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第7話
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戦闘は私の一方的な攻撃で幕を閉じた。
バイソーが恐ろしいのはその群れが一体となった突進で、並の討伐パーティなら、それを防ぐことは困難だろう。
だけど、今の私にはこの強靭な肉体がある。
そして手の中には十分な長さを持ち、その強度と重量が十分な破城槌もある。
突進してきたバイソーたちを、一薙ぎにして、全てのバイソーたちが地に伏したのだ。
ようやく静かになった広場に、一斉に歓声があがる。
よく見れば、広場の周りの至るとこに人が隠れていて、私とバイソーとの戦いを固唾を飲んで観戦していたらしい。
こんなに多くの人が逃げずに居たのもびっくりだけど、それよりも不思議に思ったのは、みな、今にも踊り出しそうなほど喜んでいることだ。
「ねぇ、おねえさん。ちょっといい?」
「は、はいぃ! なんでしょう⁉︎」
何故かおねえさんはさっきとは打って変わってガチガチに固まった状態で、返事をする。
「いくら私がバイソーを倒したからって、見てよ。建物だって結構壊れている。普通なら、喜びもそうだけど、悔しがったり、落ち込んだりするもんじゃない?」
私は既に踊り始めているものもいる人々に目線を送ってから、おねえさんに問いかけた。
その質問に対するおねえさんの言葉が示した答えは、私が想像していたものとは違ったものだった。
「あ、それは。お嬢ちゃ……あ。なんとお呼びすれば?」
「え? さっきみたいにお嬢ちゃんでいいわよ」
「分かりました。ん、ごほん! お嬢様が抜かれた破城槌のせいですね。みんな、戦神の再来を祝っているんです」
「戦神?」
「はい! 先ほども話しました通り、その破城槌は戦神ガウスの物。抜けるのは新たな戦神のみだというのが、この町に古くから伝わる言い伝えです。年に一度のこの祭りは、戦神再来祭。新たな戦神を迎えるための祭りでした」
「じゃあ、何? これを抜いた私が戦神だってこと?」
私がそう聞くと、おねえさんは強く、そして大きく顔を縦に振る。
その顔は緊張の他に大きな喜びに満ちているように見えた。
「えー⁉︎ 今のなし‼︎ 私が戦神だなんて、嘘でしょう⁉︎」
「嘘なんかじゃありません。実際に破城槌を自由に扱えていることが何よりの証拠。その破城槌は、力自慢の男が四人がかりでも抜けなかったんですから」
確かに抜くのはかなり力がいた。
この破城槌を振り回す力が十必要だとしたら、抜くのにはその三倍か四倍の力が必要だったろう。
どうやらあの巻物に描かれた秘法は、本当にすごい効果を持っていたらしい。
使った瞬間、たちまち燃え上がり焼け消えてしまったため、今はもう手元にないけれど。
「戦神様‼︎ この町の町長をさせていただいております。モーブでございます‼︎ 私の代でこうして戦神様をお目にかかれるとは光栄の極み‼︎ どうか、戦神様に町から贈物を献上することをお許しください‼︎」
私が思案していると、頭の照りが眩しいおじいさんが駆け寄ってきた。
頭はもう一本も残っていないのに、口元には立派な横に伸びた白い髭を蓄えている。
「おくりもの? 待って。それって、こっちから要望してもいいの?」
「もちろんでございます! 町で用意できる物ならなんなりと‼︎ しかし……前戦神様は、人の二倍はあるほどの筋骨たくましい大男だったと伝わっておりますが、はてさて……新しい戦神様がこんなに可愛らしい方だとは。正直驚きです」
あ。このおじいさんは良い人決定。
そうよね。よく分かってる。
可愛いなんて……照れる。
私がにまにましていると、おじいさんは少し困った顔で、私の顔を覗き込むように窺ってきた。
何かあるのだろうか。
気になって私から口を開く。
思ったことはすぐに口にするのが私の良いところだ。
「何? どうしたの?」
「え⁉︎ あ、いえ……贈物を指定していただけるという話でしたので、お待ちしておりました。何をご所望でしょうか……?」
「あ! そうだったわね! それじゃあ、言うわね!」
ゴクリ、とおじいさんの喉の鳴る音がこっちまで聞こえてきた。
そんなに身構えられると、ちょっと困るが、これだけは言わずにはいられない。
確かに少しわがままかもしれないけれど、町を魔獣の脅威から救ったのだから、その対価をもらっても慈母神マーネス様のバチは当たらないだろう。
私は思い切って、親指と小指だけ折った右手をおじいさんに突き刺し、答えた。
「カンロアメを三つちょうだい‼︎」
「は……?」
一瞬の沈黙。
どうしてだろう。三つはちょっと欲張りすぎただろうか。
やはり二つまでにするべきだったか。
いや、町を救ったのだからまず一つ。
戦神の再来に喜んでいるようだから二つ。
そして、私が可愛いから三つ。
何もおかしなことなどない。
正当な要求だと思う。
「……もう一度言うわね。カンロアメをちょうだい。三つよ。二つじゃダメだからね!」
「は、はぁ。カンロアメというのは、どのような宝で?」
「え? おじいさん知らないの? もう! ちょっと、一緒に着いてきて! 私が教えてあげるんだから! あ、おねえさんもついでに一緒に来てね‼︎ さっきのカンロアメのおにいさんの店まで案内よろしく!」
「え⁉︎ あ、はいぃ‼︎」
