辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第4章

第79話

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 サラが放った剣撃は、いとも容易くメスのグリフォンに防がれてしまった。
 サラはバックステップで距離を取ると、再び鋭い太刀筋で、両手に握り締める長剣を振るう。

 そのどれもが、躱され、受けられ、メスのグリフォンに一太刀の傷も与えることが出来ずにいた。
 ルークと鍛錬を行い、今までよりもさらに実力を上げたと思っていたサラの剣は、目の前の魔物には全く及ばなかった。

 恐らくクランでは、剣の扱いにおいてはルークの次に秀でていると、自他ともに認めていた。
 そのサラの、カインの強化魔法を付与されたオリハルコンの花飾りにより、強化された肉体から繰り出される剣撃を、さも簡単に対応するこの魔物が異常なのだ。

 サラは焦りを滲ませながら、攻撃が絶えないよう、必死に長剣を振るう。
 その間も咆哮を続けながら、メスのグリフォンはつまらなそうに、サラの無数の攻撃を受け流していた。

「サラ! 避けろ!」

 カインの叫び声に反応し、サラはその場から大きく退く。
 すると、立っていた場所につむじ風のようなものが発生し、空間を切り刻むのが見えた。

 恐らくあのまま攻撃を続けていれば、切り刻まれたのは自分の身体だろう。
 サラは絶え間なく長剣を降り続けた疲労と、その剣撃一度さえも通じることのない焦りから、普段吐くことのない弱音を吐き出した。

「無理だよ。お父さん。私には無理だ!」
「そんなことは無い! ルークもミューもボルボルも武器に付与魔法がかけられない。動きのタイミングもサラ、お前が一番合わせやすいんだ。焦るな。一撃でいいんだ。手数じゃない。一撃の質を上げろ!」

 そう言われ、以前ルークと手合わせをした際に言われた事を思い出した。

『お前の剣は馬鹿正直過ぎる。対人をやってこなかったのか? もっとフェイントを入れろ。隙を狙え。戦闘は心理戦だ。これは知能の高い魔物でも言えることだぞ』

 サラはもう一度、正面に剣を構えると、ふぅーっと長く息を吐き出し、自分とメスのグリフォンの距離を縮めた。
 後一歩進めば、お互いがお互いに攻撃を繰り出せる距離まで近づくと、ピタリと進むのをやめた。

 メスのグリフォンは面白くなさそうに、風の魔法をサラに向かって放つが、サラはその魔法を危なげなく躱す。
 どうやら、咆哮しながらでは、強力な魔法を唱えられないらしい。

 サラはメスのグリフォンに目線を合わせたまま、懐から、花飾り取り出した。
 そしておもむろにその花飾りをメスのグリフォンの頭上目がけて放物線状に投げた。

 メスのグリフォンの目線が、サラから花飾りへと移る。
 キラキラと虹色に輝く花飾りを掴もうと、メスのグリフォン身体を上に伸ばした瞬間。

 ザンッ! 上段から下に向けて一直線に振り下ろされた長剣は、強固な皮膚に守られたメスのグリフォンの身体に、浅くない傷を与えた。
 その瞬間を見計らうように、カインはサラの持つ長剣に付与していた精霊魔法の効果を、可能な限り上げていた。

 切り口から炎が上がり、メスのグリフォンの全身を包む。
 しかし、メスのグリフォンはその炎に抗うように、身をよじり、風の魔法を放ち、自身を覆う炎を消そうとしていた。

 その間も、咆哮は続いており、加勢を期待するのは困難だった。
 カインは右肩に止まったマチの放つ炎球の効果で、回復した魔力の使い道を必死で考えていた。

 ふと視界にサラが投げて地面に落ちたままの花飾りが見えた。
 カインは再度精霊魔法を付与する魔法を唱え、サラに指示を出す。

「サラ! グリフォンの首元、羽毛と毛の境目を切ってくれ!」
「分かった!」

 サラは駆け出し、地面に置いた自分の花飾りを拾うと、そのまま炎に包まれたままのメスのグリフォンに向け、剣を振り下ろした。
 キンッ! 何か硬いものにぶつかる音がして、剣が弾かれる。

 途端に、先程よりも大きな炎がメスのグリフォンを包み込む。
 咆哮が止まり、身体の自由を取り戻したルーク達は、成り行きを見つめていた。

 カインが精霊魔法を付与したのは、以前カインが魔物寄せを付与して、放置したオリハルコンの欠片だった。
 オリハルコンに付与魔法を強化する効果がある。

 強化された精霊魔法を付与されたオリハルコンの欠片は、サラの剣により、メスのグリフォンの体内に傷を付け、そこを起点に先程よりも強力な炎がメスのグリフォンを襲ったのだ。
 やがて、メスのグリフォンは雄叫びを上げながら、炎に焼かれ、その身体を地面へと下げていった。

 そこへ風の玉が放たれ、メスのグリフォンにぶつかった瞬間、爆散し、メスのグリフォンは四肢を吹き飛ばされた。
 オスのグリフォンが拘束を解かれ、ダメ押し一撃を放ったのだ。

 散らばったメスのグリフォンの肉体は未だに燃え続ける炎に焼かれている。
 エリクサーの擬似薬の原料と言われる、頭部も他の部位同様、炎に包まれながら、地面に転がっていた。

「おやおや。これは危ないところだったね。間に合ってよかった」

 声に反応し、誰もが見上げた上空に、フードを目深に被った小柄な体格に、少年のような声を持つ男、ジェスターの姿があった。
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