ノヴァ・シュペルの受難

鳥羽

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普通に考えておかしいじゃない!?

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 スカーレット・シュペルは根っからの悪役令嬢である。気に入らない人間への悪口や、親の権力をフル活用した嫌がらせ。

 成金のように売り場の端から端まで頂戴?と言った買い物に、とある令嬢の持つ大事なネックレスを気に入ったからと権力に物を言わせてとりあげる。本当に数えたらきりが無い。

 しかもシュペル家は結構なお家柄である。こんなみみっちい嫌がらせを自ずと好んでやらなくとも、裏で命じて動けば済む話を「自分でやって目の前で悔しそうな姿を見るのがとても楽しい」という理由でやってしまうし、なんなら婚約者が仲良くしてた娘を階段から普通に突き落とすので、この沙汰は仕方ない。

「スカーレット、申し訳ないが君との婚約を解消させてもらうよ」

 宣言される婚約者からの破棄の宣言と断罪。
 何が悲しいかと言えば、スカーレットは決して頭も悪くなければ色恋馬鹿でもない。
 ただ本当にそこ意地が悪いだけなのである。

 婚約者が他の令嬢に目移りしてるのならば、それはスカーレットの落ち度ではない。
 婚約破棄されても被害者として有利になったであろうが、このそこ意地の悪いスカーレットである。

 普通に嫌がらせをしていた。

 婚約者の事も政略結婚で特に恋愛感情も無い。ただ気に入らないで普通に苛めたのである。時々親の権力さえ利用して、だ。

 残念ながら逃げる術はなかった。
 ただし、何度でも言おう。スカーレットは決して頭が悪かった訳では無い。
 そこ意地が救いようなく、悪かっただけなのだと。





「どうしてこうなったんだ…」

 馬車に揺れながらノヴァ・シュペルは大きくため息を付いた。目はどこか遠くを眺めて今から自分の送られる辺境へと思いを馳せる。


 あの婚約破棄と断罪は完璧な手筈だった。スカーレットがやらかしていたのは明白で、その裏も取れている。
 そんな完璧な証拠とともに、それらを握り潰されないようにわざわざ王太子の誕生会パーティーを選び、お偉方の前で王太子であるウィリアムが自らこんな席で発表するなんて、と泥さえかぶる覚悟で行った婚約破棄とスカーレットの告発だったのだ。

 それだけシュペル家の影響力は大きく、そしてスカーレットは使い道を間違えてるだけで聡明だった。

 ただ彼の一つの欠点は、王族らしく真っ直ぐすぎた事であろうか。いや、そもそも普通こんな事等考え付かないのでウィリアムが負けたとは言い難い。つまり、何が起こったかと言うと。

 スカーレットは替え玉を用意していたのだ。自分とそっくりの顔をした弟のノヴァを、自分の身代わりとしてあのパーティー会場に送り込んでいたのだ。
 なお彼女の言い分はこうである。


「まぁそもそも人を殺してるわけでもないし処刑まではないわよ。その上貴方身代わりでしょ?それでも証拠まで揃ってるスカーレットを処分しないとなると体裁が悪いから辺境送りにはされるかもしれないけど、ほとぼりが覚めたら戻れるわよ。私?私は貴族社会に飽きたから出ていくわ。じゃあね」


 である。実際身代わりがバレた時王太子はがくりと肩を落とし、王と王妃は心の底からかわいそうな目をしてノヴァの肩を叩き、両親に至っては姉の言う通り少しだけ辺境に行ってくれ、と涙ぐむ始末。

「貴族社会から逃げる為の口実に使われた気がする、嫌がらせもワザとじゃないのか?」

 とはウィリアムの弁である。ノヴァはそれに一票を投じた。
 兎にも角にも、そんな訳でノヴァはスカーレットの身代わりに今、辺境へと送られる事となった。
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