このセカイで。

翠雨。

文字の大きさ
上 下
4 / 6
第一章 記憶

第三話 決断

しおりを挟む
 眠れないまま一夜が経った。
まだ重たい瞼を擦りながら席へ着く。

「おはよ~玲ちゃ……ってかどうしたの? クマ出来てるよ」


「……おはよ。別に何ともないから気にすんな」


 そう言ってスルーする。


「――――そういえば返事考えてくれた?」


 心臓がドキリとした。


「僕もさー、ずっと気になって寝れなかったんだよね~」


「返事、は……」


 手をギュッと握り、俯く。


「……やっぱいいよ。僕たち知り合ったばっかだし。ごめんね」


 そう言って俺に背を向け、向こうへ行ってしまった。


(……なんか、間違ったかな)


そんなもやもやする気持ちを抱えたまま一日を終えた。

    »†«

「――――これで今日の授業は終わりです。何か質問がある人は私のところまで来てください」



 あれからいつぐらい経ったのだろう。
少なくとも二週間、は経った気がする。

 他の奴と楽しく話している柏を見るとキュッと胸が引き締められる。


『……やっぱいいよ。僕たち知り合ったばっかだし。ごめんね』


 あの時言われた言葉が何度も頭の中で再生され、ぐるぐると駆け巡る。

今の状態で俺はいいんだろうか。

あの時、誤解を解くことができていれば……。


一人取り残された教室でずっとそう考えていた。

(……俺はどうするべき? 柏に気持ちを伝えるべき……?)

 迷いながらもガタリと席を勢いよく立ち、寮の1025号室へ向かう。

ただ我武者羅に。

 コンコンと扉を叩く。


「はぁー……って冷ちゃん?」


 戸惑った顔をしていた。
ふう、と大きく息を吐き、決心する。


「今までごめん。俺……ずっと柏に黙ってた。」


 バクバク激しく脈を打つ心臓を整えようと何回か深呼吸をした後ゆっくり口を開く。


「好きだ、柏のことが。会ったときから」


 言い終え、しっかりと柏を見据える。

柏はゆっくりドアノブから手を離し―――でもこちらをじっと見つめ―――ギュッと抱きしめた。


「僕も、好き。今までごめんね」


 そっと柏の背中に手を回す。


「ありがとう」


 少し柏から離れ、柏の顔を見る。
えへへ、と泣きながら笑う柏は輝いて見えた。



 暫くフリーズしたかと思えば視界がぐにゃりと曲がって渦になる。


(……ここまでか)

背景も柏の顔も入り混じって何がなんだか分からなくなっていった――――
しおりを挟む

処理中です...