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終章
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そんな日々が三ヶ月程続き、四月になった。
冬が終わり、風が暖かくなった。
エルザはメザイアの家で魔女姉妹と話していた。
居間の作業台に腰かけて、エルザは薬草茶の入ったティーカップを置いた。
「私は悪魔を滅ぼすつもりだ。連中の住処である地獄ごとな」
「それは難しいと思うわ。定命の存在では、悪魔と対等に戦うのも難しいもの」
「姉様の言うとおりだ。やめとけ」
と、エメルも相づちを打つ。
エルザがこんな突拍子もないことを言うのは、理由がないわけではなかった。
あれからディエロ司祭には二百回近くコミューンの魔法を使ってもらっている。
それで、故郷についてだいぶ分かってきた。
コミューンの魔法を使えば、知りたいことを術者の崇める神格に質問することができる。
エルザの故郷のようにほとんど手掛かりがない事についてでも正確な答えが返ってくるため、物や人探しなどに役立つ。
もしかしたら麝教に関する情報を集めていたのもディエロ司祭かもしれない。ゼスがアンデッドであることや、シベール半島の墳墓にいることは神殿の方で調べがついていた。
ただ、制限時間は一分、質問は最大三回。質問できる内容も神格が一言で返せるものに限る。
また、神格が質問に答えられない事もある。
エルザの故郷に関する内容には悪魔が関わっているため、質問の答えが返ってこないことも多いようだ。
コミューンの魔法で少しずつ集めた情報をディエロ司祭からまとめて教えてもらっていた。
まず、エルザの故郷はウィンターランドという北の大陸にある。ウィンターランドは万年雪に覆われた極寒の地であり、冒険者でも滅多に立ち入らない、ほとんどどんな場所か調査されていない大陸だ。
ウィンターランドに故郷があることはそれほど驚きはしなかった。
エルザが寒い地域の種族だろうということは、彼女の能力から予想がついていたからだ。
ただ、エルキア王国の孤児院に捨てられた理由が、エルザの気持ちを揺さぶっていた。
ウィンターランドのどこかに、エルザの母国に繋がる入り口があるそうだ。その国ではエルザと同じような種族が暮らしていたのだという。
だが、エルザが生まれてまもなく、その国は滅ぼされた。
侵略してきたものは、悪魔の軍勢だそうだ。
恐らくそのときに、赤子だったエルザは誰かに転移魔法かアイテムなどを使用されて都から脱出している。
大勢の民が殺戮され、今でもその国の都は悪魔に支配されているのだという。
侵略してきた軍勢の首領は、魔王子バラドナ、という名らしい。部下の666を引き連れ、エルザの故郷を攻めた。
ただ、少し不可解でもあった。
悪魔とはあまりこうした侵略を行わず、裏から人を支配しようとする。
そして人を堕落させたり、契約を結ばせることで人の魂を縛りつけ、手に入れる。
この、魂、というものは、地獄を維持するための燃料になるそうだ。古代魔法にも人の魂を使っているようなので、悪魔にとってなくてはならないものなんだろう。
悪魔がエルザの故郷を侵略した理由は分からない。
エルザの種族の生き残りはまだウィンターランドにいる。
エルザの父もまだ生きているようだ。
「故郷を取り戻すためには悪魔と戦う必要がある。それにお母さんを救わないといけない」
「そうね……」
かなり厄介な事実がもう一つある。
エルザの母親が生きたまま地獄に囚われているようなのだ。
地獄。
他次元界の一つだ。
悪魔と契約したり、生前悪行を働いた者が、死後魂の状態になってこの世界に行く。
そこは苦しみに満ちた世界で、罪人に罰を与えるためだけに存在しているのだそうだ。
母を救うためには、地獄に行かなくてはいけない。
生身の状態でだ。
魔法の中にはエーテル化して他次元界に渡るものがあるようだが、それでは母を救えない。肉体を持った状態で地獄に行き、地獄のどこかにいる母を助けてまた戻って来なければならない。
「勝算がないわけじゃない」
