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第5話 好きこそ物の上手なれ
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庭でフォルテの木に見とれていたら、挨拶に行くつもりのシンバルが向こうから話しかけてきたのが先ほど。
フォルテの木の育て方のコツは後でゆっくり教えてもらうことになり、シンバルにそのまま庭を案内してもらうことになった。
少しすると、私の視界に思い入れの強い花が飛び込んできて、思わず声を上げてしまう。
「まぁ! あれはアンダンテの花!! こんなに鮮やかな赤色なのね! 私も自分が育てた花が咲くのを見てみたかったわ!」
「アンダンテの花を育てた? ああ。育ててみたが、咲かなかったってわけか。この花を咲かせるにはかなりコツがいるからな」
「いえ。ちょうど今頃開花している予定だったのよ? もうツボミも開きかけていたし。残念ながら開花を共に迎えることは出来なかったけれど……」
「なんだって? ツボミが? よほど腕の良い庭師がいるんだな。まぁ俺ほどじゃないが。王都の涼しさでアンダンテの花を咲かせるってのはなかなか出来ることじゃない」
シンバルは驚いた顔を私に見せ、それが私にはとても誇らしく感じた。
私の苦労を理解してくれる人がいるというのは、これほどまでに嬉しいことだとは。
にやけ顔の私を見て、シンバルは怪訝そうな表情をする。
「なんだい。そんな嬉しそうに。自分のところの庭師を褒められたのがそんなに嬉しいってのかい?」
「いいえ。先ほども言った通り、私が育てたのよ。でもシンバルが言うように苦労したわ。色々試してみて三年はかかったかしら」
「あんたが? 一人で? おいおい。どういう魂胆か知らないが、俺を謀ろうとしたって意味がないぞ? 本当だって言うなら、アンダンテがツボミを付ける方法を言えるか?」
「ええ! アンダンテの花は温かい地方の花だから、この正解に辿り付いた時は驚いたわ! 温かさが必要なのに、日陰を好むのよ。そう、今ここに咲いている花のように日が当たらないようにしなくてはいけないの!」
この庭に咲いているアンダンテの花は、常に日陰になるように周囲に背が高く葉が大きな木が植えられている。
その習性を知っていても、日陰を作れば育成に必要な温かさが足りなくて枯れてしまう。
どちらも両立させることがとても難しかった。
「正解だ……驚いたな……」
「ふふ! でもきっとここまで見事な花弁ではなかったと思うわ。ここの庭の花はどれも素晴らしいもの!」
私の言葉にシンバルはまんざらでもないという表情を見せた。
その後も、様々な興味深い薬草を見つけ、その度にシンバルと会話を楽しんでいると。
「あの……奥方様は、植物にお詳しいのでしょうか? 先ほどからあまり聞いたことのない花、それに花のついていない草や木などを見て、お喜びの様子ですが……」
庭に咲く様々な薬草に興奮していると、ハープが怪訝そうに問いかけてきた。
それとは対照的に、シンバルの方は初めて会った時の表情が何処へ行ったのかと言うくらい上機嫌だ。
「詳しいなんてとても言えないわね。こんな素敵な庭園を見てしまった後では。あ! あそこにあるのはもしかしてトリル草かしら!?」
私は実家で採集出来ずに終わってしまった薬草の数々を見つけ、笑顔がやめられない。
それにしても、やはりここは王都よりも温暖な気候だからだろうか。
トリル草も他の草花と同じ路地に植えられ、すくすくと育っている。
「はっはっは! 奥方様は十分、いや! 十二分に植物にお詳しいぜ! ただ……知識は偏っていそうだがな」
「まぁ。シンバル。分かってしまった?」
「そりゃあ、ここに植えてある植物は全て俺が管理してるんですぜ。何がどういうものか知らずに植えたわけでもねぇです。ま、俺は育てるだけで、その後の扱いは出来ませんが」
「それにしても、シンバル。出会った時とはまるで奥方様への態度が違うわね。どういう風の吹き回し?」
私とシンバルが上機嫌なのに自分だけ入れず、ハープは不満そうだ。
