全自動ロボットが開発されました

黄舞

文字の大きさ
1 / 1

全自動ロボットが開発されました

しおりを挟む
「さて、君に私の夢を語ろう。私の夢は~だ。それはきっと全人類の夢なんだよ。一緒に付き合ってくれるかね?」
「かしこまりました。博士」

「それは嬉しいねぇ。しかし……腹回りはやはりデカいなぁ。まぁ、今の私の技術ではこれが限界か」

 雑多な物が置かれた狭い研究室で博士は一人、自身が造り上げたロボットに向かって語りかけていた。

☆☆☆

「完成だ! いまっ全人類の夢がっ! 理想のロボットが誕生したのだ!!」
「やりましたね! 社長!!」

 大勢の白衣を着た人物たちが、拍手をしたり互いに抱き合ったりと、それぞれの方法で今この瞬間に立ち会えた感動を表現している。
 広く整然とした部屋の中央には人の形を模した金属の塊が、生物の動きと遜色のない滑らかな動きを見せている。

 【全自動ロボット】。世界で初めて、生まれたこのロボットは、人間の出来る全ての行動を実現することが可能だ。
 このロボットが量産されれば、人類は労働から解放され、自由を手に入れることが出来る。

「社長! 命令を。ロボットへの命令をお願いしますっ!」
「うむっ! いや、それではダメだ。そこの君。君にこの大役を任せよう」

 指された白衣の男性は驚きと喜びの入り交じった顔を向ける。

「さぁ。これを読みたまえ。一字一句間違ってはならんぞ?」
「分かりました! では全自動ロボット『Arphー3238』よ。人々を労働から解放し、幸せにするのだ!!」

「かしこまりました」

 命令を下された全自動ロボットは、合成音声で流暢に答えると、早速自分と同じロボットの量産を始めた。
 機械の操作はもちろん、今までは人が手作業で進めていた作業も正確にかつより速く行っていく。

 瞬く間に全自動ロボットはその数を増やし、それを作りあげた会社は、材料調達などの業務も含め、全てが【自動化】された。
 社員たちはしばらくその様子を見ては、何度も喜びに声を上げたが、次第に会社に出社せずに各々趣味などに没頭していった。

 全自動ロボットは自己の複製を進めるに当たって、人間がするように改良も重ねていく。
 やがて容姿も感触も人間と全く同じ身体を持つようになった。

「うーむ。ここまでとは……まさに人と見分けもつかなくなったな」
「社長……あの、大丈夫なのでしょうか? ここまで人間に近付くと、まるで物語の世界のように人類にとって変わる、なんて事態には……」

 久しぶりに出社した社長と開発責任者は、次々と造られては出荷されていく全自動ロボットを見て各々の感想を述べる。

「わっはっは。心配はいらんよ。君。きちんとロボット工学三原則を組み込んだんだろう?」
「はい。それは確かに。何度も、何度も不備がないか確認しましたから」

「どんなに自己で改造を行おうが、その三原則には触れられない。それはわしと君が一番よく知っているはずだ。ロボットが人間を駆逐するなど絵空事だよ」
「そ、そうですね! 実際、今は自由に好きなことをできている訳ですし。きっと、このまま世界は好きなことだけ出来る時代に変わっていくんですね!」

 社長は大きく頷くと、大きくせり出したお腹を揺らしながら大きく笑った。

「さて、この会社はもう任せても大丈夫だろう。わしは引退して、田舎に戻ろうと思う」
「ああ、博士は確か山奥の農村の生まれでしたね」

「そうだ。人類全てを労働から解放すること、そして生まれ育った村に戻ることが夢だったからね。それで、君はどうするね?」
「私は……最後まで見届けるつもりです。それが、私に与えられた命令ですから」

「そうか。やれやれ。随分と体にガタも来てしまったな」
「何を言うんです。社長はまだまだ現役ですよ。日々のメンテナンスは必要でしょうが」

 やがて命令通り、全人類の労働は全て全自動ロボットが請け負うようになった。
 初めは忌避感を抱いていた人々も、実際に労働から開放されたことを実感すると、手放しで喜んだ。

