35 / 39
第三十五踊
しおりを挟む
私は、シンデレラから得た記憶を宰相以下の閣僚たちに語った。
この国は、少なからずシンデレラの行使した『力』の影響下にあった。正確には、どれほどのものか判別することは難しい。宰相は難しい顔をし、閣僚の中には理解が追いついてなさそうな者もいた。
(後は宰相と閣僚たちが、どう考え、どう結論付けるか……)
フランシア王国は、司法・行政・立法が割と機能している。今は宰相預かりのこの案件であるが、司法に回されて捜査・裁判となるとどのような罪になるのか想像もできない。王家や魔術師、貴族などが絡んでいる案件は、どこからか圧力がかかり複雑かつ怪奇的な沙汰が下されることもある。
この件で、私の中には魔術師の魂があることを喋ってしまった。今後の『取扱注意』というレッテルを自ら貼りつけてしまった。
どうやら、私には魔術が効かない。という不思議な力があるということは、確実に魔術師の魂が存在しているということだ。つまり、王家に対する反逆を加えた魔術師として、私は極秘裏に処分されても不思議ではないのだ。
なんだか切なくなるが、こうでもしないとーー。
「……わかった。デリシア嬢は別室で休んでいるように。医師も手配しよう」
宰相が低い声を出した。
私は素直に了承し、部屋を出る。閣僚たちで、少し話を詰める時間が必要だろう。通常は何日も何日もかけて議論する内容かもしれないが、もしかしたらこの場で結論付けられるかもしれない。
(ーーそれは、私にとっては暗い結末な訳だ)
◇◆◇
私は案内された部屋の椅子に腰掛ける。
ーーしかし思えば、前世でも不幸な事故(未確認)に遭い、今世でも不幸な事故(未確定)に巻き込まれるとは……。まさしく、薄幸の美少女とはこのことだ! こんな仕打ちをうけたんだから、来世では幸せな人生になるんだろうな(希望的観測)。あ、いっそのこと『外法』である『死生転生』でも使ってみようかな。……使えないけど。
思えば、今日は一日、色々あった。第二王子にチクリと嫌味を言ったことなんて、遥か彼方へ過ぎ去ってしまった。
家名が残って、田舎に引き籠もって静かに暮らすーー。そんな生活も良かったな……。
そう言えば、お母様やお姉様も別室で待ってくれているらしい。
お母様には驚かされた。単なるガメつい、マツk……じゃなかった、伯爵夫人のスケールに収まらない女傑だったなんて。
お姉様も破天荒で、波乱万丈の御令嬢だ。しかし、イリタ王国のトネリ殿下というお似合い(?)のパートナーが見つかって良かった。イリタ王国って、どんなとこなんだろう。見てみたかったな。それに(二人とも外見だけは良いから)トネリ殿下とお姉様が並ぶと絵になりそう。楽しみだなー……。
シンデレラは今後どうなるのだろう。私がさっき説明したことが信じてもらえるならば、今のシンデレラは魔術師の影響下にはない。もしかすると、悲劇のヒロインポジションと言えなくもない……のかな? 通常ならば反逆罪とか問わる行為を行っている。実際は自国の魔術師が暴走して、罪もない幼子の身体を奪い取った結果である。しかし、これはどう受け止められるのかわからない。シンデレラに存在した魔術師の魂は消滅した。私以外には、視えていないが……。
「あー……、なんでこうなるかな」
いつの間にか、窓の外は薄暮時の儚い雰囲気に様変わりしていた。まるで私の気分を写し出したかのようだ。
「よし、別なことを考えよう」
私は、楽しく明るい話題を考えることにする。
ーーお母様が大陸中で手腕を発揮する姿を想像すると、少し明るい気持ちになった。
ーーお姉様がイリタ王国でどんな生活を送るのか考えると、不安になってしまう。
ーーシンデレラに魔術師の魂の影響が残っていないか気になるし、どんな『人格』なのか知りたい……。
ーーああ……。
ーー私って、何者なのだろう……。
ーー本物の私って、誰なんだろう。
ーー『ここ』に、いるのかな。
考えても、わかるはずがないのに、ずっと考えてしまう。知りたい、気になる、不安だ。
今 も王国の上層部たちが、シンデレラや私の処遇について議論しているのだろうけど、普通に考えれば危険は回避すべきだ。シンデレラも私も王宮の奥深くに一生幽閉する。もしくは安全を優先させ、処分する。
