異世界召喚先で国家を作るだけのとても大変なお仕事です

雷帝

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プロローグ

始まり

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 「ふわあぁぁ……」
 
 俺、守森常磐(かみもりときわ)は、でかかったあくびをかみ殺した。

 「お兄ちゃん、夜更かし? めずらしー」
 我が妹の翡翠(ひすい)がからかいまじりに言いつつ、冷蔵庫からラップのかかった皿を取り出す。母さんが作っておいてくれた朝食だ。ちなみに両親は現在、就寝中。二人とも昨夜は徹夜仕事だったので、朝は寝てていいよと言ってある。
 レンジがチンと鳴って、俺は温め終わった皿を取り出し、翡翠が冷蔵庫から出した皿を入れてまたあたためボタンを押した。

 「『戦争』に参加したら、ゲーム仲間と盛り上がっちゃってね。落ちるに落ちられなかったんだよ」

 軽い眠気にぼんやりしながら俺は答える。
 翡翠はクスクス笑って言った。

 「『ワールドネイション』? お兄ちゃん、長いよねぇ。もう何年やってるの?」

 『ワールドネイション』とは、俺がハマっているVRMMOゲームだ。
 VRMMOが普及して早十数年。対応したゲームがこれまでにいくつも開発されたが、その中でも俺が長く続けているのが『ワールドネイション』だ。
 どんなゲームなのか平たく言えば、「国を作って国同士で戦う」ゲームだ。
 昨夜から戦争イベントが始まって、久しぶりに参加したら、ゲーム仲間と「さっきの戦争はあーだこーだ」と分析する話で盛り上がってしまい、それが楽しくてなかなかログアウトできなかった。戦略性・戦術性が要求されるゲームだけに日常では話が出来る相手が限られているという事もある。
 俺が温めた料理をテーブルに並べながら、翡翠が何やら深刻そうな顔で聞いてきた。

 「……お兄ちゃん」
 「ん?」
 「ワールドネイションってどんなゲーム?」

 俺は目をしばたたかせた。
 翡翠は、VRMMOの中でも自分の体を動かして敵を倒すようなものが好きだ。前にも『ワールドネイション』はどんなゲームかと聞いてきたが、国を動かして戦争すると説明したところで興味を失い、それ以降尋ねてくることはなかった。
 だからこそ、俺は椅子に座りながら、翡翠に目を向けた。

 「おまえ、興味なかったんじゃないのか?」

 椅子に座った翡翠は、気まずげに目をそらす。

 「友達がみんな『ファンシー・スター』をやめて『ワールドネイション』をやらないかって言うの」

 俺はまた、目をしばたたかせた。
 『ファンシー・スター』とは、王道のファンタジーゲームで、かつては一世を風靡した人気タイトルだ。
 だが、最近よからぬ話を友人を通じてではあるが、よく耳にする。ゲームの運営者が廃課金者の求めるまま敵を強くしたり、ぶっ壊れアイテムが極低確率で入手出来るガチャを導入していったために初心者には敷居の高すぎるゲームになってしまったとかで、それに反発したプレイヤーが次々やめていっているとか。
 もっともゲームの収益の大半はそうした極一部の課金プレイヤーが担っていると聞いた事があるので、収益はそこまで落ち込んでないために実感が湧かないのかもしれない。

 「俺も話を聞いてるからやめたいっていう気持ちはわかるけど、でもなんでまた、『ファンシー・スター』とはまったく毛色の違う『ワールドネイション』をやるって話になるんだ?」
 「……前回が体動かしまくるゲームだったから、今度は頭を使うゲームをやりたいんだって」

 なんとまあ、単純な。それで体を動かすゲームが大好きな翡翠がしょげているというわけだ。
 一人『ファンシー・スター』に残れば、友達達との共通の話題を失うことになる。話題が合わなくなって、友達から孤立する翡翠が目に浮かぶようだ。
 だから俺は助け船を出してやった。

 「『ワールドネイション』も体動かすっていうか自分でモンスター倒したりするパートあるぞ?」
 「え!?ほんと!!」

 翡翠が顔を上げ、ぱっと笑顔になる。相変わらずわかりやすい。俺は苦笑しながら説明した。

「ゲームを始めてすぐは冒険者クラスだ。一人でミッションをこなしたり、モンスターを倒して資金稼ぎをしたりする。クラスが上がっても、モンスター討伐はできる。ただし、あくまで建国が目的のゲームだから、モンスター討伐イベントとかない限り、一定以上のレベルからはモンスターをいくら倒しても大した資金にならないし、レベルもほとんど上がらないがな」

 もっとも『ワールドネイション』の仕様の関係上、高レベルになっても回る意味のあるダンジョンや野外エリアはあるんだけど。
 俺の説明を聞いてまた凹んだが、翡翠は気を取り直して尋ねてきた。

 「その建国って、どうやってやるの?」
 「食べながら説明してやるよ。早く食べないと遅刻する」

 そう言って俺は箸を取った。
 本日の朝食は和食、炊いてあったご飯に温め直した味噌汁、レンジで温めた肉じゃが。
 翡翠は味付け海苔を出してるが、俺は肉じゃがをお供にご飯を食べる。うん、しっかり味が染みてて美味い。
 口に入れたまま喋らないよう注意しながらという事もあって、朝食の短い時間にできる程度の簡単な説明しかしなかったのに、食べ終わる頃には、翡翠はテーブルに突っ伏しそうになっていた。

 「……おい、大丈夫か?」
 「うにゅー」

 何だか、頭から煙が上がってる光景が見えるようだ。まあ、無理もないか……。

 「……普通頑張ったら凄く強くなって国もおっきくなったりしないの?」
 「本番はあくまで国家運営だからな。レベルが上がったー国が大きくなったーじゃつまらないだろ?」

 そもそもそれじゃ戦略・戦術が全然鍛えられないのでいざ『戦争』になった時ボロ負けするだろう。

 「……だから都とか人材とかも全部自前でそろえていく訳?……面倒そうー…」
 「最初から大規模運営をする訳じゃないさ。まずは村を作って村を守る自警団を作って──この自警団っていうのは、パーティーを組むのと似たようなもんだ。『ファンシー・スター』でもやったろ?」
 「じゃあ最初のうちは『ファンシー・スター』とそんなに変わらないってこと?」
 「ま、そういうこった。『ファンシー・スター』より通常パートの難易度は相当低いから、お前の友達も普通にサクサク進められるだろうよ」
 「ふーん」

 少しは関心を持ち直してくれたかな?

 「後は種族だな。種族によって戦い方が違うから。で、どんな戦い方がいいんだ?」
 「どかーんとやって派手な奴!!」
 「……もう少し具体的に言えるか?」

 俺が顔をしかめて尋ねると、翡翠はうーんうーんと悩み始める。
 仕方ないか。『ファンシー・スター』には『ワールドネイション』ほど種族による違いがないみたいだからな。とはいえ、もう少し具体的な例を言ってくれない事には俺としてもアドバイスのしようがない。

 「わかった。通学途中に種族による戦い方の違いを教えてやるよ」
 「よろしくお願いします」

 翡翠はそう言って深々と頭を下げた。


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