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第一章
第1話 【過去】或る英雄の死
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ヴィンター帝国の最も南部に位置するグランバレー領。国境沿いに位置するこの領土は鉱物資源に恵まれた土地だ。別名、「冬の国」と呼ばれる寒冷な土地が大半を占めているこの国において、比較的気候が穏やかでもあり、貴重な鉱石が採掘できるグランバレーは隣国との小競り合いが絶えず、略奪も少なくはない。隣国同士の小競り合いが原因で難民の流入も増えており、治安が劇的に悪化していた。
グランバレー領の私設騎士団だけでは太刀打ちができず、帝都の騎士団にまで応援の要請が来たのが三ヶ月前。
ヴィンター帝国の第三皇子であるエリオットが率いる騎士団はこういった辺境の激戦区に派遣されることが多かったため、誰もが今回の派遣も「数ヶ月程度国境の警備をしていれば終わるだろう」と楽観的に考えていた。
まさか、いつもどおりの任務が、未曾有の危機に立ち向かうことになるだなんて誰も思いもしなかったのだ。
(まずいかもしれないなぁ)
第三騎士団の唯一の女性騎士であるアリアナ・ブレメアは”それ”を直視したままそう、ぼんやりと思った。
眼の前の地獄のような光景から逃げたいと思う、一種の現実逃避だったのかもしれない。
めきめきと音がした。最初は誰もが地震か?と思い気にも止めなかったが、次いで大砲のような強烈な音を伴う地割れとともに”それ”は現れた。
“それ”とはかつて見たことも無い程巨大な――ワームのような魔物だった。
一瞬の静寂のあとワームが巨大な体をぞんぶんに使い、手近にあった一軒家を締め上げる。ばきばきと音を立てて一軒家がクッキーのように崩れ落ちた。水道管が破裂し、あたり一面に汚水が侵略していく。
凶悪な口は逃げ遅れた家畜をひょいと摘み上げ、くちゃくちゃと嫌な音を立てて咀嚼する。開いた口には鋭い牙がびっしりと二重に並んでいた。
赤。
アリアナの眼前が赤一色に染まる。
服の裾で顔を拭けば血がべっとりと付着していた。当然アリアナのものではない。
まるでやわらかい果物を食べるかのように、簡単に家畜がワームの口へと飲み込まれていく。耳を塞ぎたくなるような悲痛な断末魔と、口端から溢れる赤い血液。どうやらそれがアリアナに降り注いだようだった。
ワームの胴体からは何本もの触手が伸びており先端には目がついている。無数の目がかっと開かれその場にいる人間を品定めするように睥睨する。
――まるで、次に食べる相手を吟味しているかのように。
『この魔物が暴れ出したらこの国が亡国と化すのも時間の問題だ』
誰もが現状を把握できた。この場にいるのは国境を守ってきた経験豊富な騎士たちである。
彼女たちのいる砦の先には集落が、そしてその先には帝都がある。ここよりも人が大勢いて、その大半が民間人で……想像しただけでゾッとした。
べっとりとした土留色の皮膚の前には弓も剣も投石器も鈍い音を立てて弾かれる。その様子からダメージを与えられているとは到底思えなかった。
その光景は騎士団の心を折るのに十分であり、恐怖が具現化したような姿のワームに誰も立ち向かおうとはしなかった。……ただ一人を除いて。
アリアナは横目で同僚たちを見た。顔を青く染め震えるもの、その場で吐き出すもの、狂気に侵されひたすらに笑い出すもの、地獄の様相が広がっていた。
彼女が誰よりも信頼している上官であり、この国の第三皇子であるエリオットですら化け物を前に目を見開いたまま動かない。
いや、恐怖で動けないのだ。
埃と土煙、血の混じった臭い。
(これは、よくない気がする)
胸の中でざわりと嫌な波が立つ。
こいつに対して、怯えや恐怖――それらに類する感情を向けるのはよくない。
それだったらいっそ後から敵前逃亡を叱責されてでも逃げた方がいい。本能的にそう感じていた。
いつだってこの野生じみた本能はアリアナを救ってくれた。
ならば自分のやることは決まっている。
時が止まったように皆が固まるなか、アリアナだけがエリオットの前に跪いた。
アリアナの黒い髪の毛が頬の横を滑る。
「殿下。どうぞ、わたしにご命令を。ただ一言で良いのです」
そう言って勇敢にも笑って見せた。
アリアナが動いて初めてエリオットも正気に戻ったかのように言葉を告げた。
