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一章 イベント・賢者の試練

幕間 執事の試練

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「──ここが試練会場か。」

技巧の扉をくぐって目に入って来たのは中世風なコロシアム、闘技場だ。
そして中央やや奥に誰かいる。

「ようこそ、技巧の試練へ。私の名前はヘブンス、と申します。職業は戦執事バトラーをさせて頂いております。」

ヘブンスと名乗ったその男が礼をする。
俺と同じような燕尾服に身を包み、白髪オールバックの壮年のイケおじだ。
これは執事(笑)として挨拶を返さねば!

「これは御丁寧に、私はセイ。職業は魔闘家をしております。」
「ほう、魔闘家ですか。」

ヘブンスは嬉しそうに目を細めてこちらを見つめる。
顔は笑っているが目の奥がめちゃくちゃギラついてる…この人、戦闘狂アッシュのにおいがする…。

「さて、先にこの試練についての説明をさせて頂きましょうか。」
「お願いします。」
「この技巧の試練、内容は私ヘブンスと戦闘をし、見事勝利を手にして頂く。それだけでございます。」
「それだけ、ですか?」

意外だ。の世界にしてはシンプルで簡単そうである。

「ほっほっほ。試練を越える条件が簡単なほど、越えるのが難しいというのは、というものでしょう?」
「─ッ!?…なるほど、一筋縄ではいかないようですね。」

瞬間、ヘブンスから放たれたのは強大な威圧感。セイは唐突な威圧感に一瞬驚くが、直ぐに持ち直し、戦闘態勢をとる。
その様子を見ていたヘブンスは心から嬉しそうに

「ただステータスが高いだけではこの試練は越えられません。プレイヤースキル、戦闘技術がこの試練の鍵にございます。では、参りますよ?」
「いつでもどうぞ…。」





セイとヘブンスの戦闘が始まってもうすぐ5分が経過しようとしていた。

(このじいさん…めちゃくちゃだ!)

俺は内心焦っていた。ステータスはあちらの方が上。さらにヘブンスの繰り出す攻撃は純粋な通常攻撃のみ。だからこそ殆どの隙もなく、息をする間もないほどの連撃を繰り出してくる。
しかも武術の達人のようで柔軟性が高く、たまにトリッキーな動きでフェイントをかけてくる。
やり辛いことこの上ない。

「守っているだけでは私は倒せませんよ?」
「くっ…!」

にこやかに煽ってきやがる…!!
どうにか隙を見つけて魔法を発動させられればなんとかなりそうなのだが……仕方ねえ、一撃ではさすがにやられないはずだ。

「──破ァ!」
「む…!」

ヘブンスの攻撃をヘッドスリップで威力を抑えながら正拳突きを繰り出した。そしてなんとか距離を離すことに成功した。

「ここからが本番ですよ…」

そう言って俺は魔闘家のスキルを発動させる。すると、全身に風の魔力が纏われる。

「ほぅ…!!」

ヘブンスの目が歓喜に見開かれる。

「これが今出せる私の全力…魔纏まといです。」

名は体を表す。そんな言葉が似合うシンプルなスキル。だが、その恩恵は計り知れない。


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【魔纏】

属性魔力をその身に纏わせる。綺麗に淀みなく纏わせる程ステータスが上昇(最大三倍)、纏う魔力が相手に触れるとダメージを与えることが出来る。
属性によって追加バフが変化。
※基本属性の例
火・・・STR1.5倍
水・・・VIT1.5倍
風・・・AGL1.5倍
闇・・・INT1.5倍
光・・・MND1.5倍
無・・・DEX1.5倍

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そしてセイの魔纏は──鮮やかな緑であった。


「こ、ここまで綺麗な魔纏は見たことありません…!!そうですか…これがセイ様の本気ですか……!!」

驚きから一転、とてもとても楽しそうな声を上げるヘブンス。今の彼は誰が見ても戦闘狂バーサーカーである。

「では、参ります。」



それからは早かった。通常時にヘブンスの攻撃を殆ど完璧に防ぐだけだったセイのステータスが3倍近くまで増えたのだ。しかも敏捷に至っては更に1.5倍…実質4.5倍弱も上昇しているのである。ヘブンスの攻撃に合わせてカウンターを放つ余裕もある。
ヘブンスの裏拳をいなしボディブローを決め、出来た一瞬の隙に顎に掌底をくらわす。
ほぼ一方的な決着であった。

「お見事です…。これでセイ様の技巧の試練は終了でございます。」
「ありがとうございました。」
「ほっほっほ…とんでもない。また手合わせ出来ることを願っていますよ…。」

ははは、俺は戦闘狂じゃないので出来れば遠慮したい…。

《試練を攻略しました。


技巧の試練『戦執事』に打ち勝ちました。
称号スキル【技巧の試練を越えし者】を獲得しました。
『戦執事』を愉しませました。
スキル経験値ボーナスを獲得しました。
『戦執事』から致命傷を貰わず、勝利しました。
スキル【執事バトラー】、を獲得しました。
シークレットミッション『一次職で戦執事に勝利する』をクリアしました。
特殊装備『戦執事スーツ(全身)』を獲得しました。


広場へ戻ります。》

そして俺は広場に戻された。


「あら、遅かったわね。」

広場に戻ると既にヒョウカ含む何人かが戻ってきていた。

「戦闘狂の執事と戦っていたんだ。そっちは渾身だったっけ?」

ヒョウカは技巧ではなく渾身の試練を受けた。
曰く、「私は超絶PSが高いから技術はもういいわ」らしい。
ヒョウカはとても興味深そうにしている。

「戦闘狂の執事…見てみたかったわね。ええ、自分の今出せる最大の攻撃を打って終わりだから早く終わったわ。」
「へぇ、何かいいもの貰ったか?」

恐らくはスキルと装備を貰っているだろう。ヒョウカのことだからな。

「そうね…いいものと言ったら【魔導】スキルとユニーク装備くらいかしら。」
「お、ヒョウカもスキルとユニーク装備貰ったのか」

あまり驚きは無かったな。まぁ、ほぼ確信してたし、仕方ない。

「セイも貰ったのね、どんなものなのかしら?」

うぐ…。出来るなら言いたくないが、パートナーだしな、情報の秘匿は無しだ。

「…………俺の装備を良く見てくれれば分かる。」
「え…?…………まさか、【執事】?」
「正解」
「ふはっ」

あはははっ、とお腹を抱えて笑い出すヒョウカ。そんなにおかしいか?いや、可笑しいのか…。
暫く笑った後、目に浮かんだ涙を拭いながらヒョウカは俺を慰め(?)てくれた。

「執事の服装して試練受けたら執事のスキルが貰えるなんて…最初は冗談のつもりだったのにね?ふふっ、これから苦労するわね。」
「ま、ゲームなのが救いかな…?」

そんなこんなでヒョウカと談笑していると、急に大勢のプレイヤーが転移してきた。何気なく扉を見るとそこには「1」の文字が。

「うわぁ!あとすこしだと思ったのに!」
「なんだよあれ強すぎだろ!!」
「某には荷が重いのでござる……。」
「時が見える…」

試練を失敗したプレイヤー達が戻ってきたようだ。
未だに試練を受けているプレイヤーはもう数える程しか居ないと思う。
友人の戦闘狂アッシュの姿も無いし、まだ試練を受けているのだろうか。
身内びいきになるが、最後の一人はアッシュであることを願う。
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