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一章 イベント・賢者の試練

技巧の試練

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………ん?

《試練を選択して下さい。》

お、入れたのか。結構一気に入ったし、一度に入れる定員みたいなのは無いようだな。
目の前に扉があるだけの真っ黒な空間だ。音もない。アナウンスはあるけど。
この空間が物凄く気になるが、早い者勝ちなんだ。早く試練を始めてしまおう。

技巧の試練を受ける!!

《確認しました。技巧の試練を開始します。》

扉が開いたので奥に進む。
すると、闘技場のような場所に出た。そして俺は目を見開いた。
そこに佇む男が一人。180cm程の細身の男だ。結構鍛えている感じで、どちらかといえば細マッチョかな?
だがそんなことはどうでもいい。俺の視線は彼の右手に持つメカメカしい何かとメカメカしいベルトに釘付けになっていた。

 「俺がお前の試練を担当する。アトラスだ。職業はマスクドヒーローをやっている。」

マ、マスクドヒーロー!?まんま仮〇ラ〇ダーじゃないか!!?
多少動揺しながらも、なんとか落ち着いてきたのでこちらも自己紹介する。

 「アッシュです。職業はまだ初心者です。」
 「驚いた。まだ転職をしていなかったのか、その隙のない佇まいはリアルスキルか。」

アトラスは驚き混じりに言葉をもらす。

驚きたいのはこっちなんですがね!?
なんとかして心を落ち着かせていると、アトラスがこの試練の説明をしてくれた。

 「この技巧の試練は簡単だ。俺と戦い、俺を認めさせてみろ。もちろん勝てば絶対に合格だ。勝てなくても場合によるが合格にすることもある。
スキルでも武器でもなんでも使うんだ。俺が見るのは技や判断力、立ち回りと言った所だ。
分かりやすく言うなら格上に勝つために全力を振り絞れ。質問はあるか?」

 成程、これ程わかりやすい試練は無いな。その分難しいのだろうが。
俺はニヤリと笑って答えた。

 「問題ない。俺は全力であんたを倒すぜ。」

 「ははは、そう簡単にやられてやるほど俺は弱くないぜ?」

 アトラスはそう言って右手を前に出した。そして

 「変身!!」

右手に持ったものをなんかかっこよくベルトに組み合わせた!!
そして暗い緑の魔力がアトラスの身体を包みこみ、魔力が四散した。
中から出てきたのは暗い緑のアーマーを来た男。
抑えめに出ている頭の角。両肩にも似たような突起がある。アーマーの隙間はどう見てもタイツ。

 「…アトラスオオカブトか。」
 「お、。それじゃあ、全力で来い!」

畜生、かっこいいじゃねぇか…………

そして俺とアトラスの試練が始まった。






「ぐっ…!」
「覇ァ!!」

アトラスの拳を腕をクロスして受け止めるが、衝撃が強く、後ろに滑る。
こいつ、普通に強い!

 まず最初は距離があったから弓とクナイで戦おうと思ったのだが、弓は装甲に全て弾かれ、隙間を狙っても叩き落とされる。クナイも同様だったので、続いて槍、剣を使ったが、大したダメージも与えられず弾き飛ばされた。
杖と鎚は打撃なのでそこそこダメージが与えられたが、やはり弾かれた。結局拳しか選択肢がなかったんですけど!!!
しかも絶対格闘技やってるだろ!ってくらいに凄まじいキレの蹴りやパンチを浴びせてくるのだ。これはキツい。
だが、まだやりようはある。
俺は戦闘スタイルを何回か変えてアトラスに有効な戦い方を探す。








アトラスは内心冷や汗をかいていた。
(こいつ…また動きが変わった!やりにくい…)
最初は奴の動きを見極めるために様子見に徹していたが、丁度攻勢に出た所で動きが一転してしまった。
俺の拳や脚を受け流すように立ち回る。
そして隙を見て掌底を打ってくる。
(ぐっ…!?なんて威力だ!)
先程とは威力が全然違う攻撃を喰らいアトラスは戸惑う。が、経験の豊富さと格闘技の知識で一つの答えを導く。
(この掌底とやらはが言っていた拳法とやらの格闘術だろう。だがこの受け流し方は違う…まさか、合気道か!)
そしてアトラスは戦慄する。この男の引き出しの多さに。
最初の弓や剣も既に達人級の腕はあった。だが自分のコンセプトは『近距離格闘戦』のため、無理にでも格闘戦に持っていく術を教わっていたからこそ今格闘戦に持ち込めた様なものだ。
だが、そこで油断した。弓や剣を使うから格闘はそれ程でも無いと思ったのだ。
実際は逆であった。
そして、打ち合う度に鋭くなる攻撃に不思議と笑いが込み上げてきた。

