ユキバナの咲く地へ

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終章

12

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 翌日になり、一行は再び街道へ。
 ウェスト・シーに近い街道を通る。
 海が見え、景色が良い。
 都市同盟はもうすぐだ。

 海岸沿いでは海賊の被害が多いという。
 海賊はサウス・シーの諸島を基地にしており、摘発しようにも逃げ足が速い。
 陸からは、野盗や亜人が襲ってくることもある。
 これが、都市同盟の悩みだ。
 
 都市同盟の君主は貴族議会で選ばれる。
 現在の君主はラフェン公爵という名らしい。
 この人は関わりがないため、会う予定はない。

 エルザは領の境で、護衛の騎士に帰るよう命じた。
 この先、姫殿下に護衛もつけず旅をさせては、と食い下がった騎士たちだったが、レイの説得で城に引き返した。
 エルザは村に帰還するための巻物を持っているし、何か問題が起きたら自分がセンディングの魔法で連絡する、と。

 エルザが騎士たちを帰したのは、都市内で身分を伏せておきたかったからだ。
 護衛がいては目立ってしまう。
 初めて訪れる都市だ。一介の冒険者として振る舞った方が、その都市の良さも悪さも見えるはずだとエルザは思う。

 都市アズル。
 市街は冒険者が多い。
 治安は保たれているように見える。露天商たちにも活気があった。

「悪くない都市だ」

「都市同盟にも裏の顔がある。こう見えてスリ、強盗、暴力沙汰なども多い」

「危ない町なのか?」

「表通りは大丈夫」

「裏通りが危ない?」

「うん。ただオリハルコンクラスともなれば、裏通りに入っても危険な目に遭うことはないだろう。若者、つまり新人冒険者や新米の商人が狙われるんだ。そうした右も左も分からない者を騙したり、悪の道へ勧誘する輩が大勢いる」

 この辺は、海賊や野盗も多い。
 小悪党がやりそうなことだとエルザは思う。
 なんでも、口八丁手八丁で証文にサインさせて、悪事から身を引けなくする手を使ったりするらしい。
 詐欺のテクニックを持った悪人が大勢いるようだ。

「まぁ、バロニアは税や物の値段が高いし、王国と公国は亜人と戦争中。帝国や聖王国はあんまり入れるダンジョンがない。となると、ここら辺で仕事を探そうとなるのかもな」

「うん。それに都市同盟の貴族や豪商には一代で成功した者が多い。皆、夢を追ってここに来るんだろう」

「それで騙される奴も出てくるのか。自分の身は自分で守るのが冒険者の基本みたいなものだけど」

「冒険者ギルドや商人ギルドに加入すればそれなりに信頼できる情報が手に入るし、神殿や警吏がちゃんと説明や指導をしているみたいなんだけど」

 クレリックの魔法の中には、ゾーン・オヴ・トゥルースのように嘘に対抗する魔法もあるし、他にも欺されないための防衛術はあったりする。
 でもそれは、金があり、技術を身につけた経験者が使える手段だ。
 新人冒険者の冒険はまずは騙されないことから始まるのかもしれない。
 それで生き抜けた者だけが成功する。
 そういうことなんだろうか。
 ただ。

