辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
34 / 133
第3章

第33話

しおりを挟む
 遮るものもなく地平線まで続く街道をカインはひたすらに歩いていた。
 オルヴォーの乗り場でコルマール行きの馬車を見つけたのだが、御者が提示してきた運賃があまりにも高く、自分の足で向かうことを決めたのだ。

 コルマールまでは徒歩で一週間程度の道のりだ。
 特に期限が決められた旅でもないし、時間がかかることにより発生する費用を合わせても、馬車の運賃よりもずっと安かったので、迷うことなく歩くことを決めた。
 季節は冬だが、南に位置するコリカ公国は冬でも温暖な気候をしていた。

 幸い道中魔物や盗賊に襲われることはなかった。
 念のため魔物避けの付与を護身用に腰につけた短剣にかけていたし、服装も村を出た時と変わらない格好をしていたから、金を持っているようにはお世辞にも見えなかったためだろう。

 野宿や中継点の町で宿を取りながら、旅は順調に進んだ。
 コルマールの一つ前の町まで辿り着き、今夜泊まる宿を探して通りを歩いていた。

「お願いです! 私をコルマールまで連れて行ってください!」
「うるさい! 貧乏人は触るな! 服が汚れるだろうが!」

 短身の女性が恰幅のいい男に何やら頼み込んでいるようだが、男はまるで汚いものでも見るような目でその女性を一瞥すると、男の服の裾にすがる女性を足蹴にした。
 あっと小さな声を上げ、女性は地面に倒れ込む。

 詳しい状況は分からないが、カインは即座に女性のもとへ駆け寄り、助け起こした。
 長い髪を後ろで一つに束ねた女性は少し苦しそうな顔をしながら起き上がるとお礼を言った。

「ありがとうございます。すいません。助けてもらった方にいきなり質問をするのも失礼ですが、コルマールまで行く予定ではないですか?」
「ええ。コルマールに向かう途中です。それよりも大丈夫ですか?」

 カインが答えると女性は苦しさも忘れ、必死の形相で、自分をコルマールまで連れて行ってほしいと頼み込んできた。
 聞くと夫がコルマールに自分の作った作品を売りに行ったまま戻ってこないらしい。

 何か戻ってこられない理由があるはずだと、自分が迎えに行きたいのだが、女性一人では道中の魔物に抗うこともできず、かと言って、馬車に乗るにも運賃が捻出できないのだという。
 元々それなりの貯えがあったというのだが、ほとんどの作品と共に夫が全て持って行ってしまったらしい。

 よく視ると先ほどの男に蹴られた以外にも、身体の至る所に擦り傷やあざが出来ているようだ。
 カインはそれに気づいていない振りをしながら、もう少し詳しく話を聞いた。

 結論として、彼女は騙されたのだ。
 ニィニィは工芸が得意なドワーフの女性だった。同じ音が繰り返される名前を持つのはドワーフの女性の特徴らしい。

 特に髪飾り作りが得意で、その腕前は高く、王侯貴族に人気を博していたという。
 しかし、職人としては成功を収めた彼女だったが、種族を離れて遠い異国の地で寂しい思いをしていた。

 そこに付け込んだのが件の夫だ。言葉巧みにニィニィに取り入り、表面だけの夫となった。
 ニィニィは婚姻関係を結んだと信じているが、この国の法に則っていえば婚姻関係を結んだとは言えない子供騙しだった。

 夫婦生活を始めた夫は、ニィニィが丹精込めて作った髪飾りと貯蓄の在処を聞き出すと、必死に引き留める彼女を暴力で黙らせ、そのままコルマールへと向かったのだという。
 夫の突然の豹変振りに、何か訳があるはずと純粋なニィニィは信じ込み、夫の帰りを待ったがしばらく待っても音沙汰がないため、自分で迎えに行こうと決心したのだという。

