ユキバナの咲く地へ

uncommon

文字の大きさ
32 / 57
終章

しおりを挟む
「この威力なら、アナザデウスに通じるか?」

「……驚いたな。これなら通じるかもしれねぇ」

 この威力は、ロシニル卿も予想していなかったようだ。

「まだ第四の眼の魔力を三分の一程しか使っていない。一気に全解放すれば、これより強い威力を出せる」

 レイが言った。

「この威力の魔法は、もはや戦術級と言えるだろう。それにしても、エルザと第四の眼は相性がいいみたいだね。私も驚いたよ」

「戦術級ってなんだ?」

「レガシー級から中級アーティファクトまでをそう呼んだりする。ちなみに上級以上のアーティファクトは戦略級と呼ぶよ」

「へぇ」

「未熟な使い手じゃ事故起こすんじゃねえか?」

 と、バードのサイシュが腕を組んで言った。

「私は未熟じゃない」

 と、エルザは短く言葉を返す。
 ロシニルがエルザに言った。

「ひとまずお前さん、その魔法のことは誰にも言うな。お前らも口外禁止だ。分かったな」

「「はーい」」

「悪魔に知られたら、お前さんの命が狙われるかもしれないからな」

「メザイアとエメルには話しておきたい。私の力になってくれる」

「じゃあ、今はその二人だけにしておきな」

 エルザは頷く。

「ゾル、私はしばらくここで訓練する。ロシニル卿に指導をお願いしたい」

「構わねぇよ」

 ゾルは頷く。

「分かった」

 レイが言った。

「ゾルの新技も見てみたいんだけど」

「分かりました。レイ様」

「サイシュ、相手をしてみてくれない?」

「おお、いいぜ」

「バードなんかが相手になるのか?」

 と、エルザが辛辣な台詞を吐いた。

「バードを舐めるんじゃねぇぞ、コラ! どんだけ強いか見せてやるよ!」

 サイシュを怒らせてしまったようだ。

 闘神憑依は闘神解放の一段上の技だ。使用時間は闘神解放と合わせて五分である。

「闘神憑依」

 ゾルがこの技を使えるようになったのは、エルザのアドバイスを受けて訓練したからだった。気持ちのコントロールが重要で、できる限り心を沈める必要がある。

 気持ちのコントロールは、ソーサラーは非常に巧みだ。
 エルザもこう見えて上手い。
 心の持ちようを変えると、戦闘の方法も変わる。
 いつもは後手から戦うことを好むゾルだが、この技を使用している時は自ら積極的に攻撃を行う。

 この技はゾルの絶望が引き金になり発現した。
 技を使うには気持ちをコントロールして、擬似的に絶望状態を再現しなくてはいけない。

 深く暗い精神の檻に自分を閉じ込めるイメージ。
 その心境にハマった時、ゾルは他の一切を忘れる。

 どんなに優れた戦士でも攻撃を受ければ体が自然と防御するために動く。
 危険が迫れば、反射的に体が逃げようとする。
 だが絶望の状態に陥った時、そうした防御反応は働かなくなる。
 それは頭の中に一切の邪念も雑念もない、無、に近い状態と言える。

 もちろんエンキから与えられた力であるため特殊能力が付与される。

 ヘイスト効果と筋力、耐久力、俊敏力の大幅な向上の他に、飛行能力、魔法消去、魔法除去、全ての魔法属性やブレス、毒への完全耐性、通常武器でのダメージ無効、超視覚などだ。

 ほぼ無敵状態と言える。
 ただ精神のコントロールに失敗すると、闘神憑依から闘神解放へと技が切り替わってしまう。

「……俺の知ってるウォーロックとちげぇな。バトル・ミュージック!」

 サイシュが楽器を弾く。
 バードの奏でる音は色々な効果を発揮する。楽器の音が、増幅されて広い範囲に響き渡る。
 サイシュは自身の能力を上げたようだった。

「行くぞ、オラァ!」

 と、サイシュは魔法剣を抜き斬りかかる。
 だが目にも留まらぬ速さでゾルはサイシュの背後に回り、鞘に納めたままのロングソードで胴をなぎ払った。
 サイシュは宙を舞い、湖に落下。水しぶきを上げた。
 ゾルは闘神憑依を解く。
 湖から戻ってくるサイシュにゾルは頭を下げた。

「すみません、この状態だと手加減ができないんです」

 彼は先輩だ。年齢もゾルより年上だ。三十後半くらいだろうか。稽古のようなものとはいえ謝っておいた方がいい。

「あー、そうかよ。まぁ、実力を見るのが目的だからな。気にすんな」

 サイシュのテンションは低い。
 ずぶ濡れだから、それも仕方ないが。

「ゾルもだいぶ腕を上げたね」

 と、レイ。

「いえ、まだまだです。ただエンキの石碑を数カ所見つけられましたので、半年前に比べると能力値が上がっていると思います」

「実際に見てはっきり分かったよ。半年でオリハルコンランクに昇格できた理由が」

 ゾルは頭を搔く。

「俺たちも納得した」

 と、サイオニックのモースが言った。

「古代魔法の使い手と古代神の契約者のコンビとは」

 と、ローグのヘルム。

「頼もしい奴等だぜ」

 と、サイシュ。くしゃみをしていた。


 エルザとゾルはロシニルの指導の下訓練を続けた。
 色々な知識を授かり、古代魔法についての理解を深めた。


 たまにシガル村に帰り、ディエロ司祭にコミューンで分かったことなどを聞いた。
 ガーネット宮殿にも赴き、皇帝に現状の報告や時勢についての話を聞いた。
 

 気になっていたエルキア王についても皇帝から聞くことができた。

 エルキア王は王弟であるニール公の死に、一時は深い悲しみに沈んでいたという。
 だが悪魔のロッドにまで手を出し戦争を終わらせようとした公の意思を無駄にしないために、王は自ら動き出した。

 エルキア王は王太子に王位を譲位し、政務を引き継がせた。
 その後一部の家臣を率いてデバルク森林に踏み込んだそうだ。

 デバルク森林とその中央に聳えるティアード山脈には古い遺跡が手つかずで残されている。
 この遺跡を探索しアーティファクトを手に入れることがエルキア王の目的である。
 この遺跡探索には神殿も協力しているため、ニール公のような事態にはならないだろうと皇帝は話していた。

 エルキア王、今は前王と呼ぶべきだが、彼はニール公を救えなかった自身に責任を感じている。
 重い腰を上げ、自分が陣頭に立つことで遺跡の探索を終わらせようとしていた。

 あえて息子に譲位したのは死ぬ覚悟があるからだろう。だがアーティファクトなどの強力なアイテムを見つけられれば、裏に悪魔がいたとしてもこの戦争を終結させることができると考えているようだ。

 ちなみに、エルザがニール公を殺害した件は、神殿の巧みな駆け引きと説得により、罪を問われずに済んだという。

 悪いのはニール公だろ。
 と、エルザは思う。
 ニール公が麝教と繋がっていた話なども、民衆には隠しておくみたいだし。
 おかしいだろ。
 それは善と言えるのか?
 教皇は「この件は五十年後に公表します」と話しているそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...