異世界召喚先で国家を作るだけのとても大変なお仕事です

雷帝

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第一章

役割分担とその仕事

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 「という訳ダ。連中の軍勢はまだ到着していなイ」
 「なるほど、って事は今の所、予定通りに進めて大丈夫そうだな」
 「そうだナ。もう少し先まで足を伸ばしてみたが、軍勢の姿はなかっタ。聞いた限り軍勢の移動手段の中心は徒歩だそうだし、一月やそこらは大丈夫だろウ」

 朗報だ、とカノンの偵察報告にティグレさんが頷いた。
 今後もカノンは定期的に偵察に向かう事になった。最速且つ広範囲を探れるカノンがそれを担うのは良い分担だろう。
 次は……。

 「咲夜ちゃん、頼んでおいた装備はどんなもんだ?」
 「順調。作った事がないのに、作った経験と記憶があるって怖いね……」

 この面々の中で唯一の生産職が咲夜ちゃんだ。
 現在、彼女が作成しているのが魔術付与を行った武器や道具。
 もちろん、『ワールドネイション』のベテラン達の作る道具に比べれば、彼女の作成するものは大きく性能が劣る。しかし、この世界では道具に魔法の能力を付与する、という事は名工が長い長い時間をかけてやっと行える技だという。だから、一本の魔法付与の施された武器や道具、通称魔具はいずれもが国宝級。兵士一人一人に与えられるようなものじゃない。
 それを簡単なものに限られるとはいえ、まとまった数生産出来るというのは大きい。

 「それでも一月では頑張っても百が限界ですよ?」
 「分かってる。それでもあるとないとでは大違いなんだ」

 武器は弓に限定。
 エルフ側の弓の作り手にも協力してもらい、ある程度の部分は彼らに任せる。
 弓の素材に関しては自分が提供。これで本来なら弓に向いた木を探し、試しに削ってみて、といった作業は全部省略出来る。それでもそこまでやって、やっと一つの小部隊分の装備が整うのが現実だ。  
 
 「多少の追尾能力を持たせた弓に、夜の闇を少しだけ見通す眼鏡。これ意味あるんですか?」
 「なに、どうせこっちの数じゃあ相手を全滅させる前に体力の限界がくる。そんなもんでいいのさ」

 四人娘にも役割を割り振っている。
 何もしない、する事がないというのは良くない。

 「けれどステータス画面が見れないのは困りますね。どのぐらい腕が上がったのか分かりません」
 「それが現実って奴じゃあるけどな。んで、次は紅ちゃんとユウナちゃん。……どうだ?」
 「大丈夫!」
 「最初はどんなもんかと思ったけど、何とかなるもんだね」

 紅とユウナ、今日は二人が狩りに行く番だった。
 自分とカノン、ティグレさんの三人は初日に即行で行って、問題ないと分かってはいたものの矢張り女性の場合は、と懸念していたんだが。

 「でも咲夜の言う通り、やった事ないはずの経験と記憶があるってのは変な感じ……」
 「うん、狩った獲物をさばくなんてやった事間違いなくないのにね……」
 「まあ、問題ないならいいさ。調査がてら頼むぜ」

 今後は二人は狩りを行いながら、土地に関して実際に動き回って、各部族の場所なんかを確認する事になっている。
 他のメンバーと比べると出来る事が少ないからな……。でも、二人は共に空を飛び、空を駆ける事が出来る。高速で移動して、見つけた部族に、こちらの部族の人達からの協力要請の手紙を届ける、という役割も任されている。
 ……まあ、期待はしてないけどね。

 「マリアちゃんはどうだい?」
 「こちらの魔法や、私達のような存在が伝承にないか、ですね?魔法に関してはある程度分かって来たのですけど……伝承に関しては情報が少なすぎますね。エルフさん達は確かに長生きしてますけど、本当に村という狭い世界で生きて来たみたいで……」
 
 マリアちゃんの担当はこちらの世界の魔法が自分達の魔法と比べてどんなものかを調べるのが一番の役割。
 大規模な攻撃魔法なんてものが存在していればそれを警戒しないといけないし、広範囲攻撃が可能な魔術師はどのぐらいの腕前なのかも重要だ。と、同時に自分達が召喚されたように、過去にも召喚された奴がいたんじゃないか。あるいは今後、他にも召喚される奴がいるんじゃないか、って懸念もある。
 あの召喚魔法陣を知る奴がエルフ達だけと思うのは甘い考えだろう。

 「そうか……まあ、そっちは期待してなかったから魔法に重点おいてやってくれ」
 「分かりました」

 そうして、ティグレさんは一同を見回した。

 「とにかく、色々思う事もあるかもしれないが、今は動こう。本当に攻めてくるとしたら国が俺達の個人的な意見なんて聞いちゃくれないだろうからな……」

 そう、聞いてもらう為には相手が耳を傾けざるをえないだけの力をこちらが持っていると理解させなければならない。それが出来て初めて、俺達はエルフ達の最初の段階の安全を確保出来た、と言えるだろう。その次はそれを恒常的なものとしないといけない訳だが。
 え?自分は何で確認しないのかって?
 そりゃ自分はやってる事が多すぎるから最初にまとめて木板(紙ってないんだな……)に書き込んで、皆に配ってあった。
 数を揃える為のゴーレム作り。
 咲夜ちゃんの道具作りに必要な樹木の生成。
 警戒の基点および今後の為の目印となる植物の設定。
 米や味噌、醤油なんかの食材や調味料の生成。
 などなど……自分だけやる事多すぎない?
 世の中、便利な奴って徹底的に使い倒されるんだなあ……と自覚する日々だった。 
  
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