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第一章
騎士団事情
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ブルグンド王国で軍勢と呼べる規模のものは大きく分ければ二つある。
片方は騎士団。
国によって運営される常備兵力であり、国境線の要塞や各地の要所にある都市などに配備されている。
常備だけにしっかりした訓練を積み、専門の戦闘集団として高い練度を持ち、またそこに入る事が出来、正騎士となれば騎士爵を得る事が出来る。最下位のものではあっても貴族としての地位であり、功績次第では更に上、領地持ちの貴族にさえなれる。例え、元が平民であったとしても。
なので、王国において騎士になりたがるものは多数いる。それだけに毎年の入団試験はいずれも狭き門だ。
一介の平民から剣の腕だけで騎士団長へと上り詰め、やがて貴族になった男の物語は王国では定番の話であり、同時にこれは王国側の平民のガス抜き的な面も持っている。
この為、「貴族が入りやすい」騎士団と、実力だけの騎士団が明確に分けられており、前者は比較的安全な場所での守りを、後者は危険な前線を担う形になっている。まあ、貴族にしてみれば我が子の箔付けとなり、平民からすれば功績を立てる機会なのでどちらからも不満は出ていないし、「貴族が入りやすい」騎士団でもきちんとした訓練は為される。
なにせ、アルシュ皇国と戦闘になればまず騎士団に出撃命令が出るし、その時貴族だからとちゃんと鍛えていなかったらそれこそ死ぬ。
さて、もう片方だが、これは貴族の抱える私兵団だ。
彼らは各貴族の護衛や、館の守衛、領内に出た盗賊の討伐などを行う為の、騎士団が国の手足なら、私兵団は貴族の手足だ。
こちらの質はピンキリ。
ほんと野盗寸前みたいなのから、騎士団に匹敵する連中まで様々。総じて、私兵団の質は貴族の実力に準じると思ってもらっていい。
「そうした面から見ると、今回集まって来た連中は……」
溜息をつきたくなる。
今回、騎士団を委ねられた副騎士団長としては頭が痛い。
本来ならば騎士団のみが赴く予定だったのに、周辺の貴族から私兵団を押し付けられた。いや、理由は分かっている。彼らは今回の遠征を領地を得る機会だと判断した訳だ。そんな連中だから質は悪い。ごく一部に例外はあるが、いずれにせよ数人から数十人程度が寄せ集まった烏合の衆でしかない。
「せめて命令に従ってくれれば良いのだが……」
「難しいでしょうな」
部下のアレハンドロ大隊長が渋い顔で頷く。
騎士団で、こうやって今後の予定を打ち合わせているのだが他の面々も難しい表情だ。
「やはり難しいか?」
「命令した所で、それをまともにこなせるだけの練度がありません」
やはり、か……。
「そうなるとやはり分けるしかあるまいな」
「しかし、最悪……」
「分かっている。だが、そう大きな被害は出ないだろう」
全体から見ればな、その言葉は黙っておく。
今回は騎士団の内、半数は工作部隊だ。侵攻の過程でエルフ族相手だと一番面倒なのが森林地帯である事で、動きづらく、奇襲も受けやすい。なので、半数を幾つかの部隊に分けて護衛を行いつつ、工作部隊で着実に切り開いてゆく。その予定だったのだが。
「切り開いた先が自分達の土地となると思っているようだからな。どのみち我先に突っ込んで切り倒しにかかるだろう」
「制止した所で止まりませんか……」
相手も必死で抵抗してくるのだという事を連中は理解していない。間違いなく、まともな警戒もせず奇襲も受けるだろう。
しかし、相手は精々百か二百。
その程度なら犠牲が出た所でそう多くはないだろう。
「犠牲者が出れば、今回送り込んできた貴族達は『戦いだった』と強弁するだろうな。むしろある程度は期待しているだろうよ……」
そんなものに巻き込まれてたまるか!