「ふはははっ。面白い、面白いぞ!だが長引くのはこちらが不利だな。」

そして、次の攻撃で決めるべく、距離をとり、力を練る。

「俺の全力の必殺技をお前に向けて放とう!それで全て決まる!!」








…まじかよ。
アトラスは次に必殺技を放つと言った。それで全てが決まるとも。
早く終わるのは早い者勝ちルール的に嬉しいのだが、勝てるかどうかが分からない。
だがここで距離をつめるのも的に非常に不味い。

腹を括るか……

目の前の敵の挙動全てに精神を集中させる。
男がベルトのギミックを作動させると、奴の両足が光る。
そして、、、

「行くぞ!『閃光十二連崩脚』ゥ!!!」

脚の後ろの、ブースターが開き超高速で奴が迫る!
息が止まる。瞳孔が限界まで開く。思考速度が上昇する。
右、左、下、左、前、上、右、前、上、下、下……
全て確実に慎重に防いで行く。
そして…

右!!十二発目!!

最後の一撃を躱す。そして今までの十一撃の分を掌底に乗せて放つ。が、奴も回し蹴りの要領で右脚を出してきていた。
脚と掌がぶつかり会った瞬間、ドゴォォン!という轟音と同時にアトラスが壁に吹っ飛んだ。

気が抜け座りそうになるが、なんとか堪えて上がった息を整える。

「…かはっ…はぁ…はぁ…。十二連じゃねえのかよ…。」
「ぐっ…最後のは苦し紛れの一撃だ。遠心力しか乗せられなかった……。」
「でも、それ込みで打ち勝った…。」
「ああ、完璧なジャストガードだった。文句なしの合格だよ。」

 そう、一般的に敵の攻撃をガードしても少しはダメージを受けるのだ。だが、ジャストガードは違う。
武器毎に異なる方法で、敵の攻撃が当たる一瞬で防御行動を起こすと、ダメージ0の完璧なガードが出来るのだ。
俺が今回やった拳でのジャストガード方法は、敵の攻撃が当たる直前に踏み込みと腕でガードを同時に行うことである。
 それを十一回連続で繰り返し、最後の攻撃を躱し、合気と拳法の応用で十一回分相当の威力を上乗せした掌底を繰り出したのだ。もう二度とできる気がしないね。

《試練を攻略しました。


技巧の試練『拳王』に認められました。
称号スキル【技巧の試練を越えし者】を獲得しました。
『拳王』に勝利しました。
スキル経験値ボーナスを獲得しました。
『拳王』に必殺技を出させ、その上で勝利しました。
スキル【拳王の卵】、特殊技スペシャルアーツ『閃光十二連崩脚』を獲得しました。
シークレットミッション『初心者で拳王に勝利する』をクリアしました。
特殊装備『アトラスドライバー』を獲得しました。


広場へ戻ります。》

めちゃくちゃたくさんのアナウンスが流れ、周囲が光に包まれる。
え、ちょっと待っ──。





気がつくと、扉の前にいた。

「えぇー…。」

なんか、すげーたくさん貰った気がするんですが…。
俺が微妙な顔をしていると、セイとヒョウカが歩いてきた。

「お前が最後だったぜ。」
「何か良いもの貰えたかしら?」

え、俺が最後?嘘!?
バッと後ろを振り返るとそこにあったはずの扉は無くなっている。
そして、俺の後に転送されてきたプレイヤーはいなかった。
皆、俺を見てる。え、俺なんて言えばいいの??

「あー、合格したぞ?」

うおおおおおお!と歓声が上がった。

「ど、どんな敵でした!?」
「何かのスキル貰えましたか!?」
「スキル聞くのはマナー違反だろ!」
「試練用の掲示板立てたのでお願いします!!」

そしてプレイヤー達に囲まれ質問攻めにあう。

「あー!もう!!うるせえ!!!掲示板にある程度情報は載せるから散れ!!俺は疲れてんだよ!!!!」

そう言うとすぐ散らばるプレイヤー達。
なんか聞き分け良過ぎないか?

「いやぁ、試練の攻略者全員もう掲示板に情報書き込んでんのさ」
「だから貴方だけ情報未開示はなんかよく思われなそうだったから掲示板に載っけて貰えるように仕向けたわ。」
「お前の差し金か…。」
「あら?ごめんなさいね。」

全然悪びれもしねぇなこいつ。
はぁ、まあいいか。楽しかったし。
今日はこんなもんで終わりにしよう。
また明日だな。

 ヒョウカ達と別れ、広場の少し外れにある宿に入る、部屋はプレイヤー毎にあるらしく、絶対に満室にならないのだとか。異空間すぎる。
よし、称号とかの検証とかは全部後にしよう。結構疲れた。一旦やめよう。

ログアウト、っと。
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