辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
8 / 133
第1章

第8話

しおりを挟む
諸事情によりヒロイン名をサラとソフィに変更しました。初めて読む方にはお目汚しすいません。途中まで読んでいる方は混乱させてすいません。

◇◇◇◇◇◇


 青々と茂った自然の並木が並ぶ畦道を、馬車はゴトゴトと大きな音を立てながら進む。
 整備された街道と異なり所々に石が埋まっていて、それを車輪が踏む度にガタンと大きく揺れた。
 のどかな田舎道を馬車はゆっくりと進んでいた。

「カインさんが町に向かうなんて珍しいね。いつぶりだい?」
「最後に行ったのは三年も前かな。あの時はサラに贈るための装備を買い行ったんだったね」

「そんなに前か。それにしてもサラちゃんはすごいなぁ。よく知らないがAランクというのはそうそうなれるもんじゃないんだろう?」
「ああ。一番上がSランク、Aランクはその次だね。俺が冒険者を辞めたときはDランクだったんだからとっくの昔に追い越されちゃったな」

「カインさんよりもずっと強いのか! それは驚きだなぁ。あのサラちゃんが冒険者になるって言った時も驚いたけど」
「俺もまさか冒険者になると言い出すなんて思わなかったよ。絵本が読めない代わりに話してあげた冒険譚が少々効きすぎてしまったようだね」

 カインは馬車に揺られながら馬車の手綱を持つロロと他愛無い話をしながら昔を思い出していた。
 娘が6歳になってしばらく経ったある日、唐突に冒険者になると言い出したのだった。
 初めは子供の戯言と受け流していたが、何度となく真剣な目をして言ってくるものだから、とうとう根負けし自分の教えられる範囲で冒険者に必要と思われる知識や経験を教え始めた。

 初めは村の近くにある森の歩き方を教えた。森には様々な恵があり、そして危険があった。
 幼い我が子に危険が及ばぬよう注意しながら、それとなく危険への対処の仕方、森からもたらされる恵の受け方を学ばせた。

 並行して冒険者に必須といえる身の守り方を教えたのだが、ここで一つ問題が生じた。
 カインは魔術師で当然魔術については少なからずの知識があるのだが、残念なことにサラには魔術の才能がなかった。

 仕方なく一般的な武器である剣を学ばせたのだが、それは彼女に合っていたらしい。
 見る見るうちに上達し、村の者では到底敵わない程の腕前まですぐに成長した。
 と言ってもカインが出来ることはサラの動きを観察し、一つ一つの挙動が適した動きになるように何度でも繰り返すようアドバイスをあげることや、競う相手がいないサラの打ち合い相手となることだけだった。

 自身は剣を学んだことがなく適した型をやって見せることはできないが、魔力探知を使い、筋肉の動きや意識の方向などを観察しながらそれが適した動きであるかどうかを判断していたのだった。

 冒険者になると村を出た15歳の頃には、カインも安心して送り出せるほどの腕前を持っていた。
 餞別にと装備を贈ったが、村のほとんどゼロと言っていい収入ではお世辞にも立派と言えない、駆け出しの冒険者が身に着けるような装備しか買えなかった。

 それでも何もないよりはましだろうと、自身の付与を付け贈ったのだった。
 もうAランクになっているのならそれなりの蓄えもできているだろう。
 今頃は一端の冒険者と思われるような高性能な装備を身に包んでいるに違いないとカインは思っていた。

 まさか、3年経った今も後生大事にその装備を身に着けていようとも、自分の贈った装備が都市で簡単に入手できるどの装備よりも優れているとも夢にも思わなかった。

「カインさん、そろそろ日が落ちそうだ。今日はこの辺で野宿になるけど大丈夫かい?」
「ああ。問題ないよ。さっそく準備をしようか。ロロは馬の世話で疲れたろうから今日はゆっくり休むといい。明日もあるからね。夜の見張りは俺がやろう。道中ゆっくり休んだから一晩くらいなんとかなるさ」

「ほんとうかい?それは助かるよ。この辺に限って夜盗なんかは出てこないだろうけど、獣だって集まれば恐ろしいからね」

 カインは馬車から降り立つと積んであった薪を取り出し、火をつける。夏とはいえ吹きっ晒しの夜は冷えるし、何より獣避けに必要だった。
 ふと思いつき火に獣避けの付与術をかける。これで獣やそんなに強くない魔物は寄ってこないだろう。

 辛いほどに塩味のついた魚の干物を軽くたき火であぶり、持ってきた野菜を適当なサイズにちぎったものを切れ目の入れたパンに挟んで夕食にする。

 どれも村で取れた食材だ。カインは村の自給自足の生活に満足していた。
 養祖母の影響で冒険者を志し、晴れて冒険者になりそれなりの冒険をしたが、残念ながら自分には才能がなかった。

 いろんな知識も頭に入れ、人に負けないだけの努力をしたが、結局はDランク止まり。
 不慮の事故とはいえ視力を無くし、普通であれば今頃どこかの道端でのたれ死んでいてもおかしくなかった。
 そんな自分を助け、今や人並みの生活が出来るようにしてくれたのは、亡き妻や村の人々だった。

