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第3章
第46話
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「え? コルマールの博覧会へ出席ですか?」
「そうだ。ルティ。コルマールへは少しかかるから、明日には出発しようと思う。いつも通り頼むよ」
ルティの父親はコリカ公国の外交官だ。
コルマールで近々開催されるという博覧会に、コリカ公国の来賓として招待されたらしい。
もっとも、招待されたのは、大公及び王子なのだが、王子の失踪でそれどころではないため、代わりにルティの父が出席するのだ。
それにルティは同席を命じられたのだが、珍しいことではなかった。
通常、パーティなどに招待された場合、親しい女性を伴うことがマナーとされていた。
しかし、ルティの母はルティが成人になる年に、長年患っていた病気が元で、帰らぬ人となった。
母を溺愛していた父は、新しい妻を娶ることはせずに、それ以来公の場へは一人娘のルティを帯同するようになった。
もう何年もその状況が続き、ルティも父と一緒に様々な式に参加するのが自分の役目だと理解するようになった。
「しかし、コルマールへ行くのなら、長旅になるわね。ライヤン、あなたも一緒に来るでしょ? そんな長い間離れるのは嫌ですもの」
ルティは自室に戻ると、椅子に座り、足元に寝そべっている、金色の毛並みの犬を撫でた。
想い人と同じ名前を付けられた犬は、あの日以来ルティの家族となった。
時折姿を見せなくすることがあるが、基本的にはルティのそばを離れず、まるで長年従えてきた忠犬のようだった。
また、こちらの言葉を理解しているのではないかと思うほど、的確にルティの指示に従った。
元々動物好きのルティはこの犬のおかげで、しばらく姿を見せない、想い人への気持ちを幾分か紛らすことが出来た。
また、貴族の道楽として書いている物語も創作意欲を突き動かされ、先日、ひとつ書き終えた。
「ああ。ライヤン。短い間だけれど、あなたはもう私にとって無くてはならない存在だわ。愛しい子。おいで、そろそろ寝る時間よ」
そう言うとルティは寝支度を済ませ、寝室へ向かった。
ライヤンと名付けられた犬もその後に従い、定位置となった、女主人のベッドの端に体を丸めてうずくまった。
明くる日、馬車に乗ってコルマールへと向かう馬車の中には、ルティの他に、父とライヤン、そして、護衛用の冒険者が座っていた。
2人組の冒険者は、ルティの目から見てもあまり頼りになりそうにない。
私兵を持つことが許されていない、子爵であるルティの父は、護衛には冒険者を臨時で雇うようにしていた。
今回も例に漏れず、コルマールまでの護衛をギルドに依頼したのだが、困った事態が発生していた。
既にめぼしい冒険者の多くは、他の馬車の護衛になっているか、自身がコルマールへ出発していた。
そこで普段なら雇うことの無い、低ランクの冒険者を、いないよりはましだろう程度に雇うことになったのだ。
雇われた冒険者達は、護衛任務など初めてで、普段顔を合わせることなどない貴族と、同じ馬車に乗っている事実に浮き足立っているようだった。
時折ルティの顔に目を向けては、2人でこそこそ何やら嬉しそうに話をしていた。
大丈夫かな、そう思いながら、湧き上がる一抹の不安を、隣で静かにしている忠犬の背を撫でることで、なんとか消そうとしていた。
ルティの父は何を考えているのか、中空をじっと見つめ、身動きひとつ取らなかった。
◇
「ま、魔物です!」
しばらく経って、御者がそう叫んだ。
辺りは見晴らしの良い草原。風の音に混じって、何やら低い唸り声が聞こえているような気がした。
ルティは馬車の席から顔を外に出し、辺りを窺った。
まだ遠くの方ではあるが、複数の黒い点が見えた。
「護衛の皆さん! お願いします!」
御者は席に座ったまま動こうとしない、冒険者の2人を急かすように言った。
2人は渋々馬車から降りると、魔物のいる方へと歩いて行った。
その時、ルティの不安はより強いものとなった。
馬車から降りる時、冒険者達は、確かに震えていたのだ。
不安にかられ、馬車の中から様子を見ていたルティは目を疑った。
