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次の朝
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次の朝、お父さんはまるでミイラのような顔で、のそのそと起きてきたけれど、茶トラ先生が巻いてくれた包帯を外してみると、完ぺきなお岩さんの顔が出てきた。
傷口にはきちんと傷テープがはってあったけれど、顔が腫れて、誰だかよく分からないくらいだ。
お母さんは、
「酔っぱらって街を歩くときは、しっかり目を開けて、前を見ていないとだめですよ」と言ったけれど、ぼくは、「だけどトラックにひかれるよりもずっとましだよ」と言ってやった。
もちろんお父さんもお母さんも、ぼくが何を言っているのか、さっぱり分からないみたいだったけれど。
本当はトラックにひかれて今夜はお通夜だったところを、茶トラ先生とぼくの必死の「作戦」で、この程度のケガに変更できたのだから、お母さんも文句は言えないんだけど。
それからお父さんは、顔が痛そうに朝ご飯を噛んで食べながら、前の日の「ラジコン飛行機墜落事件」のことを思い出したのか、急に気が重そうな顔になり、それでもご飯を飲み込むように何とか根性で食べ終えると、(痛いから)顔も洗わずにのそのそと会社へと出掛けた。
そんなに気が重いのなら、これからぼくが茶トラ先生の所へ行って、タイムエイジマシンで四一歳の姿にしてもらい、替え玉として会社へ行ってあげてもいいのだけど。
でもぼくが行くとまたまた飛行機なんかを落として、そして残念会になったりして…
いやいや残念会はダメだ。
冗談じゃないよ!
それに考えてみると、茶トラ先生はこの日の午後から物理学会へ出発する予定だったし、しかも午前中はまだぐーぐー寝ているそうだし、だからたぶんこの日、ぼくは四一歳にはなれない。
まあそれはそれでいい。
だからその日、ぼくはおとなしく家にいることにした。
それに、昨日のことで興奮してあまり眠れなかったので、朝ご飯を食べると豪快に眠くなり、昼過ぎまで二度寝で爆睡した。
それから数日後の夕方。
お父さんは「お散歩」を軽やかに口笛でを演奏しながら、にこやかに帰ってきた。
お父さんの「お岩さんの顔」は、普通の青あざ程度にまで回復していた。
ぼくは茶トラ先生のまねをして、庭で水鉄砲を使った科学実験をやっていた。
そしてお父さんはぼくを見ると、こう言った。
「一郎、やったぞ! 社長にほめられたよ。社長に『よくぞ商談をぶち壊してくれた!』と言われたんだ」
「何なのそれ?」
驚いたぼくはお父さんにたずねた。
お父さんは話を続けた。
「実は、例のラジコンの自動操縦装置を買いたがっていた会社は、なんとテロ支援国家とつながっていたんだ」
「何だって?」
「だから自動操縦装置なんかを手に入れていたら、それこそとんでもないことになっていたかもしれない」
「本当なの?」
「それだけじゃない。場合によっては、わが社は武器輸出規制に引っ掛かり、多分、会社は警察の捜査を受け、下手をすると俺は逮捕されていたかも知れないんだ」
「げ~」
「だから社長は、『君のあの酷いフライトで、わが社は救われた』と言ってくれたんだ」
「へぇ~」
「どうだ。すごいだろう」
「うん。お父さん、やったね!」
「だろう? よし、今夜は盛大にお祝いだ!」
ぼくは「お祝い」という言葉に一瞬ぎくりとしたけれど、お父さんの大声に、家からお母さんが血相を変えて出てきて、そしてお母さんはしっかりと釘を刺した。
「飲みに行くのはやめてください! また怪我をしたらどうするんですか?」
「分かった分かった。それじゃ、お祝いは家でやる。よし一郎、ビール買ってこい」
