ピエロの仮面は剥がれない

Treasure every meeting, for it will never recur

夢の価値 ③

　紙を開いた瞬間。頭の中を何かが駆け回る感覚を感じる。そしてそれを感じた次の瞬間、頭の中に明るくカラフルで鮮明な映像が流れ出した。

【1回目】
職業:小説家
残り人生:73年
・平凡な家庭に産まれる。
・高校二年生で出版社主催の賞で新人賞を取り、小説家デビューをする。
・30代に書いた小説でミリオンセラーを達成する。この頃結婚をする。
・その後、何冊も小説を発売するが発行部数はどんどんと下へと落ちてしまう。
・しかし、小説のドラマ化や映画化などが続き、お金には困らず生活できる。



「画家じゃない……」
　私はこの挑戦で人生4年分も無駄にしてしまった。だが不思議と失った人生の重さは感じられなかった。

『申し訳ありません。こればかりは運ですから』

　私は画家を目指して、次々と紙をひいていった。


【2回目】
職業:作曲家
残り人生:69年
・音楽家の家系の次男として産まれる。
・バイオリン演奏家としてデビューをする。海外公演の際に出会ったアメリカ人の男性と結婚をする。
・日本に戻り、海外での活動を活かして作曲家デビューをする。
・作曲の才能に恵まれ以後、作曲を中心に活動をする。
・産まれた息子は歌手になり、三代続けて音楽一家となる。

【3回目】
職業:書道家
残り人生:65年
・小学校低学年の頃から書道教室に通う。
・小学生の頃から多くの賞を獲得する。
・新しい流派を作り、師範となる。そして書道教室を開き、そこの先生となる。
・パフォーマンスとして書道を行うようになる。
・世界で活躍する書道家になる。

…
…
…
…

【8回目】
職業:画家
残り人生:44
・子供の頃から毎日絵を描き続ける。
・20歳で個展を開くが注目はされない。
・後に独創的な絵で一部の層で人気になる。
・世界的な絵画賞のアンデルセン賞を獲得する。
・作品は死後に更に評価が上がり、名が世界的に有名になる。


　8回目にしてようやく画家が出た。30年以上も人生無駄にした甲斐があった。頭の中を流れた画家の人生は常に順風満帆という訳ではなかった。しかし、この人生を生きる男の代わりになる者は存在しない。唯一無二の画家だ。


『画家が出たようですね。これで宜しいですか？』

　私は今の人生を振り返った。今の人生では画家になるのは不可能に近い。怪盗ちゅー助の作者というイメージが一生ついてまわるからだ。

　私はふとゴッホのある言葉を思い出した。

　I in me order to go just as it is.(このまま行けと、僕の中の僕が命じるんだ。)

　私は決心した。



「お願いします！！」
　これでようやく夢の画家になれる。私は漫画家としてではなく、画家としてこれからの人生を歩みたい。

『目をつぶってください』

　私は静かに目を閉じた。すると体が軽くなり浮き上がる感覚を感じた。
　鮎川さん。今までいろいろありがとうございます。私はやっぱり画家の夢は諦めきれませんでした。これからは違う人生を歩みます。私の絵を気に入ってくれて本当に幸せでした。