「エルザが新しく覚えた魔法のことね」
古代魔法、エーリア・グローリスを第四の眼を触媒にして放てば、悪魔を消滅させることができる。魔王子に効くかはやってみないと分からないが。
ロシニルの話では、エーリア・グローリスの属性は、無、であり、魔法抵抗の高い悪魔でも防御は不可能だそうだ。
悪魔を弱体化させる付随効果もあるというから、奴らに対抗する切り札になり得る。
ただ、エルザはもう少し違う戦い方を考えていた。
「いや、あの魔法だけでは足りない。私が考えているのはゾルの力のことだ」
「闘神憑依に期待しているの?」
「そう」
「たしかにあの技は強力だけれど……使用時間が短く精神のコントロールが難しいから、対悪魔の切り札になる程ではない気がするわ」
「あの技はまだ伸びしろがある。ゾルが本気を出せれば、地獄だろうがなんだろうが滅ぼせないものはないと私は思っている」
「でも、ゾルはあの技を使いこなせるかしら?」
「私に考えがある」
「……ちょっと気になるわ」
「これはゾルに黙って行わないと失敗する。エメルも力を貸せ」
「話を聞いてからな」
と、ドアを開けて赤い髪の少女が入ってきた。
シアである。
「よお!」
「大事な話の最中だぞ!」
「なんだよ、お前もいたのかよ。いや、ちょうどいいか、あたしの新技を――」
「ゾルの話をしているところだ」
「ゾル?」
「お前も来い。一応教えておいてやる。ただし、口外しないと約束しろ」
「んん? 約束? なんだかやけにみんな真面目な顔だな。どうしたんだ?」
と、シアは困惑気味だ。
エルザは皆に自分の考えを話し始めた。
どうすればゾルの精神に衝撃を与え、エンキの能力を最大まで発揮させることができるのか。
「順を追って話す」
まず最初にすべきことは、ウィンターランドへ行き故郷と生き残った人々を見つけることだ。
次に、悪魔に支配された都市を奪還する。
エルザはこの時点ではまだ全力のエーリア・グローリスもゾルの力も使うつもりはなかった。
代わりに、あのアイテムを使うことを考えている。
「都市を支配している悪魔の領袖バラドナにメザイアの作った惚れ薬を飲ませる。私の操り人形にしてしまえば、故郷の奪還は成功したも同然だし、そいつに地獄の道案内をさせればアナザデウスの居場所まで行くことができるはずだ」
「なるほど……試してみる価値はあるかもしれないわね」
「そして温存しておいた第四の眼の魔力を使い、アナザデウスの面前で古代魔法を全力で放つ」
「でも効くかしら。相手はあの大悪魔だし……」
「私も一撃で倒せるとは思っていない。それに全力のエーリア・グローリスには欠点がある」
「欠点?」
「私の肉体が、魔法の威力に耐えられない」
「つまり、使ったら死ぬと」
「そう」
「だからオレの協力が必要なのか?」
と、エメル。
「そうだ。お前があとで生き返してくれ」
エメルは第五位階魔法、リインカーネイトを使える。
この魔法は高位のドルイドが覚えることのできるもので、肉体を作り上げて、その肉体に死者を転生させることができる。
魔法の行使には、死者の肉体の一部があればいい。
クレリックの使うレイズ・デッドも死者を蘇生できるが、肉体が消滅していては魔法は働かない。
エメルがリインカーネイトを使えることは周りに秘密にしているため、知っているのはエルザと今聞いたシアだけだ。
ちなみに、シアは半年の間に色々あり魔女姉妹と仲良くなっている。エルザとも以前ほど険悪な状態ではなくなっていた。
冒険の間に度々出くわすことがあり、協力してダンジョンを攻略したこともあった。
「一つ問題があるわ。地獄で命を落としたら、肝心のエルザの魂を呼び戻せないかもしれない。恐らく、あなたの魂は地獄に囚われてしまうわ」
「アナザデウスを消滅させれば、その問題は解決する」
地獄を創り出したのはアナザデウスだ、と言われている。
地獄の全てを管理している存在でもある。
この大悪魔を消滅させれば、エルザの魂は無事に戻ってこられるはずだ。
「私がアナザデウスにダメージを与え弱体化させれば、あとの始末はゾルがしてくれる」
「お前……マジでそんなこと言ってんの? ゾルでも無理だろ」
