39 / 57
終章
12
しおりを挟む
翌日になり、一行は再び街道へ。
ウェスト・シーに近い街道を通る。
海が見え、景色が良い。
都市同盟はもうすぐだ。
海岸沿いでは海賊の被害が多いという。
海賊はサウス・シーの諸島を基地にしており、摘発しようにも逃げ足が速い。
陸からは、野盗や亜人が襲ってくることもある。
これが、都市同盟の悩みだ。
都市同盟の君主は貴族議会で選ばれる。
現在の君主はラフェン公爵という名らしい。
この人は関わりがないため、会う予定はない。
エルザは領の境で、護衛の騎士に帰るよう命じた。
この先、姫殿下に護衛もつけず旅をさせては、と食い下がった騎士たちだったが、レイの説得で城に引き返した。
エルザは村に帰還するための巻物を持っているし、何か問題が起きたら自分がセンディングの魔法で連絡する、と。
エルザが騎士たちを帰したのは、都市内で身分を伏せておきたかったからだ。
護衛がいては目立ってしまう。
初めて訪れる都市だ。一介の冒険者として振る舞った方が、その都市の良さも悪さも見えるはずだとエルザは思う。
都市アズル。
市街は冒険者が多い。
治安は保たれているように見える。露天商たちにも活気があった。
「悪くない都市だ」
「都市同盟にも裏の顔がある。こう見えてスリ、強盗、暴力沙汰なども多い」
「危ない町なのか?」
「表通りは大丈夫」
「裏通りが危ない?」
「うん。ただオリハルコンクラスともなれば、裏通りに入っても危険な目に遭うことはないだろう。若者、つまり新人冒険者や新米の商人が狙われるんだ。そうした右も左も分からない者を騙したり、悪の道へ勧誘する輩が大勢いる」
この辺は、海賊や野盗も多い。
小悪党がやりそうなことだとエルザは思う。
なんでも、口八丁手八丁で証文にサインさせて、悪事から身を引けなくする手を使ったりするらしい。
詐欺のテクニックを持った悪人が大勢いるようだ。
「まぁ、バロニアは税や物の値段が高いし、王国と公国は亜人と戦争中。帝国や聖王国はあんまり入れるダンジョンがない。となると、ここら辺で仕事を探そうとなるのかもな」
「うん。それに都市同盟の貴族や豪商には一代で成功した者が多い。皆、夢を追ってここに来るんだろう」
「それで騙される奴も出てくるのか。自分の身は自分で守るのが冒険者の基本みたいなものだけど」
「冒険者ギルドや商人ギルドに加入すればそれなりに信頼できる情報が手に入るし、神殿や警吏がちゃんと説明や指導をしているみたいなんだけど」
クレリックの魔法の中には、ゾーン・オヴ・トゥルースのように嘘に対抗する魔法もあるし、他にも欺されないための防衛術はあったりする。
でもそれは、金があり、技術を身につけた経験者が使える手段だ。
新人冒険者の冒険はまずは騙されないことから始まるのかもしれない。
それで生き抜けた者だけが成功する。
そういうことなんだろうか。
ただ。
「町から詐欺師や悪党は消えることはないんだろうな。気に食わないことだけど」
「色々な人たちが集い去っていく都市だから、摘発してもまた外からやってくる。警吏は常に人手が足りないそうだ」
「これも悪魔の仕業なのか?」
「いや、海賊や町の詐欺師などは今のところ関係ないと思う」
デヴィル・クロウのメルが飛んで来て、窓を嘴で叩いた。エルザは窓を開けてやる。
車内に入ると、メルはエルザの腕に止まった。
『ゴキゲンヨウ』
「どうした、メル?」
『オトコ ミチ タタク コドモ』
パタ、っと倒れる仕草をするメル。
「オトコ、ミチ、タタク、コドモ。なんのことだ?」
「もしかして、道端で子供が何かされているんじゃないのか?」
