辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第4章

第76話

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「お父さん! あれ、まさか!」
「ああ。そのようだ。

 先程まではっきりとその姿を視認できていたメスのグリフォンは、カインの目の前から突然姿を消した。
 いや、実際はそこに居るのに、以前戦ったオークキングとヴァンのように、カインには視えないのだ。

 今カインにとって、唯一の目印は、魔物寄せを付与した、オリハルコンの欠片だけだった。
 カインはある事を危惧し、それを確かめるため、サラに聞いた。

「サラ。もし、あのメスのグリフォンが魔法を使ったら教えてくれ。肉体だけじゃなく、魔法まで視えないとなると、かなりまずい」
「え? たった今黒い竜巻みたいな魔法で、何故か味方のグリフォン達を切り刻んでたばかりよ?!」

 カインは内心ほぞを噛んだ。
 確かに突然グリフォン達が切り刻まれたのは視えていたが、肝心の魔法は視えなかった。

 カインにとってはオークキングやヴァン以上に天敵と言えた。
 気が付けば視えない刃に身体を真っ二つにされているということも有りうるのだ。

 そればかりではなく、味方の援護もかなり制限されてしまう。
 事情を察することの出来る、サラ達やルーク達はまだしも、他のメンバー達にはこの事実を伝えなくては。

「皆さん聞いてください! 何故だか分かりませんが、メスのグリフォンの姿も魔法も私には視えなくなりました! 私の援護を期待しないでください!」

 ボルボルやクランのメンバー達にはカインが何を言っているか理解できなかったようだ。
 彼らには漆黒に染まったメスのグリフォンがありありと見えるし、たった今放ったばかりの脅威とも言える黒い竜巻のような魔法も見たばかりだからだ。

「詳しく説明している暇はねぇ! いいからカインの言った言葉をそのまま理解しろ! カインからの援護を期待するな! それだけだ。分かったな!」

 ルークに言われ、頭で考えるよりも、言われたことが自分にどう影響するのかだけをそれぞれが理解し、みな、防戦の体制を取った。
 カインの援護が期待できないとなると、自分の身は自分で守らねばならぬのだ。

 それにしても、とカインは思った。
 ヴァンの戦いの後、サラから聞いたタイラントドラゴンの変異と、洞窟で見つけた夢魔の上半身のことを思い出し、カインは今目の前で起きたことを考えていた。

 タイラントドラゴンもグリフォンも目の前で漆黒に染まるという変異を見せた。
 それならばそれ以外の魔物も普通の魔物が変異したものなのではないか。

 そういえば、サラが冒険者の日記から、オークキングの作り方を教えた人物が居るかもしれないと言っていた。
 誰が、なんのために?

 カインは少し前まで知らなかったが、世の中にはエリクサーの擬似薬と言うものの原料の噂が流れているらしい。
 それがカイン達が出会ってきた、タイラントドラゴン、オークキング、グリフォンと五種類の内、三種類とも含まれるのは偶然だろうか?

 残りはフェニックス、リヴァイアサンだと言う。
 どちらも魔物というには超越した強さを持った生き物だ。

 それがもしこのようになったら?
 また、原料に含まれない、ヴァンと夢魔はなんなのか?

 カインは思考の波に飲まれそうになったが、まずは目の前の危機を切り抜けることが重要であることを思い出し、はっきりと視ることの難しいメスのグリフォンを視るために集中した。
 幸いオリハルコンの欠片のおかげで大体の位置の検討はつくため、視野を狭め、狭い範囲に魔力を集中させたため、輪郭をはっきりと見分けることが出来るようになった。

 先程の魔法の威力を目の当たりにして、迂闊に動くことの出来ないルーク達は、予想もしなかった出来事を見ることになる。
 メスのグリフォンの魔法を逃れ、生き残ったオスのグリフォン達が、一斉にメスのグリフォン目掛けて攻撃を始めたのだ。

 どうやら、幸いにも竜巻のような魔法は連発することが出来ないようで、メスのグリフォンは、襲い来る攻撃を受け流したり、避けたりしながら、応戦していた。



「信じられない! フーに向かって攻撃してくるなんて! まさかフーがフーの傍にいる価値もない男達を殺したのが気に食わないというの?!」

 メスのグリフォンはまるで自分がオスのグリフォン達に攻撃される理由など、分からないといった心持ちで、次々と襲い掛かる三体の攻撃を避けていた。

「フーがすることに間違いなんて無いのに! さっき攻撃で生き延びたから少しは見込みあるかなって考えてあげたのに。いいわ。フーに逆らったらどうなるか思い知らせてあげる!」

 メスのグリフォンは得意の竜巻のような形ではなく、単純に風の刃を飛ばすだけの魔法を一体のグリフォンに向けて放った。
 しかしそれは、無数の漆黒の刃で、速さもさることながら、広範囲を埋め尽くすその攻撃に、オスのグリフォンは逃げる術もなく切り刻まれた。

 同時にグリフォンの背後にある岩肌が、グリフォンの形を切り抜いたように、抉られていった。
 その瞬間、もう一体のグリフォンが急降下し、その鋭い爪で、メスのグリフォンを切り裂こうとした。

 しかし、その強靭な前足の先に生え揃った、何本もの鋭利な刃物のような爪は、メスのグリフォンの身体に傷一つ付けることも叶わず、体毛に阻まれ、その動きを止めた。
 そのグリフォン目掛け、メスのグリフォンは前足を無造作に振り下ろした。

 身体を深く切り裂かれたグリフォンは、そのまま地上に落ち、地面を赤く染めあげた。
 
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