すみれの花笑む春

旭ガ丘ひつじ

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大阪オタロード五月山ウォンバット

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すみれ「むひょひょ。いつ来てもワクワクしますなあ」

るる「きっしょいわあ。お前もあいつらも」

すみれ「そういうこと人前で言わないでよね」

るる「何で私が巻き込まれなあかんねん」

すみれ「用事はすぐに済ませるから」

今日の二人は大阪日本橋という町に来ていた。
そこにはアニメや漫画関連の店がズラリと立ち並ぶ通称オタロードがある。
道路にはメイドとオタクとコスプレイヤーと彼らのアバターがごった返し、宙には空を埋めんばかりに広告が乱雑している。
菫にとって心弾む楽園である。

るる「混沌としとるな」

すみれ「まずは漫画を見に行こう」

るる「ネット通販でええやん。いやもう電子書籍でええやろ」

すみれ「分かってないなあ。実際に目で見て手に持って充実感を得られるのがいいんだよ」

るる「いまの時代にあほらしい」

すみれ「いまの時代だからこそだよ。それにね、お店まで来ると特典が付くから」

るる「ゴミやろ」

すみれ「言ったなー!それだけは言っちゃおしめえよ!」

るる「すまん。謝るから大声でやめて恥ずかしい」

気を取り直して、有名店が集合する商業ビルへとやって来た。
るるは嫌な顔でそれを見上げる。

るる「キツイ。雰囲気からして嫌やわ」

すみれ「いつも一緒にアニメ見てるじゃん」

るる「別に好きで見てるわけやない」

るるは中に入ってもっと嫌な顔をした。
うんざりを通り越してげんなりする。

るる「強烈やな。目が痛い」

すみれ「本屋さんの匂いっていいよね」

るる「オタク臭い」

すみれ「ここでそんなこと言ったら全員を敵に回すよ」

菫は慣れた足取りで目的の場所へと素早く移動する。
そして、難なくお宝を手に入れて爛々と目を輝かせた。

すみれ「あった!これだよこれ!」

るる「おおう……冗談やんな」

すみれ「百合本だけど私は百合じゃないよ」

るる「あかん。ヤバい奴と同居してもうた」

すみれ「いやいや。私が好きなのはロリババアだから。るるちゃんはタイプじゃないから安心して」

るる「その言い方は何や腹立つな」

すみれ「おいでまし百合庵っていうこの漫画は、ロリババアの女将が一人で切り盛りする田舎の小さな旅館に都会からうら若い乙女がひとり働きにやって来るんだけど、出会って一目で思わず恋をしちゃった二人のドキドキがたくさん詰まった漫画なの。でもね、お互いに好きな気持ちを打ち明けられなくて、そのもどかしい二人の距離感がちょうど良くて。もうどのシーンも、きゅんきゅん、てしちゃってたまんないのよ」

るる「ババア。ええんか」

ほっけ「ババアとは何じゃ小娘!」

るる「これほっといてええんか」

ほっけ「菫が幸せならそれで良い」

るる「エロ本やぞ」

すみれ「エロはありません!」

るる「お前と姫を見て変な妄想しよるかも知れん」

ほっけ「はは、まさか」

すみれ「イラストは描いて投稿したけど、さすがに変な妄想はないって」

るる「絵は描いたんかい」

ひめ「私は構いませんよ」

るる「どういう意味でそれ言うとんねん」

すみれ「むふふー。ありかも」

ほっけ「よしとくれよ菫。わしと姫様は友達以上恋人未満じゃ」

るる「そんなん聞いてへんぞ」

ひめ「ほっけさんの言う通りで、特別な関係ではありません」

るる「もうええから黙れ」

すみれ「萌え?」

るる「しばくぞ。はよ用事済ませ」

すみれ「はーい」

るる「で、貰える特典て何なん?」

すみれ「ポスターだよ」

るる「どんな?」

すみれ「あー。ちょっとだけエッチかも」

るる「部屋に貼ったら殺す」

すみれ「冗談でも、あんまりそういうこと言わないで」

るる「マジでやめてや」

すみれ「大丈夫。ポスター専用のファイルが家にあるから」

るる「そんなんあるんかい」

すみれ「あるんだなー」

会計を済ませたら二階三階四階と順繰りに巡って、ようやく萌え萌えダンジョンから脱出できた。

るる「あーしんど」

すみれ「表通りにも色々お店があるんだけど」

るる「え?」

すみれ「今日はいいや。さ、連れてって」

るる「どこに?」

すみれ「どこって。るるちゃんのお気に入りの場所」

るる「あーそやったな」

とは言ったものの素直に駅には向かわず、オタロードに並ぶオタショップを転々とした。
それからやっと電車に乗って一休み、二人は池田という駅で降りた。
駅前の商店街へと入っていく。

るる「あっちこっちに隠れウォンバットおるから探してみ」

すみれ「何それ!そんなのあるの!」

るる「ポストの上とかベンチとかな」

すみれ「いた!」

るる「ガキやなあ」

すみれ「探してみって言ったの、るるちゃんじゃん」

るる「知らんなー」

すみれ「もう!あ、いた!」

るる「怒ったり喜んだり忙しいやっちゃ」

商店街を抜けたら五月山へと向かう。
そこにはサクラとツツジの美しい公園と、大人気の五月山動物園がある。

すみれ「世界一、愛のある動物園かあ。いいねえ」

るる「口だけや、いたっ!尻たたくな!」

すみれ「そういうこと言わないの」

るる「お前こそ、動物あんまおらんけど文句言いなや」

すみれ「るるちゃんじゃあるまいし」

るる「なんやと」

すみれ「はやく本物のウォンバット見せて!どこ!」

るる「そこおるで」

すみれ「手すりの」

ほっけ「歩道の防護柵じゃ」

すみれ「それの飾りじゃない。もう焦らさないで!早く行くよ!」

るる「そない急がんでええ。すぐや」

ここの最たる特徴はウォンバットという動物と出会えることである。
カピバラとコアラを足したようなずんぐりむっくりのキュートな見た目をしている。
有袋類で草食。
のんびりした性格で、春と秋ならじっくり観察することが出来る。
夏や冬だと部屋に籠ってしまうことが多いので注意。
しかし、ご安心。
インターネットによるライブ配信で、いつでもどこでも観察することができる。

