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第Ⅰ部 第一章 性転の霹靂

TSヒロイン・ゴリゴリと音を立て崩壊する男力

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 心臓がアホみたいに高鳴る。
 自分からこんな事しておいてあれだけど、今の俺は腕の中のアル君の顔をまともに見る事すら出来ないでいた。
 顔が自分でも驚くぐらいにやたら熱く、火照っている。

 う~、うぅ~……

 えっと、この後は、ここからの展開は?
 どうしよう? 思わず勢いだけでここまでやっちゃったけど。
 いや、普通に優しく、俺に有るのかどうかも分からない母性でアル君を包み込めば良いだけなんだけどさ。
 で、でで、でもでも、俺の頼れる愛読書バイブル快○天とかバ〇ルとかなら、この先の展開は……

 ああ、そうだ!!

 俺が愛して止まない足フェチ皇帝〇嘘先生の作品なら足だ! 足で、その、お――――を色々とごにょごにょしてあげたら、男は一気にメロメロに……
 って、それだとゴリゴリの18禁やん!
 否定しようがない位に痴女コースまっしぐらやんけ!!
 もっと俺は、その、せっかくなら、ピュアで可愛い感じの恋愛をしたいと言うか、甘くイチャつきたいというか……

 って、だから!
 俺は男だっての!
 ああぁぁあぁぁぁぁ……だからもう!!
 何度目だよ! 何度同じ事を繰り返してるんだよ、この問答!!

 本当にそんなエロい気持ちがメインだったんじゃなくて、純粋にアル君を励ましたかっただけ!

 う~あ~……ああぁぁあぁぁぁっ!!

 で、でも、アル君が可愛いのも確かで……
 どうにかこの子を元気づけたいという、気持ちも嘘偽りのない本当で……
 でもでも、ほんのちょっとだけえっちぃ気持ちで意地悪したいと思うのも、これまた本音で……
 でも、今じゃただただえっちぃ気持ちが全力満タンで……

 ア、アル君、元男に触られるとか嫌かな?

 そんな全力パニックな状態の俺に、アル君はトドメを刺してくれた。

「リョウ……」

 耳元で囁くみたいに俺の名を呼んで、

 チュッ……

 と、俺のおでこに触れるか触れないかの優しいキス。
 ふにゃ~……
 ああ、ああ!!
 もうもう! ちくしょう!!
 アル君てばッ♪ アル君てばぁ♥
 何だよ、そのイケメンがするみたいな優しいキス。
 可愛くて中身もイケメンかよ!
 ちきしょう最高じゃねぇか!
 そんな事されたら、穢れた俺が浄化されて、もはやただの乙女な俺しか残らんくなるじゃん!!

「ありがとう。本当にキミは優しいね」

 君の気持ちは全て分かっているよ、とでも言いたげに微笑んで……

 ポン♪

 と俺の頭を撫でてくれた。

 ……
 …………
 ………………

 や、ちゃうねん!!
 そうじゃないねん!!
 いや、純粋な優しさで抱きしめた気持ちも当然あるけど! あるんだけども!!
 そうじゃないねん!!

「俺はアル君とイチャイチャしたいの!!」

 おぅふ……思わず言い切っちまったぜ……
 でも、まあ……
 心の中で叫んだだけだから、まだ……
 って、なんでアル君真っ赤になってそっぽ向いてんの?

 あれ?
 あれあれ?
 俺、もしかして……

「その気持ちは、じょ、女性にそんな事を言ってもらえるのは、すごく光栄と言えば良いのか、な、何て言えば良いのか……」

 ほきゃ~!!
 やっちまった、やっちまった、やっちまったよぉぉおぉぉおぉっ!!

 それは俺の胸の奥底に秘めに秘めていた思いが、ついに自制を無くして勝手に走り出した瞬間だった。

 ああ、穴があったら沈みたい……

 穴に入るだけじゃ足りないってばよー!
 なんだったら頭から土をかけて石碑も載せて封印してくれても良い!!

