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第三十四踊
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『悪い魔女』とは、誰のことを指すのかーー。
国が極秘裏に囲う『魔術師』は、色々な呼ばれ方をする。正式には『魔術』を使うため『魔術師』と史書には記される。
ただ、時代の変遷を経て『呪術』を扱う『呪術師』や、魔術の中でも『黒魔術』と分類されるものが得意な『黒魔術師』など、多岐に渡る。
フランシア王国には『魔術師』がいたが、後継者を育てられなかった。そして魔術師は苦し紛れに、ある『外法』を試みる。それは『死生転生』というものだ。
ーー自らの魂を新しい肉体に移し替えるという非人道的な術で、使ってはならない『外法』とされているものだ。
魔術師が使った『外法』は、半分、成功した。
『デリシア』という胎児に魔術師は転生したのだ。
だが、あろうことか『デリシア』には、本来の人格以外にも、もうひとつの『人格』が存在した。
ーーいや、もうひとつの人格も同じタイミングで転生してきたのだった。
弾き出される形となった魔術師の残り半分の魂は、憑代を求めた。既に、魔術師の元の肉体はない。『外法』を行使するに当たって、肉体は朽ちたからだ。
狂おしい時が過ぎ、魔術師の魂は憑代を見つけることができた。というより消滅寸前になって、新しい生命に潜り込むことができた。
ーー新しい生命の名前は『レイラ』。
『デリシア』とは異なり、魔術師の記憶と力を残した『レイラ』はそのまま成長してゆく。『デリシア』の姉妹として。『レイラ』は成長とともに魔力が高まるが、一方の『デリシア』は一向に魔力の片鱗も見えない。
『レイラ』が魔術師としての使命に囚われても『デリシア』は何も知らぬ娘のようだった。
ーー半身であるはずなのに、何も縛られず自由を謳歌するのは何故か?
『レイラ』は疑問が大きくなり『デリシア』のことを考えるのが辛くなった。
……それでいて、衝撃の事実を知ることになる。偶然にわかったことだ。
ーー『デリシア』には、魔法が効かない。
『レイラ』は苦々しく思う。魔術師の半身が『デリシア』に特殊能力を授けたのだろう。それは、わかる。わかるが、釈然としない。
ーー魔術師は、もともと普通の女性として生きたかった。恋をし、子を産み、老い、死んでいきたかった。
だが、現在魔術師としての記憶や人格は『レイラ』にしか顕在していない。とすると『レイラ』は、フランシア王国の『魔術師』として生きなければならない。選択肢の一つとして『逃げる』というものもあったはずなのだが、それができず、魂が膿んでいくのを自覚した。
魂の記憶に引きずられた『レイラ』は日々、魔術師としての技能を磨くだけが、自分に許された生き方となのだと思い込んだ。
そんな『レイラ』が『デリシア』のことを疎ましく感じていくのは自然の成り行きだった。
やがて『レイラ』を絶望が襲う。魔力の成長が止まってしまったのだ。想定より、遥かに低い限界値である。
これでは、転生した意味がない。他国の『魔術師』に知られれば、侵略を受けることも考えられた。
悩む『レイラ』が思い至ったのは『デリシア』から力を奪うことだった。『レイラ』に絶望を味あわせた後、『レイラ』に存在する魔術師の魂を身体から引き剥がす。確信はないが、そうすることで更なる力の増強を期待した。
この思いは『レイラ』の心を満たした。心底、震えるほどの歓喜が身を包んだ。
ーーもう、心が限界だった。
ーーこれで、苦しみから開放される。
『レイラ』は、行動を開始した。
ーー国王に病を与えた
ーー第一王子を小動物に変えた
ーー第二王子を洗脳した
ーー貴族たちの記憶を改竄した
ーー『デリシア』を陥れる舞台を整えた
けれども、結果は『レイラ』の思い通りにいかず、失敗した。
『レイラ』には訳がわからず、慟哭した。
ーー報われない
ーー救われない
追い詰められたことにより、自暴自棄になった。
魂の存在全てを消費し、城を崩壊させることで全てを無にしようと思った。
