ピエロの仮面は剥がれない

Smile of sadness

I won’t betray you. ③

　事が起きたのはその後だった。

　仲村と暫く連絡が取れないまま、気づけば1ヶ月ほどの時間が経っていた。
　私は仲村の心配をしつつも、いつものように仕事を行っていた。そんなある日、仕事が終わり私の住むマンションに帰ると、自分の部屋の玄関の前でいかにもチンピラと思わしき人物が2人立っているのが見えた。その2人組は私の部屋の玄関を叩いたり、チャイムを何度も鳴らしたり、中に人がいるかドアに片耳を当てたりしていた。
その2人のチンピラは私に気づくとすぐに駆け寄ってきた。

「苅部亨ですね？仲村が行方くらましたんで、連帯保証人に貴方がお金返してくれませんか？」
　優しい口調で言った小柄な坊主の男はそう言うと、何度も折り畳まれた跡のある私がサインをした紙のコピーを突き付けてきた。私はそれを無理矢理手に取らされた。

「30日間で利子50%なんです。仲村が借りた金額は500万円なんで、250万円分の利子も追加で払って貰えますかね？」
　ニヤニヤとした顔つきでそういうのは、小柄な坊主の男とは対照的で黒髪のロン毛で背が高く体格のいい男。

　私はその言葉を聞いて慌てて手に持っていた紙のコピーを見た。確かにそこには彼らが言っていたことが書かれていた。思い返せば私はこの紙にサインした時、内容をろくに見もせずにサインをしてしまっていた。
　私は背中から大量の汗をかきながら、自分のスマートフォンを開き、仲村の電話番号に電話をした。
　しかし、聞こえてくるのは、現在この電話は使われておりません。私はなにがなんだか分からなくなっていた。頭が混乱していたのだ。
　そんな私を見て、チンピラ2人は察したのか自分の名刺を置くと帰っていった。
その後私は玄関を開け家に入ったのだが、その夜食べたご飯は食べた気がせず、まったく味がしなかった。

　次の日私は仕事が休みだったため、仲村の居場所を探さねばと思い、高校時代の友人に連絡を取ることにした。しかし元々少ない友人に加え、その友人達とはそれほど仲が良かったとも言えなかったため、仲村の居場所は分からずじまいだった。

　私は覚悟を決めて、最後の手段に出ることにした。
外出用の服に着替えて家を出た。そして事前に調べておいたその場所へと向かった。
　一見そこは東京都内とは思えないところだった。人通りがまったくない、ビルとビルの間の狭い路地の中にそれはあった。ビルに挟まれているためもちろん太陽の光は届かずに昼間だというのにとても暗かった。
そして路地を歩いていくと、右側に型番ガラスが張られたドアがあった。型番ガラスに張られた張り紙には片寄探偵事務所と書かれていた。

　私はそのドアを開いた。開くとすぐそこは事務所となっており、奥の方にここの事務所の主と思わしき人物の後姿が見える。
その男はこちらに気付き振り返った。白髪が混じった黒髪で年齢は40代頃の男性。だらしなく生えた髭と薄汚い身なりはこの部屋の主にぴったりといった感じだった。そしてその男性の他には人は見当たらない。

　私はその探偵に仲村の件を話した。
契約金は前金15万円。それに加え後金で15万円とのことだった。私は今度はその契約書をしっかり目を通しサインをした。