ユキバナの咲く地へ

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終章

26

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 エルザは地下にバズゥを呼んだ。

「私の母親、イローナは地獄にいるな?」

「はい、その通りでございます。エルザ様」

「お前、そこまで私たちを案内できるか?」

「もちろんでございますとも。地獄のことなら隅から隅まで知り尽くしております」

「今すぐ案内しろ」

「はい、喜んで。地獄の案内人を仕りましょう」

「で、行き方は?」

「私の魔法で一瞬ですとも」

「何の魔法だ?」

「グレーター・テレポートです。はい」

 グレーター・テレポート……。
 これは、あのやり方が使えるんじゃ……。

 麝教の首領ゼスを倒した際、エルザはグレーター・テレポートを使って墓所に乗り込んだ。

 バズゥがグレーター・テレポートを使用できるなら、バラドナやアナザデウスに奇襲を仕掛けることができるかもしれない。

「地獄のどこにでも転移できるのか? 例えばアナザデウスの真ん前とか」

「残念ながら地獄の入り口にしか移動できないのです。ほとんどの領域にフォービダンスの魔法や、罠が仕掛けてありますので大変危険でございます。地獄の規則でもございますので」

「そうか。分かった」

「誠に申し訳ございません」

「まぁいい。やれ」

「はい。では出発致しますー! グレーター・テレポート!」

 バズゥはグレーター・テレポートを使用し、三人を連れ地獄へと転移した。



 ピピとメルには、あの場に残るようにあらかじめ指示を出している。

 三人は地獄へとやってきた。
 空は赤に染まり、見渡す限り荒涼とした大地が広がっている。
 エルザたちはアイテムでディスガイズ・セルフの魔法を使い、自分たちの身体を悪魔の外見へと変化させた。地獄は気温の変化が激しいため、エンデュア・エレメンツも使用する。

「では皆様、私の身体にお掴まり下さい」

 エルザはバズゥの肩に乗り、ゾルは右足を掴み、ルアドは左足を掴む。

「地獄ツアーにレッツゴー!」

 バズゥは翼を広げて、空に羽ばたいた。
 目的地はエルザの母、イローナが捕らえられている場所だ。バズゥの話では、バラドナの居城の一室だそうだ。
 侵入することは簡単だと、バズゥは話している。

 眼下に、大きな河が見えた。
 その河の岸辺では、黒い人の姿をした影が列をなしている。

「ここはティクス河と言って、死んだ者の魂が最初に渡る河でございます。この河を渡りきると、生前の記憶は失われ、最下級の悪魔の姿に生まれ変わるのです。罪人は地獄の亡者の一員となり、輝かしく晴れやかに悪魔としての一歩を踏出すのでございます」

 なんか、聞いたことがあるようなないような。
 エルザはバズゥに威圧的な口調で言った。

「岸辺に、石が積まれているな?」

 岸辺に、石が山のように積まれている。
 よく見ると、黒い影がそこで持っている石を捨てている。

「神々は黒い影に、あの石を持たせて磨かせているのです。天界に戻る清き心を持つ黒い影は、美しく磨いた石を神々に返すのでしょう。しかし罪人の持つ石は磨かれることなくああして捨てられるのです」

 その話も、どこかで聞いたことがあるような。

「地獄は、罪人に罰を与える場所なんだろ?」

「その通りでございます。ここで罪人の魂に罰を与え、生ける人々の戒めとするのでございます」

「その仕組み自体は嫌いじゃない。のうのうと生きている悪人が多いからな。死んでからでも罰を与えるのはいいことだ」

「地獄は、大変素晴らしい仕組みでございます」

「どうやって地獄に行く魂と天界に行く魂が決まる?」

「その仕組みは残念ながら存じません。審判が行われるとだけ聞いております」

 ティクス河を渡り終えた。

「バラドナの居城まで、どのくらいかかる?」

「この速度ですと、三、四十分程になるかと思われます」

「せめてバラドナの居城の前まで、テレポートできないのか?」

「連絡を取ってバラドナ様の許可を頂かなくてはならないのです。申し訳ございません」

「クソ」

 エルザが焦る気持ちは分からないでもない。
 それにバズゥでもグレーターテレポートを使えるのは日に二回だそうだ。
 さっき一回使っている。
 残りの一回は、脱出のために残しておかなくてはいけない。

 広漠な大地を眼下に収めながら、空を飛んで行く。
 大地には、奇妙な姿をした最下級の悪魔の姿が何体も見える。
 最下級悪魔は命令があるまで、この大地をただただ彷徨い続ける。
 役に立ち昇格すると、インプなどの別の悪魔に変化させてもらえるそうだ。

「バズゥ」

「はい、エルザ様」

「エルキア王国を亜人が攻めたのは知っているな?」

「もちろんでございます。王国攻めはバラドナ様の命令で行われておりますので」

「ターラム砦を古代魔法で焼いたのはバラドナの指示で間違いないんだな?」

「はい、その通りでございます。バラドナ様は記憶の海を利用した様々な開発に取り組んでおられるのです。その実験のために、ターラム砦に古代魔法を使用したのでございます」

「実験か。悪魔のやりそうなことだ。燃料には魂を使ったのか?」

「はい。あまりにも魔力を消費するため、その後はなるべく使用を控えているのでございます。バラドナ様は、この問題を改善した次世代の新型制御装置を開発するため、日々労を惜しまず研究に取り組んでおられます」

「エルキア王国を攻めた理由は何だ?」

「はい。崇高なる御方、アナザデウス様の偉大な計画を遂行するためでございます」

「何だ、計画って?」

「効率良く、魂の回収ができるような人間社会の仕組みを作ることでございます」

「他の国で起きている悪事も、その計画の一環なのか?」

「はい。素晴らしい計画でございます。我々悪魔は、日々この計画を実現するために働いているのでございます」

「どんな内容なんだ?」

「私には全貌は分かりかねます。バラドナ様の部隊に配属された私は、都市ウルを支配下においておくことが仕事でございました」

「……まぁいい。どうせ碌でもない話だろ。バラドナがお母さん、イローナを連れ去った理由は知っているか?」

「はい、知っておりますとも。バラドナ様から直接お聞きしておりますので」

「もしかして、お母さんも何かの実験に使っているんじゃないだろうな?」

「滅相もないことでございます。あのラピリアンは、芸術品なのでございます。目で楽しむために部屋に飾っているのでございます」

「芸術品?」

「はい。五種類の魔力を保有する個体でございます。人には分かりにくいとは思われますが、魔力を視ることができる超視覚を持つ我々上級悪魔からすると、あの個体は大変美しく神秘的に見えるのでございます。殺すには惜しいので、持って帰ったのでございます」

「じゃあ、無事なんだな?」

「はい、傷つけることはしておりません。クリスタルケージの中で仮死状態で保存されております」
 
「クソッ、バラドナめ!」

「イローナ……」

 エルザは少し不安げな表情をしていた。
 ルアドも表情を悲しげに歪ませている。

 エルザの母は、酷い扱いは受けていないと思っていいのだろうか。
 少なくとも、苦しめられるようなことはされていないようだが。
 ゾルもこの話には心が痛んだ。
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