このセカイで。

翠雨。

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第二章 

第四話 懐かしの思い出

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「ふーん、なるほど、ね」


 脳内に声が響く。
ここは人工的な造りの水の中。


(記憶探りで意識がここ水中に飛ばされたのに、自分が全裸なのは置いておこう………)


「君という人間についてよく知れたと思うよ」


「これで終わりなんですか?」


「まぁね。フィルツィア歩兵部隊は大幅な人員不足で、ある程度の研修を受ければ隊員となれるから。ま、この記憶探りは隊員として迎える人の管理のためって感じ」


(はぁ……)


「あと、スパイ防止とかもある――――って話聞いてる? 君が考えてることこっちにも分かるからね」



「どっちにしろもう終わるじゃないですか」


「そうだね。……うーん、最後に質問一ついい?」


「いいですよ。なんですか?」


 無意識に上を見上げる。


「もしかして君ってゲイ?」


(くだらなすぎる……さっきの記憶で解らないのか)


「おい」


「はぁ……ゲイですよ。面倒臭いですね」


「もう、将来の上司に向かって生意気な……。これで終わりだから装置外すね」


 また、視界がぐにゃりと曲がっていった――――

    »†«

「はぁ、お疲れ様」


「今日はありがとうございました。もうないですよね?」


 座っていた席を立ち、ペコリと頭を下げる。


「うん、もうないよ」


 早く帰れと言わんばかりに不機嫌そうな声を出す。

見た目は幼い少女だが、とても大人っぽい。


「では失礼致します。今日はありがとうございました」


 ドアの隣に立ち、ペコリとお辞儀をして待合室を目指す。

    »†«

「あ、冷きゅん終わったー?」


 そう言って俺を出迎えてくれたのは柏だった。


「ん、ただいま」


「どうだった? いつぐらいの記憶を見られた?」


「俺たちが出会った頃。学生時代だよ」


「そっかぁ。懐かしいかも。あの時の冷きゅんなんてカタブツだったもん」


「そうかな。俺全然憶えてない」


「そうだったよ、昔はちょびっとだけしか違わなかったのに今はこんなにも背が大きくなってる」


 柏になでなでされ、少し嬉しくなった。

 そして隣にいる柏を見、声を掛ける。


「帰ろっか」


「うん」


 手を握ってきた柏の手を握り返し、家路についた。
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