「町から詐欺師や悪党は消えることはないんだろうな。気に食わないことだけど」

「色々な人たちが集い去っていく都市だから、摘発してもまた外からやってくる。警吏は常に人手が足りないそうだ」

「これも悪魔の仕業なのか?」

「いや、海賊や町の詐欺師などは今のところ関係ないと思う」

 デヴィル・クロウのメルが飛んで来て、窓を嘴で叩いた。エルザは窓を開けてやる。
 車内に入ると、メルはエルザの腕に止まった。

『ゴキゲンヨウ』

「どうした、メル?」

『オトコ ミチ タタク コドモ』

 パタ、っと倒れる仕草をするメル。

「オトコ、ミチ、タタク、コドモ。なんのことだ?」

「もしかして、道端で子供が何かされているんじゃないのか?」

 とゾルが言い、メルはゾルの方を向いて首を上下に振った。

「レイ司祭、ちょっと行ってみる」

「ああ、私も行こう」

 御者には先に宿に向かうよう伝えた。
 三人はメルの案内で、街路裏に走った。




「あいつら、何をしてるんだ……」

 エルザの顔が怒りに歪む。
 裏路地で、男の子が倒れている。
 子供は五人の男たちに囲まれていた。
 男の一人が子供に蹴りを入れた。
 
「アイス・バーン!」

 エルザは魔法で路面を凍結させた。氷の膜は滑りやすくなっており、男たちは全員体勢を崩して地面に転がった。

「な、なんだ!?」

 困惑する男に走り込み、エルザは顔面に蹴りを食らわせた。
 男はのけぞり、ひっくり返る。完全に今の一撃で伸びていた。

「全員動くな」

 と、エルザはオリハルコンのプレートを見せ、警告する。

「オ、オリハルコン……」

 その呟き声を無視して、エルザは蹴られていた男の子に言った。

「お前、なんで殴られてた?」

「おれの姉ちゃんが、こいつらに連れて行かれて。訴えても駄目で。だから、直接返してくれって言いに行ったんだけど、無駄だから帰れって」

「大体話は分かった」

 どうせ、小悪党が詐欺を働いてこの子の姉を攫ったんだろう。姉を娼館に売るとか、そんな話に違いない。

「おい」

 と、エルザは倒れている男たちに言った。

「はい?」

「お前等のボスの所に案内しろ」

 男は不服そうにエルザに言った。

「オリハルコン冒険者かなんだか知りませんがね、ちょっと横暴じゃありませんか? 俺たちはこの子供がしつこいから追い返そうとしていただけですよ。その姉の話も、誤解がありますしね。同意はあるんですよ」

「ごちゃごちゃ抜かすな」

「あのね、こちらには何も過失はないんですよ。それにね、うちらのボスも元オリハルコン冒険者の実力者ですよ? あまりこちらを舐めない方がいいと思いますがね」

「面倒だ。ゾル」

 と、エルザは顎をしゃくる。

「了解した」

 と、ゾルは男たちに闘神威圧を弱めて使った。
 男たちの顔色が目に見えて変わった。
 男は土下座して言った。

「な、生意気な口を利いてすみませんでした! ボスの所に案内します!」

「初めからそうしろ。で、ボスの名前はなんて言うんだ? 元オリハルコンなら聞いておいてやる」

「は、はい! かの有名な冒険者パーティ、イグニスのデュガン、それから闇の世界で名を轟かせるベリドです!」

「デュガン? ベリド?」

「ご存じでしたか!?」

「よく知ってる」

「そうですか! オリハルコンランクではありますが、二人はアダマンタイトクラスの実力を持っていると噂されていますからね!」

「……」

 デュガンとベリド。
 デュガンはシアの父で、イグニス傭兵団の団長だった人物だ。亜人との戦いで死んでいる。

 ベリドは、聞いた話だと今は聖王国の銀行で債務者の取り立ての仕事をしているらしい。一応、銀行の内部を調べる目的もあるそうだが。

 こいつらのボスは二人の名を騙る偽物だろう。
 デュガンとベリドは傭兵稼業を始めるまで、王国、公国、都市同盟を活動拠点にしていた。
 もしかしたら、昔二人の部下だった奴かもしれない。

