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第二十七踊

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「お目汚し、大変失礼いたしました」

 私は退室の断りを入れる。

「うむ」

 と、短く言い放つ第二王子。隣のシンデレラともども勝利を確信した笑みを浮かべている。半分、私への興味は失せたようで、周りを囲む貴族たちの視線を心地良く受けているようだ。全てのことが思いのまま、そう感じているに違いない。人生の絶頂を味わっているのだろう。

 狭い王宮ーー、
 限られた人脈ーー、
 代わり映えのない日々ーー、

(ああ……。『裸の王様』とは、このことか)

 私は、そんな逸話を思い出す。また、哀れな第二王子を見て、可笑しさが込み上げる。
 シンデレラに何らかの方法で意識誘導されているのだろうが、本性が滲み出ている。
 私は、ふと領地の山や川、領民、まだ見ぬ異国へ思いを馳せる。

(走馬灯のようで縁起でもないけど……)

 途端に国が窮屈に感じた。国に縛られているロワール=ソーヌ=デリシアーー、自分自身が卑小に思えた。

(さようならーー)

「……なにが可笑しいの」

 私の目を見たシンデレラが、顔色を変えた。そして、その声が、時を止めた。衆目がシンデレラに引き付けられ、次に私を捉えた。

「ご挨拶申しあげますーー」

 私は落ち着いて口を開く。自分でもビックリするくらいの、静かで通る声だった。

「まず、陛下が病と聞き及んでおりますが、未だ病床に伏せっておられるご様子。ご快癒お祈り申し上げます。
さて、私のような者が口にするまでもなく、陛下の御側にお仕えする臣は宮中の仕事を疎かにせず、忠義に篤い者たちは外にわが身を忘れてお仕えしておりますのは、陛下に報いようとしているからでございましょう。
 殿下におかれましても、お耳に入る意見を広く受け入れ、それによって陛下を手本とされ、臣下が真心から殿下に進言する道を守っておられます。
 王・臣はともに一体であり、良い行いをした者を昇進させ、悪い行いをした者を罰する。そのやり方において、両者の間に相違がございません。もし不正を行い罪を犯す、または忠義にあつい良い行いをする者があれば、どうか役人にお預けになって、その者の刑と賞を論じ、それによって殿下の公正で明らかな御心を世にはっきりとお示しにならなければなりません。
 私情に流され偏った考えに陥ることなく、宮廷の内と外とで法の執行に差異がないのはもちろんのことです。
 宰相閣下を始め閣僚の方々は皆善良で忠実であり、こころざしに真心があって純粋です。そのため王は彼らを選び抜かれたのです。
 私が思いますに、王宮の事は、事の大小を問わず、何でも彼らに相談してお尋ねになり、その後に実行なされば、必ず手抜かりの部分を助け補い、広く益する所があります。
 聡明な臣を親しく用いて、つまらない人物を遠ざけたのは我が国が興隆した原因であり、今後も聡明な臣を親しく用いて彼らを信用なさってください。そうすれば優れた者劣った者、それぞれ適材適所の働きどころを与えるでしょう
 これが臣が王に報いて、忠義を尽くすための責務なのだと理解できます。
 殿下もまた、自らお考えになって、正しい道について臣下に意見を求め相談し正しい言葉を受け入れて、深く国のために尽力いただいており、頼もしく映ります。
 臣はこれまでの恩を思い、感激にたえません。今遠く離れるに当たって、表に臨んで涙が流れ、言う言葉も知りません。
 ーーこれを別れの言葉とさせていただきます」

 私は故事になぞらえ、

『まあ、頑張れよ』

ということを言い切った。
 ほとんどの貴族が唖然とし、続いて気まずそうな表情を浮かべた。
 小娘の私が戯言を口にしても、大の大人が真っ向から反論するのも憚られる。流されるだろう。だが、嫌味のひとつにはなった。

『王がいないからって、好き勝手するなよ。宰相とかの邪魔すんな。つまらん奴の言いなりになると国が滅びるからさ。今まで伯爵家がクソ世話になりました。じゃあね』

 ということを不意に述べたため、急には理解しにくかったのだろう、第二王子には良く意味がわからなかったようだ。
 意味がわかったならば、第二王子は憤慨する。
 ここは早々に退散するーー。

「デリシア、今のは不敬ではありませんか」

 シンデレラの硬い声がかかる。
 確かに不敬ともとれる。というか、上から目線の口上である。親が子を諭すような内容であるのだから。この国の王太子になった第二王子へ、伯爵家の小娘が発するものではないだろう。
 だが、別れの言葉などにかこつけている。許容範囲だ。これに反応すれば、第二王子が一般的な政道に反していると認めているようでもあり、体裁が悪い。
 ……シンデレラが強硬手段に出るならば、それでも良い。

 ーー私は、屈しない。抗う。

「私の不用意な言葉で、ご不快になられたのであれば謝罪いたします。それでは、失礼いたします」

 私は強引に退室しようとする。
 シンデレラの眦が吊り上がった。

「誰か、この者をーー」

 シンデレラが声を張り上げる。
 あ、キレたな。
 私はシンデレラに強い視線を向ける。
 一瞬、怯んだように見えたシンデレラが、口を開こうとーー、

「お待ち下さい!」

 入口から凛とした声が発せられた。












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