その後の話し合いで、連中が主張してくるであろう前方に先に布陣させてやり、後方、巻き込まれない位置を選んで騎士団も布陣する事になった。
そして……。
「騎士団には徹底しているだろうな?ポルトン辺境伯殿に連中と同類と思われてはたまったものではないぞ」
.「そう思い、騎士団の一部に順番にポルトンの警備隊と共同で見回りに当たらせております」
性質の悪い連中がはやくもポルトンで騒動を起こしている。
間違いなくポルトンの住人には『連中が来てから雰囲気が悪くなった』と思われているだろうし、これはもう仕方がない。
せめて、辺境伯殿には騎士団は違うと理解していただかねば……。
まだまだ続く事態に全員が重い溜息をついた。
片方は騎士団。
国によって運営される常備兵力であり、国境線の要塞や各地の要所にある都市などに配備されている。
常備だけにしっかりした訓練を積み、専門の戦闘集団として高い練度を持ち、またそこに入る事が出来、正騎士となれば騎士爵を得る事が出来る。最下位のものではあっても貴族としての地位であり、功績次第では更に上、領地持ちの貴族にさえなれる。例え、元が平民であったとしても。
なので、王国において騎士になりたがるものは多数いる。それだけに毎年の入団試験はいずれも狭き門だ。
一介の平民から剣の腕だけで騎士団長へと上り詰め、やがて貴族になった男の物語は王国では定番の話であり、同時にこれは王国側の平民のガス抜き的な面も持っている。
この為、「貴族が入りやすい」騎士団と、実力だけの騎士団が明確に分けられており、前者は比較的安全な場所での守りを、後者は危険な前線を担う形になっている。まあ、貴族にしてみれば我が子の箔付けとなり、平民からすれば功績を立てる機会なのでどちらからも不満は出ていないし、「貴族が入りやすい」騎士団でもきちんとした訓練は為される。
なにせ、アルシュ皇国と戦闘になればまず騎士団に出撃命令が出るし、その時貴族だからとちゃんと鍛えていなかったらそれこそ死ぬ。
さて、もう片方だが、これは貴族の抱える私兵団だ。
彼らは各貴族の護衛や、館の守衛、領内に出た盗賊の討伐などを行う為の、騎士団が国の手足なら、私兵団は貴族の手足だ。
こちらの質はピンキリ。
ほんと野盗寸前みたいなのから、騎士団に匹敵する連中まで様々。総じて、私兵団の質は貴族の実力に準じると思ってもらっていい。
「そうした面から見ると、今回集まって来た連中は……」
溜息をつきたくなる。
今回、騎士団を委ねられた副騎士団長としては頭が痛い。
本来ならば騎士団のみが赴く予定だったのに、周辺の貴族から私兵団を押し付けられた。いや、理由は分かっている。彼らは今回の遠征を領地を得る機会だと判断した訳だ。そんな連中だから質は悪い。ごく一部に例外はあるが、いずれにせよ数人から数十人程度が寄せ集まった烏合の衆でしかない。
「せめて命令に従ってくれれば良いのだが……」
「難しいでしょうな」
部下のアレハンドロ大隊長が渋い顔で頷く。
騎士団で、こうやって今後の予定を打ち合わせているのだが他の面々も難しい表情だ。
「やはり難しいか?」
「命令した所で、それをまともにこなせるだけの練度がありません」
やはり、か……。
「そうなるとやはり分けるしかあるまいな」
「しかし、最悪……」
「分かっている。だが、そう大きな被害は出ないだろう」
全体から見ればな、その言葉は黙っておく。
今回は騎士団の内、半数は工作部隊だ。侵攻の過程でエルフ族相手だと一番面倒なのが森林地帯である事で、動きづらく、奇襲も受けやすい。なので、半数を幾つかの部隊に分けて護衛を行いつつ、工作部隊で着実に切り開いてゆく。その予定だったのだが。
「切り開いた先が自分達の土地となると思っているようだからな。どのみち我先に突っ込んで切り倒しにかかるだろう」
「制止した所で止まりませんか……」
相手も必死で抵抗してくるのだという事を連中は理解していない。間違いなく、まともな警戒もせず奇襲も受けるだろう。
しかし、相手は精々百か二百。
その程度なら犠牲が出た所でそう多くはないだろう。
「犠牲者が出れば、今回送り込んできた貴族達は『戦いだった』と強弁するだろうな。むしろある程度は期待しているだろうよ……」
そんなものに巻き込まれてたまるか!
その後の話し合いで、連中が主張してくるであろう前方に先に布陣させてやり、後方、巻き込まれない位置を選んで騎士団も布陣する事になった。
そして……。
「騎士団には徹底しているだろうな?ポルトン辺境伯殿に連中と同類と思われてはたまったものではないぞ」
.「そう思い、騎士団の一部に順番にポルトンの警備隊と共同で見回りに当たらせております」
性質の悪い連中がはやくもポルトンで騒動を起こしている。
間違いなくポルトンの住人には『連中が来てから雰囲気が悪くなった』と思われているだろうし、これはもう仕方がない。
せめて、辺境伯殿には騎士団は違うと理解していただかねば……。
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