こうして、私は無事にカンロアメを三つももらうことができたのだ。
バイソーが恐ろしいのはその群れが一体となった突進で、並の討伐パーティなら、それを防ぐことは困難だろう。
だけど、今の私にはこの強靭な肉体がある。
そして手の中には十分な長さを持ち、その強度と重量が十分な破城槌もある。
突進してきたバイソーたちを、一薙ぎにして、全てのバイソーたちが地に伏したのだ。
ようやく静かになった広場に、一斉に歓声があがる。
よく見れば、広場の周りの至るとこに人が隠れていて、私とバイソーとの戦いを固唾を飲んで観戦していたらしい。
こんなに多くの人が逃げずに居たのもびっくりだけど、それよりも不思議に思ったのは、みな、今にも踊り出しそうなほど喜んでいることだ。
「ねぇ、おねえさん。ちょっといい?」
「は、はいぃ! なんでしょう⁉︎」
何故かおねえさんはさっきとは打って変わってガチガチに固まった状態で、返事をする。
「いくら私がバイソーを倒したからって、見てよ。建物だって結構壊れている。普通なら、喜びもそうだけど、悔しがったり、落ち込んだりするもんじゃない?」
私は既に踊り始めているものもいる人々に目線を送ってから、おねえさんに問いかけた。
その質問に対するおねえさんの言葉が示した答えは、私が想像していたものとは違ったものだった。
「あ、それは。お嬢ちゃ……あ。なんとお呼びすれば?」
「え? さっきみたいにお嬢ちゃんでいいわよ」
「分かりました。ん、ごほん! お嬢様が抜かれた破城槌のせいですね。みんな、戦神の再来を祝っているんです」
「戦神?」
「はい! 先ほども話しました通り、その破城槌は戦神ガウスの物。抜けるのは新たな戦神のみだというのが、この町に古くから伝わる言い伝えです。年に一度のこの祭りは、戦神再来祭。新たな戦神を迎えるための祭りでした」
「じゃあ、何? これを抜いた私が戦神だってこと?」
私がそう聞くと、おねえさんは強く、そして大きく顔を縦に振る。
その顔は緊張の他に大きな喜びに満ちているように見えた。
「えー⁉︎ 今のなし‼︎ 私が戦神だなんて、嘘でしょう⁉︎」
「嘘なんかじゃありません。実際に破城槌を自由に扱えていることが何よりの証拠。その破城槌は、力自慢の男が四人がかりでも抜けなかったんですから」
確かに抜くのはかなり力がいた。
この破城槌を振り回す力が十必要だとしたら、抜くのにはその三倍か四倍の力が必要だったろう。
どうやらあの巻物に描かれた秘法は、本当にすごい効果を持っていたらしい。
使った瞬間、たちまち燃え上がり焼け消えてしまったため、今はもう手元にないけれど。
「戦神様‼︎ この町の町長をさせていただいております。モーブでございます‼︎ 私の代でこうして戦神様をお目にかかれるとは光栄の極み‼︎ どうか、戦神様に町から贈物を献上することをお許しください‼︎」
私が思案していると、頭の照りが眩しいおじいさんが駆け寄ってきた。
頭はもう一本も残っていないのに、口元には立派な横に伸びた白い髭を蓄えている。
「おくりもの? 待って。それって、こっちから要望してもいいの?」
「もちろんでございます! 町で用意できる物ならなんなりと‼︎ しかし……前戦神様は、人の二倍はあるほどの筋骨たくましい大男だったと伝わっておりますが、はてさて……新しい戦神様がこんなに可愛らしい方だとは。正直驚きです」
あ。このおじいさんは良い人決定。
そうよね。よく分かってる。
可愛いなんて……照れる。
私がにまにましていると、おじいさんは少し困った顔で、私の顔を覗き込むように窺ってきた。
何かあるのだろうか。
気になって私から口を開く。
思ったことはすぐに口にするのが私の良いところだ。
「何? どうしたの?」
「え⁉︎ あ、いえ……贈物を指定していただけるという話でしたので、お待ちしておりました。何をご所望でしょうか……?」
「あ! そうだったわね! それじゃあ、言うわね!」
ゴクリ、とおじいさんの喉の鳴る音がこっちまで聞こえてきた。
そんなに身構えられると、ちょっと困るが、これだけは言わずにはいられない。
確かに少しわがままかもしれないけれど、町を魔獣の脅威から救ったのだから、その対価をもらっても慈母神マーネス様のバチは当たらないだろう。
私は思い切って、親指と小指だけ折った右手をおじいさんに突き刺し、答えた。
「カンロアメを三つちょうだい‼︎」
「は……?」
一瞬の沈黙。
どうしてだろう。三つはちょっと欲張りすぎただろうか。
やはり二つまでにするべきだったか。
いや、町を救ったのだからまず一つ。
戦神の再来に喜んでいるようだから二つ。
そして、私が可愛いから三つ。
何もおかしなことなどない。
正当な要求だと思う。
「……もう一度言うわね。カンロアメをちょうだい。三つよ。二つじゃダメだからね!」
「は、はぁ。カンロアメというのは、どのような宝で?」
「え? おじいさん知らないの? もう! ちょっと、一緒に着いてきて! 私が教えてあげるんだから! あ、おねえさんもついでに一緒に来てね‼︎ さっきのカンロアメのおにいさんの店まで案内よろしく!」
「え⁉︎ あ、はいぃ‼︎」
こうして、私は無事にカンロアメを三つももらうことができたのだ。
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