「ビールもだめですよ。飲んだら家の中で、敷居か何かにつまずいてこけるかも知れないでしょう。またお岩さんにもどるつもりですか? そうそう、それじゃ亜里沙ちゃん。お兄ちゃんとケーキ買ってらっしゃい。うさぎの公園の前に、ケーキ屋さんができたでしょ…」
傷口にはきちんと傷テープがはってあったけれど、顔が腫れて、誰だかよく分からないくらいだ。
お母さんは、
「酔っぱらって街を歩くときは、しっかり目を開けて、前を見ていないとだめですよ」と言ったけれど、ぼくは、「だけどトラックにひかれるよりもずっとましだよ」と言ってやった。
もちろんお父さんもお母さんも、ぼくが何を言っているのか、さっぱり分からないみたいだったけれど。
本当はトラックにひかれて今夜はお通夜だったところを、茶トラ先生とぼくの必死の「作戦」で、この程度のケガに変更できたのだから、お母さんも文句は言えないんだけど。
それからお父さんは、顔が痛そうに朝ご飯を噛んで食べながら、前の日の「ラジコン飛行機墜落事件」のことを思い出したのか、急に気が重そうな顔になり、それでもご飯を飲み込むように何とか根性で食べ終えると、(痛いから)顔も洗わずにのそのそと会社へと出掛けた。
そんなに気が重いのなら、これからぼくが茶トラ先生の所へ行って、タイムエイジマシンで四一歳の姿にしてもらい、替え玉として会社へ行ってあげてもいいのだけど。
でもぼくが行くとまたまた飛行機なんかを落として、そして残念会になったりして…
いやいや残念会はダメだ。
冗談じゃないよ!
それに考えてみると、茶トラ先生はこの日の午後から物理学会へ出発する予定だったし、しかも午前中はまだぐーぐー寝ているそうだし、だからたぶんこの日、ぼくは四一歳にはなれない。
まあそれはそれでいい。
だからその日、ぼくはおとなしく家にいることにした。
それに、昨日のことで興奮してあまり眠れなかったので、朝ご飯を食べると豪快に眠くなり、昼過ぎまで二度寝で爆睡した。
それから数日後の夕方。
お父さんは「お散歩」を軽やかに口笛でを演奏しながら、にこやかに帰ってきた。
お父さんの「お岩さんの顔」は、普通の青あざ程度にまで回復していた。
ぼくは茶トラ先生のまねをして、庭で水鉄砲を使った科学実験をやっていた。
そしてお父さんはぼくを見ると、こう言った。
「一郎、やったぞ! 社長にほめられたよ。社長に『よくぞ商談をぶち壊してくれた!』と言われたんだ」
「何なのそれ?」
驚いたぼくはお父さんにたずねた。
お父さんは話を続けた。
「実は、例のラジコンの自動操縦装置を買いたがっていた会社は、なんとテロ支援国家とつながっていたんだ」
「何だって?」
「だから自動操縦装置なんかを手に入れていたら、それこそとんでもないことになっていたかもしれない」
「本当なの?」
「それだけじゃない。場合によっては、わが社は武器輸出規制に引っ掛かり、多分、会社は警察の捜査を受け、下手をすると俺は逮捕されていたかも知れないんだ」
「げ~」
「だから社長は、『君のあの酷いフライトで、わが社は救われた』と言ってくれたんだ」
「へぇ~」
「どうだ。すごいだろう」
「うん。お父さん、やったね!」
「だろう? よし、今夜は盛大にお祝いだ!」
ぼくは「お祝い」という言葉に一瞬ぎくりとしたけれど、お父さんの大声に、家からお母さんが血相を変えて出てきて、そしてお母さんはしっかりと釘を刺した。
「飲みに行くのはやめてください! また怪我をしたらどうするんですか?」
「分かった分かった。それじゃ、お祝いは家でやる。よし一郎、ビール買ってこい」
「ビールもだめですよ。飲んだら家の中で、敷居か何かにつまずいてこけるかも知れないでしょう。またお岩さんにもどるつもりですか? そうそう、それじゃ亜里沙ちゃん。お兄ちゃんとケーキ買ってらっしゃい。うさぎの公園の前に、ケーキ屋さんができたでしょ…」
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