ピエロの仮面は剥がれない

寝倉響

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Smile of sadness

I won’t betray you. ④

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 それから幾らかの月日が経った。私の家を白髪混じりの黒髪で髭をだらしなく生やした男が訪ねてきた。それはもちろん仲村などではなかった。

「えー、今回の調査結果をお渡ししますね」
 片寄探偵事務所の片寄はそう言うと、かなりの厚さになった茶封筒を開き中身を机の上に並べた。

「というか、苅部さん大丈夫ですか……?」

 私が片寄にそう心配されるのも無理はなかった。私は日々エスカレートする金の催促と膨れ上がった借金で精神を病むほどだった。髭は生えっぱなしになり、髪も伸び、おまけに生き甲斐だった仕事へ行く気力も無くなり長期休暇を貰うほどだった。今では目の前にいる片寄と私とでは身なりや風貌にそれほど大差がなかった。

 片寄は机の上に置いた資料を一つ一つ、病人を気遣うように説明していった。
 結果分かったことは、仲村が勤めていた会社は闇金会社だと言うこと。
そこにはノルマがあり、ノルマが達成されないとその会社を運営するヤクザに何をされるのか分かったものじゃないということだった。
それに加え、仲村はその会社ではエリートで、高給を取っていた。仲村は高校や大学時代の友人に私が受けたような話を持ちかけては行方をくらまし金集めるのを繰り返しているようだった。
そのため、私が高校時代の友人に話を聞いても何の答えも無かったのだろう。

 私は絶望した。まだ心のどこかで私は仲村に騙されていない、そう思っていたからだ。唯一無二の親友だと思っていた仲村に騙されていた。その事実だけが重たく私にのしかかった。
 最後に一つ朗報だったのは仲村の居場所が分かったことだった。仲村は都内にある古ぼけたアパートにいるそうだ。

 私は片寄が帰ったあと、すぐにそのアパートへと向かった。仲村が隠れているというアパートは団地の一角にあり、建ってからかなりの年数が経過してることが目に見えて分かるほどだった。
 私は片寄から受け取った茶封筒を自分の鞄に入れ、一室一室部屋の表札を確かめながら歩いていった。やがて、107と書かれたドアの前についた。ここに仲村が隠れ住んでいる。

 私はまだ心の中に一筋の希望を抱いていた。片寄に伝えられた調査結果は何かの勘違いなのではないか、と。
 意を決してチャイムを鳴らした。しばらくするとドアが開いた。中から出てきたのは、こんなアパートに住んでいることが信じられないほど、きっちりとしたスーツに身を包んだ仲村だった。そのスーツは良く見ると私の会社の社長が愛用しているもので、一着50万円ほどもするイタリアの高級ブランドメーカーのものだった。

「苅部……」
 仲村は私の顔を見ると唖然とした表情を見せると共に諦めたようなそんな表情も顔に隠していた。

 仲村は私を家の中へとあげてくれた。ワンルームのその部屋をよく観察すると小さな冷蔵庫と小さな丸い机と座布団が3枚にゴミ箱があるだけだった。よく見ると部屋の奥の窓台には花の入っていない花瓶が置いてあった。
 ゴミ箱の中はコンビニ弁当が何個も入っており溢れそうになるほどだった。
 私は仲村に座布団を渡され、その上にあぐらをかいて座った。
私は片寄から貰ったばかりの調査報告書を仲村に見せ、問い詰めた。

「やっぱりそのことだよな……いきなり姿を消したのは悪かった……金は俺がちゃんと返すから。騙してた訳じゃないんだ」
 仲村は私に涙を見せながらそう言った。
そして両膝をボロボロの畳に着くと、誠意を込めて土下座をした。

 私は親友の言葉を信じた。私は私に対する仲村の顔しか見れていなかった。その時私は、仲村が他の友人にも私と同じようなことをしていることに目を向けずに、その事実に蓋をしたのだ。1番の親友がそんなことをする訳がないと思い込んで。

 私とは真逆で仲村はとても明るい性格だった。そのため高校時代、クラスの中心的存在でクラスの誰からも愛されるような人間だった。容姿端麗で性格もそれに相応しく明るく社交的でそれでいて頼りがいのあるリーダーっといった感じだ。1つ欠点をあげるなら頭があまり良くないという点だった。高校時代の彼の性格からは、私が片寄から聞いた情報は信じ難いもので、半信半疑で仲村の元を訪れ、仲村に話を聞くことでその誤解は私の中で完全に解かれた。
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