「どうか、お願いします。夫に会わないといけないんです。お礼は、こんなものしかできませんが・・・」

 そういうとニィニィは懐からいくつかの髪飾りを取り出した。

「今持ち合わせがないんです。髪飾りを作ってお金にしようと思ったんですが、左手にうまく力が入らなくて、こんなものしか作れなくて・・・」

 取り出された髪飾りはどれも何処か歪な形をしていた。これでは売り物になるまい。
 ふと、カインは特別な金属の波長を感じ、その場所を詳しく観察した。どうやら懐にもう一つだけ髪飾りが入れられているらしい。

「失礼ですが、そのもう一つの髪飾りはどういうものですか?」
「え? あ、これですか? よくお分かりになりましたね。ですが、申し訳ありません。これを差し上げる訳にはいかないんです」

 懐から取り出された髪飾りは素人のカインが見ても違いが分かるほど美しかった。
 小さな様々な形をした花が散りばめられ、中心から3本、尾のような飾りが添えられていた。

「いえ。他のものと違うように感じたもので。それを頂きたいということではありませんので、お気になさらず。それと、私も徒歩ですが、それでよろしければご同行ください。道中の安全だけは約束します」
「本当ですか?! ありがとうございます! それでいつ出発されるのでしょうか?!」

 今すぐにでも向かおうという勢いのニィニィをなだめ、今日はもう遅いから明日の朝、コルマールへ続く道の門の前で落ち合うことを約束し、2人は別れたのだった。



「これが今回の依頼の詳細になります」

 そういいながら、オスローのギルドの受付嬢は一枚の紙を2人に渡した。
 そこにはオスローの近隣にあるダンジョンで起きている、魔物の大量発生の原因調査と解決と書かれていた。

 つい最近の話であるが、オスローの南に位置するダンジョンで大量の魔物が発生していることが冒険者の報告によって明らかにされた。
 そこは元々そこまで深いダンジョンではなく、魔物の種類も量も多くなかった。

 しかし、報告した冒険者の話によると普段見かけないような魔物も含め数多くの魔物がひしめき合い、中には討伐ランクAランクの魔物もいたのだという。
 冒険者は命からがら逃げだし、それをギルドに即座に報告した。

 1匹やせめて数匹ならばAランクの冒険者パーティでも任せられるクエストかもしれないが、無数に魔物がいる中でAランク相当の魔物討伐をこなす必要があるならば、その適正ランクはSランクである。
 しかもダンジョンは街からそう遠くないところにあるため、いつ魔物があふれ出し街へ進行してくるか分からないことから、急を要するクエストだった。

 そこで白羽の矢が立ったのが、先日タイラントドラゴンを見事打ち取ってみせたサラとソフィだった。
 なんでも今回は公国からの依頼だという。

 2人は内容を確認すると、すぐに現地に向かった。出来るだけ早く解決し、カインのいるコルマールへと向かいたかったためだ。
 ダンジョンの入り口に着くと、異変が起きていることはすぐに分かった。

 入り口から数多くの魔物があふれ出ていた。
 その種類は様々で、動物種、亜人種、昆虫種などまるで魔物の博覧会に来ているようだった。

 ここから見える魔物にはそこまで強力なものはいないようだ。
 サラはソフィに目配せをし、それに応じる様にソフィは範囲攻撃魔法を唱えた。

 瞬く間に魔物は一掃され、辺りには黒く焦げた肉片と、焼けた臭いだけが残った。
 サラは注意深く入口に近寄ると、中へ入っていく。

 中も入口と同じくらい密集した魔物で溢れかえっていた。

「ソフィ、魔力温存で。雑魚は私が移動しながら倒すわ」
「分かったわ。サラ」

 サラは中へ進むと手に届く範囲の魔物を一掃しながら、奥へと突き進んでいった。
 ソフィも自分に危険が及ぶ以外はサラの討ち漏らしも無視して、必死でサラの後を追いかけていた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...