メルヘンなんてクソくらえ!

旭ガ丘ひつじ

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いつまでも正直者が馬鹿を見るのさ!

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いつもより雲の多い、とある日。

チト「はやく帰るようにするからね」

チトは、まだ眠っている弟の頬にキスをすると、朝早くに出掛けました。

チト「ほうき屋ほうき屋……ここね」

というのも、前日に。
ほうき屋の娘と落ち合い、ある邸宅を掃除するという仕事を引き受けていたからです。

チト「ノック……していいよね」

チトがノックをしようとしたところに、後ろから、ひとりの少女が声をかけてきました。

カナリィ「おはようございます!」

チト「あなたがここの娘?」

カナリィ「はい。カナリィカトリネルエ。カナリィと呼んでください」

カナリィは、スカートの裾を摘まんで横に広げると、軽く片膝を内に曲げて、上品に挨拶しました。

チト「私はチト。あなたのことは、町一番、汚れなく純粋な正直者と聞いたわ」

カナリィ「そうですか。それは嬉しいです!」にこっ

チト「私とは正反対ね」ぼそっ

カナリィ「何と?」

チト「何でもないわ。それよりもそれ」

カナリィ「これはミルクです。カナリィは毎朝、おばあ様の牧場に、乳しぼりに行っているのです」

チト「そう」

カナリィ「一本いかがですか?」

チト「遠慮する。そんなことより、急いで町を出るよ」

カナリィ「いけない!もうそんな時間ですか!」

それから。
チトはカナリィと共に、町外れにある丘の上にやって来ました。

カナリィ「なんということでしょう!」びっくり

そこには、大きくて長い城壁に囲まれた、小さなお城がありました。
しかも、遠くの川から水を引いているようで、門の両隣には水路がありました。

チト「ここが、ナリキンのアジトか」

チトは、中に入ったら、まず唾を吐き捨ててやろうと思いました。
カナリィは、中に入ったら、まずお礼を言おうと思いました。

門番「待て。何奴」

チト「ほうき屋、ラブリーチャーミングッドですわ」

門番「ラブリーチャーミングッドか。よし通れ」

専属の門番は、快く門を開けてくれました。

カナリィ「ラブリーチャーミングッドとは?」

チト「取り決めた合言葉よ」

カナリィ「へえ」

門の内へ入ると、鮮やかな花が牧歌的に咲き溢れ、神聖な細工が施された噴水が幾つもある、広い広い庭が二人を迎えました。
いくつもある噴水からは、それぞれ異なる音色も流れ、それがひとつに重なって甘美なメロディーが聴こえます。

カナリィ「わあ!なんと素敵なのでしょう!」きらきら

チト「どこが?」

カナリィ「まるで、メルヘンのようじゃないですか!」うきうき

チト「メルヘンなんてクソくらえよ」

チトはそう言って、唾を吐き捨てました。
カナリィは浮かれて、蝶々を追いかけました。

チト「こら。どこに行くつもり」つかみ

カナリィ「ごめんなさい、つい」えへへ

それから先に進み、専属の扉番が開けてくれた扉をくぐると、豪華絢爛の世界が二人の前に広がりました。

チト「趣味悪い城ね」

カナリィ「楽園のようなお城ね」

ナリキン「よく来たよく来た。ようこそなのだ」

ナリキンが、若い女性のお手伝いさんを十人連れて、二人を歓迎しました。

カナリィ「今日はお招き頂き、ありがとうございます」あいさちゅ

ナリキン「うむ。噂に違わぬ子なのだ」

チト「どうして私達を呼んだわけ?まずはそれを聞かせてちょうだい」

ナリキン「お前は早々、何を疑っているのだ」

チト「いいから答える」

ナリキン「お前は金を払えば断らないし、何より優秀だ。そっちは、俺の従姉妹なのだ」

カナリィ「えーーー!!」びっくり!