シアが呆れたように言った。
「ゾルならできる。ゾルの力は、絶望、によって本当の力が発揮される。今は絶望に近い精神状態になっているだけだ。ショックを与えればエンキの能力を全て解放できる」
「じゃあ、ゾルにはあなたを生き返らせる準備が整っていることを黙っていないといけないのね」
「そうだ」
「お前が死んだくらいで、あいつ絶望するか?」
と、エメルが懐疑的な目を向けてくる。
「する」
「んー、なぁ、わざわざそんな手を使うのか? ひどくねえ? ゾルが可哀想だろ」
「私はこの作戦のために、あらゆる手を使うつもりだ。故郷と母を取り戻し、私が捨てられる原因を作った悪魔に私の怒りを思い知らせる」
「お前がそのために頑張ってきたのは知ってるけど……でもアナザデウスって倒せる相手なのかよ?」
「ちょっと難しい……と言うか無理ね。多分、もし倒せたとしても時間が経てば復活するんじゃないかしら……」
「意味ないじゃん。無駄死にすんぞ。やめとけ。あと、ゾルを巻き込むな」
「やめない」
「何もかも失っちまうぜ? お前、皇帝にも認められたんだろ。死んだらもったいねぇぞ」
「私は絶対に悪魔共を許さない」
「駄目だこいつ」
と、シアは首を振った。
こんな無茶苦茶なことを言うエルザだが、物事の優先順位はつけていた。
まずは故郷と同胞を見つけ、母を助ける。
バラドナに惚れ薬が効かなければ、エルザは全力のエーリア・グローリスをこの悪魔に使うつもりでいる。
母は絶対に助けなければならない。
だがもし自分の思惑どおりに事が運ぶようなら、操ったバラドナに案内させて地獄の支配者アナザデウスの下まで行くつもりだ。
自分の怒りを思い知らせるために。
エルザの持っている第四の眼に魔力を補充するのにまだ時間が必要だった。
満タンまで溜めるまであと二、三ヶ月程かかると思われた。
ウィンターランドに行くのであればもう少し暖かくなってからの方がいい、という理由もありエルザは夏まで出発を待つことにした。
ディエロ司祭にはまだ村に残ってもらっている。
できる限り、故郷の様子や、悪魔の軍勢のことを調べてもらうつもりでいた。
冬が終わり、風が暖かくなった。
エルザはメザイアの家で魔女姉妹と話していた。
居間の作業台に腰かけて、エルザは薬草茶の入ったティーカップを置いた。
「私は悪魔を滅ぼすつもりだ。連中の住処である地獄ごとな」
「それは難しいと思うわ。定命の存在では、悪魔と対等に戦うのも難しいもの」
「姉様の言うとおりだ。やめとけ」
と、エメルも相づちを打つ。
エルザがこんな突拍子もないことを言うのは、理由がないわけではなかった。
あれからディエロ司祭には二百回近くコミューンの魔法を使ってもらっている。
それで、故郷についてだいぶ分かってきた。
コミューンの魔法を使えば、知りたいことを術者の崇める神格に質問することができる。
エルザの故郷のようにほとんど手掛かりがない事についてでも正確な答えが返ってくるため、物や人探しなどに役立つ。
もしかしたら麝教に関する情報を集めていたのもディエロ司祭かもしれない。ゼスがアンデッドであることや、シベール半島の墳墓にいることは神殿の方で調べがついていた。
ただ、制限時間は一分、質問は最大三回。質問できる内容も神格が一言で返せるものに限る。
また、神格が質問に答えられない事もある。
エルザの故郷に関する内容には悪魔が関わっているため、質問の答えが返ってこないことも多いようだ。
コミューンの魔法で少しずつ集めた情報をディエロ司祭からまとめて教えてもらっていた。
まず、エルザの故郷はウィンターランドという北の大陸にある。ウィンターランドは万年雪に覆われた極寒の地であり、冒険者でも滅多に立ち入らない、ほとんどどんな場所か調査されていない大陸だ。
ウィンターランドに故郷があることはそれほど驚きはしなかった。
エルザが寒い地域の種族だろうということは、彼女の能力から予想がついていたからだ。
ただ、エルキア王国の孤児院に捨てられた理由が、エルザの気持ちを揺さぶっていた。
ウィンターランドのどこかに、エルザの母国に繋がる入り口があるそうだ。その国ではエルザと同じような種族が暮らしていたのだという。