だが、それすらも阻止されてしまった……。
もう、どうでも良い……。
国が極秘裏に囲う『魔術師』は、色々な呼ばれ方をする。正式には『魔術』を使うため『魔術師』と史書には記される。
ただ、時代の変遷を経て『呪術』を扱う『呪術師』や、魔術の中でも『黒魔術』と分類されるものが得意な『黒魔術師』など、多岐に渡る。
フランシア王国には『魔術師』がいたが、後継者を育てられなかった。そして魔術師は苦し紛れに、ある『外法』を試みる。それは『死生転生』というものだ。
ーー自らの魂を新しい肉体に移し替えるという非人道的な術で、使ってはならない『外法』とされているものだ。
魔術師が使った『外法』は、半分、成功した。
『デリシア』という胎児に魔術師は転生したのだ。
だが、あろうことか『デリシア』には、本来の人格以外にも、もうひとつの『人格』が存在した。
ーーいや、もうひとつの人格も同じタイミングで転生してきたのだった。
弾き出される形となった魔術師の残り半分の魂は、憑代を求めた。既に、魔術師の元の肉体はない。『外法』を行使するに当たって、肉体は朽ちたからだ。
狂おしい時が過ぎ、魔術師の魂は憑代を見つけることができた。というより消滅寸前になって、新しい生命に潜り込むことができた。
ーー新しい生命の名前は『レイラ』。
『デリシア』とは異なり、魔術師の記憶と力を残した『レイラ』はそのまま成長してゆく。『デリシア』の姉妹として。『レイラ』は成長とともに魔力が高まるが、一方の『デリシア』は一向に魔力の片鱗も見えない。
『レイラ』が魔術師としての使命に囚われても『デリシア』は何も知らぬ娘のようだった。
ーー半身であるはずなのに、何も縛られず自由を謳歌するのは何故か?
『レイラ』は疑問が大きくなり『デリシア』のことを考えるのが辛くなった。
……それでいて、衝撃の事実を知ることになる。偶然にわかったことだ。
ーー『デリシア』には、魔法が効かない。
『レイラ』は苦々しく思う。魔術師の半身が『デリシア』に特殊能力を授けたのだろう。それは、わかる。わかるが、釈然としない。
ーー魔術師は、もともと普通の女性として生きたかった。恋をし、子を産み、老い、死んでいきたかった。
だが、現在魔術師としての記憶や人格は『レイラ』にしか顕在していない。とすると『レイラ』は、フランシア王国の『魔術師』として生きなければならない。選択肢の一つとして『逃げる』というものもあったはずなのだが、それができず、魂が膿んでいくのを自覚した。
魂の記憶に引きずられた『レイラ』は日々、魔術師としての技能を磨くだけが、自分に許された生き方となのだと思い込んだ。
そんな『レイラ』が『デリシア』のことを疎ましく感じていくのは自然の成り行きだった。
やがて『レイラ』を絶望が襲う。魔力の成長が止まってしまったのだ。想定より、遥かに低い限界値である。
これでは、転生した意味がない。他国の『魔術師』に知られれば、侵略を受けることも考えられた。
悩む『レイラ』が思い至ったのは『デリシア』から力を奪うことだった。『レイラ』に絶望を味あわせた後、『レイラ』に存在する魔術師の魂を身体から引き剥がす。確信はないが、そうすることで更なる力の増強を期待した。
この思いは『レイラ』の心を満たした。心底、震えるほどの歓喜が身を包んだ。
ーーもう、心が限界だった。
ーーこれで、苦しみから開放される。
『レイラ』は、行動を開始した。
ーー国王に病を与えた
ーー第一王子を小動物に変えた
ーー第二王子を洗脳した
ーー貴族たちの記憶を改竄した
ーー『デリシア』を陥れる舞台を整えた
けれども、結果は『レイラ』の思い通りにいかず、失敗した。
『レイラ』には訳がわからず、慟哭した。
ーー報われない
ーー救われない
追い詰められたことにより、自暴自棄になった。
魂の存在全てを消費し、城を崩壊させることで全てを無にしようと思った。
だが、それすらも阻止されてしまった……。
もう、どうでも良い……。
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