「……戦うのか」
青い瞳が痛みに耐えるように揺れている。戦わせたくない、とエリオットの目は語っていた。
「はい。勝てる見込みは少ないですが、時間稼ぎくらいならできます。この中でそれができるのは私か殿下だけです。殿下は――……」
殿下はあれに恐怖を抱いている。だから私が行きます。とは言えなかった。
彼女にとってエリオットは敬愛する上司である。
「……司令官としての役割が残されています。私が戦っている間に心が折れたものは撤退させ、残ったものと共にあの魔物を殺す方法を考えてください。あいつの姿を恐怖を抱く人には見せるべきではない。彼らの撤退を具申します。」
エリオット率いる第三騎士団は最前線へと飛ばされる、死亡率が最も高い戦場である。
そんな中でもエリオットはいつでも諦めず、アリアナたちには思いつかないような方法で状況を打破してきた。彼の機転がなければアリアナはきっと何度も死んでいただろう。
――だから私は一人であの化け物に立ち向かうことができるのだ。もっと絶望的な状況だってあった。今回はたかが巨大なワーム一匹。殿下ならきっとなんとかしてくれる。何も恐れることなんてない。
「頼む」
「拝命致しました」
アリアナにとってエリオットは絶対的な信頼を寄せるに足る人物であった。短い命令であったとしてもそれだけ聞ければ十分だった。
「魔術師たちは集まって魔物の周囲に結界を貼れ! 少しでも被害を抑えるんだ。心の折れたものは下がれ、撤退だ!」
指示の声を背に受けながらアリアナは魔物と対峙した。
たった一人で見たこともない魔物と対峙しても、アリアナは怖くなかった。自分の背中には信頼できる仲間がいたから。
***
ワームと対峙した瞬間、世界から音が消えた。
魔術師たちが結界を張ってくれたのだろう。自陣の優秀な魔術師たちには感謝しかない。
異様な雰囲気を感じ取ったのかワームが巨大な身体を結界に叩きつける。結界にヒビが入るが瞬時に修復された。
「お前の相手はこっちだ、この化け物!」
自らを奮い立たせるようにアリアナは大声をあげて挑発した。
腰に履いた剣を構え、アリアナは剣に魔力を通して手近な触手に切り掛かる。
むっちりとしたワームの肉に剣が食い込む、硬い、が。力任せに押し切ると血が噴水のように噴き出してあたりを汚した。
切り落とされた触手はびちびちと地面をのたうちまわり、先端の目がアリアナをぎろりと睨んだ。どうやら無事に敵だと認識されたらしい。
(思った通りだ。物理的な攻撃は効きにくいけれど、大量の魔力を通した攻撃だったら効く)
幸いにしてアリアナはこの国でもトップクラスの魔力量を誇る騎士だ。
物理的に切れるならまだ望みはある。時間稼ぎをすればエリオットがいい作戦を思いついてくれるかもしれないし、ヒットアンドアウェイで削り殺すことも可能かもしれない。
無数の触手がアリアナに襲いかかる。
それら全てを叩き伏せ、切り伏せ、時に踏み躙った。
一本捌ききれなかった触手が右足に絡みつく、途端に鈍い焼け付くような痛みが襲った。
叩き切るが遅く、彼女のふくらはぎには風穴が空いていた。どろりとした赤黒い血が騎士服を汚す。
ワームの攻撃は絶えることなく続く。それも傷ついた右足を狙ってくるのだ。
右足を庇えば死角となった左側から触手が叩きつけられる。
(傷ついた部位を積極的に狙ってくるということは知性があるのか)
あえてアリアナは右側を無防備にした。死角から襲い来る触手の対処に必死であるかのように。
相手がそれを見逃すはずもなく、大量の触手がアリアナの右足めがけて攻撃を仕掛けてくる。
鈍い金属音のような音が戦場に響く。
触手からぶしゅ、と気の抜けた炭酸のような音が響き、大量の血が流れ出す。予想外だったのかワームは触手を引っ込めた。触手には無数の穴が空いていた。
右足――もっというと、触手によって傷つけられた部位には赤黒い剣山のような鋭いトゲが生えていた。
アリアナの得意な魔法は「血液操作」。
体内、体外問わず自身の血液に魔力を通せば盾にも刃にもなる特異な魔法だ。
他の液体と混ざっても彼女がそれを血液だと認識する限りは操作可能な能力。単純に水を操作するよりも魔力の消費量が少なく、血を流せば流すほど有利になり、どれだけ傷つけられたとしてもかさぶたを一瞬で作れる。戦場に雨でも降っていれば最高だ。その場にある液体すべてが彼女の操作対象になる。
継戦能力、奇襲、汎用性に長けた良い能力であると自負していた。