とゾルが言い、メルはゾルの方を向いて首を上下に振った。
「レイ司祭、ちょっと行ってみる」
「ああ、私も行こう」
御者には先に宿に向かうよう伝えた。
三人はメルの案内で、街路裏に走った。
「あいつら、何をしてるんだ……」
エルザの顔が怒りに歪む。
裏路地で、男の子が倒れている。
子供は五人の男たちに囲まれていた。
男の一人が子供に蹴りを入れた。
「アイス・バーン!」
エルザは魔法で路面を凍結させた。氷の膜は滑りやすくなっており、男たちは全員体勢を崩して地面に転がった。
「な、なんだ!?」
困惑する男に走り込み、エルザは顔面に蹴りを食らわせた。
男はのけぞり、ひっくり返る。完全に今の一撃で伸びていた。
「全員動くな」
と、エルザはオリハルコンのプレートを見せ、警告する。
「オ、オリハルコン……」
その呟き声を無視して、エルザは蹴られていた男の子に言った。
「お前、なんで殴られてた?」
「おれの姉ちゃんが、こいつらに連れて行かれて。訴えても駄目で。だから、直接返してくれって言いに行ったんだけど、無駄だから帰れって」
「大体話は分かった」
どうせ、小悪党が詐欺を働いてこの子の姉を攫ったんだろう。姉を娼館に売るとか、そんな話に違いない。
「おい」
と、エルザは倒れている男たちに言った。
「はい?」
「お前等のボスの所に案内しろ」
男は不服そうにエルザに言った。
「オリハルコン冒険者かなんだか知りませんがね、ちょっと横暴じゃありませんか? 俺たちはこの子供がしつこいから追い返そうとしていただけですよ。その姉の話も、誤解がありますしね。同意はあるんですよ」
「ごちゃごちゃ抜かすな」
「あのね、こちらには何も過失はないんですよ。それにね、うちらのボスも元オリハルコン冒険者の実力者ですよ? あまりこちらを舐めない方がいいと思いますがね」
「面倒だ。ゾル」
と、エルザは顎をしゃくる。
「了解した」
と、ゾルは男たちに闘神威圧を弱めて使った。
男たちの顔色が目に見えて変わった。
男は土下座して言った。
「な、生意気な口を利いてすみませんでした! ボスの所に案内します!」
「初めからそうしろ。で、ボスの名前はなんて言うんだ? 元オリハルコンなら聞いておいてやる」
「は、はい! かの有名な冒険者パーティ、イグニスのデュガン、それから闇の世界で名を轟かせるベリドです!」
「デュガン? ベリド?」
「ご存じでしたか!?」
「よく知ってる」
「そうですか! オリハルコンランクではありますが、二人はアダマンタイトクラスの実力を持っていると噂されていますからね!」
「……」
デュガンとベリド。
デュガンはシアの父で、イグニス傭兵団の団長だった人物だ。亜人との戦いで死んでいる。
ベリドは、聞いた話だと今は聖王国の銀行で債務者の取り立ての仕事をしているらしい。一応、銀行の内部を調べる目的もあるそうだが。
こいつらのボスは二人の名を騙る偽物だろう。
デュガンとベリドは傭兵稼業を始めるまで、王国、公国、都市同盟を活動拠点にしていた。
もしかしたら、昔二人の部下だった奴かもしれない。
エルザはアイス・バーンの魔法を解いた。
男は立ち上がり、言った。
「事務所はこちらです」
子供が殴られていた場所に程近い、昼なのに暗い街路の一角に、事務所の入り口はあった。
「お前はここで待ってろ」
と、エルザは子供に伝えた。
「う、うん」
いっそ、エーリア・グローリスで建物の内部の連中を皆殺しにしてしまおうかと頭を過ぎるが、この子の姉もいる。先に取り戻さないといけない。
「ゾル」
「ああ」
と、ゾルはアディフィッドを取り出し、鉄扉を斬った。
中にいる男たちが、突然の侵入者に声を上げた。