国の根幹を根底から揺るがしかねない事件だった。名目はなんとでもなる。
もしかしたら、シンデレラだけは助かるかもしれない。できれば、お母様が残る伯爵家で引き取られたらいい。
私はーー、魔術師の魂が残る私は、どうにもできないだろうな。魔術が使えるわけでもないから、国の戦力にもなれない。しかし魔術師の魂が残っているから野放しにはできない。そうすると、どう考えても幽閉くらいはされるだろうな。
一瞬、魔術師の魂の話は秘密にしておけば良かったと、悪い考えが過るが、そんなことはできなかった。でないと、シンデレラが諸悪の根源として確実に断罪されるからだ。もう、シンデレラに罪はないのだ。被害者なのである。どうにか、普通の生活を送って欲しい。
(私は贖う)
私には魔術師の魂がある。
それにーー。
今まで考えないようにしてたけどーー。
もう、逃げることはできないーー。
直面すべき、私にとって一番の問題ーー。
(私は、本物の『デリシア』を殺した……)
私はーー、本来生まれるはずの『デリシア』を押し退けて生まれてきた、偽物の『デリシア』だ! 魔術師の魂なんて、それどころじゃない! 生きたいと思った! 死にたくないと足掻いた! 醜く、人を押し退けてでも自分が助かりたいと念じた!
魔術師は『外法』を使ったが、最後の手段で、国のために仕方なく自分の身を滅ぼしてまで生き延びようとした。
私は、そんなことは考えてない。ただ、生き汚く、偽物の『デリシア』になってしまった! 自分のことしか考えてない! 申し訳ない! ごめんなさい! 助けて! 謝っても許されない! どうすればいいのかわからない! 押し退けてしまって、ごめんなさい! くるしい……。
「ゼヒッ……ゼッ……」
呼吸が苦しい……。
暗い考えが私を満たし、激しく身体が震える。
(ああ、私も消えるのかな……消えてしまいたい……くるしいよ)
もし、叶うならば、皆に幸せになって欲しい。私のせいで、不幸になった人たちが救われて欲しい。
償いたいーー。
神様ーー、どうかーー。
ドンドンッ!
部屋の扉が強めに叩かれる。
ドアが開く。
室内に誰かがーー。
この国は、少なからずシンデレラの行使した『力』の影響下にあった。正確には、どれほどのものか判別することは難しい。宰相は難しい顔をし、閣僚の中には理解が追いついてなさそうな者もいた。
(後は宰相と閣僚たちが、どう考え、どう結論付けるか……)
フランシア王国は、司法・行政・立法が割と機能している。今は宰相預かりのこの案件であるが、司法に回されて捜査・裁判となるとどのような罪になるのか想像もできない。王家や魔術師、貴族などが絡んでいる案件は、どこからか圧力がかかり複雑かつ怪奇的な沙汰が下されることもある。
この件で、私の中には魔術師の魂があることを喋ってしまった。今後の『取扱注意』というレッテルを自ら貼りつけてしまった。
どうやら、私には魔術が効かない。という不思議な力があるということは、確実に魔術師の魂が存在しているということだ。つまり、王家に対する反逆を加えた魔術師として、私は極秘裏に処分されても不思議ではないのだ。
なんだか切なくなるが、こうでもしないとーー。
「……わかった。デリシア嬢は別室で休んでいるように。医師も手配しよう」
宰相が低い声を出した。
私は素直に了承し、部屋を出る。閣僚たちで、少し話を詰める時間が必要だろう。通常は何日も何日もかけて議論する内容かもしれないが、もしかしたらこの場で結論付けられるかもしれない。
(ーーそれは、私にとっては暗い結末な訳だ)
◇◆◇
私は案内された部屋の椅子に腰掛ける。
ーーしかし思えば、前世でも不幸な事故(未確認)に遭い、今世でも不幸な事故(未確定)に巻き込まれるとは……。まさしく、薄幸の美少女とはこのことだ! こんな仕打ちをうけたんだから、来世では幸せな人生になるんだろうな(希望的観測)。あ、いっそのこと『外法』である『死生転生』でも使ってみようかな。……使えないけど。
思えば、今日は一日、色々あった。第二王子にチクリと嫌味を言ったことなんて、遥か彼方へ過ぎ去ってしまった。
家名が残って、田舎に引き籠もって静かに暮らすーー。そんな生活も良かったな……。
そう言えば、お母様やお姉様も別室で待ってくれているらしい。
