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6 王の器と精霊の化身の覚醒
5 障壁を越えて
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「……精霊王はなぜ『発情』なんて加護を授けたんだ。子を孕める、だけで充分だろう」
数刻後、風邪を引いたみたいな声で呟く。
儀式の余韻から一転、物申したいことがたくさんある。
「イスは雪と氷の国だから、お熱いほうがいいと思ったとか? ……痛た、俺の『剣』を握り潰さんでくれ」
その最たるは、アルファの誘発発情ぶりだ。
儀式中にナカに出されたぶんは、念のため掻き出した、のだが。
『ん……、ん?』
ねっとりと濃い精液の感触に、こちらがほんの少し性感を拾ったら、エリセイの性器は再び熱く硬くなった。
『もう一回しないか?』
鮭の浮き袋でつくった避妊具があるからと――ちゃっかり携帯していた――、二度目の挿入を許したのが間違いだった。
以前は鮭の燻製肉すら受け入れなかったのに。
誘発発情したアルファは、吐精してもすぐ精力を取り戻し、それこそ確実にオメガを孕ませるまで離さない。
加えてエリセイは体力があるので、大変なことになった。
(いっそ怪我したままにしておくべきだった)
それでも運命の番ゆえ、身体を重ねれば結局傷は治る。
本能的な発情に振り回されるうち、寝台に敷いた毛皮が体液でびしょびしょになってしまった。
これはいけないと、窓の外の雪ですすぎ暖炉で乾かす間にも、また襲い掛かられた。
『エリセイ、もう、無理だ……~ッ』
幾度絶頂に達させられたかわからない。
怪我ではないからか治癒も効かず、今は指一本動かす余力さえない。ただ身体を丸めて寝台に横たわる。
「またしような。あ、今度の話な?」
裸の背中には、同じく服を着ていないエリセイが、ぴったりくっついていた。体温のおかげで暖かいが、油断できない。
高窓に映る空が白んでいる。一日の三分の二を占める夜じゅう情事に耽ってしまった。
癒そうとする度にこうなるのかと、発作のせいではなく眩暈がする。
「これでは、せっかくの運命の番の治癒能力も、弊害が大き過ぎる……」
「そうかな。一人の男として愛する人を守ることも、騎士として忠誠を尽くすこともできて、俺たちには好都合だと思うが」
エリセイが、呑気なようで気高いことを言う。
この特別な力は、王と伴侶として国を治めるだけでなく、王とその伴侶を支えるためにも使えると。
(確かに、平和への道のりは、まだ始まったばかりだ)
万一、主人が危険に晒されることがあれば、迷わず身体を張る。
感心してまた芳香を発してしまわないよう、屋根裏部屋の天井――聖堂の丸屋根を見上げた。
アナトリエ家の紋章に通ずる、太陽を表す形。高窓のそばには、ソコロフ家の紋章と同じ鷹の像。
聖堂は百年よりずっと前に建てられた。おそらく、ソコロフ家とアナトリエ家から王が出ることが多くなった頃だろう。
(もしかして)
かつて新王を選出する合議は、ヒールオメガの選択を承認する場だった。
オメガたちは、王と他の候補者とに争わずにいてほしがった。それで彼らを安心させるべく、ヒールオメガに選ばれた公子と選ばれなかった公子が一緒に建てたのかも――なんて。
(さすがに飛躍が過ぎるか)
とはいえ、自分がソコロフの小さな村にオメガとして生まれた意味が、アナトリエの貴族でアルファのエリセイと出会い、その上でソコロフもアナトリエもなく愛し合うためだったのは、事実だ。
甘く痛む腰を庇いつつ、ゆっくり寝返りを打つ。目が合い、エリセイは嬉々として腕を回し直してくる。
「スフェン」
「何だ」
「可愛いって言ってもいいか?」
「今さらだろう」
身体はへとへとだが、エリセイとこうするの自体が嫌なわけではない。
確かによぼよぼになる前にするべきだ。むしろ、発情していないときにもしてみたい。
(それで身体を慣らせば、次の周期の発情発作では、エリセイの精力に負けずに……)
そこまで考えて、降参じみた気持ちになった。
それも仕方ない。なぜなら。
「……エリセイ。わたしも愛している」
「出会ったときから知ってたよ、可愛いスフェン」
聞こえるか聞こえないかの睦言は、やがて朝陽に溶けていく。
その後、レクスとニキータがそれぞれの父親と家臣を説得するのを、エリセイとともに後押しした。
その甲斐あって、主人たちは執務室を王城へ移すまでに漕ぎ着けた。
「確実な、前へ進む一歩だ」
体制を変えるには、刻がかかる。
武装解除し、ソコロフかアナトリエか問わず戦死者と負傷者に補償を出し、家屋や施設の修繕も補助する――というのは綺麗ごとかもしれない。
だが、王と伴侶に相応しいふたりが本気で取り組めば、まだ静観している貴族たちも恨みを融かし始めてくれるはずだ。
