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第四章
第23話【現在】次兄と亡命、あるいは溺愛
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『これだけは おぼえといて
かくごをキメたおとこは わらうのよ』
その意味を問いただす前にタウンハウスについてしまった。
覚悟を決めた男は笑う……?
嘲笑ったわけではない、というのは分かったけれど。
頭に無数のはてなマークが浮かんでいる。
結局疑問は解けないままだ。このまま馬車の中でモーリスと続けて喋ろうかな、そう思った時、馬車の扉が空いた。
「アナ!」
扉を開けたのは次兄のユリスお兄様だった。
ずっと領地にいた私と違って、ユリスお兄様は帝都で仕事をしているので、なかなか会えなかった。
あら、お兄様、お久しぶりです。と挨拶をする前に腕を掴まれる。
今日はやけに腕を掴まれる日だけれど、お兄様の手つきは陛下の手つきと違って優しかった。
そのまま抱きかかえられた。
「亡命しよう」
お父様譲りの灰色の瞳が淡い茶色の前髪越しに私を射抜く。
「……へっ……!?」
数秒遅れて、なんとかそう反応した。
モーリスが小声で「あら、イケメン……」と呟くのが聞こえた。モーリスは片目隠れが好みなのか。メモメモ。
「騎士団で話は聞いた。陛下に目をつけられたらしいな」
「目をつけられた……はい……たぶん、おそらくそう……」
「だから、逃げよう。俺の魔法ならできる」
ユリスお兄様の魔法は瞬間移動だ。この国では数少ない移動系の能力者である。
但し、消費する魔力が多いため、一日二回しか使えないらしい。
「それが無理なのよ」
ユリスお兄様に見惚れていたモーリスが正気を取り戻し、何があったかを説明してくれた。
盗聴魔法については伏せて、それ以外を。
「位置情報魔法……!? 陛下は何を考えてるんだ!! 変態じゃないのか!」
ユリスお兄様が声を荒げるところ、初めて聞いた。思わず耳を塞ぐくらい大きい声だった。
「変態じゃないのか」の一言には私もモーリスも頷くしか無かった。
ユリスお兄様、彼は、家族の中ではいつも一歩引いた立ち位置だった。
家族が皆「アナスタシアかわいい!」と猫可愛がりして甘やかして抱っこして過剰なまでにスキンシップする中で、彼だけは唯一遠くから見ていたり「そんなに甘やかしていたら駄目になる」と家族の溺愛を諌める立場だった。
私に甘い人しか居ないコルデー領で私が訓練できていたのも、彼の鶴の一声によるところが大きい。
『なにもさせないのでは、せっかく健康になったのにまた病魔に侵される』
と言ってアナスタシアと一緒に走り込みや、剣術の訓練をしてくれた。
今日、私が体力試験で好成績を取れたのはそんなユリスお兄様のおかげである。
だからこうやって抱き寄せられることも、「亡命しよう」とかいう過激な発言も、慣れない。
実は知らない間に入れ替わってる?いや、何回見てもこの人は私のお兄様だ。間違いない。片目だけ隠れている前髪も、冷ややかな目元も、全てが私の記憶の中のお兄様と一致している。
お兄様の腕が怒りでぶるぶると震えているのが分かる。抱き上げられてる私もつられて震えてるから。
……これ、盗聴もされてるって知ったら更に怒るかな……。言わないでおこう。
モーリスと無言で頷きあう。
「決闘するか……」
ぼそ、とユリスお兄様が不穏なことを呟く。
「瞬間移動じゃ陛下に勝ち目ないでしょ」
「だが、可愛い妹に位置情報魔法なんてクソをつけられたんだ。腹の虫がおさまらない」
「お兄様!?」
過激派お兄様が止まらない。「かわいい」ってユリスお兄様から言われたこと無かったのに。
盗聴されていることを知っている立場からすると発言の数々にヒヤヒヤしてしまう。
お兄様って近衛騎士なんだけど、大丈夫かな。明日陛下にいじめられたりしない?
「お兄様、私、大好きなお兄様が陛下のこと悪く言うのは聞きたくありません」
「アナ、でも……――」
「ええ、大好きで、大事なお兄様になにかあったらって思ったら……私、悲しみのあまり、立ち直れなくなってしまうかもしれません……。傷心のあまり国を飛び出してしまうやも」
盗聴しているであろう陛下にも聞こえやすいように、わざとゆっくり言ってやった。
陛下もこれで明日お兄様をいじめることは無いだろう。
モーリスが「やるじゃん」って顔してる。
アリアナの時はこういう、愛されてる自分を利用するやり方は使わなかった。使う必要もなかったし、使う相手もいなかった。
前世を知られている相手の前でこれをやるのは正直、恥ずかしい。
「そ、そうか」
普段石像かと疑うくらいには表情が動かない人なのに、頬の端が赤く染まっている。
「今日は色々あって疲れてしまいました。もう休みたいです」
「よし、家に入ろうそうしようすぐ休もう」
モーリスに手を振って別れた。
「明日また医務室にくるのよー! 忘れないでね」
治療があるから明日になればまたモーリスに会える。
それが嬉しくて、モーリスの姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
かくごをキメたおとこは わらうのよ』
その意味を問いただす前にタウンハウスについてしまった。
覚悟を決めた男は笑う……?