お母様には驚かされた。単なるガメつい、マツk……じゃなかった、伯爵夫人のスケールに収まらない女傑だったなんて。
お姉様も破天荒で、波乱万丈の御令嬢だ。しかし、イリタ王国のトネリ殿下というお似合い(?)のパートナーが見つかって良かった。イリタ王国って、どんなとこなんだろう。見てみたかったな。それに(二人とも外見だけは良いから)トネリ殿下とお姉様が並ぶと絵になりそう。楽しみだなー……。
シンデレラは今後どうなるのだろう。私がさっき説明したことが信じてもらえるならば、今のシンデレラは魔術師の影響下にはない。もしかすると、悲劇のヒロインポジションと言えなくもない……のかな? 通常ならば反逆罪とか問わる行為を行っている。実際は自国の魔術師が暴走して、罪もない幼子の身体を奪い取った結果である。しかし、これはどう受け止められるのかわからない。シンデレラに存在した魔術師の魂は消滅した。私以外には、視えていないが……。
「あー……、なんでこうなるかな」
いつの間にか、窓の外は薄暮時の儚い雰囲気に様変わりしていた。まるで私の気分を写し出したかのようだ。
「よし、別なことを考えよう」
私は、楽しく明るい話題を考えることにする。
ーーお母様が大陸中で手腕を発揮する姿を想像すると、少し明るい気持ちになった。
ーーお姉様がイリタ王国でどんな生活を送るのか考えると、不安になってしまう。
ーーシンデレラに魔術師の魂の影響が残っていないか気になるし、どんな『人格』なのか知りたい……。
ーーああ……。
ーー私って、何者なのだろう……。
ーー本物の私って、誰なんだろう。
ーー『ここ』に、いるのかな。
考えても、わかるはずがないのに、ずっと考えてしまう。知りたい、気になる、不安だ。
今 も王国の上層部たちが、シンデレラや私の処遇について議論しているのだろうけど、普通に考えれば危険は回避すべきだ。シンデレラも私も王宮の奥深くに一生幽閉する。もしくは安全を優先させ、処分する。
国の根幹を根底から揺るがしかねない事件だった。名目はなんとでもなる。
もしかしたら、シンデレラだけは助かるかもしれない。できれば、お母様が残る伯爵家で引き取られたらいい。
私はーー、魔術師の魂が残る私は、どうにもできないだろうな。魔術が使えるわけでもないから、国の戦力にもなれない。しかし魔術師の魂が残っているから野放しにはできない。そうすると、どう考えても幽閉くらいはされるだろうな。
一瞬、魔術師の魂の話は秘密にしておけば良かったと、悪い考えが過るが、そんなことはできなかった。でないと、シンデレラが諸悪の根源として確実に断罪されるからだ。もう、シンデレラに罪はないのだ。被害者なのである。どうにか、普通の生活を送って欲しい。
(私は贖う)
私には魔術師の魂がある。
それにーー。
今まで考えないようにしてたけどーー。
もう、逃げることはできないーー。
直面すべき、私にとって一番の問題ーー。
(私は、本物の『デリシア』を殺した……)
私はーー、本来生まれるはずの『デリシア』を押し退けて生まれてきた、偽物の『デリシア』だ! 魔術師の魂なんて、それどころじゃない! 生きたいと思った! 死にたくないと足掻いた! 醜く、人を押し退けてでも自分が助かりたいと念じた!
魔術師は『外法』を使ったが、最後の手段で、国のために仕方なく自分の身を滅ぼしてまで生き延びようとした。
私は、そんなことは考えてない。ただ、生き汚く、偽物の『デリシア』になってしまった! 自分のことしか考えてない! 申し訳ない! ごめんなさい! 助けて! 謝っても許されない! どうすればいいのかわからない! 押し退けてしまって、ごめんなさい! くるしい……。
「ゼヒッ……ゼッ……」
呼吸が苦しい……。
暗い考えが私を満たし、激しく身体が震える。
(ああ、私も消えるのかな……消えてしまいたい……くるしいよ)
もし、叶うならば、皆に幸せになって欲しい。私のせいで、不幸になった人たちが救われて欲しい。
償いたいーー。
神様ーー、どうかーー。
ドンドンッ!
部屋の扉が強めに叩かれる。
ドアが開く。
室内に誰かがーー。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる