ピエロの仮面は剥がれない

Treasure every meeting, for it will never recur

バレンタイン・カタストロフィー ⑩

　美希は耳打ちした内容を私に話し始めた。美希が私に話した内容を私が理解出来る範疇でまとめるとこうだ。

　このピエロの仮面を被った男性は死神で、美希は死使と呼ばれる死神の部下をしている。
　ピエロと死使の正体を知った者をこのまま帰してしまうと、死神法違反でピエロが上死に怒られた上に執行官に何らかの裁きを受けることになるということ。

　そしてここから重要なのが、私が選ばなければならない選択肢が二つあるということ。
　ひとつは人生を4年払う度に新しい人生を得て自分が気に入る人生が出るまでやり直す、人生リセマラというものを行うか……。
　そしてもうひとつは美希と同じくこのピエロの死神の死使となり元の人生をもう一度歩くか……。


　私は暫く無言で考え込んだ。今日のバレンタインのことで死にたいって思ったのは嘘ではなかった。彩への怒りも、ピエロと話をして少し和らいだものの彩を許せない気持ちも今は変わらない。悲しみだって簡単に消え去るものでは無かった。沖山君から言われた酷い言葉も、今も私の心に刺さったまま動くことを知らない。

　その時私のスマートフォンのトークアプリの通知音がなった。
　私はすぐにスマートフォンのホームボタンを押しアプリを開くとそのメッセージを見た。メッセージはあの彩からだった。

　彩からのメッセージは毎日のように話している私と美希と彩のグループに送られたものではなく、私と彩だけが分かる個人トークに送られたものだった。

【今日は本当にごめんなさい……。あの後ちゃんと沖山君に事情を話した。明日、改めて話したい。】

　彩からのメッセージを見た私の頭の中には、彩と美希と過ごしてきた楽しい思い出が浮かんできた。私は自分のスマートフォンを操作し、今まで撮ってきた写真が入ったギャラリーを開いた。そしてゆっくりと一枚一枚写真を見ていく。
　高校一年生の頃、初めての遠足で私達は同じグループで秩父でイチゴ狩りをした。他のクラスメイトが驚き引くくらい3人でイチゴを食べた。
　高校二年生は修学旅行があった。別のクラスになってしまいグループ行動は出来なかったが、修学旅行最終日の自由時間に私と美希と彩で沖縄の色々な場所へ行き、美味しいものもたくさん食べた。
高校三年生になったら最後の体育祭にマラソン大会、そして文化祭かま待っている。そして最後のイベントの卒業旅行が待っている。私は今の時期から3人で過ごす最後の1年を楽しみにしてた。

　もう一回彩とやり直せるのなら……もう一度この人生を歩いたっていんじゃないか……私はそう考えた。自然と涙が出てきた。その涙は私の手のひらに落ちた。凄く暖かい涙だった。

　私が考えている間もピエロと美希は私のことを邪魔しないようにしつつも、楽しそうに会話をしていた。
　ピエロと美希のようにあんな風にまた彩と話せるなら話したい。

　私の考えがまとまった。私はピエロの目をしっかりも見つめた。

「私は……死使になりたいです！！」

　すると、ピエロは一回頷くと胸ポケットから折りたたまれた和紙のような紙を一枚取り出した。
　そして、その紙を開くとシワをしっかり伸ばし私に渡した。そのあと胸ポケットに刺さっていた羽ペンも私に渡した。

「舞依ならこっちだと思ってたよ……この契約書にサインして!!」

　美希の目には涙が浮かんでいた。こんな心配させてしまったんだ。今度美希に何か甘い物でも奢ってあげよう。
　私はその契約書にしっかりと目を通すと、羽ペンを握った。