嘲笑ったわけではない、というのは分かったけれど。
頭に無数のはてなマークが浮かんでいる。
結局疑問は解けないままだ。このまま馬車の中でモーリスと続けて喋ろうかな、そう思った時、馬車の扉が空いた。
「アナ!」
扉を開けたのは次兄のユリスお兄様だった。
ずっと領地にいた私と違って、ユリスお兄様は帝都で仕事をしているので、なかなか会えなかった。
あら、お兄様、お久しぶりです。と挨拶をする前に腕を掴まれる。
今日はやけに腕を掴まれる日だけれど、お兄様の手つきは陛下の手つきと違って優しかった。
そのまま抱きかかえられた。
「亡命しよう」
お父様譲りの灰色の瞳が淡い茶色の前髪越しに私を射抜く。
「……へっ……!?」
数秒遅れて、なんとかそう反応した。
モーリスが小声で「あら、イケメン……」と呟くのが聞こえた。モーリスは片目隠れが好みなのか。メモメモ。
「騎士団で話は聞いた。陛下に目をつけられたらしいな」
「目をつけられた……はい……たぶん、おそらくそう……」
「だから、逃げよう。俺の魔法ならできる」
ユリスお兄様の魔法は瞬間移動だ。この国では数少ない移動系の能力者である。
但し、消費する魔力が多いため、一日二回しか使えないらしい。
「それが無理なのよ」
ユリスお兄様に見惚れていたモーリスが正気を取り戻し、何があったかを説明してくれた。
盗聴魔法については伏せて、それ以外を。
「位置情報魔法……!? 陛下は何を考えてるんだ!! 変態じゃないのか!」
ユリスお兄様が声を荒げるところ、初めて聞いた。思わず耳を塞ぐくらい大きい声だった。
「変態じゃないのか」の一言には私もモーリスも頷くしか無かった。
ユリスお兄様、彼は、家族の中ではいつも一歩引いた立ち位置だった。
家族が皆「アナスタシアかわいい!」と猫可愛がりして甘やかして抱っこして過剰なまでにスキンシップする中で、彼だけは唯一遠くから見ていたり「そんなに甘やかしていたら駄目になる」と家族の溺愛を諌める立場だった。
私に甘い人しか居ないコルデー領で私が訓練できていたのも、彼の鶴の一声によるところが大きい。
『なにもさせないのでは、せっかく健康になったのにまた病魔に侵される』
と言ってアナスタシアと一緒に走り込みや、剣術の訓練をしてくれた。
今日、私が体力試験で好成績を取れたのはそんなユリスお兄様のおかげである。
だからこうやって抱き寄せられることも、「亡命しよう」とかいう過激な発言も、慣れない。
実は知らない間に入れ替わってる?いや、何回見てもこの人は私のお兄様だ。間違いない。片目だけ隠れている前髪も、冷ややかな目元も、全てが私の記憶の中のお兄様と一致している。
お兄様の腕が怒りでぶるぶると震えているのが分かる。抱き上げられてる私もつられて震えてるから。
……これ、盗聴もされてるって知ったら更に怒るかな……。言わないでおこう。
モーリスと無言で頷きあう。
「決闘するか……」
ぼそ、とユリスお兄様が不穏なことを呟く。
「瞬間移動じゃ陛下に勝ち目ないでしょ」
「だが、可愛い妹に位置情報魔法なんてクソをつけられたんだ。腹の虫がおさまらない」
「お兄様!?」
過激派お兄様が止まらない。「かわいい」ってユリスお兄様から言われたこと無かったのに。
盗聴されていることを知っている立場からすると発言の数々にヒヤヒヤしてしまう。
お兄様って近衛騎士なんだけど、大丈夫かな。明日陛下にいじめられたりしない?
「お兄様、私、大好きなお兄様が陛下のこと悪く言うのは聞きたくありません」
「アナ、でも……――」
「ええ、大好きで、大事なお兄様になにかあったらって思ったら……私、悲しみのあまり、立ち直れなくなってしまうかもしれません……。傷心のあまり国を飛び出してしまうやも」
盗聴しているであろう陛下にも聞こえやすいように、わざとゆっくり言ってやった。
陛下もこれで明日お兄様をいじめることは無いだろう。
モーリスが「やるじゃん」って顔してる。
アリアナの時はこういう、愛されてる自分を利用するやり方は使わなかった。使う必要もなかったし、使う相手もいなかった。
前世を知られている相手の前でこれをやるのは正直、恥ずかしい。
「そ、そうか」
普段石像かと疑うくらいには表情が動かない人なのに、頬の端が赤く染まっている。
「今日は色々あって疲れてしまいました。もう休みたいです」
「よし、家に入ろうそうしようすぐ休もう」
モーリスに手を振って別れた。
「明日また医務室にくるのよー! 忘れないでね」
治療があるから明日になればまたモーリスに会える。
それが嬉しくて、モーリスの姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
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