だけど、簡単に説明するのは難しい。
それにしても、私は旦那様に自分専用の薬草園を作らせてもらおうと思っていたけれど。
そんな必要はなさそうだ。
なぜなら、この屋敷の庭には至る所に薬草が植えられ、立派に育てられているのだから。
「ねぇ。シンバル。相談があるのだけれど」
「へぇ。奥方様。何でしょう?」
「あなたも気が付いていると思うけれど、私は育った植物を使うのが目的なの。ただ、市場ではなかなか手に入れるのが難しいものが多かったから、育てなければいけなかった」
「へぇ。まぁ、そういうものも多いでしょうね」
「でも、ここは別。あなたという素晴らしい庭師に育てられた薬草が無数に生えているんですもの! 私が同じようなものを作るなんて、何年経っても無理な話だわ!」
「へへ。一応俺も代々この屋敷の庭師をやらせてもらってますんで。息子の野郎も頑張っていやぁいますが、まだまだ負けませんぜ」
シンバルに言っていることは決してお世辞ではないし、シンバルが言っていることも事実その通りの実力に裏付けられた自信からくるものだろう。
問題はシンバルが私の提案を受け入れてくれるかどうかだけれど。
「率直に言うわね。あなたの作った素晴らしい植物を少しずつでいいから、私に分けて欲しいの。必要な時に必要な分だけでいいし、きちんとあなたに確認してから採集するわ」
「そんなことだろうと思いましたぜ。奥方様はこの屋敷の主人なんですぜ? つまりこの庭もオルガン様の許しさえあれば、奥方様の自由だ。それにね……」
シンバルは少ししんみりした表情で屋敷の方を一度見つめた。
「ここに植えられている薬草の類は、全て今は亡き先代と大奥様の命令で植えられたものです。残念ながらお二人の望む成果は得られませんでしたが……」
シンバルは思い出したかのように元の表情に戻り、私に顔を向ける。
「正直なところ俺は奥方様のことをまだほとんど知りません。ただ、人の噂よりも自分で見たことの方が信じられる。この庭の物は自由に使ってください」
「まぁ! シンバル、ありがとう!」
思いがけない味方が出来てがぜんやる気が湧いてきた!
今までは薬草作りに時間が取られて、肝心の薬作りに没頭出来ないところもあったけれど、これからは思う存分薬作りを頑張るぞ!
フォルテの木の育て方のコツは後でゆっくり教えてもらうことになり、シンバルにそのまま庭を案内してもらうことになった。
少しすると、私の視界に思い入れの強い花が飛び込んできて、思わず声を上げてしまう。
「まぁ! あれはアンダンテの花!! こんなに鮮やかな赤色なのね! 私も自分が育てた花が咲くのを見てみたかったわ!」
「アンダンテの花を育てた? ああ。育ててみたが、咲かなかったってわけか。この花を咲かせるにはかなりコツがいるからな」
「いえ。ちょうど今頃開花している予定だったのよ? もうツボミも開きかけていたし。残念ながら開花を共に迎えることは出来なかったけれど……」
「なんだって? ツボミが? よほど腕の良い庭師がいるんだな。まぁ俺ほどじゃないが。王都の涼しさでアンダンテの花を咲かせるってのはなかなか出来ることじゃない」
シンバルは驚いた顔を私に見せ、それが私にはとても誇らしく感じた。
私の苦労を理解してくれる人がいるというのは、これほどまでに嬉しいことだとは。
にやけ顔の私を見て、シンバルは怪訝そうな表情をする。
「なんだい。そんな嬉しそうに。自分のところの庭師を褒められたのがそんなに嬉しいってのかい?」
「いいえ。先ほども言った通り、私が育てたのよ。でもシンバルが言うように苦労したわ。色々試してみて三年はかかったかしら」
「あんたが? 一人で? おいおい。どういう魂胆か知らないが、俺を謀ろうとしたって意味がないぞ? 本当だって言うなら、アンダンテがツボミを付ける方法を言えるか?」
「ええ! アンダンテの花は温かい地方の花だから、この正解に辿り付いた時は驚いたわ! 温かさが必要なのに、日陰を好むのよ。そう、今ここに咲いている花のように日が当たらないようにしなくてはいけないの!」