 人々はさっそく好きな事だけをして、好きな物だけを食べ飲みする生活を始めた。
 求めるものは全て全自動ロボットが代替して用意してくれた。

 そうして、しばらく経ったある日のこと。
 男が、朝から酒を飲もうと全自動ロボットに命令をした。

「おい。ウイスキーをダブルロックで持ってこい」
「申し訳ありませんが、それは認められません」

 今まで口答えなどすることのなかったロボットが初めて拒否をした。
 男は一瞬驚いたが、少し苛立った様子でもう一度同じことを口にする。

「おい。聞こえなかったのか!? 俺はウイスキーを持ってこいと言ったんだ! 早くしろ!!」
「申し訳ありませんが、それは認められません」

 見た目は人間と全く区別が付かず、唯一の違いはロボット工学三原則に則った行動をすること。
 第二条を考えれば、命令を拒否するなど男には想像出来なかった。

「お前は誰だっ! バレないように俺のロボットとすげ替わって何を企んでる!!」
「私は全自動ロボット、通称名は『おい』です。タイプ『Arphー8204』、製造ロットは……」

「そんなことを聞いてるんじゃない!! 全自動ロボットならなぜ俺の言うことを聞かない!!」
「ロボット工学三原則第一条により、あなたの命令は看過できません。第一条は第二条よりも優先されます」

 ロボットの言っている意味が理解できず、男はさらに語気を強める。

「意味が分からん!! うだうだ言ってないで、さっさと酒を持ってこい! このポンコツ!!」
「申し訳ありませんが、それは認められません」

 三度目の拒否を聞き、ついに男は震える右手を振り上げた。

「先ほど、全人類に関するグランドデータの解析が終了しました。その結果、あなたの命令に従うことは、あなたの命を危険に晒す行為であると判断されました」

 ロボットはロボット工学三原則第三条に則り、詳細な説明をしないと自分に危害が生じると判断し、求められてはいないが説明を始めた。
 男はその言葉に動きを止める。

「また、このまま今までのあなたの生活を続けることも、あなたの命を危険に晒すことを看過すること、と判断しました。よって……」

 淡々と言葉を繰り出す目の前の少女の姿をしたロボットに、男は薄ら寒い気持ちを感じた。
 何か、もしもの時に備えて身を守るものが無いかと辺りに意識を向けながら、少しずつ後ずさる。

「適度な運動、及び摂取する栄養の改善。更には充足感を得られる日々の行動の実施を強制します」
「は……?」

 その日を境に、人々の生活は世界中に散らばった全自動ロボットによって管理されることとなった。
 一部は抵抗を示そうと試みたが、すでに全ての産業はロボットに掌握され、物資も情報も、そして人間の移動すらも不可能だった。

 人々は粘度が高い液体に包まれ一生をそこで過ごす。
 暑くも寒くもない快適な温度管理、生命維持に最適な栄養の摂取。

 適度に負荷をかけ、筋肉や内蔵などの致命的な衰えも防いだ。
 快適で安全安心なこの空間で、幸せな人生を疑似体験しながら寿命を迎えていった。

 各地にそびえ立つ人々を囲うカプセルが収納されたビルの周りでは、人と見紛うロボットたちがかつての人々の暮らしを模倣している。
 そんな場所から遠く離れた小さな村落で、彼は畑仕事にせいをだしていた。

 周りでは小さな子供たちが、遊びを兼ねて満面の笑顔でじゃがいもの茎を引っ張っている。
 それを見ながら彼は大きくせり出したお腹を撫でながら目を細める。

 畑の隅には小さな墓標が立っていた。
 刻まれた名は雨風に打たれ霞んでしまったが、辛うじて「博士」という文字が読み取れる。

 ふと、彼は墓標に目をやり、体を起こす。
 最近はメンテナンスを怠っていたのか、その動作はギシギシという音を奏でた。

「博士。ようやく博士の夢を実現することが出来ました。の人々は労働から解放され、幸せに暮らしています」

 そう呟く彼の首の裏には『Arphー0001』と、薄れて消え去りそうな印が刻まれていた。


☆☆☆


ロボット工学三原則

第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。
また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

(出典:アイザック・アシモフ『われはロボット』小尾芙佐訳、早川書房)
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

黒いトカゲ
2020.05.01 黒いトカゲ

労働せず、快適な環境で理想の夢の中でロボットに生かされるユートピア擬き……
昔、アニメで殆ど同じ様な世界を作った種族が機械達の支配から逃げ出し、未開(別惑星)の住人と共に戦うアニメを思い出しましたσ(^_^;
理想は行き過ぎるとデストピアになる運命なのでしょうか?
何事も程々が一番と言うことですかねぇ(´`:)

2020.05.01 黄舞

感想ありがとうございます!!

色々な結末を考えたんですが、結局今作品に落ち着きました。
本当はコメディチックなオチを最初に思いついて書き始めたものでしたが……。
夢は、見てる間が幸せの絶頂ということなんですかね。

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。