魔物の方へ歩いていた冒険者達は、途中で方向を変え、脱兎のごとく逃げ出したのだ。
なんてこと、ルティは内心ほぞを噛んだ。
彼らの装備は新品と見間違うほど綺麗だった。
恐らく、討伐系のクエストなどほとんど達成してきていなかったのだろう。
しかし、今更その事に気付いても遅い。
この後自身に降りかかるであろう不幸を想像し、ルティは恐ろしくなり、忠犬に抱きついた。
2人が逃げたことを伝える御者の言葉に、ルティの父はなんとか出来ることがないか、必死に頭を回しているようだ。
◇
「あ、ソフィ。前の高そうな馬車、魔物に襲われそうよ」
「どれどれ? え? サラ、よくあんなの見えたわね。うーん、あそこだったらなんとか届くかなー」
「え? お二人共なにか見えるんですか? 私には全然見えませんが」
先程、5人を追い越して行った馬車が停まっており、その向こうに魔物の群れが見える。
馬車から2人降りてきたが、魔物を倒すことなく逃げ出してしまったようだ。
恐らく、馬車の護衛だったのだろう、が、どうやらその2人には荷が重すぎたようだ。
ダイアウルフ、灰から黒に近い毛並みを持つ人よりも大型の狼のような魔物で、個々の力もさる事ながら、狼系の魔物によく見られる、群れでの狩りを得意としていた。
討伐ランクは単体でもBランク、群れになるとAランクの魔物だった。
この魔物に目をつけられるとは運が悪い。
「ソニア、ちょっと私達急ぐから、後から追いついてきてね」
そう言うと、サラとソフィは駆け出した。
瞬く間に残された3人との距離が開いていく。
唖然としながら、事態が漸く飲み込めた3人も顔を見合わせ、走り出した。
前方では、サラとソフィの距離も差が開き始めていた。
サラが馬車に追いつくまであと少しという頃には、ダイアウルフの群れも、馬車と肉薄していた。
まずい、間に合わなかったか、と内心焦りを見せた矢先、迅雷がダイアウルフの群れを襲った。
何匹かのダイアウルフが直撃を受け、その身体を黒く焦がしながら、その場に倒れた。
さすが、ソフィ、と笑みを作りながら、サラは突然の攻撃に距離を取ったダイアウルフと馬車の間に身を滑り込ませ、近くにいるダイアウルフを斬り払った。
「そうだ。ルティ。コルマールへは少しかかるから、明日には出発しようと思う。いつも通り頼むよ」
ルティの父親はコリカ公国の外交官だ。
コルマールで近々開催されるという博覧会に、コリカ公国の来賓として招待されたらしい。
もっとも、招待されたのは、大公及び王子なのだが、王子の失踪でそれどころではないため、代わりにルティの父が出席するのだ。
それにルティは同席を命じられたのだが、珍しいことではなかった。
通常、パーティなどに招待された場合、親しい女性を伴うことがマナーとされていた。
しかし、ルティの母はルティが成人になる年に、長年患っていた病気が元で、帰らぬ人となった。
母を溺愛していた父は、新しい妻を娶ることはせずに、それ以来公の場へは一人娘のルティを帯同するようになった。
もう何年もその状況が続き、ルティも父と一緒に様々な式に参加するのが自分の役目だと理解するようになった。
「しかし、コルマールへ行くのなら、長旅になるわね。ライヤン、あなたも一緒に来るでしょ? そんな長い間離れるのは嫌ですもの」
ルティは自室に戻ると、椅子に座り、足元に寝そべっている、金色の毛並みの犬を撫でた。
想い人と同じ名前を付けられた犬は、あの日以来ルティの家族となった。
時折姿を見せなくすることがあるが、基本的にはルティのそばを離れず、まるで長年従えてきた忠犬のようだった。
また、こちらの言葉を理解しているのではないかと思うほど、的確にルティの指示に従った。
元々動物好きのルティはこの犬のおかげで、しばらく姿を見せない、想い人への気持ちを幾分か紛らすことが出来た。
また、貴族の道楽として書いている物語も創作意欲を突き動かされ、先日、ひとつ書き終えた。
「ああ。ライヤン。短い間だけれど、あなたはもう私にとって無くてはならない存在だわ。愛しい子。おいで、そろそろ寝る時間よ」
そう言うとルティは寝支度を済ませ、寝室へ向かった。
ライヤンと名付けられた犬もその後に従い、定位置となった、女主人のベッドの端に体を丸めてうずくまった。
