9 / 10
第1章 最寄本家の人びと(教子とトンヌラ)
8 トンヌラは、家族口座へ入れるお金を稼ぐべくバイトを探す(その⑤)
しおりを挟む
アルバイトの面接会場である旧ねこま遊園の古城は、外観全体としても、壁や窓枠など各設備もリアルに古めかしく、それっぽい雰囲気満点だ。
大正時代に、ねこま遊園が開園した当初から、食堂として建てられて……
「いや、もしかするともっと古の時代から、この地に……」と、トンヌラはひとり思っている。
古城の両開きの玄関扉は、大きく開け放たれている。
扉の外側、左脇に、「長テーブル」と「丸椅子」が置いてある。
テーブルには表面に「テーブルクロス」が掛けてある。
執事風の、「てろっとした素材の衣装」を着る男は、テーブルの上の「A4ヨコのOA用紙」に印字した表を目線で示しながら、「こちらで、お名前と、ご職業、レベルをお願いします」と言った。
用紙の横に、「ボールペン」が置いてある。
トンヌラはその場で目をすっとつぶり、息を吸って、はきだす。
すると、頭の中に、ビートルズの「アクロス・ザ・ユニヴァース」が響いてくる。
ジョン・レノンの、世界で彼だけの声を感じながらトンヌラは
(そうだ。そう……。なにものも、僕の世界を変えられないのだ)
目を開く。もう、世界は彼のものだ。
目の前の「切り株」に腰掛ける。
長テーブルの脚が、ふっとトンヌラの視界に入る。
一瞬「直線的な鉄製」に見えた気がしたが、再び見ると「職人が手がけた風の木製」になっている。
「テーブルクロス」の化繊的な手触りはもうない。
ゴワゴワとうねる麻の布の上で、「羊皮紙」に「羽製ペン」を走らせて、「サパルフィリア語で」自身の名を書き入れているトンヌラは、書きにくさを感じて、少し顔をしかめる。
いつのまにか、さっきのスライムが、左膝の上に這い上がってきている。
「おい、くすぐったいよ」、トンヌラが下を向いて言うと
「あはは、ぼくもコッソリ連れてってよ」、スライムは笑う。
「どうかされましたか?」、執事はもう、テロテロの素材の服など着てはいない。深緑のローブを着込んで、革製の編み上げサンダルを履いている。
古城の庶務いっさいを司るものにふさわしいいでたちに見える。
どうにかこうにか書き終えると、トンヌラは立ちあがる。
スライム、その名をショボスライは、膝からはね飛ばされ、地面にぼてっと落ちる。「イテテ!」
「書き終わりましたかな。それでは、会場へご案内します。こちらへどうぞ」、執事は歩き出そうとして、玄関扉の数メートル先にある、閉ざされた重厚な両開き扉を手で示し、
「ああ、この奥が、最終面接会場になってございます。ですが、まずは1次選考に進んでいただきます。これから行くのが、1次選考会場です」。
たしかにその扉の横には、ランタンの下に羊皮紙で「最終審問の間」と書かれている。
執事、トンヌラ、そしてショボスライの順に、扉の前を右手に折れ、円周状の細めの通路を進んでいく。
(ソソソ……ガシャンガシャン……てーん、てーん)
通路を満たしているのは、蛍光灯の人工的な光ではなく、所々くべられた松明だ。
「他の応募者も、来ているのですか?」、トンヌラが前をゆく執事に尋ねる。
「ええ、何人かの方、お見えになっております」、執事が答える。
「つよそーなやつもいた?」、ショボスライが訊く。
だが執事は何も聞こえないかのようにその質問を無視し、先へ歩みを進める。
「ちぇっ!かんじわるーい」、ショボスライが言うと、
「口を慎め」、トンヌラがたしなめる。
「こちらでございます」、通路の終点は、扉だ。無論、スチール合板製の扉に、アルミ混ざりのつるっとしたドアノブが付いていたりなどするわけがない。木製の重々しい扉に、鉄の錆びた取手と相場が決まっている。
執事が扉を開け、「では、時間まで、中でお待ちください」と、トンヌラが入るよう促す。
失礼します、と言いそうになって、トンヌラははっと
(いや、俺は、王族なのだ。失礼しますとか、そんなセリフ言わないだろう)
と思い直し、無言で室内に入る。
部屋は、明るい。「ミエルワ」など何らかの魔法で、照度が保たれているのは疑いない。
長テーブルを田の字に4つ、寄せて組み合わせてあり、そこに先に部屋に入っていた者たちが3人、座っている。
ショボスライはいつの間にかトンヌラの肩のところに登っている。