漏れ出た血液を操作し、鋭いトゲの形にして硬化。この攻撃は知性がある生き物ほど引っかかりやすい。
(ただの初見殺しでしかないから、こんなに早く使いたくなかったんだけどなー……)
触手の数が増えている。増えているだけではない、切った手応えが最初よりも増している。一太刀で触手を切り落とすことができなくなってきた。
「くそ、どんどん強くなっているのか……!」
手札のカードを一枚切ったのでアリアナは血液操作を存分に使うことにした。手のひらに血をべっとりとつけ、魔力を通していびつな剣の形を作った。国から支給された剣よりも耐久力も鋭さも上で、使い勝手も良い。
今度は左足に触手が絡みつき、べきべきというトタンを踏み潰したような音が戦場に響く。
左足が潰された。だが、かろうじて動ける。血液を操作して傷ついた足に外骨格のようにまとわりつかせれば、まだ戦える。魔力はまだ尽きてはいない。
体は動かなくても脳と心臓が潰されない限り、自らを操り人形にして戦い続けることができる。
彼女の首元にじわじわとアザが広がっていく。金属の表面に張り付くサビのような、赤茶色のアザ。
腹から全身にかけて広がるそのアザは、「それ以上魔力を使うと死ぬぞ」というサイン。
それでもアリアナは攻撃の手を止めることはなかった。止めたら国ごと死ぬ、止めなくても死ぬ。ならば後者を選ぼう。騎士として国のために戦い、国のために死ぬのだ。大事な人たちを蹂躙されないために。
血液を細かく分割、凝固、投擲、分割、凝固、投擲、分割……――。
魔力で硬化した血液の弾は一つ一つが銃と同等の威力を持つ。ワームの体に無数の穴が空き、血液が吹き出すがそれでも倒れない。
敵が強くなっているとわかった時点で、アリアナは「完全勝利」という目標を捨てた。目指すべきところは「最大限の時間稼ぎ」と「最大限敵にダメージを与える」ことだ。結界が解かれるまでは時間を稼がなければいけない。
だが、それも長くは持たなかった。
長い体がアリアナの腹に巻きつく。まるで大蛇が獲物を飲み干す前に締め落とすように。
メキメキと身体中の骨が悲鳴をあげる。
息を吐いたらその分だけ締め付けられ、呼吸が吸えなくなる。このままでは近い未来に待っているのは窒息死だ。
アリアナの全身は血まみれで、いくつもの穴が空いていた。酸素不足と疲労と全身を襲う痛みでもはや指先一つ動かすことも難しい。目の前が黒く染まっていく。
けれど、まだ戦える。
全身を覆う血液を固く凝固させ、自身を覆う外骨格になるように操作した。かろうじて空いた隙間でぷは、と短く呼吸をしたら口から血反吐が出てきた。それでも久しぶりに吸えた酸素で頭の中がクリアになる。次に自分が何をするべきかがはっきりと分かった。
アリアナは力を振り絞り自らの身体を締め付ける体表を握ると、そのまま腕力で握りつぶした。手のひらに生暖かい血がべっとりと付着する。血液はアリアナの全身を濡らし、アリアナを締め付けているワームの体表にもどちらのものかわからない血液が大量にこびりついている。
破壊された水道管から噴き出し続け、戦場に雨のように降り注ぐ水。
水はワームの全身を濡らし、体からはアリアナがつけた傷跡から血が流れ出している。水も、敵の血も、アリアナの血液が少しでも混じっていれば操作対象となる。
――それら全てを"硬化"させた。
アリアナの全身にアザが回っていく。首元から鼻へ、目元へ。指先までもが覆い尽くされていく。アザが全身に広がっていく感覚は、大量の虫が皮下の表面で這いずり回っているようで気が狂いそうになる。
きっと生き残れたとしても長くは持たないだろう。
途端に、衝撃波がアリアナの全身を襲った。
鼓膜が震え、肺が悲鳴を上げる。
聞こえてくる音が目の前のワームの怒りの声であることに気づくのに数瞬を要した。体の外側と内側から自由を潰されるというのは、そうとうこいつの癇に障ったらしい。
(ミミズの分際で発声器官まであるのか)
全力の殺意が、今、アリアナに向けられている。
血液の拘束が解けた後、自分はきっと、楽には死ねない。だが、それでいいと思った。
殺意が自分に向いている限り、味方は動ける。
自分が囮であることが、最大限に役割を果たした証になる。
だが、ワームにそれが分かることはないのだろう。せいぜい時間をかけて殺せば良い。
そう思った瞬間、口の端が自然と上がっていた。
(こうしている間にも、殿下が作戦を考えてくれている。ざまあみろ!)