チト「可哀想に……」おーいおいおい…

ナリキン「俺が金持ちなのと、町では悪い噂ばかり流れるので、今まで叔父と叔母に距離を置かれていたのだ。知らなくて仕方ない」

チト「今まで?てことは今回、金で従姉妹を買収したのか」

ナリキン「違う違う!違ーーーう!町を整備したり、商品の売値を下げたりして、ようやく認められたのだ!」

チト「そ、まるでご機嫌取りのドラゴンのエサね」

ナリキン「一体どこでそんな悪口を学んだ」じー

チト「えっとね。ラディッシュを下から見れば書いてあるよ」

ナリキン「お前というやつあー!!」まじぎれ

カナリィ「あのう。どうして、どうして私にそこまで良くして下さるのですか?」

ナリキン「こほん、それはだ。お前が正直者なばかりに、騙され続け、借金がそれなりにあるらしいと聞いたからなのだ」

カナリィ「なんとお優しいのでしょう!とても助かります、お兄様!」

ナリキン「むふん!俺は一番に、自分を優先する!しかし次に、家族を優先する男なのだ!!がっはっはっ!」

チト「それは正しいのか、間違いなのか」じとー

カナリィ「どちらでも結構です。カナリィは今、とても幸せなのですから!」

ナリキン「うんうん」

チト「ま、とにかく。ささっと掃除して帰らせてもらうよ」

ナリキン「ただ、しっかりやるのだぞ」

チト「はいはい」

カナリィ「お任せ下さい!」しゃきっ!

天井には、天国ではしゃぎたおす女神と天使が描かれており。
ステンドグラスに囲まれた大広間。

カナリィ「ねえ、チト!一緒に踊りましょう!」

チト「掃除なさい!」

カナリィ「はーい」るんるん

チト「あ、天井の絵は気に入らないから、汚してほしいって言ってたよ」

カナリィ「わかりました!後で汚しておきます!」

贅沢に宝石の散りばめられた大浴場。
絶えず、温泉が湧いているらしいです。

カナリィ「いい湯ですねえ」ほかー

チト「そうねえ」ほかー

カナリィ「チト、歳はいくつなのですか?」

チト「んー、二十一」

カナリィ「なんと!同じ歳かと思っていましたが、ずいぶんと歳上なのですね!」びっくり

異国から仕入れた、高価な芸術品が所狭しと飾られており。
椅子やテーブルが金で出来ている客間。

カナリィ「ここにある芸術品、一つくらい、家に飾りたいものですね」

チト「全部売ると、いくらになるかしら」

カナリィ「むむっ。この絵は、どういう意図があるのでしょう」じっー

チト「それはね。ひとりぽっちの金持ちが、腹を壊して悶え苦しんでいる絵よ」

カナリィ「なるほど!」ぽん!

