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8章 魔人国編

88話 魔王城でお休み大作戦、です

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 親子を助けた民家から奥に見える魔王城へと進む。

「助けてくれぇ」

 足を持って引きずっている野盗の一人が目覚めたようだ。

「悪いが政治的な理由でお前らは兵士に引き渡すことが決まっている。残念だけど元々悪さしていたわけだし、助ける必要も感じないね」

 城の門に到着すると、魔素感知で気づいてはいたけど、やっぱりおびただしい数の魔人族が集まっている。

「何者だ!?貴様は……人族だな!?」

「何者かは置いといて、コイツ等野盗が民家を襲っている所を助けたんだ。捕まえた野盗を引き渡しに来たんだからそんなに敵対視しなくてもいいだろう?」

「門衛!応答せよ!」

 門についている、人一人分が入れそうな大きさの控室らしき部屋から声が聞こえる。もしや電話のようなものがあるんだろうか?

「後にしろッ!!それで、コイツ等が野盗だという証拠はあるのか?」

 門衛は一度控室の方に向かって大きい声を出すと、今度は俺たちの方に証拠の提出を求める。

 証拠?あの親子も連れてくれば良かったか……。

「門衛!応答せよ!獣人国に潜入している密偵から報告が届いているんだが……」

 控室の奴は一旦諦めろよ。

 ていうか獣人国に密偵なんて入れてんのかよ、その音声って俺たちに聞こえてていいやつなの?

「た、助けてくれ!」
「畑で働いていたら襲われて……」
「兵士さん!助けてくれぇ!」

 今度は野盗たちが全員起きて、門衛に嘘偽りの理由で助けを求めやがった。

 ほら、お前らが余計なことを言うから門衛さんが凄い形相でコチラを睨んでくるんですけど。

「門衛!緊急情報が入ったので一方的に伝えるぞ!黒髪黒目の人族が獣人国で開催された武道大会で大暴れし、獣王を瞬殺、人族の見た目をしているがSランクを超えるオーガの亜種である可能性が高い、注意されたし!なお、先の戦争の悪魔と同一の者だとする意見もある、以上だ!」

 おい、それまさか俺のことか?

「黒髪黒目で人族の見た目……?」

 門衛さんは睨むような形相から一転、驚愕と共に怯えるような顔になり、首から下げてあった呼子を全力で鳴らした。
 
「さて、念の為確認だけど……これって俺のせいじゃないよね?」

 俺は仲間達の方を見たが、仲間達は呆れたような顔でコチラを見ていた。

「オサム君、自業自得という言葉があってだね」

 いや、別に業なんて背負ってねぇだろ。

 甚だ納得いかないがプランA、迎え入れてくれたらハッピー大作戦が失敗に終わったことだけは確定だろう。

 呼子の音を聞いた、門の中の魔人族たちが一斉に地響きを立ててコチラへ向かってくる。

「諸君、誠に遺憾だがプランAは失敗に終わった。これよりプランB、魔王城でお休み大作戦に移管する。全・即・斬だ、目が合う度、近くを通る度に片っ端から気絶させていけ!多少強くしばいても魔人族なら問題ないだろ」
 
「プランBってそんな名前だったんだ」
「待って!まだ、もしかしたら軌道修正できるかも……」
「美砂様、流石にもう難しいと思いますわ」

 美砂はまだ諦めていないようだが、エリーズが窘めてくれているから安心だな。

 俺は魔素粒子鎧エーテルアムドに羽を四枚生やし悪魔スタイルに変化した状態で空を飛ぶ。聖剣ドンキーは背中に背負う形で持っていたわけだが、羽が生えると邪魔なので肩に担いでいる。

「ワハハハハ!この愚民ども、逃げ惑え!俺の邪魔をするものは丸かじりで喰らってやるわ。さあ餌ども、蛆も喰わぬクソ肉を引っさげてかかって来るがいい!お前達の血を、臓物を、俺に捧げろッッッ!!」

「アイツが来た!嫌だ……助けてくれェ!」
「おい、貴様ら逃げるなッ!ここで命を捨てず魔王様に報えると思うなよ!」
「魔王様をお守りしろッ!」
「あ、あああアイツが兵士達の言っていた悪魔……」
「せめて魔王様が逃げる時間だけでも稼ぐんだ!!」 

 さあ開戦の狼煙だ!

 ここはビビらせるのが大事だからな、形を大切にしよう。

 俺は無駄に魔力を高め、高さ十キロメートルを越える雄大積雲を魔王城の真上に作る。うん、雲の頂上が対流圏界面に到達したようだ。

 対流圏界面は対流圏と成層圏の境目を指すのだが、雲が存在出来るのは対流圏だけだからな、この後は横にブクブクと膨れ上がるんだ。
 
「なんだ……?大気が震え……」
「おい、アイツの魔力が……」
「見てるなら魔法を撃って阻害しろッ!何らかの攻撃の準備だぞ!」

「「「白炎の鉄槌クリムゾン・ノート」」」

 数人の魔族から白いエネルギー砲が飛んでくる。エネルギー砲は直径二メートルくらいあって、丸々飲み込まれそうだ。

「『シールド』」

 アチッ!アチィな、おい!名前からして火の感じだったから予測してたけど、熱いのは嫌だなぁ。

 そうか、熱を遮断するシールドを……後にしよう、積乱雲の中で落ちてきた氷の粒と押し上げられた水の粒でいい感じに帯電してきたようだ。

 よし、いけるな。

「『八雷神やくさのいかづち』」 

 東洋龍の形を成した八色の巨大な雷が魔王城へ飛来し、建物を大きく破壊する。大きい瓦礫が崩れてチラホラ下に落ちていくけど、まぁなんとか避けてくれ。 

「グハハ!思い出したぞ!戦場で啜った貴様らの同胞の脳髄はなかなか美味であった、さあ、隣の同胞のクソ肉は捨て、美味なる脳髄を差し出した奴は痛みなく殺してやる事を誓おう」

「ヒィィ……」
「ヤダ……もうヤダよぅ」
「に、逃げ、逃げるな!魔王様のた、盾に!」

 あれ、なんか魔人族のトラウマになってね?