にや、と笑ったその顔は、血に塗れ、全身にアザが刻まれている。
それは騎士というより、眼前のワームと同じ――まさしく“化け物”というにふさわしい姿だった。
ワームが、わずかにたじろいだ気がした。
……死の間際にアリアナの脳が見せた、都合の良い幻覚だったのかもしれない。
急に世界に音が戻った。結界が解かれたのだと瞬時に理解する。
絶望の中に一筋の希望が見えたような気がして、心の底から安堵した。
(生き残ることができるんだ! これから先も殿下のそばで、騎士として!)
声に出そうとしてもごぼ、という奇妙な音が口から漏れただけだった。
自らの死を受け入れていたのに、エリオットがなにか作戦を考えてくれたとわかっただけで生への執着が湧き出てくる。
(さあ、殿下。ご指示を! 殿下はこの状況からでも助かる方法を思いついたに違いない! だって、これまで何度もそうだった――)
私はその通りに動きます。あなたの期待通りに!
そう思ってアリアナがエリオットに視線をむければ、彼は皇族らしく背筋を伸ばし、胸を張って雄々しく指示を出す。
命令が稲妻のように戦場を引き裂いた。
「焼き殺せ、彼女ごとだ!」
にい、と口の端を上げた殿下の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
――なんで、どうして。
アリアナが最後に見たものは、すべてを焼き尽くす白い閃光だった。
こうしてアリアナの人生は十八歳で終わった。圧倒的な熱量の前には彼女の遺体は残らず、奇妙にねじ曲がった金属――身につけていた魔力操作の指輪だけがその場に残された。
それほどの熱量でなければ、成し遂げることはできなかったに違いない、あの魔物を殺すことなんて。
痛みも、苦しみも、世界に対する憎しみを感じる暇もなく、彼女はこの世から消えたのだった。
―――
アリアナ・ブレメア
彼女の幼少期は不遇の一言であった。
ブレメア家の長女として生を受けるが、母親は自分にとっての義母――前ブレメア夫人にそっくりな彼女を虐げ続け、子爵も彼女を守ろうとはしなかった。
彼女の魔力特性は「コスト型」であり、彼女は「命」を代償に魔力を生成する体質だったことが記録されている。
魔力の系統は大きく二つの系統に分けられている。生まれながらに「扱える魔力の量」に制限がある「制限型」、もしくは何かを代償に魔力を生み出すことができる「コスト型」。
「コスト型」の中でも特に重い代償である「命」を捧げる代わりに、彼女は大量の魔力を生み出すことが可能だった。
だが、そんな稀有な体質な娘を持った夫妻にとって何より重要だったのは、娘をいかにいい条件の相手と番わすことができるかであった。
アリアナは自分の父親よりも高齢の男に嫁ぐことを強要されていた。
貴族学校にすら通わせてもらえず、「社交界の笑いもの」であるブレメア家出身の彼女に手を差し伸べ、異変に気づくものなどいるはずもなく。
そういった「よくある生い立ち」から逃げるために彼女が選んだのは、寮制度のある騎士団へ逃げるように出奔することだった。
――2083 - アリアナ・ブレメア伝記部より引用
******
第一話をご覧いただきありがとうございます。新連載はじめました。よろしくおねがいします。
完結保証付きですので、安心して御覧ください。
この話が気に入ったらブクマ・感想もらえると嬉しいです。
グランバレー領の私設騎士団だけでは太刀打ちができず、帝都の騎士団にまで応援の要請が来たのが三ヶ月前。
ヴィンター帝国の第三皇子であるエリオットが率いる騎士団はこういった辺境の激戦区に派遣されることが多かったため、誰もが今回の派遣も「数ヶ月程度国境の警備をしていれば終わるだろう」と楽観的に考えていた。
まさか、いつもどおりの任務が、未曾有の危機に立ち向かうことになるだなんて誰も思いもしなかったのだ。
(まずいかもしれないなぁ)
第三騎士団の唯一の女性騎士であるアリアナ・ブレメアは”それ”を直視したままそう、ぼんやりと思った。