ひめ「日本では二ヶ所でしか見られない珍しい動物さんです」

すみれ「ふえーかわいいー」

るる「懐かしい。よう見に来たわ」

ひめ「ウォンバットさんは、ここのマスコットキャラクターなんですよ」

すみれ「わかるーアイドルオーラすごいもーん」

るる「嘘つけ」

ひめ「グッズに歌まであります」

すみれ「やっぱりアイドルじゃん」

るる「いやウォンバットが歌ってるわけちゃうから」

すみれ「ぬいぐるみとかある?」

ひめ「向こうの売店にあります」

すみれ「後で行こうね」

るる「好きしい」

ワラビーやエミューにアルパカにエサをやって一巡りした後、食いしん坊な羊の隣にある、ふれあいコーナーへとやって来た。
ここではウサギ、ニワトリ、モルモットと触れ合うことが出来る。

すみれ「ふれあいコーナーは大事だよね」

るる「今はそんな興味ないけど」

すみれ「ちょっと追いかけちゃダメだよ」

るる「ええやん」

すみれ「ニワトリさん怖がってる」

るる「なんや。お前もか」

すみれ「ニワトリさんは、そっとしといてあげて」

るる「分かった分かった」

すみれ「一緒にウサギさんに干し草あげよ。えへへかわいいよ」

るる「ほら食え」

ほっけ「やめい!食えるか!」

ふれあいを終えたら、ちゃんと手を洗ってから動物園の向かいにある総合案内所へ移動した。
隣接する売店でウォンバットのぬいぐるみと出会った菫は、一目惚れして、たまらずぎゅっと胸に抱き締めた。

すみれ「満足。るるちゃんのお気に入りの場所、私も気に入ったよ」

るる「ここだけやない」

すみれ「そうなの?まだ他にあるの?」

るる「上や」

すみれ「上?」

るる「ちょっとだけ山登るけどいけるか?」

すみれ「うん!るるちゃんとならどこだって行けるよ!」

るる「またしょーもないこと言うて。ほな行こう」

お店の左側から伸びる歩道を少し上がる。
その先にあるもみじ橋を渡ったら、秀望台を目指して森のなかをジグザグに登ってゆく。

すみれ「ふええ……」

るる「いつも無駄に歩いとるくせに根性ないな」

すみれ「山登りは別だよう……」

るる「ほら、手え貸したるからしっかりせい」

やがて森を抜けると、眼下にどこまでも広がる絶景が二人を迎えてくれた。
吹き上がる心地よい微風を浴びて、菫はうんと体を伸ばした。

すみれ「ここかー!名前の通り秀望!」

るる「言うて平坦でショボいやろ」

すみれ「ううん。爽快な景色だよ」

るる「ハッキリ言ってくれてええんやで」

すみれ「私はあなたほどネガティブじゃありません」

るる「そやな。私ら正反対や」

すみれ「でも、同じところだってあるよ」

るる「例えば?」

すみれ「ここで食べるためにお菓子とジュースを選んだんでしょ」

るる「ふ、正解」

すみれ「わーい!おやつの時間だ!お菓子だいすき!」

るる「お前は幼稚園児か」

すみれ「せめて小学生にしてよ」

るる「ええんかそれで」

すみれ「いいわけないでしょ」

るる「……たいして何もないけどな」

すみれ「ん?」

るる「私は、この景色が昔から好きや」

すみれ「同じ気持ちだよ。私も、きっと昔から好き」

るる「笑かすな、何を言うねん。むちゃくちゃやぞ」

すみれ「良いこと言ったのにー」

るる「ほんま、あほやな」

すみれ「ばーか」

るる「そうや。あっこ、道路渡ってすぐ上に隠れウォンバットがまたおるで」

すみれ「マジ!?見てくる!」

るる「落ち着きないやっちゃな」

すみれ「あ、私がいない間に崖から飛び降りないでよ」

るる「おいこらお前。飛び降りるわけないやろ」

すみれ「じゃ、安心」

るる「なんちゅーこと言うねんあいつ」

ほっけ「お前さんの顔や態度が、菫にいらぬ心配をさせておるのじゃぞ」

るる「私、死んだホッケみたいな目してるか?」

ほっけ「小娘ー!」

るる「えい」

ほっけ「うわあー!」

ひめ「デコピンで崖から突き落とすなんて酷いです」

るる「ほんまに落ちるわけないやん」

ひめ「だとしてもです。あんまりです」

るる「悪かった。反省する」

ひめ「ほっけさんに、ちゃんと謝ってください」

ほっけさんは大事なくよじ登ってきた。
彼女のジト目には山火事が起こりそうなくらい憎しみが燃えている。

ほっけ「おのれえ……一生恨むぞ」

るる「ごめんね。許して」

ほっけ「絶対に許さーん!」

るる「山やから、よう響くわ」

ほっけさんの怒りの叫びは、床に可愛らしく描かれたウォンバットの顔を屈んで見下ろす菫の耳にも、しっかりと届いたのであった。

すみれ「?」
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