トンヌラは歩み寄って、テーブルに寄せてあるパイプイス……、もとい、「木製の椅子」に、腰を下ろした。
大正時代に、ねこま遊園が開園した当初から、食堂として建てられて……
「いや、もしかするともっと古の時代から、この地に……」と、トンヌラはひとり思っている。
古城の両開きの玄関扉は、大きく開け放たれている。
扉の外側、左脇に、「長テーブル」と「丸椅子」が置いてある。
テーブルには表面に「テーブルクロス」が掛けてある。
執事風の、「てろっとした素材の衣装」を着る男は、テーブルの上の「A4ヨコのOA用紙」に印字した表を目線で示しながら、「こちらで、お名前と、ご職業、レベルをお願いします」と言った。
用紙の横に、「ボールペン」が置いてある。
トンヌラはその場で目をすっとつぶり、息を吸って、はきだす。
すると、頭の中に、ビートルズの「アクロス・ザ・ユニヴァース」が響いてくる。
ジョン・レノンの、世界で彼だけの声を感じながらトンヌラは
(そうだ。そう……。なにものも、僕の世界を変えられないのだ)
目を開く。もう、世界は彼のものだ。
目の前の「切り株」に腰掛ける。
長テーブルの脚が、ふっとトンヌラの視界に入る。
一瞬「直線的な鉄製」に見えた気がしたが、再び見ると「職人が手がけた風の木製」になっている。
「テーブルクロス」の化繊的な手触りはもうない。
ゴワゴワとうねる麻の布の上で、「羊皮紙」に「羽製ペン」を走らせて、「サパルフィリア語で」自身の名を書き入れているトンヌラは、書きにくさを感じて、少し顔をしかめる。
いつのまにか、さっきのスライムが、左膝の上に這い上がってきている。
「おい、くすぐったいよ」、トンヌラが下を向いて言うと
「あはは、ぼくもコッソリ連れてってよ」、スライムは笑う。
「どうかされましたか?」、執事はもう、テロテロの素材の服など着てはいない。深緑のローブを着込んで、革製の編み上げサンダルを履いている。
古城の庶務いっさいを司るものにふさわしいいでたちに見える。
どうにかこうにか書き終えると、トンヌラは立ちあがる。
スライム、その名をショボスライは、膝からはね飛ばされ、地面にぼてっと落ちる。「イテテ!」
「書き終わりましたかな。それでは、会場へご案内します。こちらへどうぞ」、執事は歩き出そうとして、玄関扉の数メートル先にある、閉ざされた重厚な両開き扉を手で示し、
「ああ、この奥が、最終面接会場になってございます。ですが、まずは1次選考に進んでいただきます。これから行くのが、1次選考会場です」。
たしかにその扉の横には、ランタンの下に羊皮紙で「最終審問の間」と書かれている。
執事、トンヌラ、そしてショボスライの順に、扉の前を右手に折れ、円周状の細めの通路を進んでいく。
(ソソソ……ガシャンガシャン……てーん、てーん)
通路を満たしているのは、蛍光灯の人工的な光ではなく、所々くべられた松明だ。
「他の応募者も、来ているのですか?」、トンヌラが前をゆく執事に尋ねる。
「ええ、何人かの方、お見えになっております」、執事が答える。
「つよそーなやつもいた?」、ショボスライが訊く。
だが執事は何も聞こえないかのようにその質問を無視し、先へ歩みを進める。
「ちぇっ!かんじわるーい」、ショボスライが言うと、
「口を慎め」、トンヌラがたしなめる。
「こちらでございます」、通路の終点は、扉だ。無論、スチール合板製の扉に、アルミ混ざりのつるっとしたドアノブが付いていたりなどするわけがない。木製の重々しい扉に、鉄の錆びた取手と相場が決まっている。
執事が扉を開け、「では、時間まで、中でお待ちください」と、トンヌラが入るよう促す。
失礼します、と言いそうになって、トンヌラははっと
(いや、俺は、王族なのだ。失礼しますとか、そんなセリフ言わないだろう)
と思い直し、無言で室内に入る。
部屋は、明るい。「ミエルワ」など何らかの魔法で、照度が保たれているのは疑いない。
長テーブルを田の字に4つ、寄せて組み合わせてあり、そこに先に部屋に入っていた者たちが3人、座っている。
ショボスライはいつの間にかトンヌラの肩のところに登っている。
トンヌラは歩み寄って、テーブルに寄せてあるパイプイス……、もとい、「木製の椅子」に、腰を下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる