけがないでしょうっ!」
利人は声を荒げ、立ち上がった。
そしてオレの肩を掴み、真正面からオレの眼を見る。
「どうして本当のことを言ってくれないんです? あなたは嘘ばかりついている」
「それ、は…」
言えない、からだ。
お前と恋人関係になることを選んだのは興味本位からであって、真剣には考えていなかったことを。
そしてセックスさえも、興味があったからしたなんてこと…口がさけても言えやしない。
最低だった。
本気で恋愛をしていたとは、言えない。
けれど利人と共に過ごす時間が増えるうちに、だんだんと本気になっていった。
利人が本気でオレのことを愛してくれているのが分かってきた。
だからこそ、罪悪感ができてしまった。
最初から本気で恋人になることを考えていなかった自分がイヤで、自分自身を嫌いになっていた。
利人に惹かれていく強さで、自分のことを嫌いになった。
その気持ちに押し潰されそうになって、ガマンができなくなって、利人から逃げた。
そんなオレの気持ちを知られたくなくて、あえて黙って消えた。
今もその気持ちがあるんだから、十年経ってもオレは成長していない。
「利人のことは…今でも愛してる」
オレは真っ直ぐに利人の眼を見て言った。
「っ! 雅夜…」
利人の動揺が、掴まれている肩から伝わる。
「けれどお前のこと、同じ強さで怖いとも思っているんだ」
「怖い? 私が?」
「はっきり言ってしまえば、愛が重過ぎるんだ。オレには耐え切れない」
「それが…本音、ですか?」
「…ああ。だから何にも言えなかった」
コレも本音だ。
利人がオレを深く愛してくるたびに、そして求めてくるたびに、恐ろしさを感じていた。
それはきっと、罪悪感から感じたことだろうけど…コレは言えない。
「…だけど今でも私を愛してる。それは十年間、変わらなかったんですよね?」
「それはっ…!」
そう、だけど…。
「それじゃあ恋人を止めることはないですよ」
同じクラスにもなったことがなければ、委員会も部活も違っていた。
お互い、縁なんて無いにも等しかった。
なのに利人は高校二年の夏、いきなりオレに告白してきた。
最初は何の罰ゲームなのかと、心底疑った。
けれど利人は本気でオレと恋人になりたいと言ってきた。
高校の入学式でオレを見た時から、一目惚れをしてしまったと…。
それでオレは…学校で人気があるコイツと恋人になるというのに興味が出て、つい告白を受けてしまった。
そう、暴走してしまったんだ。
その後、まずは友達付き合いからはじまった。
お互いのことを、何も知らなさ過ぎだったから。
友達としての付き合いは最高だった。
利人は優しかったし、気も利いた。それにオレを大事にしてくれた。
それがとても嬉しかった。
だから…利人に『抱きたい』と言われた時も、そんなに迷わず頷けた。
初めて身も心も結ばれた時、利人はさっきの言葉をオレに言った。
「私は将来、父の会社を継がねばなりません」
「知ってるよ。オレが邪魔になったら、すぐに捨てていいから」
「バカなこと、言わないでくださいよ」
ぐったりと横たわるオレの頭を、利人は優しく撫でた。
「私はあなたを諦めるつもりはありません。会社もあなたも、両方を手に入れてみせますよ」
「自信家だな」
「知りませんでした? 恋は人を強くするんですよ」
「それは知らなかった」
ベッドの中で二人、笑いあった。
「じゃあ見ててください。絶対に成功させてみせますから」
「ああ。楽しみにしてる」
…その時のオレは、利人を信じていた。
素直に、信じられた。
だけどオレは…。
「…何があなたを不安にさせたんですか? 誰かに言われました?」
「言われて無い。大体、オレ達の関係は周囲には秘密にしてただろ?」
公にはできなかったし、するつもりもなかった。
「ならどうしてっ…!」
痛いほど真剣な利人の眼を、見ることができない。
真実を告げれば、余計に傷付ける。
「さっき言った通り、将来に不安を感じたからだ。お互いの為だろ?」
「そんなの嘘ですね」
あっさり見抜くなよ…。
険を含んだ眼差しで、利人はオレを見る。
「それならば十年前、ハッキリと私に言ったはずでしょう? けれどあなたは何も言わずに去った。同じ大学に行けるとばかり思っていたのにっ!」
大学は利人と同じ所を受けた。
受験はした。そして合格した。
けれどもう一つ、海外の大学も受験して、合格していたことを利人には言わなかった。
そしてオレは高校を卒業した後すぐ、黙って海外へ一人で行った。
…そのことを利人が知ったのは、大学の入学式。
大学で待ち合わせをしていたのに、オレが現われないことを不思議に思って、知り合いに連絡をして、ようやくオレに裏切られたことを知った。
オレはその後、携帯電話を変え、番号もメアドも全て変えた。
そのことを両親以外には誰にも告げなかった。
利人にだけは、知られたくなかったから。
そして大学を卒業した後、日本に戻って来た。
けれど地元には帰らず、遠いこの土地に来て就職した。
だけどその間ずっと、利人はオレのことを探していた。
分かっていながら、オレは連絡しなかった。
…終わらせてほしかったんだ。
恋人なんて関係は。
いや、終わってほしかったんだ。オレが。
「…十年前、お前に何も言わず去ったことはオレが悪かった」
けれど何も言わずに去ったのは、卑怯としか言い様がないことも分かっていた。
「お前のことが嫌いになったとかじゃなかったんだ。だから真正面から別れは告げられなかった」
だけど今なら言える。
「終わりにしよう。若さゆえの過ち、暴走だったと思ってさ」
「思えるわけがないでしょうっ!」
利人は声を荒げ、立ち上がった。
そしてオレの肩を掴み、真正面からオレの眼を見る。
「どうして本当のことを言ってくれないんです? あなたは嘘ばかりついている」
「それ、は…」
言えない、からだ。
お前と恋人関係になることを選んだのは興味本位からであって、真剣には考えていなかったことを。
そしてセックスさえも、興味があったからしたなんてこと…口がさけても言えやしない。
最低だった。
本気で恋愛をしていたとは、言えない。
けれど利人と共に過ごす時間が増えるうちに、だんだんと本気になっていった。
利人が本気でオレのことを愛してくれているのが分かってきた。
だからこそ、罪悪感ができてしまった。
最初から本気で恋人になることを考えていなかった自分がイヤで、自分自身を嫌いになっていた。
利人に惹かれていく強さで、自分のことを嫌いになった。
その気持ちに押し潰されそうになって、ガマンができなくなって、利人から逃げた。
そんなオレの気持ちを知られたくなくて、あえて黙って消えた。
今もその気持ちがあるんだから、十年経ってもオレは成長していない。
「利人のことは…今でも愛してる」
オレは真っ直ぐに利人の眼を見て言った。
「っ! 雅夜…」
利人の動揺が、掴まれている肩から伝わる。
「けれどお前のこと、同じ強さで怖いとも思っているんだ」
「怖い? 私が?」
「はっきり言ってしまえば、愛が重過ぎるんだ。オレには耐え切れない」
「それが…本音、ですか?」
「…ああ。だから何にも言えなかった」
コレも本音だ。
利人がオレを深く愛してくるたびに、そして求めてくるたびに、恐ろしさを感じていた。
それはきっと、罪悪感から感じたことだろうけど…コレは言えない。
「…だけど今でも私を愛してる。それは十年間、変わらなかったんですよね?」
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そう、だけど…。
「それじゃあ恋人を止めることはないですよ」
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