眼の前の地獄のような光景から逃げたいと思う、一種の現実逃避だったのかもしれない。
めきめきと音がした。最初は誰もが地震か?と思い気にも止めなかったが、次いで大砲のような強烈な音を伴う地割れとともに”それ”は現れた。
“それ”とはかつて見たことも無い程巨大な――ワームのような魔物だった。
一瞬の静寂のあとワームが巨大な体をぞんぶんに使い、手近にあった一軒家を締め上げる。ばきばきと音を立てて一軒家がクッキーのように崩れ落ちた。水道管が破裂し、あたり一面に汚水が侵略していく。
凶悪な口は逃げ遅れた家畜をひょいと摘み上げ、くちゃくちゃと嫌な音を立てて咀嚼する。開いた口には鋭い牙がびっしりと二重に並んでいた。
赤。
アリアナの眼前が赤一色に染まる。
服の裾で顔を拭けば血がべっとりと付着していた。当然アリアナのものではない。
まるでやわらかい果物を食べるかのように、簡単に家畜がワームの口へと飲み込まれていく。耳を塞ぎたくなるような悲痛な断末魔と、口端から溢れる赤い血液。どうやらそれがアリアナに降り注いだようだった。
ワームの胴体からは何本もの触手が伸びており先端には目がついている。無数の目がかっと開かれその場にいる人間を品定めするように睥睨する。
――まるで、次に食べる相手を吟味しているかのように。
『この魔物が暴れ出したらこの国が亡国と化すのも時間の問題だ』
誰もが現状を把握できた。この場にいるのは国境を守ってきた経験豊富な騎士たちである。
彼女たちのいる砦の先には集落が、そしてその先には帝都がある。ここよりも人が大勢いて、その大半が民間人で……想像しただけでゾッとした。
べっとりとした土留色の皮膚の前には弓も剣も投石器も鈍い音を立てて弾かれる。その様子からダメージを与えられているとは到底思えなかった。
その光景は騎士団の心を折るのに十分であり、恐怖が具現化したような姿のワームに誰も立ち向かおうとはしなかった。……ただ一人を除いて。
アリアナは横目で同僚たちを見た。顔を青く染め震えるもの、その場で吐き出すもの、狂気に侵されひたすらに笑い出すもの、地獄の様相が広がっていた。
彼女が誰よりも信頼している上官であり、この国の第三皇子であるエリオットですら化け物を前に目を見開いたまま動かない。
いや、恐怖で動けないのだ。
埃と土煙、血の混じった臭い。
(これは、よくない気がする)
胸の中でざわりと嫌な波が立つ。
こいつに対して、怯えや恐怖――それらに類する感情を向けるのはよくない。
それだったらいっそ後から敵前逃亡を叱責されてでも逃げた方がいい。本能的にそう感じていた。
いつだってこの野生じみた本能はアリアナを救ってくれた。
ならば自分のやることは決まっている。
時が止まったように皆が固まるなか、アリアナだけがエリオットの前に跪いた。
アリアナの黒い髪の毛が頬の横を滑る。
「殿下。どうぞ、わたしにご命令を。ただ一言で良いのです」
そう言って勇敢にも笑って見せた。
アリアナが動いて初めてエリオットも正気に戻ったかのように言葉を告げた。
「……戦うのか」
青い瞳が痛みに耐えるように揺れている。戦わせたくない、とエリオットの目は語っていた。
「はい。勝てる見込みは少ないですが、時間稼ぎくらいならできます。この中でそれができるのは私か殿下だけです。殿下は――……」
殿下はあれに恐怖を抱いている。だから私が行きます。とは言えなかった。
彼女にとってエリオットは敬愛する上司である。
「……司令官としての役割が残されています。私が戦っている間に心が折れたものは撤退させ、残ったものと共にあの魔物を殺す方法を考えてください。あいつの姿を恐怖を抱く人には見せるべきではない。彼らの撤退を具申します。」
エリオット率いる第三騎士団は最前線へと飛ばされる、死亡率が最も高い戦場である。
そんな中でもエリオットはいつでも諦めず、アリアナたちには思いつかないような方法で状況を打破してきた。彼の機転がなければアリアナはきっと何度も死んでいただろう。