「なんだテメェは!? ここがイグニス団だと分かってやってんのか!?」
「私はオリハルコン冒険者だ。お前等のボスに話があって来た」
「アポ取ってから出直せや! コラァ!」
と、数人の男が掴みかかってきたため、エルザは男たちの顔面に膝を入れて一撃でのした。
これでも、殺さない程度に手加減している。
それにしても。
「弱いな、こいつら」
「たしかに、ちょっと不自然なくらい手応えがないな」
と、ゾルも率直な感想を述べる。
「彼らは暴力組織と言うより、詐欺集団だからね。あまり喧嘩は得意ではないんだろう。逃げ足だけは早いから急いだ方がいいかもしれないよ」
「分かった」
急いでボスの部屋に行くと、そこには長身だがかなり痩せていて、血色の悪い、見た目だけはベリドに似た男と、体格は良いが太り気味で髪を赤く染めた男がポーターバッグを背負って逃げる準備をしていた。
隠し扉に入る寸前のところだ。
多分、メッセージの魔法か何かで部下から連絡を受けていたんだろう。
危うく取り逃すところだった。
「待て! 偽物共!」
「クソ」
「お前等がどんな悪事を働いているのかは大体予想がつく。どうせお前等の取引も私たちが取り調べればすぐに詐欺だと分かるだろ。さっさと連れて行った女性を返せ」
「女はもう娼館で働く契約だ。借金もある」
「幾らだ? 私が代わりに支払ってやる」
面倒なので、そう言った。
先に女性の身柄を安全に取り戻した方がいい。
「ふん。利子がついて、二千金貨だ」
「ほら」
と、エルザはプラチナ貨の入った袋を出し、その中に自分の身につけているマジックアイテムの指輪を入れて投げ渡した。
「分かった。女は返そう。別の部屋にいる」
「私を騙そうとしたら命がないと思え」
「……テーブルから部屋の鍵を取らせてくれ」
「早くしろ」
赤い髪の男がゆっくり移動して、テーブルの引き出しを開けた。
と、鍵を取るフリをして、男は魔法のアイテムをこちらに投げようとした。
恐らくフレアなどの魔法だろう。
目くらましをして逃げるつもりだったのだ。
その前に、アディフィッドを男に突きつけてゾルが男を制圧した。
「鍵はあったか?」
「……はい」
さすがに、二人も諦めたようだった。
別室に向かい、さっきの男の子の姉を取り戻した。
凄く美人だ。
やっぱり、こいつら始めからこの姉を狙っていたんじゃないだろうか。
さっき渡した金も奪い返した。
ひとまず二人はある程度の罪を認めた。
さすがに、オリハルコンランクの冒険者が突然踏み込んで来るとは想定していなかったようだ。
降参する方が身のためだと思ったんだろう。
命の方が大事だと言っている。
「お前等、どうせ警吏に引き渡しても大して罪に問われないんだろ?」
「詐欺罪は軽いですから。大抵のことは金でどうにかなりますしね。俺たちは殺しなんかの大きな罪は犯さないんですよ」
犯罪がなくならないわけである。
「でもお前等、悪人のクセに大事なことを忘れているな」
「はい?」
「レイ司祭、ベリドにセンディングの魔法でこのことを伝えてほしい」
「ああ、それならもう伝えた。『すまない、始末はつける』だそうだ」
「そうか。さすが、レイ司祭」
「あの、どういうことですか?」
「お前等の最大の過失は、デュガンとベリドの名を騙ったことだ」
「いや……でも二人は死んだんじゃ……?」
「片方は生きてる」
「まさか、そんな……」
「悪人のことは悪人が一番よく分かっているだろ」
顔を青ざめさせ、二人は土下座した。
「……た、助けて下さい!! お願いします!!!」
「駄目だ」
「い、嫌だ! 死にたくない!!!」
「刑罰はそのあとだ」
「うわぁぁぁー!」
