ピエロの仮面は剥がれない

寝倉響

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Smile of sadness

無知の恐怖①

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 長丘 博史の場合。小学5年生。


 東京都内にある住宅街。その住宅街の中にある、小さな湖があるほどの広さの公園。その公園の一番の目印はてっぺんにツリーハウスがあるジャングルジムで、そのジャングルジムの近くにあるベンチに6人ほどの男子小学生が集まっていた。今日は金曜日の放課後ということもあり、背中にランドセルを背負っている子が大半を占めている。

「じゃじゃーーん!!いいだろぉこいつ!!」
 そう言うと、博史が集まっているクラスメイトにスマートフォンのある画面を見せびらかしている。博史を含めた男子小学生は、季節が夏ということもあり、みんな短髪半ズボンで動きやすい服装をしている。

「いいなぁー、それ☆5じゃんか!!めっちゃ強いやつだし」

 クラウンに大きな星のマークがついた黒いキャップを被った小学生の生徒を中心に、そこにいるクラスメイトみんなが博史のスマートフォンの画面に釘づけとなっている。

 博史のスマートフォンに写っている画面は、今話題のゲームアプリであるモンスターシューティングの所持モンスターのステータス画面だった。そこには赤いドラゴンのイラストとその上に☆☆☆☆☆とファイナルレッドドラゴンというモンスターの名前、下にはこのモンスターの能力が書かれていた。
 このゲームアプリは日本中、老若男女問わずに人気を得ていて、もちろんその人気は小学生の間でも広がっている。モンスターシューティングは略してモンシューという略称で呼ばれている。

「なんたって!!リセマラ50回ぐらいやったかんな!!」
 博史は得意げに立ち上がりスマートフォンを上へと掲げると、仁王立ちの格好になりそう言った。他の男子小学生はしゃがんでおり、博史君のことを見上げている。

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※リセマラとは……
リセットマラソンの略。何度もリセットを繰り返すこと。
アプリなどでインストールとアンインストールを繰り返して最初のガチャで強いアイテムやキャラを出してゲームを有利に進めること。
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 今や、このゲームアプリで強いキャラを持っていることは、運動が出来る生徒や明るくお調子者の生徒と同じようにクラス内でも人気者であるということと同じことだった。

「お前らもリセマラしろよ!!」
 博史君は自分のことを見上げているクラスメイトを上から見下ろしそう言った。

「だってさーめんどくさいじゃーん」

「それにこいつで充分だしさ」
 そう言うとクラスメイトの一人が同じモンシューの画面を見せてきた。

 そのモンスターのレア度は☆4。大して強くもないモンスターでこのモンシューではハズレの部類に入るものだった。

「そんな弱いモンスターじゃ、難しいクエストクリアなんか絶対出来ないぞ!!」

 モンシューは、飛び道具を持つモンスターを集めてそのモンスターを操作して敵と戦うというシューティングゲーム。そのアプリの機能にクエストやモンスター強化の他にガチャというものがあった。ゲーム内で配布やウェブマネーで購入出来る魔法石というものを5つ集めると、レアガチャが引けるというシステムになっていた。このレアガチャで出るモンスターのレア度は、☆3~☆5まである。当然一番レア度の高い☆5のモンスターの出現確率は低く、100%中の3%という確率であり、課金などが出来ない小学生にとってはこの☆5のモンスターは夢のような存在だった。

 博史はスマートフォンを片手にジャングルジムに登っていった。そして軽々と体を動かすとすぐに頂上まで辿り着いた。そのジャングルジムの頂上にはツリーハウスのような溜まり場があった。博史はその狭いツリーハウスに入るとそこから下にいるクラスメイトを見下ろした。

「今からクエストやるぞー!!見たいやつジャングルジムにこーい!!」
 博史が大きな声でそう言うと、周りにいたクラスメイトが一斉にジャングルジムを登り始めた。


「それじゃあ見てろよ」
 そう言うと博史は慣れた手つきでクエストに連れていくモンスターを設定するとクエストを始めた。もちろん連れていくモンスターは☆5のモンスター、ファイナルレッドドラゴンだった。

 周りにいるクラスメイトもそのスマートフォンの小さな画面を見よう見ようとジャングルジムの一番上のツリーハウスにいる博史君に近づいた。自分が一番近くで見よう見ようと、それぞれが狭いツリーハウスの中でも押し合いへし合いをしていた。
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