「カインさん。申し訳ないけどそろそろ寝るね。もし何かあったら遠慮なく起こして」
「ああ。大丈夫さロロ。朝までぐっすりとお休み」

 ロロは持ってきた寝袋に入り込み、数分もしない内にすーすーと寝息を立て始める。
 カインは火が尽きないよう薪を足しながらぼーっと過去の冒険の日々を思い返していた。

 久々の村の外の空気に触れて、忘れかけていた冒険心が顔を出したのかもしれない。
 そういえばすっかり気にも留めなくなっていたが、あの時の仲間は無事だったのだろうか。

 彼らは才能にあふれていた。
 生きていること、視力を失ったこと、冒険者をやめこの村に定住することなどを当時のギルド宛に手紙を書いたが、その後彼らからの便りはない。

 生きているのかそれすらも分からないが、生きていてまだ冒険者を続けているのなら、それなりの名声を得ていることだろう。
 サラの手紙に書けばよかった。もしかしたらギルドに聞けば所在を聞けるかもしれない。
 手紙に書きたすか、いやもう封をしてしまった。などと取りとめのないことを考えていた。

 結局その夜は何事もなく済み、朝日が昇ったころにロロを起こして、隣町へ再び移動を始めた。

「そういえば手紙と一緒に贈り物を贈るんだって?町で何か買うつもりかい?」
「いや、そんな金ないからね。自作さ」

「カインさんの作ってくれる道具はどれも便利なんだから、それこそ町で売ればそこそこの稼ぎになるんじゃないのかい?」
「ああ、あれかい。あれはね。ダメなんだよ。あれはあの村限定さ。村を出ると使い物にならなくなる。方法がないわけじゃないが、それを全部にするのは到底無理だよ」

「ふーん。そうなのかい。じゃあ俺たちはずいぶんと得をしているんだねぇ」
「ははは。そうだね」

 そうこうしているうちに隣町に着く。ロロは馬車を町の外にある馬車止めに繋ぎ止めると、荷台を引いて市場へと買い出しに向かう。
 カインは娘への手紙を届けてくれる人を探し始めた。



 凱旋した冒険者達はみな口数少なかった。
 目的であるタイラントドラゴンの討伐は達成し、街の危機を救った英雄なのだ。
 出迎える群衆の歓声は高く、街道中を人々が覆いつくし、英雄の帰還を祝った。

 確かに目的は達成した。しかし、冒険者達本来の目的である心臓は突然の闖入者に横からくすね取られたのだ。
 しかもSランクやAランクの冒険者パーティ複数がいる目の前でなす術もなく行われた。

 冒険者は元来プライドの高い生き物である。心臓を手に入れ損ねたことよりも、虚仮にされたことにみな憤りを感じていた。
 ましてやあの時の発言から、あの闖入者はこうなることを始めから予想していたようにも思えた。

 もしかしたら、突然に起こったタイラントドラゴンの変異も仕組まれていたことのような気がしてくる。
 あのような変異は話に聞いたこともないが、あの少年は特に驚いた素振りもせずさも当然のことのように扱っていた。

 そうならば、あの時死んだ戦士も弓使いもあいつのせいだと言える。誰もが言葉にせずともあの少年への復讐を決意していた。

 冒険者達を引き連れた一団は広場を通り、オスローの中心部、大公の城の前まで進んだ。
 すでに早馬により大公にはタイラントドラゴン討伐達成が伝えられており、一団が到着したときには大公自ら城門まで足を運んでいた。
 一団は大公の姿を確認すると全員膝を付き黙礼する。

 サラもカインが高ランクになったときに貴族などの前で恥をかかないようにと礼儀作法は一通り教えてくれていたのでそれを思い出し、周りに倣う。
 今思えばDランク止まりだった父が何故そのような作法を知っているのか疑問に思えてきたがその考えはすぐに消えた。

「此度の苦労、まことに大儀であった。聞けば敵は尋常ならざる変異を持ち、尊き命も失われたという。今この場にいる冒険者達はまさに護国の英雄である。それ相応の褒賞を与えるべきところであるが、遺憾なことに心臓は姑息な手段により奪われてしまった。しかし、代わりに相応しいだけの褒美を用意した。面を上げ、受け取るがよい」

 大公の言葉に顔を上げると、確かに相応しいと思えるだけの財貨が並べられていた。
 冒険者達は各々褒美を受け取ると一礼し、後ろに控えた。

 その後城内で晩餐会が開かれた。
 サラやソフィは普段着慣れぬドレスを身にまとい、食べなれぬ食事を口にし、慣れぬ会話に気疲れをした後、城内の寝室に案内された。

 戦いの疲れよりも晩餐会の疲れの方を強く感じながら、乗ったことのないようなふかふかのベッドの上で二人は顔を見合わせ、ほっと一息ついた。
 するとサラは思い出したように自分のカバンの手をやると中から何か取り出し、ソフィに話しかける。

「ねぇ、ソフィ。これどうしたらいいと思う?」

 その手の平には一欠けらほどの黒い肉片が置かれていた。
 タイラントドラゴンの心臓を射抜いたときに期せずして心臓の小片が長剣に切り取られ、張り付いていたのだ。


◇◇◇◇◇◇

本日より更新の基準時間を昼の12:00とします。
一日に複数話投稿の際はその限りではありません。

励みになりますのでちょっとでも面白いと思っていただけたらコメント、お気に入り登録をしていただけると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...