この庭に咲いているアンダンテの花は、常に日陰になるように周囲に背が高く葉が大きな木が植えられている。
その習性を知っていても、日陰を作れば育成に必要な温かさが足りなくて枯れてしまう。
どちらも両立させることがとても難しかった。
「正解だ……驚いたな……」
「ふふ! でもきっとここまで見事な花弁ではなかったと思うわ。ここの庭の花はどれも素晴らしいもの!」
私の言葉にシンバルはまんざらでもないという表情を見せた。
その後も、様々な興味深い薬草を見つけ、その度にシンバルと会話を楽しんでいると。
「あの……奥方様は、植物にお詳しいのでしょうか? 先ほどからあまり聞いたことのない花、それに花のついていない草や木などを見て、お喜びの様子ですが……」
庭に咲く様々な薬草に興奮していると、ハープが怪訝そうに問いかけてきた。
それとは対照的に、シンバルの方は初めて会った時の表情が何処へ行ったのかと言うくらい上機嫌だ。
「詳しいなんてとても言えないわね。こんな素敵な庭園を見てしまった後では。あ! あそこにあるのはもしかしてトリル草かしら!?」
私は実家で採集出来ずに終わってしまった薬草の数々を見つけ、笑顔がやめられない。
それにしても、やはりここは王都よりも温暖な気候だからだろうか。
トリル草も他の草花と同じ路地に植えられ、すくすくと育っている。
「はっはっは! 奥方様は十分、いや! 十二分に植物にお詳しいぜ! ただ……知識は偏っていそうだがな」
「まぁ。シンバル。分かってしまった?」
「そりゃあ、ここに植えてある植物は全て俺が管理してるんですぜ。何がどういうものか知らずに植えたわけでもねぇです。ま、俺は育てるだけで、その後の扱いは出来ませんが」
「それにしても、シンバル。出会った時とはまるで奥方様への態度が違うわね。どういう風の吹き回し?」
私とシンバルが上機嫌なのに自分だけ入れず、ハープは不満そうだ。
だけど、簡単に説明するのは難しい。
それにしても、私は旦那様に自分専用の薬草園を作らせてもらおうと思っていたけれど。
そんな必要はなさそうだ。
なぜなら、この屋敷の庭には至る所に薬草が植えられ、立派に育てられているのだから。
「ねぇ。シンバル。相談があるのだけれど」
「へぇ。奥方様。何でしょう?」
「あなたも気が付いていると思うけれど、私は育った植物を使うのが目的なの。ただ、市場ではなかなか手に入れるのが難しいものが多かったから、育てなければいけなかった」
「へぇ。まぁ、そういうものも多いでしょうね」
「でも、ここは別。あなたという素晴らしい庭師に育てられた薬草が無数に生えているんですもの! 私が同じようなものを作るなんて、何年経っても無理な話だわ!」
「へへ。一応俺も代々この屋敷の庭師をやらせてもらってますんで。息子の野郎も頑張っていやぁいますが、まだまだ負けませんぜ」
シンバルに言っていることは決してお世辞ではないし、シンバルが言っていることも事実その通りの実力に裏付けられた自信からくるものだろう。
問題はシンバルが私の提案を受け入れてくれるかどうかだけれど。
「率直に言うわね。あなたの作った素晴らしい植物を少しずつでいいから、私に分けて欲しいの。必要な時に必要な分だけでいいし、きちんとあなたに確認してから採集するわ」
「そんなことだろうと思いましたぜ。奥方様はこの屋敷の主人なんですぜ? つまりこの庭もオルガン様の許しさえあれば、奥方様の自由だ。それにね……」
シンバルは少ししんみりした表情で屋敷の方を一度見つめた。
「ここに植えられている薬草の類は、全て今は亡き先代と大奥様の命令で植えられたものです。残念ながらお二人の望む成果は得られませんでしたが……」
シンバルは思い出したかのように元の表情に戻り、私に顔を向ける。
「正直なところ俺は奥方様のことをまだほとんど知りません。ただ、人の噂よりも自分で見たことの方が信じられる。この庭の物は自由に使ってください」
「まぁ! シンバル、ありがとう!」
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