ウェスト・シーに近い街道を通る。
海が見え、景色が良い。
都市同盟はもうすぐだ。
海岸沿いでは海賊の被害が多いという。
海賊はサウス・シーの諸島を基地にしており、摘発しようにも逃げ足が速い。
陸からは、野盗や亜人が襲ってくることもある。
これが、都市同盟の悩みだ。
都市同盟の君主は貴族議会で選ばれる。
現在の君主はラフェン公爵という名らしい。
この人は関わりがないため、会う予定はない。
エルザは領の境で、護衛の騎士に帰るよう命じた。
この先、姫殿下に護衛もつけず旅をさせては、と食い下がった騎士たちだったが、レイの説得で城に引き返した。
エルザは村に帰還するための巻物を持っているし、何か問題が起きたら自分がセンディングの魔法で連絡する、と。
エルザが騎士たちを帰したのは、都市内で身分を伏せておきたかったからだ。
護衛がいては目立ってしまう。
初めて訪れる都市だ。一介の冒険者として振る舞った方が、その都市の良さも悪さも見えるはずだとエルザは思う。
都市アズル。
市街は冒険者が多い。
治安は保たれているように見える。露天商たちにも活気があった。
「悪くない都市だ」
「都市同盟にも裏の顔がある。こう見えてスリ、強盗、暴力沙汰なども多い」
「危ない町なのか?」
「表通りは大丈夫」
「裏通りが危ない?」
「うん。ただオリハルコンクラスともなれば、裏通りに入っても危険な目に遭うことはないだろう。若者、つまり新人冒険者や新米の商人が狙われるんだ。そうした右も左も分からない者を騙したり、悪の道へ勧誘する輩が大勢いる」
この辺は、海賊や野盗も多い。
小悪党がやりそうなことだとエルザは思う。
なんでも、口八丁手八丁で証文にサインさせて、悪事から身を引けなくする手を使ったりするらしい。
詐欺のテクニックを持った悪人が大勢いるようだ。
「まぁ、バロニアは税や物の値段が高いし、王国と公国は亜人と戦争中。帝国や聖王国はあんまり入れるダンジョンがない。となると、ここら辺で仕事を探そうとなるのかもな」
「うん。それに都市同盟の貴族や豪商には一代で成功した者が多い。皆、夢を追ってここに来るんだろう」
「それで騙される奴も出てくるのか。自分の身は自分で守るのが冒険者の基本みたいなものだけど」
「冒険者ギルドや商人ギルドに加入すればそれなりに信頼できる情報が手に入るし、神殿や警吏がちゃんと説明や指導をしているみたいなんだけど」
クレリックの魔法の中には、ゾーン・オヴ・トゥルースのように嘘に対抗する魔法もあるし、他にも欺されないための防衛術はあったりする。
でもそれは、金があり、技術を身につけた経験者が使える手段だ。
新人冒険者の冒険はまずは騙されないことから始まるのかもしれない。
それで生き抜けた者だけが成功する。
そういうことなんだろうか。
ただ。
「町から詐欺師や悪党は消えることはないんだろうな。気に食わないことだけど」
「色々な人たちが集い去っていく都市だから、摘発してもまた外からやってくる。警吏は常に人手が足りないそうだ」
「これも悪魔の仕業なのか?」
「いや、海賊や町の詐欺師などは今のところ関係ないと思う」
デヴィル・クロウのメルが飛んで来て、窓を嘴で叩いた。エルザは窓を開けてやる。
車内に入ると、メルはエルザの腕に止まった。
『ゴキゲンヨウ』
「どうした、メル?」
『オトコ ミチ タタク コドモ』
パタ、っと倒れる仕草をするメル。
「オトコ、ミチ、タタク、コドモ。なんのことだ?」
「もしかして、道端で子供が何かされているんじゃないのか?」
とゾルが言い、メルはゾルの方を向いて首を上下に振った。
「レイ司祭、ちょっと行ってみる」
「ああ、私も行こう」