だが、エルザが生まれてまもなく、その国は滅ぼされた。
侵略してきたものは、悪魔の軍勢だそうだ。
恐らくそのときに、赤子だったエルザは誰かに転移魔法かアイテムなどを使用されて都から脱出している。
大勢の民が殺戮され、今でもその国の都は悪魔に支配されているのだという。
侵略してきた軍勢の首領は、魔王子バラドナ、という名らしい。部下の666を引き連れ、エルザの故郷を攻めた。
ただ、少し不可解でもあった。
悪魔とはあまりこうした侵略を行わず、裏から人を支配しようとする。
そして人を堕落させたり、契約を結ばせることで人の魂を縛りつけ、手に入れる。
この、魂、というものは、地獄を維持するための燃料になるそうだ。古代魔法にも人の魂を使っているようなので、悪魔にとってなくてはならないものなんだろう。
悪魔がエルザの故郷を侵略した理由は分からない。
エルザの種族の生き残りはまだウィンターランドにいる。
エルザの父もまだ生きているようだ。
「故郷を取り戻すためには悪魔と戦う必要がある。それにお母さんを救わないといけない」
「そうね……」
かなり厄介な事実がもう一つある。
エルザの母親が生きたまま地獄に囚われているようなのだ。
地獄。
他次元界の一つだ。
悪魔と契約したり、生前悪行を働いた者が、死後魂の状態になってこの世界に行く。
そこは苦しみに満ちた世界で、罪人に罰を与えるためだけに存在しているのだそうだ。
母を救うためには、地獄に行かなくてはいけない。
生身の状態でだ。
魔法の中にはエーテル化して他次元界に渡るものがあるようだが、それでは母を救えない。肉体を持った状態で地獄に行き、地獄のどこかにいる母を助けてまた戻って来なければならない。
「勝算がないわけじゃない」
「エルザが新しく覚えた魔法のことね」
古代魔法、エーリア・グローリスを第四の眼を触媒にして放てば、悪魔を消滅させることができる。魔王子に効くかはやってみないと分からないが。
ロシニルの話では、エーリア・グローリスの属性は、無、であり、魔法抵抗の高い悪魔でも防御は不可能だそうだ。
悪魔を弱体化させる付随効果もあるというから、奴らに対抗する切り札になり得る。
ただ、エルザはもう少し違う戦い方を考えていた。
「いや、あの魔法だけでは足りない。私が考えているのはゾルの力のことだ」
「闘神憑依に期待しているの?」
「そう」
「たしかにあの技は強力だけれど……使用時間が短く精神のコントロールが難しいから、対悪魔の切り札になる程ではない気がするわ」
「あの技はまだ伸びしろがある。ゾルが本気を出せれば、地獄だろうがなんだろうが滅ぼせないものはないと私は思っている」
「でも、ゾルはあの技を使いこなせるかしら?」
「私に考えがある」
「……ちょっと気になるわ」
「これはゾルに黙って行わないと失敗する。エメルも力を貸せ」
「話を聞いてからな」
と、ドアを開けて赤い髪の少女が入ってきた。
シアである。
「よお!」
「大事な話の最中だぞ!」
「なんだよ、お前もいたのかよ。いや、ちょうどいいか、あたしの新技を――」
「ゾルの話をしているところだ」
「ゾル?」
「お前も来い。一応教えておいてやる。ただし、口外しないと約束しろ」
「んん? 約束? なんだかやけにみんな真面目な顔だな。どうしたんだ?」
と、シアは困惑気味だ。
エルザは皆に自分の考えを話し始めた。
どうすればゾルの精神に衝撃を与え、エンキの能力を最大まで発揮させることができるのか。
「順を追って話す」
まず最初にすべきことは、ウィンターランドへ行き故郷と生き残った人々を見つけることだ。
次に、悪魔に支配された都市を奪還する。
エルザはこの時点ではまだ全力のエーリア・グローリスもゾルの力も使うつもりはなかった。
代わりに、あのアイテムを使うことを考えている。
「都市を支配している悪魔の領袖バラドナにメザイアの作った惚れ薬を飲ませる。私の操り人形にしてしまえば、故郷の奪還は成功したも同然だし、そいつに地獄の道案内をさせればアナザデウスの居場所まで行くことができるはずだ」