銀でできた調理器具が並び、見たこともない、立派なかまどがいくつも並ぶ調理場。

カナリィ「ここでずっと働けたら、毎日、さぞ楽しいことでしょうね!」

チト「ここで作られたご馳走を、毎日食べたいね!」

カナリィ「さあ、チト!一緒にピカピカにしますよ!」

チト「待って。かまどの中の灰は、全て、床に満遍なく広げるのよ」

カナリィ「それはどうして?」

チト「灰にはね、石で出来た床を綺麗に磨く効果があるの」

カナリィ「なんと、そうなのですか!カナリィやります!」

大きなオルガンが一際目立ち、さらに様々な楽器が並べられた、他にはなく珍しい、音楽室というところ。

カナリィ「ああ!どうしましょう!楽器に傷をつけてしまいました!」

チト「やべっ何か壊した。隠そ」こそこそ

カナリィ「よし!後で正直に謝りましょう!心優しいお兄様なら、きっとお許しを下さるはずです!」

チト「バレませんように」

食物の入った麻袋が、山のように積まれた倉庫。

カナリィ「お腹が空いて……。ううん!今は頑張らなくては!」

チト「クルミうま」ぽりぽり

カナリィ「チト?」

チト「剥いてあるのは食べていいのよ」はい

カナリィ「なんと、そうなのですか!では頂きます!」ぽり

そうして城内のあちらこちらを巡り。

カナリィは、丁寧にしっかりと掃除を終えました。
チトは、丁寧にしっかりと嫌がらせを終えました。

ナリキン「昼食にしようと思ったが、お前……」

チト「何よ?」

ナリキン「色々とやらかしてくれたな!俺は念のため、お前達に監視をつけていたのだあ!」おこなの

チト「後始末はするわ」

ナリキン「ほう」

チト「賃金上乗せしたらね」

ナリキン「は?」

チト「私がやらかしたのは仕方ない。けれど、カナリィがやらかしたのもあるし……」やれやれ

ナリキン「お前、策士だな……。少し見くびっていたようだ」ぞくっ

チト「なんのことかちら?チトちゃん、こどもだからわかんないのよさ」

ナリキン「はあ……まあいい、条件を飲んでやる。その間、カナリィは庭で遊んでるといいのだ」

カナリィ「カナリィも、チトをお手伝い致します!」

ナリキン「いやいい。本当にいいから」やめて

カナリィ「そうですか。お兄様がそう仰るなら、そうさせてもらいます」

ナリキン「いいかお前!今度こそきちんとするのだ!」

チト「はーい!」

ナリキン「それと、隠した部品を出しておくのだ。弁償は勘弁してやるから」

チト「あっちょんぶりけ!」おどろき!

チトはせっせと汗水たらして働き、温泉でその汗を流すと、二人の待つ食堂へ向かいました。

チト「さっぱりした」ふー

ナリキン「図々しい奴め」

チト「わあ、この明かり素敵」

カナリィ「シャンデリアですって」

チト「一つくださいな!」きゃぴ

ナリキン「やらん!」

チト「ちぇっ」

ナリキン「ったく……」

チト「あ、そうだ。上乗せ賃金はいいから、代わりにご馳走をわけてちょうだい」

ナリキン「ご馳走を?何でだ」

チト「弟と猫が家にいるから」

ナリキン「お前も、俺と同じ人間か」ふっ

チト「一緒にするなクソ野郎!」

カナリィ「こらチト!その口のききかた、いい加減になさい!」

チト「ご、ごめんなさい……」

ナリキン「がっはっはっ!カナリィは、かなりいい子いい子!」にこにこ

カナリィ「ありがとうございます!」

チト「そんな性格だから、人になめられたり利用されるのよ」ぼそっ

美味しいご馳走を食べ終わったところで、最後にナリキンが、チトに、自分の部屋に一人で来るよう言いつけました。

カナリィ「説教でしょうか?」

チト「さあね。あー行きたくない」

チトは、一応丁寧にドアを開けてやりました。
閉じるときも、そっと。

チト「で、何?」

ナリキン「お前は、魔女やおまじないを信じるか?」

チト「いいえ」

ナリキン「聞いた噂によると、あの町に魔女がいるらしいな」

チト「メルヘンじゃあるまいし」

ナリキン「そうだな。ところで、お前が人間離れしたことを為せるのは何故なのだ」

チト「神のお恵みよ」

ナリキン「そうか、なるほど」

チト「くだらない。さっきから何が言いたいわけ?」

ナリキン「お前は魔女狩りを知っているか」

チト「いーえ」

ナリキン「昔、魔女狩りというものがあった。国が魔男を捕まえて、共に魔女を狩らせるのだ。それを断った魔男は、拷問にかけられ死に、一人二人はそれを伝える為に帰された。一方で魔女は、ただ捕まえられては火炙りにされた」

チト「何の為にそんなことを?」

ナリキン「希望や奇跡と信じられていたおまじないは、結局、悪魔の力であり呪いだったのだ」

チト「で、やべえと。国が焦って殺したわけ?そんな、ばかばかしい」

ナリキン「噂では。おまじないを使えぬ教会の人間が、嘘をついて王をそそのかしたという話もある。なんにせよだ、そういうことが確かにあったのだ」

チト「ふーん。それで、魔男や魔女は、みんな死んだのね」

ナリキン「いいや、生き残りはいる。だから、実は現在も密かに、国は厳しく血眼で探しているのだ」

チト「そ。くだらない」

ナリキン「くだらない?」

チト「私、子供だもの。人殺しの話なんてつまらないわ」

ナリキン「お前にとって、とても大事な話なのだぞ」

チト「いや知らんし、もう飽きたから帰るわ」くるり

ナリキン「俺だって、人殺しにこれっぽっちも興味はないが。いいか気を付けるのだぞ」

チト「……」

ナリキン「俺は自分勝手な人間で。それに巻き込まれた人間のことなど、そいつがどうなろうと知らん」

チト「知ってる。だからあなたは」

チトはドアを開けて、振り返ることなく。

チト「クソ野郎なのよ」

そう残して、チトはカナリィと共に町へ帰りましたとさ。

続け!
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