 う~、う~!
 俺は男だったんだぞ……
 って、違う違う! だった・・じゃなくて今も男だ!
 う~う~、あぁあッ!
 もう、油断すると転がり落ちるみたいにアル君に甘えたくなって、おでこにキスされたぐらいで(信頼と友愛のキスで愛欲じゃないだろうけど)ときめいて、終いにゃアル君とイチャイチャしたいとか絶叫して……

 俺、本当にもうダメだ……

 しかもさ、真面目な話をしてたアル君を裏切るみたいなタイミングで欲情して叫んじゃったし。
 嫌われたよ~、絶対アル君に嫌われたよ~、もう、俺のエルフライフも終わりだよ。
 ジエンド・オブ・エルフさ、アハハ……
 
 胸からそっと手放したアル君の温もりが、今さっきの事なのに恋しくて切ない。
 きっと、あの癒やしの匂いも、柔らかい髪の感触も、すべすべした肌の感触も二度とは俺に届かないんだ……

 ふ……
 ああ、良いよ、殺さば殺せ!
 あとは死刑宣告を待つだけさ。
 アル君に見捨てられた俺は、きっと空腹のまま野っ原を何日も彷徨って、魔猿に追っかけ回される毎日を送るんだ。
 でも、アル君のシリアスを踏みにじった俺には当然の報いだ。
 ああ、受け止めてやるさ、絶望の日々を。

 そんな毎日、心底嫌だけどさ……

 俺はぎゅっと目を閉じたままアル君からの死刑宣告を待った。
 どれほど時間が過ぎただろうか。
 早鐘みたいに震えていた心臓は、泣き疲れたみたいにかすかに震え喘いでいる。
 どうせ喘ぐなら、アル君の上が良かった……じゃなくて!
 こんなサキュバスみたいな思考してるから、ダメなんだろうが!!
 
 さあアル君、早くこの救いがたいド淫乱エロフにトドメの死刑宣告をしてくれ!
 俺は覚悟を決めて奥歯で絶望を噛み絞めた。

 だけど――

 やっぱりアル君はどこまでも優しかった。

 ポムと、俺の頭に優しく乗せられたアル君の手。
 たったそれだけ。それだけなのに、俺の中が温かい何かで満たされていく。

 う~、やだよ~。やっぱりアル君と離れるのやだぁ……
 嫌われたくないよ。嫌いに、ならないでぇ……
 この温もりが最後なんて寂しすぎるじゃん。

「ねぇ」
「ぅぅ…………」
「そんな、泣きそうな顔しないで」
「だって……」
「まあキミの性格からして、真面目な話してる最中に、その、あんな事を考えてたのがバレて居たたまれないとか、たぶんそんな感じだろうけど」
「うきゃ~!!」

 冷静な状況判断での辱めはやめてくれ!
 俺が望むのはもっと甘い感じの辱めなんだよ!
 って、だからぁ、俺ぇぇぇぇっ! 甘い感じで辱められたいってなんだよ!!
 もう、『俺』が本気で末期だ……

「そんな顔をしないの。さっきも言ったけどさ、女性から、そのキミからあんな風に言ってもらえて嬉しかったのは本当だから」
「え?」
「まあ、いささか情熱的すぎだとは思うけど、キミと知り合って色々あって、師匠と弟子という関係だけどキミの事を憎からず思っているのは確かなんだから」
「え、え? じゃ、じゃあ、『お前のような不真面目で脳内ピンクな駄エルフは獣の餌じゃ!』とか言わないの?」
「一度本気で聞きたかったんだが、キミは一体、ボクを何だと思ってるんだい?」
「じゃ、じゃあ、シッシッってしない?」
「だから、女性にそんな近づいてきた野良犬みたいな扱いはしないよ。それにキミみたいな女性から好意を寄せられて嫌に思う男はいないよ。言動はともかくキミが可愛いのは確かなんだから」
「ちょと引っかかる事を言われたけど、か、可愛いって、アル君……」
「だからもう、そんな泣きそうな顔しないで」
「ア、アル君……じゃあ、こんな俺だけども受け止めてくれるんだね!」
「えっと……それは……」
「あ、ゴ、ゴメンね……いきなりはしゃぎすぎちゃったよね……」
「だから、そんな情けない顔しないで」
「俺、重たいよね。分かったよ! 重たく思われるの嫌だから、ピルとゴム用意すればいいかな? むしろ俺が責めでも可ですか!」
「は? 何の話?」
「もう、アル君てば知ってるくせに……この言わせたがり♥」
「舌の根も乾かないうちに調子に乗ってるし……」
「俺が言ってるのは避妊具とかプレイの事に決まってんじゃん♥」

 ゴンッ!!

 暴走する俺に、石のような頭突きがぶちかまされたのであった。

 合掌……
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