――だから私は一人であの化け物に立ち向かうことができるのだ。もっと絶望的な状況だってあった。今回はたかが巨大なワーム一匹。殿下ならきっとなんとかしてくれる。何も恐れることなんてない。
「頼む」
「拝命致しました」
アリアナにとってエリオットは絶対的な信頼を寄せるに足る人物であった。短い命令であったとしてもそれだけ聞ければ十分だった。
「魔術師たちは集まって魔物の周囲に結界を貼れ! 少しでも被害を抑えるんだ。心の折れたものは下がれ、撤退だ!」
指示の声を背に受けながらアリアナは魔物と対峙した。
たった一人で見たこともない魔物と対峙しても、アリアナは怖くなかった。自分の背中には信頼できる仲間がいたから。
***
ワームと対峙した瞬間、世界から音が消えた。
魔術師たちが結界を張ってくれたのだろう。自陣の優秀な魔術師たちには感謝しかない。
異様な雰囲気を感じ取ったのかワームが巨大な身体を結界に叩きつける。結界にヒビが入るが瞬時に修復された。
「お前の相手はこっちだ、この化け物!」
自らを奮い立たせるようにアリアナは大声をあげて挑発した。
腰に履いた剣を構え、アリアナは剣に魔力を通して手近な触手に切り掛かる。
むっちりとしたワームの肉に剣が食い込む、硬い、が。力任せに押し切ると血が噴水のように噴き出してあたりを汚した。
切り落とされた触手はびちびちと地面をのたうちまわり、先端の目がアリアナをぎろりと睨んだ。どうやら無事に敵だと認識されたらしい。
(思った通りだ。物理的な攻撃は効きにくいけれど、大量の魔力を通した攻撃だったら効く)
幸いにしてアリアナはこの国でもトップクラスの魔力量を誇る騎士だ。
物理的に切れるならまだ望みはある。時間稼ぎをすればエリオットがいい作戦を思いついてくれるかもしれないし、ヒットアンドアウェイで削り殺すことも可能かもしれない。
無数の触手がアリアナに襲いかかる。
それら全てを叩き伏せ、切り伏せ、時に踏み躙った。
一本捌ききれなかった触手が右足に絡みつく、途端に鈍い焼け付くような痛みが襲った。
叩き切るが遅く、彼女のふくらはぎには風穴が空いていた。どろりとした赤黒い血が騎士服を汚す。
ワームの攻撃は絶えることなく続く。それも傷ついた右足を狙ってくるのだ。
右足を庇えば死角となった左側から触手が叩きつけられる。
(傷ついた部位を積極的に狙ってくるということは知性があるのか)
あえてアリアナは右側を無防備にした。死角から襲い来る触手の対処に必死であるかのように。
相手がそれを見逃すはずもなく、大量の触手がアリアナの右足めがけて攻撃を仕掛けてくる。
鈍い金属音のような音が戦場に響く。
触手からぶしゅ、と気の抜けた炭酸のような音が響き、大量の血が流れ出す。予想外だったのかワームは触手を引っ込めた。触手には無数の穴が空いていた。
右足――もっというと、触手によって傷つけられた部位には赤黒い剣山のような鋭いトゲが生えていた。
アリアナの得意な魔法は「血液操作」。
体内、体外問わず自身の血液に魔力を通せば盾にも刃にもなる特異な魔法だ。
他の液体と混ざっても彼女がそれを血液だと認識する限りは操作可能な能力。単純に水を操作するよりも魔力の消費量が少なく、血を流せば流すほど有利になり、どれだけ傷つけられたとしてもかさぶたを一瞬で作れる。戦場に雨でも降っていれば最高だ。その場にある液体すべてが彼女の操作対象になる。
継戦能力、奇襲、汎用性に長けた良い能力であると自負していた。
漏れ出た血液を操作し、鋭いトゲの形にして硬化。この攻撃は知性がある生き物ほど引っかかりやすい。
(ただの初見殺しでしかないから、こんなに早く使いたくなかったんだけどなー……)
触手の数が増えている。増えているだけではない、切った手応えが最初よりも増している。一太刀で触手を切り落とすことができなくなってきた。
「くそ、どんどん強くなっているのか……!」