 エルザはアイス・バーンの魔法を解いた。
 男は立ち上がり、言った。

「事務所はこちらです」



 子供が殴られていた場所に程近い、昼なのに暗い街路の一角に、事務所の入り口はあった。

「お前はここで待ってろ」

 と、エルザは子供に伝えた。

「う、うん」

 いっそ、エーリア・グローリスで建物の内部の連中を皆殺しにしてしまおうかと頭を過ぎるが、この子の姉もいる。先に取り戻さないといけない。

「ゾル」

「ああ」

 と、ゾルはアディフィッドを取り出し、鉄扉を斬った。
 中にいる男たちが、突然の侵入者に声を上げた。

「なんだテメェは!? ここがイグニス団だと分かってやってんのか!?」

「私はオリハルコン冒険者だ。お前等のボスに話があって来た」

「アポ取ってから出直せや! コラァ!」

 と、数人の男が掴みかかってきたため、エルザは男たちの顔面に膝を入れて一撃でのした。
 これでも、殺さない程度に手加減している。
 それにしても。

「弱いな、こいつら」

「たしかに、ちょっと不自然なくらい手応えがないな」

 と、ゾルも率直な感想を述べる。

「彼らは暴力組織と言うより、詐欺集団だからね。あまり喧嘩は得意ではないんだろう。逃げ足だけは早いから急いだ方がいいかもしれないよ」

「分かった」



 急いでボスの部屋に行くと、そこには長身だがかなり痩せていて、血色の悪い、見た目だけはベリドに似た男と、体格は良いが太り気味で髪を赤く染めた男がポーターバッグを背負って逃げる準備をしていた。

 隠し扉に入る寸前のところだ。
 多分、メッセージの魔法か何かで部下から連絡を受けていたんだろう。
 危うく取り逃すところだった。

「待て! 偽物共!」

「クソ」 

「お前等がどんな悪事を働いているのかは大体予想がつく。どうせお前等の取引も私たちが取り調べればすぐに詐欺だと分かるだろ。さっさと連れて行った女性を返せ」

「女はもう娼館で働く契約だ。借金もある」

「幾らだ? 私が代わりに支払ってやる」

 面倒なので、そう言った。
 先に女性の身柄を安全に取り戻した方がいい。

「ふん。利子がついて、二千金貨だ」

「ほら」

 と、エルザはプラチナ貨の入った袋を出し、その中に自分の身につけているマジックアイテムの指輪を入れて投げ渡した。

「分かった。女は返そう。別の部屋にいる」

「私を騙そうとしたら命がないと思え」

「……テーブルから部屋の鍵を取らせてくれ」

「早くしろ」

 赤い髪の男がゆっくり移動して、テーブルの引き出しを開けた。
 と、鍵を取るフリをして、男は魔法のアイテムをこちらに投げようとした。
 恐らくフレアなどの魔法だろう。
 目くらましをして逃げるつもりだったのだ。
 その前に、アディフィッドを男に突きつけてゾルが男を制圧した。

「鍵はあったか?」

「……はい」

 さすがに、二人も諦めたようだった。




 別室に向かい、さっきの男の子の姉を取り戻した。
 凄く美人だ。
 やっぱり、こいつら始めからこの姉を狙っていたんじゃないだろうか。

 さっき渡した金も奪い返した。
 ひとまず二人はある程度の罪を認めた。
 さすがに、オリハルコンランクの冒険者が突然踏み込んで来るとは想定していなかったようだ。
 降参する方が身のためだと思ったんだろう。
 命の方が大事だと言っている。

「お前等、どうせ警吏に引き渡しても大して罪に問われないんだろ?」

「詐欺罪は軽いですから。大抵のことは金でどうにかなりますしね。俺たちは殺しなんかの大きな罪は犯さないんですよ」

 犯罪がなくならないわけである。

「でもお前等、悪人のクセに大事なことを忘れているな」

「はい?」

「レイ司祭、ベリドにセンディングの魔法でこのことを伝えてほしい」

「ああ、それならもう伝えた。『すまない、始末はつける』だそうだ」

「そうか。さすが、レイ司祭」

「あの、どういうことですか?」

「お前等の最大の過失は、デュガンとベリドの名を騙ったことだ」

「いや……でも二人は死んだんじゃ……?」

「片方は生きてる」

「まさか、そんな……」

「悪人のことは悪人が一番よく分かっているだろ」

 顔を青ざめさせ、二人は土下座した。

「……た、助けて下さい!! お願いします!!!」

「駄目だ」

「い、嫌だ! 死にたくない!!!」

「刑罰はそのあとだ」

「うわぁぁぁー!」
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