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第二章
第五話 入隊式まで
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「で、柏どうだったの?」
「んー、なんか入隊式が四月にあるみたいだから来いって。詳細は手紙で、それが今週中に来るらしい」
記憶探りが終わってから一週間後、柏の電話にフィルツィア歩兵部隊の本部から掛かってきた。
「そっかぁ」
「うん! ……今思うとさぁ、もしも入隊するのに難しい試験があって、それで落ちてたら今頃何してたんだろうなって不思議になる」
「確かにお前は赤点はしょっちゅうだったもんな」
隣に座った柏をギュッと抱きしめ、そう呟く。
「でも別に落第とか留年がなかったからいいじゃん」
「まぁ、それはそうかもしれないけど」
「冷きゅんと巡り会えたことだけでも充分だよ」
ニコッと無邪気に笑う柏が愛おしくて、思わず頬にキスをしてしまう。
「えへへ」
柏も、俺の頬にキスをする。
»†«
キスされ、し返すというやり取りをしばらくの間やっていると、俺の電話が鳴った。
「ごめん、俺電話出るね」
部屋から出、電話に出る。
「はい、冷徹です」
『こちらフィルツィア歩兵部隊の本部だ。冷徹で間違いないな?』
この声、聞き覚えがあるような……。
「間違いないです」
『そうか。入隊式についてだが、詳細はこれから送られてくる手紙に書いてある。だいたいの予定は四月の中旬くらいだ』
「かしこまりました」
『……ところで、私をお前は覚えている?』
(やはり、か)
「覚えております。私の記憶探りを担当してくださったお方ですよね?」
はぁ、と溜め息が溢れるのか聞こえる。
(俺なんかやらかしたか……?)
『君あんなにも生意気だったのにね。敬語とかやればできるじゃん』
「は、はぁ……」
『じゃ切るから』
相手はそういうとプチッと切ってしまった。
色々あって整理が追いつかないが、取りあえず部屋に戻る。
「どした? なんか長かったけど」
心配そうな顔をした柏がソファーから降りて俺の隣にピタッとくっつく。
「大丈夫だよ、柏と同じことを言われただけだから」
「ホント……? なんかあったら僕に言ってね?」
コクリと頷くと柏の頭を優しく撫でた。
»†«
「じゃ、行ってきます」
今は誰もいない家に挨拶をした。
インフィニル専門校付属学校を卒業してから約一週間後————つまり今日、入隊式が行われる。
歩いて、最寄り駅から電車でクリムゾン駅に行く。そしてそこから歩いて、ある喫茶店で柏と待ち合わせをしている。
「ここかな?」
メモの通りに進むと、風情のある喫茶店の前に止まった。
「失礼しまーす……」
古そうな扉を開け、中に入る。
「一名様ですね。ではこちらのカウンター席へどうぞ」
案内された席に座り、コーヒーとクッキーを一つ頼む。
(なんだか物静かな喫茶店だな。今は俺一人みたいだ……)
「あ、冷きゅん」
扉が開いた音がしたと思ったら柏が来た。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、俺もさっき着いたばっかりだから大丈夫だよ」
「そっか。ありがとう」
席に座った柏に、さっき俺が頼んだクッキーを差し出す。
柏は「ありがとね」と言ってそこから一枚取って食べる。
「じゃ、行こっか」
「うん」
お金を支払い、喫茶店を出る。
「ねね、なんか緊張しない?」
「俺は大丈夫だよ、柏がいるからね」
ギュッと手を握って笑ってみせると、安心したようにほぅっと息を吐いた。
「これからお互い頑張ろうね」
「あぁ」
»†«
「————では、第五十七回フィルツィア歩兵部隊入隊式を始める。全員、起立」
バッと席に座っていた全員が立つ。
「礼」
ただ一つ、凛とした声が響いた。
「んー、なんか入隊式が四月にあるみたいだから来いって。詳細は手紙で、それが今週中に来るらしい」
記憶探りが終わってから一週間後、柏の電話にフィルツィア歩兵部隊の本部から掛かってきた。
「そっかぁ」
「うん! ……今思うとさぁ、もしも入隊するのに難しい試験があって、それで落ちてたら今頃何してたんだろうなって不思議になる」
「確かにお前は赤点はしょっちゅうだったもんな」
隣に座った柏をギュッと抱きしめ、そう呟く。
「でも別に落第とか留年がなかったからいいじゃん」
「まぁ、それはそうかもしれないけど」
「冷きゅんと巡り会えたことだけでも充分だよ」
ニコッと無邪気に笑う柏が愛おしくて、思わず頬にキスをしてしまう。
「えへへ」
柏も、俺の頬にキスをする。
»†«
キスされ、し返すというやり取りをしばらくの間やっていると、俺の電話が鳴った。
「ごめん、俺電話出るね」
部屋から出、電話に出る。
「はい、冷徹です」
『こちらフィルツィア歩兵部隊の本部だ。冷徹で間違いないな?』
この声、聞き覚えがあるような……。
「間違いないです」
『そうか。入隊式についてだが、詳細はこれから送られてくる手紙に書いてある。だいたいの予定は四月の中旬くらいだ』
「かしこまりました」
『……ところで、私をお前は覚えている?』
(やはり、か)
「覚えております。私の記憶探りを担当してくださったお方ですよね?」
はぁ、と溜め息が溢れるのか聞こえる。
(俺なんかやらかしたか……?)
『君あんなにも生意気だったのにね。敬語とかやればできるじゃん』
「は、はぁ……」
『じゃ切るから』
相手はそういうとプチッと切ってしまった。
色々あって整理が追いつかないが、取りあえず部屋に戻る。
「どした? なんか長かったけど」
心配そうな顔をした柏がソファーから降りて俺の隣にピタッとくっつく。
「大丈夫だよ、柏と同じことを言われただけだから」
「ホント……? なんかあったら僕に言ってね?」
コクリと頷くと柏の頭を優しく撫でた。
»†«
「じゃ、行ってきます」
今は誰もいない家に挨拶をした。
インフィニル専門校付属学校を卒業してから約一週間後————つまり今日、入隊式が行われる。
歩いて、最寄り駅から電車でクリムゾン駅に行く。そしてそこから歩いて、ある喫茶店で柏と待ち合わせをしている。
「ここかな?」
メモの通りに進むと、風情のある喫茶店の前に止まった。
「失礼しまーす……」
古そうな扉を開け、中に入る。
「一名様ですね。ではこちらのカウンター席へどうぞ」
案内された席に座り、コーヒーとクッキーを一つ頼む。
(なんだか物静かな喫茶店だな。今は俺一人みたいだ……)
「あ、冷きゅん」
扉が開いた音がしたと思ったら柏が来た。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、俺もさっき着いたばっかりだから大丈夫だよ」
「そっか。ありがとう」
席に座った柏に、さっき俺が頼んだクッキーを差し出す。
柏は「ありがとね」と言ってそこから一枚取って食べる。
「じゃ、行こっか」
「うん」
お金を支払い、喫茶店を出る。
「ねね、なんか緊張しない?」
「俺は大丈夫だよ、柏がいるからね」
ギュッと手を握って笑ってみせると、安心したようにほぅっと息を吐いた。
「これからお互い頑張ろうね」
「あぁ」
»†«
「————では、第五十七回フィルツィア歩兵部隊入隊式を始める。全員、起立」
バッと席に座っていた全員が立つ。
「礼」
ただ一つ、凛とした声が響いた。
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