ピエロの仮面は剥がれない

寝倉響

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Shape of love

一人ぼっちの羊⑤

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残り人生 60歳 性別 男
長嶺 太朗

0歳~
・サラリーマンと専業主婦との間に第二子として生まれる。
・後に弟と妹が生まれる。

12歳~
・父親が突然長年務めていた会社をリストラにあい、生活が苦しくなる。
・専業主婦だった母親はパートを始め、父親が職探しに出ている間、1番上の兄と一緒に下の弟の面倒を見るようになる。

18歳~
・大学へは進学せずに高卒で就職をする。
・1年後輩として入ってきた女性社員と交際を始める。

24歳~
・会社の後輩社員と結婚する。
・生活は幸せな日々を送る。
・娘と息子が1人ずつ出来る。

46歳~
・妻が交通事故で死去。男手一人で娘と息子を育てていく。
・翌年、両親も続いて他界。
・弟と妹にも家庭ができる。

59歳~
・子供が成人する
・がんが発症。発見された時には既に手の施しようがなかった。

60歳
・死去
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 今見た人生は、とても幸せそうな家庭だった。家族の中に困難が訪れても、家族がそれぞれ自分の出来ることを精一杯行い、その困難を乗り越えていく。これが家族の絆ということだろう。
 この人生には自分にないものがたくさんある。
 でも……今の俺は裕福過ぎて金のない生活がまったく想像がつかなかった。今の俺がこの人生を歩としても乗り越えていけるような自信がなかった。

 俺は自分の思い描く人生が出るまで、もう一枚もう一枚と紙をひいていった。
 2回目、3回目と引いたが自分の思い通りの人生は得られない。しかし全て共通しているのは今の俺の人生と比べるとどの人生も親に愛されているということだった。しかし、俺は自分がこれから歩む人生を決心出来ずにいた。

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4回目

残り人生 48年 性別 男
山本 夕太

0歳~
・赤ん坊の時、母親に孤児院の前に置かれ、そしてその孤児院に引き取られる。
・孤児院の管理人の山本さんに[夕太]と名付けられる。
・山本さんが親代わりとなる。
・孤児院で一緒に暮らす子供が兄弟姉妹となり、大家族の一員となる。

7歳~
・小学校に入学する。しかし、孤児院に入っていることでいじめにあう。
・いじめられて泣きながら孤児院に帰ってくるが、山本さんがいつも親のように優しく接してくれる。

18歳~
・孤児院を出て一人暮らしをし就職する。就職後も定期的に孤児院に山本さんと妹弟の顔を見に行くようになる。
・山本さんと孤児院へのお礼に僅かながら仕送りを送るようになる。

30歳~
・お見合いで会った女性と結婚する。そして息子も生まれる。
・山本さんが死去。

48歳
・死去。
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【夕太の名前はね――】

【夕太泣かないの。辛いことも乗り越えていかなきゃ。立ち向かうことが大切なのよ】

【母ちゃんのおかげで無事結婚まで出来たよ、ほら孫の顔だよ】

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 映像が終わると、俺は目を開けた。ぼんやりと霞む視界に写るのは黒い人型のシルエット。それはもちろん今まで見ていた山本さんじゃなく、黒服のピエロだ。この人生を見ていた時間は僅か10分足らずの事だったが物凄く幸せを感じ、冷えきった心の奥を暖かくさせた。
 親じゃない、本当の親じゃないけど自分のことを心の底から愛してくれる人がいる。
 だれか一人でもそんな人がいる。そして自分のことを大切に考えてくれる、そしてその人のことも大切に考えれる。
それが1番大切なことなんだ。それがやっと今になって分かった。

 俺はこの人生を生きていくことを決めた。

「ピエロ。俺にこの人生をください。それと俺に関わった人間の記憶は改竄してください」

『わかった……最後にほんとうにこの人生でいいんだね』

 俺は1回縦に頷いた。そして俺は目を瞑った。

 俺の泥で汚れきった心は、このピエロに会って人生リセマラをしたことでいくらか綺麗に洗い流されただろう。
心に抱えていた重荷も軽くなった気がした。俺はずっと1人になるのが怖かった。いろんな手を使って1人にならないように生きてきた。だけどこれからはそんな心配はない。
これから歩む人生は誰ひとりとして血の繋がりはなくても、普通の家族と比べても何ら遜色もない固い絆で結ばれた大家族の一員になれるんだ。

 俺は再び目を開いた。

『さぁ目をつぶって。私の手を握りなさい』


(父さん 母さん 今までありがとう。どうか幸せになってくれ)

(葉羽 今まで本当に悪かった。ちゃんと謝れなくてごめんな。お前の記憶から俺は消えるけど……俺はお前の友達だって思ってる。本当にごめん)
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