異世界召喚先で国家を作るだけのとても大変なお仕事です

雷帝

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第一章

異世界の初夜

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 異世界(仮)に来て、最初の夜を迎えた。
 日本の街は夜でも周囲に何だかんだで明かりが至る所にあって、夜でも道が見えないという事はない。
 けれども、ここは人の手すら入っていない自然の森。明かりのない森の中というのがここまで真っ暗闇で見えないものだとは思わなかった……というのは翡翠ひすいの言葉。
 
 「私だけ見えないのはずるい!!」

 そうなんだ。
 俺達の種族はそれぞれ、俺こと守森常盤かみもりときわが植物の精霊王エント、笠斗りゅうとがフレースヴェルグ。
 いずれも最上位の魔物の一角であり単なる夜の闇程度で視界に支障を来す事はない。笠斗のフレースヴェルグは見た目鳥ではあるが、さすがにこのレベルの存在で鳥目になんかなったりはせず、夜の闇も昼間同然に見えるそうだ。大本の元ネタである北欧神話じゃ鷲の姿をしていても、あくまで巨人なんだそうだけど。
 残りの内、猫子猫ねここねこさんは虎の獣人。
 香香きょうかちゃんは熊系の魔物で、陽奈ひなちゃんはドワーフ。そして、摩莉夜まりやちゃんはエルフ。
 虎もだけど、熊の魔物である香香ちゃんも夜目が効き、地底の洞窟で暮らすとされるドワーフや、森の中で暮らすからかエルフも暗闇の中で視界が確保出来る。もっとも、見えると言っても程度の差はあって俺や笠斗はその気になれば昼間同然、陽奈ちゃんがそれに次ぐものを持ち、以下香香ちゃんと猫子猫さんがほぼ同じ、摩莉夜ちゃんが最後という順になる。
 これに対して、翡翠は鳥の獣人だ。
 実の所鳥目というのはあくまでニワトリなんかに特徴的な夜盲症の症状であって、ほとんどの鳥は人以上に夜の闇も見通せるらしい。とはいえゲームでは矢張り一般的なイメージ優先なのか、フクロウやミミズクならともかく、通常の鳥系獣人なら特に夜目が効くという能力はない。なので仕方ないんだが一人だけ見えないというのが心細い上に、仲間外れにされたような気持ちになるらしい。
 分からんでもないんだが……。

 「アイテムボックス使えます?」
 「無理だな」
 「同じク」
 「「「「「「………」」」」」」

 笠斗の声、何か変だったような。

 「どうしタ?」

 思わず全員が笠斗の顔を見たからだろう。どこか驚いたように口を開いたが、やっぱりそうだ。

 「なんかイントネーションがおかしくないか?お前」
 「そうカ?俺は特に実感ないんだガ」

 うーん、やはり語尾が妙に上がった感じというか何というか。
 実際に体が変わった事で変化が起きたんだろうか?どうやら笠斗当人は特に変わったという意識はないようだが。
 それを伝えはしたが、当人は自分がいつも通りの発言をしているように感じているのだから修正しようがない。

 「……ま、それ自体は大した事じゃねえし、ほっとくしかねえだろう」
 「そうですね」 
 「うーン?自分としてはほんといつも通りのつもりなんだがなア」
 「まあ、気にすんな。で、話を戻すがアイテムボックスの話だったよな?」
 
 そうなんだ、『ワールドネイション』に限らずゲームではお馴染みのアイテムボックスと呼ばれるインベントリ、この中に俺達はたくさんのアイテムを入れる事が出来た。
 ところが、この世界へと来てからそれが開けない。お陰で、その中に入っていた一般的なアイテムが軒並み使えない。それがあれば暗視系の道具とかもあったはずなのに。
 
 猫子猫さんが「一晩話す時間が欲しい」と言ったのはこうした事の確認もあった。
 エルフ達が立ち去り、見張りもいない事を俺と笠斗の能力(植物と風、その二つから逃れる術はない、と思う)で確認してから俺達は猫子猫さんに言われて色々試してみた。正直、見張りもいないのは予想外だったけど、下手に見つかって印象が悪化したらよろしくないと判断したんだろう。ただでさえ、無理に召喚したのにこれ以上印象を悪くするのは避けたいと考えてもおかしくない。
 不幸中の幸いだったのはアイテムボックスは使えなかったが、プライベートボックス、通称ポケットの中の物は無事だったって事か。
 アイテムボックスが一覧を開いて、選択して個数を入力して取り出す形式なのに対して、ポケットは一個ずつしか入れられないが即座に取り出す事が出来る。自身も戦闘に突入した時に咄嗟に取り出せる物を入れておく場所で、予備の武器だったり、よく使う道具や回復系アイテムなんかを入れてあった。その分、容量は小さいけど。
 四人娘にプレゼントした上位武器もポケットを教える時、彼女らはそこに入れたので無事持って来れた。
 視覚、聴覚といった感覚は問題なし。
 その次は魔法。
 これも使用に問題はなかった。
 もっとも奇妙な感覚ではあった。本物の魔法なんて俺達は誰も使った事はない。なのに、俺達の頭の中には魔法とその呪文が当り前のように存在していて、それを唱える事が出来る。何というか、笠斗や摩莉夜ちゃんと思わず顔を見合わせてしまったよ。
 正直に言えば、かなり不気味だったね。学んだ覚えもない知識が頭の中にある、という事、直感的に使い方を理解出来るというのは。
 とはいえ、ありがたい話ではある。
 これで、「魔法は使えません」では非常に困った事になってただろう。なお今現在、我々がいるツリーハウスも俺が魔法で試しに作成したものだ。ついでに、魔法陣は樹木のドームで保護する形にしてある。
 体の方は?と言えば、猫子猫さんが実際に体を動かして、「魔法の代わりに剣術とかそういう経験が頭と体にインストールされてる感じだな……」と何とも言えない顔をしていた。 
 
 「さて、これでおおまかな所は把握出来たか」
 「そうですね」

 猫子猫さんの周囲を見回しながらの発言に、全員が頷く。
 手持ちのアイテム、剣や魔法などの戦闘能力、変身というか俺や笠斗、香香ちゃんは魔物形態になれるかどうか。
 言語はとりあえずエルフ達との会話が出来た事から大丈夫だろう。 
 それは同時に、ここが『ワールドネイション』というゲームの中ではないという事を確認する為の行動でもあった。
 
 「あと重要な点だが、とりあえず実際に動物含めて相手を殺せるか、というのは嫌だがどこかでやらんといかんだろうな。話聞いた範囲でどう考えてもこのままじゃ俺達は戦闘に巻き込まれるだろうし、そうなった場合殺し殺される現場で硬直して動けなくなりました、なんて事になるのは御免だ」

 深い溜息と共に、猫子猫さんが言った事に俺含めた全員が真剣な、或いは暗い顔になる。
 人とエルフの戦いには参加せず逃げる、という手を取るにしてもこっちの世界で生き延びる為には動物を殺して解体する事は避けられないだろうしね。互いに武器を振り上げた時、殺す、って事に恐怖してこっちが硬直したら、それこそ敵からはいい的でしかない。
 言われる通り、事前にやっておくに越した事はないだろう。
 ただ、これに関しては意外なものが味方してくれそうだ。

 「……もう一人の俺達の記憶と経験。こいつがどこまであてになるか、だな」
 「そうですね。それに副作用があるのかどうか」 
 「それと、後重要な事なんだが……名前だ」
 「名前ですか?」
 「ああ」
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