「あああ、これじゃあもう軌道修正は無理だよぅ……」

 美砂、だから無理だって。

 そんなこんなで、俺たちは無事に魔王城へ到着したのだが……なぜか魔王城へ侵攻することになってしまった。

 空を飛び、城壁を駆け、殺さないように気をつけながら聖剣ドンキーで魔人族を殴り続ける。

 やってみると分かったが、手加減しながらでも一秒に十人は余裕だった。なんせコイツらはやたら逃げ腰だし、命を懸けて向かってくる奴なんてほとんどいない。

 それに、目の前の魔人族を捕まえて他の魔人族に投げつけるのが効果的なことも判明した。結構強めに投げると二十人くらいは潰れるから楽ちんだな。

 このペースなら半日くらいで全滅させられそうだ。

「ギャァァァー」
「なんだ!?圧し潰され……グワーッ」
「チッ邪魔だ!どけ」
 
 しかし、Cランク程度の強さをもった兵士が中心なので、Cランクを気絶させる程度で攻撃していると、たまに混ざってる隊長格は気絶させられないのが面倒だ。

 かといって隊長格を気絶させる強さでしばいてると、Cランク程度の兵士はお亡くなりになってしまうからな、ワッペンでも付けといて欲しい。

 ふぅ……。

 身体よりも精神的な疲れが来たので、空中でひと息つく。

 体感では二時間くらい戦ってる気がするから、ザックリ計算では二十万人ほど気絶させたはずだ。なのに魔人族の兵士達はあんまり減ってない気がする。

「疲れで止まったぞ!今がチャンスだ!」
「休ませるな!撃てーッ!」

 少しひと息ついただけで四方八方至る所から飛んでくるエネルギー砲を、俺は。シールドのイメージを防ぐんじゃなくて取り込むって感じにしたらいけたんだよね。

「言っとくけどウチのおかげだかんね!精霊王の力を得たウチにあの程度の魔法なんて効くわけないし」

 威力の低い魔法なら吸収できるようだからな、感謝感謝。既に魔素感知と同じく、常時発動型パッシブにしてある。

 さて、対策を考えよう。このまま戦えば五時間以上かかるし、それはごめんだ。最初に気絶させた奴らも回復して戻ってくるだろうから、もっと時間がかかるかもしれない。

 それに、まだ恐れてくれているが、これだけ命を奪わないようにされていれば恐怖も薄らいでくる可能性も高い。

 麻酔で全員眠らしちゃうのが楽なんだけど、素人が扱うのは危険過ぎるよなぁ、何割か死んじゃうかも。睡眠薬なんて、アドレナリン出すぎで効かないだろうし……。
 
 そうなるとやっぱり指揮官となる隊長格を狙ってモゲモゲするのが一番いいんだが、見た目には違いが分からんのだよな。

「指揮官か分からないけど、魔力が少しだけ多い奴に絞れば?ウチなら微妙な違いでもちゃんと分かるし」

「ロアは精霊王の力を手に入れてから自信満々だな」

「こんぐらいなら前から出来たしぃ」

「はいはい、そうでしたね。よし、じゃあ提案通り魔力が少しでも多い奴は全部モゲモゲしちゃえばいいかな」

 ちょうど良さそうな奴は……おっ!あの魔人族はさっきから色々指示を出していたし小隊長だろう。

 地上に見つけた恐らく小隊長であろう魔人族の保有魔力をロアに覚えてもらう。そして、その小隊長と同等以上の魔力を保有する魔人族だけを共有してもらい、それ以外の情報は全てカットした。

 うわっ、それでも一万人以上いるみたいだな。

 あれ……?指揮官とかみみっちいこと言わず、全部やっちまえばいんじゃね?

「オサム~それは倫理的にどうなのって感じ」

 まあでもサッサとやってしまった方が魔人族的にも楽だよな。抵抗しなくていいわけだし、うん面倒だし全部モゲモゲしようか。
 
「ロア行くぞッ!」
「ホントにやる訳ぇ?」
 
「『断罪と小さな慈悲ジャッジメントヒール』」

「「「「「ギャーッッ!!!」」」」」

 感知した魔人族達の手足が俺の放った風魔法によって斬られる。今の一瞬でほぼ百万体の胴体と四百万本の手足が転がったわけだが、同時にプチヒールが発動して傷口だけは塞がる。

 メテオなんかもそうだが魔法の出現場所は指定できるからな、魔法なんて使えねぇと思ったけど使えるじゃんか。

「一体何が……」
「お、俺の手足が……」
「おい、それは俺の足だぞ!」

 うん、地獄絵図だわ。

 すぐにヒールしたとはいえ、手足を切ったら血が噴き出るからな。そこら中が血まみれだし、視界に入っている魔人族は全員芋虫のように悶えてうめき声を上げている。

 自分でやっておいてなんだけど、見ていて気分のいいもんじゃないし、後の処理は皆に任せて俺は城内でジャッジメントヒールを避けた幹部連中とでも戦ってこようかな。
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