上 下
89 / 98
8章 魔人国編

89話 リオ夫婦の登場です

しおりを挟む
 俺は魔王城の中へ入り、魔素感知を頼りに幹部たちが揃っていると思われる部屋へと向かう。

 道中、足の踏み場もないくらいに沢山の胴体と手足が転がっており、そこら中から聞こえる呻き声に辟易としてしまったが、ようやく到着したようだ。

 この部屋だな。

 俺が部屋に入ると数人の知った顔が目に入る。魔将軍の三人と牢屋にいた幹部連だ。

「き、きたゲソ。だから手を出すなとオヌシらには再三言ったじゃなイカ」
 
「ここのような狭い場所では大規模魔法は使えないはずであります!魔将軍三人でかかれば殺れるであります!」
 
「無理ですよぉ、私の魔法が聞きませんもの~」

 どうやら魔獣使いラギュルと魔羅エゾグァは交戦反対派で、キャンキャンうるさい魔道士アビスが交戦を望んだようだな。

 よろしい、戦いを所望するならば徹底的にやってやろうじゃないか。

「ヒィィ……そ、そそそそんな顔したってビビったりし、しないのであります!」

「そんなに戦いたいなら一人で戦ったらいいじゃなイカ、見ていてやるゲソ」

「やめといた方がいいですよぉ、私も戦いませんからね~」

 魔獣使いラギュルと魔羅エゾグァから見捨てられて泣きそうな顔をしている。

「待つネ、私が戦うアル」

「セフィー姐さん、一人では危ないであります!」

 なんだコイツは?ジャッジメントヒールを躱したということは最低限の実力はあるんだろうが……華奢な感じが不安になるな。

 この世界の女性にしては背も高く、俺と同じか少し高いくらいだろうか。髪の毛はストレートで綺麗な銀髪が膝裏まで伸びている。

「私は魔王様の腹心、死神のセフィーと呼ばれているネ。悪魔退治は初めてアル、さっさとかかってくるネ」

 ほう、死神とは……なかなか強そうじゃないか。

 死神セフィーが黒いコートの後ろに背負っていたであろう、自身の身長と同じくらいの長さの大太刀を抜いた。

 俺の武器は聖剣ドンキー、長さは百二十センチ程度、対してセフィーの大太刀は百五十センチはありそうだ。

 一般的に間合いが負けていると不利だと考えられるが、俺は大太刀の攻撃は見極められる自信がある。

 さて、かかってこいと言うんだ。こちらから行きましょうかね。

 俺は聖剣ドンキーを握りしめ、セフィーに接近し、真上から振り下ろす。

 セフィーは聖剣ドンキーの振り下ろしをバックステップで避けると、回し蹴りの要領で回転しながら大太刀を横薙ぎにしてくる。

 俺は聖剣ドンキーを持ち上げる事で盾として使い大太刀を受け止める。

 そして横を向いた構えから、右足で一気に踏み込み、左足で着地すると同時に右足を蹴りあげ外回しに回転させることで、大太刀の上から被せるように顎を蹴ろうとしたのだが、持ち手の先端である柄で受け止められた。

 やはり、なかなかやりそうだ。オーバーライドで戦っているけど、俺の速さについてこれているし、力負けもない。

 トランスを使えばすぐに終わってしまいそうだが、聖剣ドンキーを使った経験値が欲しいからな、オーバーライドを続行しようか。

 さて、獣王の必殺技を真似させて貰おう。聖剣ドンキーを使って、基本九撃を同時に与える神速の抜刀術になるわけだが、決して九〇龍閃ではない。

「『崩龍蓮華ほうりゅうれんげ』壱弐参肆伍陸漆捌玖!」
 
「くっ!」

 流石飛天御……いや、獣王の必殺技だ。先程の攻撃では、余裕で躱わされて反撃までされたわけだが、今回は少し顔を歪ませたな。

 しかしダメージを与えるには至らない、か。

 死神セフィーは、俺の必殺技である九頭龍……いや崩龍蓮華をしっかりと受け止めきった。

 今度はセフィーが攻めてくる。

 中腰の姿勢から左薙、右薙、頭の上で大太刀を回転させた後袈裟斬り、切上げからサイドステップをしながらの回転斬りだ。

「何!?私の鬼神斬りを初見で受け切ったアルか!?」

 鬼神斬りとやらは五連撃のコンボ技だったみたいだが、大太刀の動きは概ね予想できるからな。自分で使うのは難しいが、攻撃を予測して受けるくらいは余裕だ。

 それでも、最後の一撃は聖剣ドンキーでの受けが間に合わず、腕で受けることになってしまった。
 
 武器の扱いは一朝一夕に身に付くものではないだろうが、俺もここらで新技を開発して強くなりたいな。獣王みたいにカッコいい技名付けたいしな。
 
 ナビエストークス方程式やホッジ予想なんかを技に転化出来ないだろうか……うーん。
 
「お前、何を考えながら戦っているアル、もしや集中してないネ!?」

 新技の考え事をしていると、セフィーが怒ってくる。
 
「だってお前、獣王よりちょっと強いくらいだし。それに、武器の相性も良すぎる。動きはよく読めるし、腕に当たっても斬れなかったじゃないか」
 
「なるほど、これがSランクを超えるオーガの亜種アルか。ふざけた硬さをしてやがるネ、世界の理から完全に離れてるアル。以前倒したSランクのケルベロスが可愛く見えるくらいアル」

「いえ、人間です」

「人間にそんな羽も尻尾も生えてないネッ!『居合・桜花一閃おうかいっせん』」

 あ、そうだ羽とか出しっぱな……うおっ!強力!