御者には先に宿に向かうよう伝えた。
三人はメルの案内で、街路裏に走った。
「あいつら、何をしてるんだ……」
エルザの顔が怒りに歪む。
裏路地で、男の子が倒れている。
子供は五人の男たちに囲まれていた。
男の一人が子供に蹴りを入れた。
「アイス・バーン!」
エルザは魔法で路面を凍結させた。氷の膜は滑りやすくなっており、男たちは全員体勢を崩して地面に転がった。
「な、なんだ!?」
困惑する男に走り込み、エルザは顔面に蹴りを食らわせた。
男はのけぞり、ひっくり返る。完全に今の一撃で伸びていた。
「全員動くな」
と、エルザはオリハルコンのプレートを見せ、警告する。
「オ、オリハルコン……」
その呟き声を無視して、エルザは蹴られていた男の子に言った。
「お前、なんで殴られてた?」
「おれの姉ちゃんが、こいつらに連れて行かれて。訴えても駄目で。だから、直接返してくれって言いに行ったんだけど、無駄だから帰れって」
「大体話は分かった」
どうせ、小悪党が詐欺を働いてこの子の姉を攫ったんだろう。姉を娼館に売るとか、そんな話に違いない。
「おい」
と、エルザは倒れている男たちに言った。
「はい?」
「お前等のボスの所に案内しろ」
男は不服そうにエルザに言った。
「オリハルコン冒険者かなんだか知りませんがね、ちょっと横暴じゃありませんか? 俺たちはこの子供がしつこいから追い返そうとしていただけですよ。その姉の話も、誤解がありますしね。同意はあるんですよ」
「ごちゃごちゃ抜かすな」
「あのね、こちらには何も過失はないんですよ。それにね、うちらのボスも元オリハルコン冒険者の実力者ですよ? あまりこちらを舐めない方がいいと思いますがね」
「面倒だ。ゾル」
と、エルザは顎をしゃくる。
「了解した」
と、ゾルは男たちに闘神威圧を弱めて使った。
男たちの顔色が目に見えて変わった。
男は土下座して言った。
「な、生意気な口を利いてすみませんでした! ボスの所に案内します!」
「初めからそうしろ。で、ボスの名前はなんて言うんだ? 元オリハルコンなら聞いておいてやる」
「は、はい! かの有名な冒険者パーティ、イグニスのデュガン、それから闇の世界で名を轟かせるベリドです!」
「デュガン? ベリド?」
「ご存じでしたか!?」
「よく知ってる」
「そうですか! オリハルコンランクではありますが、二人はアダマンタイトクラスの実力を持っていると噂されていますからね!」
「……」
デュガンとベリド。
デュガンはシアの父で、イグニス傭兵団の団長だった人物だ。亜人との戦いで死んでいる。
ベリドは、聞いた話だと今は聖王国の銀行で債務者の取り立ての仕事をしているらしい。一応、銀行の内部を調べる目的もあるそうだが。
こいつらのボスは二人の名を騙る偽物だろう。
デュガンとベリドは傭兵稼業を始めるまで、王国、公国、都市同盟を活動拠点にしていた。
もしかしたら、昔二人の部下だった奴かもしれない。
エルザはアイス・バーンの魔法を解いた。
男は立ち上がり、言った。
「事務所はこちらです」
子供が殴られていた場所に程近い、昼なのに暗い街路の一角に、事務所の入り口はあった。
「お前はここで待ってろ」
と、エルザは子供に伝えた。
「う、うん」
いっそ、エーリア・グローリスで建物の内部の連中を皆殺しにしてしまおうかと頭を過ぎるが、この子の姉もいる。先に取り戻さないといけない。
「ゾル」
「ああ」
と、ゾルはアディフィッドを取り出し、鉄扉を斬った。
中にいる男たちが、突然の侵入者に声を上げた。
「なんだテメェは!? ここがイグニス団だと分かってやってんのか!?」