「なるほど……試してみる価値はあるかもしれないわね」
「そして温存しておいた第四の眼の魔力を使い、アナザデウスの面前で古代魔法を全力で放つ」
「でも効くかしら。相手はあの大悪魔だし……」
「私も一撃で倒せるとは思っていない。それに全力のエーリア・グローリスには欠点がある」
「欠点?」
「私の肉体が、魔法の威力に耐えられない」
「つまり、使ったら死ぬと」
「そう」
「だからオレの協力が必要なのか?」
と、エメル。
「そうだ。お前があとで生き返してくれ」
エメルは第五位階魔法、リインカーネイトを使える。
この魔法は高位のドルイドが覚えることのできるもので、肉体を作り上げて、その肉体に死者を転生させることができる。
魔法の行使には、死者の肉体の一部があればいい。
クレリックの使うレイズ・デッドも死者を蘇生できるが、肉体が消滅していては魔法は働かない。
エメルがリインカーネイトを使えることは周りに秘密にしているため、知っているのはエルザと今聞いたシアだけだ。
ちなみに、シアは半年の間に色々あり魔女姉妹と仲良くなっている。エルザとも以前ほど険悪な状態ではなくなっていた。
冒険の間に度々出くわすことがあり、協力してダンジョンを攻略したこともあった。
「一つ問題があるわ。地獄で命を落としたら、肝心のエルザの魂を呼び戻せないかもしれない。恐らく、あなたの魂は地獄に囚われてしまうわ」
「アナザデウスを消滅させれば、その問題は解決する」
地獄を創り出したのはアナザデウスだ、と言われている。
地獄の全てを管理している存在でもある。
この大悪魔を消滅させれば、エルザの魂は無事に戻ってこられるはずだ。
「私がアナザデウスにダメージを与え弱体化させれば、あとの始末はゾルがしてくれる」
「お前……マジでそんなこと言ってんの? ゾルでも無理だろ」
シアが呆れたように言った。
「ゾルならできる。ゾルの力は、絶望、によって本当の力が発揮される。今は絶望に近い精神状態になっているだけだ。ショックを与えればエンキの能力を全て解放できる」
「じゃあ、ゾルにはあなたを生き返らせる準備が整っていることを黙っていないといけないのね」
「そうだ」
「お前が死んだくらいで、あいつ絶望するか?」
と、エメルが懐疑的な目を向けてくる。
「する」
「んー、なぁ、わざわざそんな手を使うのか? ひどくねえ? ゾルが可哀想だろ」
「私はこの作戦のために、あらゆる手を使うつもりだ。故郷と母を取り戻し、私が捨てられる原因を作った悪魔に私の怒りを思い知らせる」
「お前がそのために頑張ってきたのは知ってるけど……でもアナザデウスって倒せる相手なのかよ?」
「ちょっと難しい……と言うか無理ね。多分、もし倒せたとしても時間が経てば復活するんじゃないかしら……」
「意味ないじゃん。無駄死にすんぞ。やめとけ。あと、ゾルを巻き込むな」
「やめない」
「何もかも失っちまうぜ? お前、皇帝にも認められたんだろ。死んだらもったいねぇぞ」
「私は絶対に悪魔共を許さない」
「駄目だこいつ」
と、シアは首を振った。
こんな無茶苦茶なことを言うエルザだが、物事の優先順位はつけていた。
まずは故郷と同胞を見つけ、母を助ける。
バラドナに惚れ薬が効かなければ、エルザは全力のエーリア・グローリスをこの悪魔に使うつもりでいる。
母は絶対に助けなければならない。
だがもし自分の思惑どおりに事が運ぶようなら、操ったバラドナに案内させて地獄の支配者アナザデウスの下まで行くつもりだ。
自分の怒りを思い知らせるために。
エルザの持っている第四の眼に魔力を補充するのにまだ時間が必要だった。
満タンまで溜めるまであと二、三ヶ月程かかると思われた。
ウィンターランドに行くのであればもう少し暖かくなってからの方がいい、という理由もありエルザは夏まで出発を待つことにした。
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できる限り、故郷の様子や、悪魔の軍勢のことを調べてもらうつもりでいた。
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