 左肩から右肩にかけて、両肩に乗せるように背負った大太刀を、身体をこれでもかと捻った状態から回転力を乗せて斬りかかって来た。

 突進力も加わって凄い威力だが、なんとか聖剣ドンキーを盾に受け切る。これを身体で受けたら切れていたかもな、タメが大きすぎて余裕で受けれるけど。
 
「くっそ!これでも斬れないアルか!」

 ふむ、なかなか大太刀を使いこなしているようだな。しかし、大太刀については俺だって一家言いっかげん持っている。

 勿論、モンスターをハンターするゲームの中での話しだから自分で使える訳じゃないけどな。でも、見ていて良し悪しは何となく分かるつもりでいる。

 それで言うと、セフィーの太刀遣いは振り終わった後の動きが悪いように感じる。今まで一撃で倒せるような相手しかいなかったんだろうか?

 俺は全シリーズでソロハンターだったし、俺に対する物欲センサーは極めてシビアだったからな、血の涙を流して何度もハードを壊しそうになった。

 おかげでゲーム内における大太刀の立ち回りは完璧だし、もちろんG級武器の最終強化は全属性作って、裸で上位まで全クリするくらいにはやり込んでいる。

 まぁやらなきゃいけないゲームが多すぎてハンターゲームは程々だったから、本物達からすればやり込みの『や』の字が終わった程度だろうけどな。

 結局何が言いたいかと言うとだ、俺は血の涙を流して装備を整えたので、大太刀装備の奴には試練を与えたい訳です。八つ当たりとか嫌がらせじゃありません、軽めの小姑の気持ちです。

 さて、そんな事を考えていたら新魔法を思いついたぞ。

「ロア!行けそうか!?」

「いけるけど……これって……」

 俺はトランス状態になり、魔法を唱える。コイツはぶっ飛んだ魔力を使いそうだからな。

「『位相変異フェーズ・シフト』」
 
 俺はにマップを作成し、この部屋にいる生き物全てを俺の作ったマップの中へ招待した。

 今、目の前には大草原が広がり、高い丘が見えている。息の白くなる寒さもなく、風が爽やかで陽気な春の気候だ。

『オサム、これって世界を作ったことになるんじゃ……』

 ロアが頭に直接話しかけてきたので、声に出さず否定する。

 違うよ、そんな大層なもんじゃない。

「な、何が起きたネ!?ここは……草原!?」
 
「魔王城が無くなったではなイカ!ここはどこゲソ!?」
 
「魔羅エゾグァ……これは、これは幻覚でありますか!?」
 
「幻覚……?いえ、これは幻覚などではありません~。実際に見えているものが全てですぅ」

「馬鹿ななのであります!まさか転移魔法でありますか!?」

 ふふふ、全員驚いているようだ。

 このままじゃ先に進めないし、説明してやるか。

「ここは俺が作ったドラゴンハンターワールドだ。魔力を馬鹿みたいに使うからマップは二つしか作れなかったけどな」

「せ、世界を作ったアルか……?」
「悪魔……いや、こんなものはもう神の領域ではなイカ……」

「神?そんな大層なもんじゃない。この世界は十次元に時間が一次元、それから魔素を一次元の計十二次元で構成されている。その魔素の次元内において、魔力でもって位相をズラしただけだ」

「あああ~神よ、私は食べても美味しくありませんので、逃がして下さい~」

「「「おい!お前だけずるいぞ!」」」

 魔羅エゾグァが膝をついて祈りを捧げてきたせいで、それに追随するように他の幹部達も膝をつく。

 いや、そういうのいいから。

「残念だが、条件を満たさないと出してやらない。大人しくこのマップでのルールを聞け」

 死神のセフィーと魔術師アビス以外膝を付いてしまったが、俺は気にせず話を進める。

「まず、このマップ内においてお前達は死なない。いや、厳密には死ぬ程の体験はするんだろうが、この場所に運ばれると生き返る」

「馬鹿な……であります!死者の蘇生など……そんなの本当に……」

 遂に魔術師アビスまで膝を付いてしまったが放っておこう。

「そして、マップの中にはドラゴンの夫婦が出る。最悪味方に手伝いを求めてもいいんだが、これはソフィー、俺とお前との戦いの延長だ。俺たちはまだ戦っているだろう?ドラゴンをその大太刀をもって倒してみろ」

「ま、待つアル!全然理解出来ないアル!」

 敵はリオ夫婦のG級でいこう。魔力コブに魔素をコーティングして、鉄とか詰め込んどけば結構な質量になるだろう。

 それに攻撃パターンは完全に覚えているから魔力操作でその通りに動かせばいいんだが、折角だからな、ランダムで原作に無いパターンもちょっと入れてやろう。

 さて、コチラの準備は万端だ。

「一応説明してやった訳だが、今は戦い中だと言ったろう。本来こちらの技を説明してやる必要なんてないし、ましてやお前の理解を待つ必要なんてない。さぁ、いくぞ!」

 俺は魔力を操作してリオ夫婦を飛ばすと、操作通りに、空から大きな翼をはためかせる音が聞こえてくる。

 空を見上げると、陽の光を遮るように全長二十メートルある二体のドラゴンが優雅に降り立った。
しおりを挟む

処理中です...