手札のカードを一枚切ったのでアリアナは血液操作を存分に使うことにした。手のひらに血をべっとりとつけ、魔力を通していびつな剣の形を作った。国から支給された剣よりも耐久力も鋭さも上で、使い勝手も良い。
今度は左足に触手が絡みつき、べきべきというトタンを踏み潰したような音が戦場に響く。
左足が潰された。だが、かろうじて動ける。血液を操作して傷ついた足に外骨格のようにまとわりつかせれば、まだ戦える。魔力はまだ尽きてはいない。
体は動かなくても脳と心臓が潰されない限り、自らを操り人形にして戦い続けることができる。
彼女の首元にじわじわとアザが広がっていく。金属の表面に張り付くサビのような、赤茶色のアザ。
腹から全身にかけて広がるそのアザは、「それ以上魔力を使うと死ぬぞ」というサイン。
それでもアリアナは攻撃の手を止めることはなかった。止めたら国ごと死ぬ、止めなくても死ぬ。ならば後者を選ぼう。騎士として国のために戦い、国のために死ぬのだ。大事な人たちを蹂躙されないために。
血液を細かく分割、凝固、投擲、分割、凝固、投擲、分割……――。
魔力で硬化した血液の弾は一つ一つが銃と同等の威力を持つ。ワームの体に無数の穴が空き、血液が吹き出すがそれでも倒れない。
敵が強くなっているとわかった時点で、アリアナは「完全勝利」という目標を捨てた。目指すべきところは「最大限の時間稼ぎ」と「最大限敵にダメージを与える」ことだ。結界が解かれるまでは時間を稼がなければいけない。
だが、それも長くは持たなかった。
長い体がアリアナの腹に巻きつく。まるで大蛇が獲物を飲み干す前に締め落とすように。
メキメキと身体中の骨が悲鳴をあげる。
息を吐いたらその分だけ締め付けられ、呼吸が吸えなくなる。このままでは近い未来に待っているのは窒息死だ。
アリアナの全身は血まみれで、いくつもの穴が空いていた。酸素不足と疲労と全身を襲う痛みでもはや指先一つ動かすことも難しい。目の前が黒く染まっていく。
けれど、まだ戦える。
全身を覆う血液を固く凝固させ、自身を覆う外骨格になるように操作した。かろうじて空いた隙間でぷは、と短く呼吸をしたら口から血反吐が出てきた。それでも久しぶりに吸えた酸素で頭の中がクリアになる。次に自分が何をするべきかがはっきりと分かった。
アリアナは力を振り絞り自らの身体を締め付ける体表を握ると、そのまま腕力で握りつぶした。手のひらに生暖かい血がべっとりと付着する。血液はアリアナの全身を濡らし、アリアナを締め付けているワームの体表にもどちらのものかわからない血液が大量にこびりついている。
破壊された水道管から噴き出し続け、戦場に雨のように降り注ぐ水。
水はワームの全身を濡らし、体からはアリアナがつけた傷跡から血が流れ出している。水も、敵の血も、アリアナの血液が少しでも混じっていれば操作対象となる。
――それら全てを"硬化"させた。
アリアナの全身にアザが回っていく。首元から鼻へ、目元へ。指先までもが覆い尽くされていく。アザが全身に広がっていく感覚は、大量の虫が皮下の表面で這いずり回っているようで気が狂いそうになる。
きっと生き残れたとしても長くは持たないだろう。
途端に、衝撃波がアリアナの全身を襲った。
鼓膜が震え、肺が悲鳴を上げる。
聞こえてくる音が目の前のワームの怒りの声であることに気づくのに数瞬を要した。体の外側と内側から自由を潰されるというのは、そうとうこいつの癇に障ったらしい。
(ミミズの分際で発声器官まであるのか)
全力の殺意が、今、アリアナに向けられている。
血液の拘束が解けた後、自分はきっと、楽には死ねない。だが、それでいいと思った。
殺意が自分に向いている限り、味方は動ける。
自分が囮であることが、最大限に役割を果たした証になる。
だが、ワームにそれが分かることはないのだろう。せいぜい時間をかけて殺せば良い。
そう思った瞬間、口の端が自然と上がっていた。
(こうしている間にも、殿下が作戦を考えてくれている。ざまあみろ!)