「私はオリハルコン冒険者だ。お前等のボスに話があって来た」
「アポ取ってから出直せや! コラァ!」
と、数人の男が掴みかかってきたため、エルザは男たちの顔面に膝を入れて一撃でのした。
これでも、殺さない程度に手加減している。
それにしても。
「弱いな、こいつら」
「たしかに、ちょっと不自然なくらい手応えがないな」
と、ゾルも率直な感想を述べる。
「彼らは暴力組織と言うより、詐欺集団だからね。あまり喧嘩は得意ではないんだろう。逃げ足だけは早いから急いだ方がいいかもしれないよ」
「分かった」
急いでボスの部屋に行くと、そこには長身だがかなり痩せていて、血色の悪い、見た目だけはベリドに似た男と、体格は良いが太り気味で髪を赤く染めた男がポーターバッグを背負って逃げる準備をしていた。
隠し扉に入る寸前のところだ。
多分、メッセージの魔法か何かで部下から連絡を受けていたんだろう。
危うく取り逃すところだった。
「待て! 偽物共!」
「クソ」
「お前等がどんな悪事を働いているのかは大体予想がつく。どうせお前等の取引も私たちが取り調べればすぐに詐欺だと分かるだろ。さっさと連れて行った女性を返せ」
「女はもう娼館で働く契約だ。借金もある」
「幾らだ? 私が代わりに支払ってやる」
面倒なので、そう言った。
先に女性の身柄を安全に取り戻した方がいい。
「ふん。利子がついて、二千金貨だ」
「ほら」
と、エルザはプラチナ貨の入った袋を出し、その中に自分の身につけているマジックアイテムの指輪を入れて投げ渡した。
「分かった。女は返そう。別の部屋にいる」
「私を騙そうとしたら命がないと思え」
「……テーブルから部屋の鍵を取らせてくれ」
「早くしろ」
赤い髪の男がゆっくり移動して、テーブルの引き出しを開けた。
と、鍵を取るフリをして、男は魔法のアイテムをこちらに投げようとした。
恐らくフレアなどの魔法だろう。
目くらましをして逃げるつもりだったのだ。
その前に、アディフィッドを男に突きつけてゾルが男を制圧した。
「鍵はあったか?」
「……はい」
さすがに、二人も諦めたようだった。
別室に向かい、さっきの男の子の姉を取り戻した。
凄く美人だ。
やっぱり、こいつら始めからこの姉を狙っていたんじゃないだろうか。
さっき渡した金も奪い返した。
ひとまず二人はある程度の罪を認めた。
さすがに、オリハルコンランクの冒険者が突然踏み込んで来るとは想定していなかったようだ。
降参する方が身のためだと思ったんだろう。
命の方が大事だと言っている。
「お前等、どうせ警吏に引き渡しても大して罪に問われないんだろ?」
「詐欺罪は軽いですから。大抵のことは金でどうにかなりますしね。俺たちは殺しなんかの大きな罪は犯さないんですよ」
犯罪がなくならないわけである。
「でもお前等、悪人のクセに大事なことを忘れているな」
「はい?」
「レイ司祭、ベリドにセンディングの魔法でこのことを伝えてほしい」
「ああ、それならもう伝えた。『すまない、始末はつける』だそうだ」
「そうか。さすが、レイ司祭」
「あの、どういうことですか?」
「お前等の最大の過失は、デュガンとベリドの名を騙ったことだ」
「いや……でも二人は死んだんじゃ……?」
「片方は生きてる」
「まさか、そんな……」
「悪人のことは悪人が一番よく分かっているだろ」
顔を青ざめさせ、二人は土下座した。
「……た、助けて下さい!! お願いします!!!」
「駄目だ」
「い、嫌だ! 死にたくない!!!」
「刑罰はそのあとだ」
「うわぁぁぁー!」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる