ユキバナの咲く地へ

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エピローグ

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 ニール公が死んだと聞き、デオフィロは傭兵団を引き上げる準備を始めた。
 しかし、突如籠城していたオークが攻めてきた。
 最前線に陣を敷いていたイグニス傭兵団はこれを迎え撃つしかなかった。
 デオフィロは前線で指揮をとった。
 大勢のオークを殺し、亜人軍団を押し返していった。
 イグニス傭兵団は強い。
 しかし、一人の魔術師が現れた事で戦況は一変した。
 魔術師の放った魔法が多くの傭兵を殺した。
 その戦死者の一人に、デオフィロもいた。
 イグニス傭兵団はその日壊滅した。


 シアとベリドはその戦いに参加していなかった。
 数日後、二人は戦場の跡地にやってきた。
 死体は全て戦場から消えていた。
 オークが食料にしたのだと兵士は噂していた。

「親父……」

 シアの瞳から涙が流れた。
 傭兵として働く以上、いつこうなるかは分からなかった。
 そのせいか、オークの集団はシアの復讐の対象にはならなかった。
 怒りも沸かない。喪失感だけがあった。

「どうします?」

 と、ベリドは聞いた。

「この国から離れる」

 シアは静かに答えた。
 ベリドは全身に包帯を巻いた状態だった。自分の肌が見えないようにしている。
 この姿では、もう王国では暮らせないだろうと諦めていた。
 ベリドはデオフィロの血を引くシアの気性が好きだった。団長と似て熱情的で意思が強く、行動力がある。魅力があると言い換えてもいい。シアに付いて行くと決めていた。

「俺もいいですか?」

 あくまでも配下として。

「あたしに付いてくるのか?」
「ええ。お嬢がいいなら」
「好きにしなよ」

 二人は戦地を跡にした。



 エルザとゾルはレイの案内で乗合馬車に乗り、イルフから港町ゴルウェーにやってきた。
 ここから船で帝国に渡る。
 思えば、長い道のりだった。
 デオフィロがエルザへの捕獲命令を取り消していた事を港町で二人は知った。
 エルザをつけてきた男の一人を捕まえて、吐かせたのだ。

 港でのエルザとゾルの身分の確認はすぐに済んだ。
 レイが司祭であり、元冒険者の最上位ランクだったからだ。レイの仲間だと船主に説明すると、問題なく乗船の許可は下りた。

 子供の頃からエルザはずっと王国で暮らしてきた。しかしこの地を去る事に対する感慨はまったくなかった。どうしてもっと早く王国を出なかったのかと、逆に不思議な気持ちだった。
 出航の時間が来ると、三人は乗船した。

「すぐに帝国領だ。河を渡るだけだからな」

 と、甲板で河を眺めていたエルザにゾルは声を掛ける。
 エルザは無言でゾルの言葉を聞き過ごした。

「帝国で何をしたい?」
「気持ちの良いベッドで寝たい。それから甘いものを食べる」
「そうだな。俺も同じ気持ちだ」

 船の甲板で話していると、後ろからレイがやってきた。

「私も帝国に戻るのは二年ぶりだ」
「レイ様」
「君たちは、目的があって旅をするんだったな」
「はい」
「まずは情報を集めるといい。私も協力する」
「ありがとうございます」
「それに、装備ももう少し整えた方がよさそうだな」
「はい。まずは、色々と準備します」
「うん」
「……あの、ところで、レイ様。もしかして、デバルク森林での会話を聞かれていたのですか?」
「ああ」
「……」
「……」
「レイ様、できればこれからは盗み聞きは止めてほしいのですが……」
「皆、聞かれたくなければマジックアイテムで身を守るのだよ」
「……」

 たしかに、気を付けた方がよさそうだ。レイがつけてきている事に、エルザは全く気が付かなかった。恐らく、ゾルも同じ気持ちだろう。ゾルにしては珍しく、情けないような、不甲斐ないように見える表情を浮かべていた。
 それはさておき、レイは一体何歳なんだろうか。そんな疑問がエルザに湧く。ゾルより歳上だと思うが、見た目からは予想できない。……が、なんとなく、本人に聞くのはやめておいた。
 船が対岸の町に着いた。

「サザンドキア帝国だ」

 と、レイが言う。わずか数十分の船の旅。
 こんなに近いのに、来るまでに時間が掛かった。

「とりあえず、町中での規則は王国と変わらない。腹が立っても殺しは駄目だ」

 と、ゾルが言った。

「分かってる」

 エルザは渋い表情でゾルを見る。
 三人は船を降り、町を歩き出した。
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