にや、と笑ったその顔は、血に塗れ、全身にアザが刻まれている。
それは騎士というより、眼前のワームと同じ――まさしく“化け物”というにふさわしい姿だった。
ワームが、わずかにたじろいだ気がした。
……死の間際にアリアナの脳が見せた、都合の良い幻覚だったのかもしれない。
急に世界に音が戻った。結界が解かれたのだと瞬時に理解する。
絶望の中に一筋の希望が見えたような気がして、心の底から安堵した。
(生き残ることができるんだ! これから先も殿下のそばで、騎士として!)
声に出そうとしてもごぼ、という奇妙な音が口から漏れただけだった。
自らの死を受け入れていたのに、エリオットがなにか作戦を考えてくれたとわかっただけで生への執着が湧き出てくる。
(さあ、殿下。ご指示を! 殿下はこの状況からでも助かる方法を思いついたに違いない! だって、これまで何度もそうだった――)
私はその通りに動きます。あなたの期待通りに!
そう思ってアリアナがエリオットに視線をむければ、彼は皇族らしく背筋を伸ばし、胸を張って雄々しく指示を出す。
命令が稲妻のように戦場を引き裂いた。
「焼き殺せ、彼女ごとだ!」
にい、と口の端を上げた殿下の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
――なんで、どうして。
アリアナが最後に見たものは、すべてを焼き尽くす白い閃光だった。
こうしてアリアナの人生は十八歳で終わった。圧倒的な熱量の前には彼女の遺体は残らず、奇妙にねじ曲がった金属――身につけていた魔力操作の指輪だけがその場に残された。
それほどの熱量でなければ、成し遂げることはできなかったに違いない、あの魔物を殺すことなんて。
痛みも、苦しみも、世界に対する憎しみを感じる暇もなく、彼女はこの世から消えたのだった。
―――
アリアナ・ブレメア
彼女の幼少期は不遇の一言であった。
ブレメア家の長女として生を受けるが、母親は自分にとっての義母――前ブレメア夫人にそっくりな彼女を虐げ続け、子爵も彼女を守ろうとはしなかった。
彼女の魔力特性は「コスト型」であり、彼女は「命」を代償に魔力を生成する体質だったことが記録されている。
魔力の系統は大きく二つの系統に分けられている。生まれながらに「扱える魔力の量」に制限がある「制限型」、もしくは何かを代償に魔力を生み出すことができる「コスト型」。
「コスト型」の中でも特に重い代償である「命」を捧げる代わりに、彼女は大量の魔力を生み出すことが可能だった。
だが、そんな稀有な体質な娘を持った夫妻にとって何より重要だったのは、娘をいかにいい条件の相手と番わすことができるかであった。
アリアナは自分の父親よりも高齢の男に嫁ぐことを強要されていた。
貴族学校にすら通わせてもらえず、「社交界の笑いもの」であるブレメア家出身の彼女に手を差し伸べ、異変に気づくものなどいるはずもなく。
そういった「よくある生い立ち」から逃げるために彼女が選んだのは、寮制度のある騎士団へ逃げるように出奔することだった。
――2083 - アリアナ・ブレメア伝記部より引用
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第一話をご覧いただきありがとうございます。新連載はじめました。よろしくおねがいします。
完結保証付きですので、安心して御覧ください。
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