そして民の生活が変われば、イスは豊かになっていく。
――短い春の訪れを感じる、四月。
「行こう」
「はい」
数刻後、風邪を引いたみたいな声で呟く。
儀式の余韻から一転、物申したいことがたくさんある。
「イスは雪と氷の国だから、お熱いほうがいいと思ったとか? ……痛た、俺の『剣』を握り潰さんでくれ」
その最たるは、アルファの誘発発情ぶりだ。
儀式中にナカに出されたぶんは、念のため掻き出した、のだが。
『ん……、ん?』
ねっとりと濃い精液の感触に、こちらがほんの少し性感を拾ったら、エリセイの性器は再び熱く硬くなった。
『もう一回しないか?』
鮭の浮き袋でつくった避妊具があるからと――ちゃっかり携帯していた――、二度目の挿入を許したのが間違いだった。
以前は鮭の燻製肉すら受け入れなかったのに。
誘発発情したアルファは、吐精してもすぐ精力を取り戻し、それこそ確実にオメガを孕ませるまで離さない。
加えてエリセイは体力があるので、大変なことになった。
(いっそ怪我したままにしておくべきだった)
それでも運命の番ゆえ、身体を重ねれば結局傷は治る。
本能的な発情に振り回されるうち、寝台に敷いた毛皮が体液でびしょびしょになってしまった。
これはいけないと、窓の外の雪ですすぎ暖炉で乾かす間にも、また襲い掛かられた。
『エリセイ、もう、無理だ……~ッ』
幾度絶頂に達させられたかわからない。
怪我ではないからか治癒も効かず、今は指一本動かす余力さえない。ただ身体を丸めて寝台に横たわる。
「またしような。あ、今度の話な?」
裸の背中には、同じく服を着ていないエリセイが、ぴったりくっついていた。体温のおかげで暖かいが、油断できない。
高窓に映る空が白んでいる。一日の三分の二を占める夜じゅう情事に耽ってしまった。
癒そうとする度にこうなるのかと、発作のせいではなく眩暈がする。
「これでは、せっかくの運命の番の治癒能力も、弊害が大き過ぎる……」
「そうかな。一人の男として愛する人を守ることも、騎士として忠誠を尽くすこともできて、俺たちには好都合だと思うが」
エリセイが、呑気なようで気高いことを言う。
この特別な力は、王と伴侶として国を治めるだけでなく、王とその伴侶を支えるためにも使えると。
(確かに、平和への道のりは、まだ始まったばかりだ)
万一、主人が危険に晒されることがあれば、迷わず身体を張る。
感心してまた芳香を発してしまわないよう、屋根裏部屋の天井――聖堂の丸屋根を見上げた。
アナトリエ家の紋章に通ずる、太陽を表す形。高窓のそばには、ソコロフ家の紋章と同じ鷹の像。
聖堂は百年よりずっと前に建てられた。おそらく、ソコロフ家とアナトリエ家から王が出ることが多くなった頃だろう。
(もしかして)
かつて新王を選出する合議は、ヒールオメガの選択を承認する場だった。
オメガたちは、王と他の候補者とに争わずにいてほしがった。それで彼らを安心させるべく、ヒールオメガに選ばれた公子と選ばれなかった公子が一緒に建てたのかも――なんて。
(さすがに飛躍が過ぎるか)
とはいえ、自分がソコロフの小さな村にオメガとして生まれた意味が、アナトリエの貴族でアルファのエリセイと出会い、その上でソコロフもアナトリエもなく愛し合うためだったのは、事実だ。
甘く痛む腰を庇いつつ、ゆっくり寝返りを打つ。目が合い、エリセイは嬉々として腕を回し直してくる。
「スフェン」
「何だ」
「可愛いって言ってもいいか?」
「今さらだろう」
身体はへとへとだが、エリセイとこうするの自体が嫌なわけではない。
確かによぼよぼになる前にするべきだ。むしろ、発情していないときにもしてみたい。
(それで身体を慣らせば、次の周期の発情発作では、エリセイの精力に負けずに……)
そこまで考えて、降参じみた気持ちになった。
それも仕方ない。なぜなら。
「……エリセイ。わたしも愛している」
「出会ったときから知ってたよ、可愛いスフェン」
聞こえるか聞こえないかの睦言は、やがて朝陽に溶けていく。
その後、レクスとニキータがそれぞれの父親と家臣を説得するのを、エリセイとともに後押しした。
その甲斐あって、主人たちは執務室を王城へ移すまでに漕ぎ着けた。
「確実な、前へ進む一歩だ」
体制を変えるには、刻がかかる。
武装解除し、ソコロフかアナトリエか問わず戦死者と負傷者に補償を出し、家屋や施設の修繕も補助する――というのは綺麗ごとかもしれない。
だが、王と伴侶に相応しいふたりが本気で取り組めば、まだ静観している貴族たちも恨みを融かし始めてくれるはずだ。
そして民の生活が変われば、イスは豊かになっていく。
――短い春の訪れを感じる、四月。
「行こう」
「はい」
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