明くる日、馬車に乗ってコルマールへと向かう馬車の中には、ルティの他に、父とライヤン、そして、護衛用の冒険者が座っていた。
2人組の冒険者は、ルティの目から見てもあまり頼りになりそうにない。
私兵を持つことが許されていない、子爵であるルティの父は、護衛には冒険者を臨時で雇うようにしていた。
今回も例に漏れず、コルマールまでの護衛をギルドに依頼したのだが、困った事態が発生していた。
既にめぼしい冒険者の多くは、他の馬車の護衛になっているか、自身がコルマールへ出発していた。
そこで普段なら雇うことの無い、低ランクの冒険者を、いないよりはましだろう程度に雇うことになったのだ。
雇われた冒険者達は、護衛任務など初めてで、普段顔を合わせることなどない貴族と、同じ馬車に乗っている事実に浮き足立っているようだった。
時折ルティの顔に目を向けては、2人でこそこそ何やら嬉しそうに話をしていた。
大丈夫かな、そう思いながら、湧き上がる一抹の不安を、隣で静かにしている忠犬の背を撫でることで、なんとか消そうとしていた。
ルティの父は何を考えているのか、中空をじっと見つめ、身動きひとつ取らなかった。
◇
「ま、魔物です!」
しばらく経って、御者がそう叫んだ。
辺りは見晴らしの良い草原。風の音に混じって、何やら低い唸り声が聞こえているような気がした。
ルティは馬車の席から顔を外に出し、辺りを窺った。
まだ遠くの方ではあるが、複数の黒い点が見えた。
「護衛の皆さん! お願いします!」
御者は席に座ったまま動こうとしない、冒険者の2人を急かすように言った。
2人は渋々馬車から降りると、魔物のいる方へと歩いて行った。
その時、ルティの不安はより強いものとなった。
馬車から降りる時、冒険者達は、確かに震えていたのだ。
不安にかられ、馬車の中から様子を見ていたルティは目を疑った。
魔物の方へ歩いていた冒険者達は、途中で方向を変え、脱兎のごとく逃げ出したのだ。
なんてこと、ルティは内心ほぞを噛んだ。
彼らの装備は新品と見間違うほど綺麗だった。
恐らく、討伐系のクエストなどほとんど達成してきていなかったのだろう。
しかし、今更その事に気付いても遅い。
この後自身に降りかかるであろう不幸を想像し、ルティは恐ろしくなり、忠犬に抱きついた。
2人が逃げたことを伝える御者の言葉に、ルティの父はなんとか出来ることがないか、必死に頭を回しているようだ。
◇
「あ、ソフィ。前の高そうな馬車、魔物に襲われそうよ」
「どれどれ? え? サラ、よくあんなの見えたわね。うーん、あそこだったらなんとか届くかなー」
「え? お二人共なにか見えるんですか? 私には全然見えませんが」
先程、5人を追い越して行った馬車が停まっており、その向こうに魔物の群れが見える。
馬車から2人降りてきたが、魔物を倒すことなく逃げ出してしまったようだ。
恐らく、馬車の護衛だったのだろう、が、どうやらその2人には荷が重すぎたようだ。
ダイアウルフ、灰から黒に近い毛並みを持つ人よりも大型の狼のような魔物で、個々の力もさる事ながら、狼系の魔物によく見られる、群れでの狩りを得意としていた。
討伐ランクは単体でもBランク、群れになるとAランクの魔物だった。
この魔物に目をつけられるとは運が悪い。
「ソニア、ちょっと私達急ぐから、後から追いついてきてね」
そう言うと、サラとソフィは駆け出した。
瞬く間に残された3人との距離が開いていく。
唖然としながら、事態が漸く飲み込めた3人も顔を見合わせ、走り出した。
前方では、サラとソフィの距離も差が開き始めていた。
サラが馬車に追いつくまであと少しという頃には、ダイアウルフの群れも、馬車と肉薄していた。
まずい、間に合わなかったか、と内心焦りを見せた矢先、迅雷がダイアウルフの群れを襲った。
何匹かのダイアウルフが直撃を受け、その身体を黒く焦がしながら、その場に倒れた。
さすが、ソフィ、と笑みを作りながら、サラは突然の攻撃に距離を取ったダイアウルフと馬車の間に身を滑り込ませ、近くにいるダイアウルフを斬り払った。
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